上 下
208 / 566
第一部

その207 剣聖への勧誘

しおりを挟む
「賭け……だと?」

 怪訝けげんそうに眉をひそめるレミリア。

「先程お聞きになったように、こちらのジェイルさんは私の剣の師。今回来て頂いたのは単に剣をプレゼントしようという話ではありません」
「というと?」
「一週間」
「何?」
「一週間、一日に何本でも構いません。ジェイルさんと勝負をしてくれませんか? それはきっと、あなたのかてになる」
「それは願ってもない話だが、それが賭けになるのか?」
「その一週間の間に、一本……いえ、一太刀でもジェイルさんに攻撃を当てたのなら、レミリアさんの勝ち。一太刀も当てられなかったのなら負け」
「……それで? 賭けの対象は? まさか剣とは言うまい?」
「えぇ、それは勝っても負けてもプレゼント致します。賭けたいのはレミリアさんのミナジリへの長期滞在」

 俺がそう言い切ったところで目を丸くしたレミリア。
 するとディックが呆れ交じりに理解を示した。

「はぁ~、なるほどな。一週間では噂が広まるには期間が短い。だが、一ヶ月でも剣聖がいれば噂が広まり人が集う。依頼や消費は増え、領地が活性化するって訳か」

 つまるところの客寄せパンダ。
 ……おや? 扉の外に誰かの気配? これは……ニコル?

「……具体的な期間は?」

 レミリアは既に乗り気だ。
 しかし、賭けの内容を聞いて尚乗る理由は何だ?
 始めから乗り気だったとは思えないし……?

「三ヶ月以上とだけ。それ以上滞在するか出て行くかについては、レミリアさんの自由にしてくださって結構です」
「条件がある」

 なるほど、乗り気の理由はこの条件にあるって事か。

「伺いましょう」
「一週間を超えてもジェイル殿と戦う許可を頂きたい」

 今度は俺が目を丸くする番だった。
 俺は隣を見て、軽く頷くジェイルを見た後、肩を竦めた。

「いいでしょう、ご協力に感謝を」
「剣の礼と考えれば安いものだ」

 握手をかわし、レミリアはジェイルと共に広場へ向かって行く。

「よぉミック、二人きりだな?」
「おっさん顔で言われても嬉しくないですよ、ディックさん」
「ニコルだったらいいってか? あぁん?」

 まるでチンピラに絡まれているようだ。

「そうですね、ニコルさんなら言われてみたいですね」
「だってよ、ニコル?」
「ふふふ、三人きりですねミケラルドさん……」
「そんな言葉初めて聞きましたよ」
「にゃろう、ニコルが隠れてるの始めから知ってたな?」
「何か意図しての事だと理解してましたからね」

 俺が言うと、先程レミリアが座っていたソファーに二人が腰を下ろした。
 いつかの取調室を思い出すが、今回は室内がそれ程狭くないのが救いか。
 肘を膝にのせ、ディックが俺を睨みながら言う。

「お前、どういうつもりだ? 【剣聖】なんか呼び寄せて?」
「元々落ち着いたら来るって話だったんですけどね、剣の制作は意外に早く終わったのでジェイル師匠に伝言を依頼しただけです」
「剣聖はともかくとして、昨日は【魔帝】を見かけたという報告がありましたが?」

 まぁニコルの情報網は侮れないしな、これは予想範囲内である。

「そう、だから俺はここに来たんだ」
「おや、てっきり気軽に来られるから遊びに来てるのかと」
「そりゃ今日じゃねぇ」

 いつもはそうって事じゃねぇか。

「……はぁ、別にランクS同士で群れる事は悪くないでしょう? 食客としてミナジリ領にいてくれれば、それだけで領内の治安は良くなりますから」
「あのな、ここの警備がどれだけのもんか本当にわかってるのか?」
「リーガル国とシェルフが攻めて来ても、追い返せる程度には強固だと自負しています」
「まあ……」

 ニコルがわざとらしく驚く。

「更に魔帝と剣聖だぞ? 冒険者ギルドが目を付けるのも無理ないだろう」
「付けてるんですか?」
「……いや、まだだ」

 どうやら、今回はディックの個人的な興味の方が強いようだ。

「だが、高ランク冒険者の所在は、冒険者ギルドでチェックするのが決まりだ。じきに本部へ知られる事になる」
「それも狙いの一つです」
「あぁ? どういう事だ?」
「ランクSの依頼がここに集中するじゃないですか。遠方の依頼でも対処出来る力もあるし、人員も揃ってる。その内、冒険者ギルド本部もこのミナジリこそが信頼足る場所だと理解するはず」
「そう簡単にいくとでも?」
「いかないでしょうね~」
「ったく、これだよ……」
「頭では否定しつつもここに頼るしかない。それを構築出来ればいい訳です。幸い、現在は私に依頼を集中させる魂胆……そうディックさんから聞いてますからね。ところで……何故ニコルさんがここへ?」

 俺の質問に、ディックが押し黙る。
 そして隣へ視線をやると、かしこまったニコルが落ち着いた声で話した。

「少し、きな臭い話を耳にしました」
「きな臭い話……ですか?」
「依頼こそ少ないものの、シェンドの町の冒険者ギルドの協力もあり、このミナジリの冒険者ギルドにも徐々に冒険者が集まって来ました。当然、他国からやってくる物好きな冒険者も珍しくありません」

 物好きとは心外な……。
 しかし、ニコルの次の言葉を聞いた時、確かに思ってしまったのだ。

「その冒険者の中に、リプトゥア国から来た冒険者が私に言っていました。『ミケラルド・オード・ミナジリを調べる変な団体から調査依頼を頼まれた事がある』と」

 なるほど、物好きな団体がいるみたいだな。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

処理中です...