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第一部

その180 果たし状

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 俺は恐る恐る果たし状を開いた。
 するとそこにはこう書いてあった。

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 礼がしたい

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 これはもしや「お礼参り」というやつでは?
 男子中学生が卒業式の日にムカツク教師を襲う的なアレではなかろうか?
 いや、だがそんな文化この世界にあるのだろうか?
 俺は果たし状を閉じ、レミリアに言った。

「……な、何のお礼でしょう?」
「ん」

 するとレミリアは彼女自身の胸を指差した。
 細身ながら出るところは出ている素敵なボディである。
 彼女は何を言いたいのか? いや待て?
 これはもしやアレではないか? そうだ、そうなのだ。
 彼女は言っているのだ。「自分の胸に聞いてみろ」と。
 だがしかし、俺の胸からは緊張からか徐々に早くなっている心音しか聞こえないぞ?
 ……………………わからん。

「何をしているミック?」

 困惑していた俺の背後から、リィたんがやって来た。
 その顔は見るからに不満気である。

「あれ……リィたん? もしかして試合、終わっちゃった?」
「いくら観客席のミックを探しても見つからないから、【探知】まで使ったのだぞ」
「試合中に観客席を全部見たの?」
「いつの間にか試合が終わってたがな」
「相手が疲れて?」
「相手が諦めて」
「なるほど」

 きっと腕が上がらなくなる程、リィたんを殴っていたんだろうな。
 戦意を失い過ぎて冒険者をやめなければいいが。
 ぷんすこと怒るリィたんもとても可愛いのだが、俺は今それどころではなかった。

「何だ、レミリアとやらではないか」
「お前は……確かリィたん」

 何で普通に話し始めたの?

「ミックに何の用だ?」
「それがあなたに関係あるのか?」
「ある」
「ほぉ、どう関係あるというのだ」
「ミックは我があるじだからな」
「なるほど、ではリィたん殿がミケラルド殿の窓口という事で相違ないな?」
「いや、そういう訳ではないが……」

 おぉ、珍しくリィたんが押されている。
 まぁ人界で生きてる者相手に口では勝てないか。

「これは異な事だ。私がミケラルド殿に近付くのは問題ないように思えるが?」
「ミ、ミックは偉い偉いとっても偉い貴族だ。へ、平民が近付ける相手ではないんだぞっ」

 おっとリィたん、それは悪手だぞ。
 語彙力がとってもリィたんで、とてもよろしいと思いますけどもね?

「彼は今、冒険者としてここにいる。冒険者同士話しかけるのは問題か?」
「…………むぅ」

 ネムが怒った時みたいにリィたんの頬が膨らむ。とても可愛い。
 というかこの人、饒舌じゃないか。先程のカタコト会話は一体何だったのか?
 お、またこっち見た。

「……………………礼を」

 また戻ったぞ?
 するとその後ろからリィたんが言った。

「何だ、治療の礼か」

 言われた瞬間、俺はようやく気付いた。

「あー……そういう?」

 てっきり礼を求められているのかと思ったが、この果たし状の通り、素直に礼をしたかっただけか。
 感情表現が苦手なのだろうか。リィたんとの会話から見るにそうとも思えないが。

「か……感謝を……」

 もじもじしながら言うレミリアは、とても剣聖と呼ばれているような強者とは思えなかった。彼女の言う礼にはどう返答すればいいのか。そう思うだけ彼女の顔を曇らせるだけである。
 ここはスタンダードが一番いいのだろう。

「どういたしまして」

 思えば、ここまで長かった気がする。
 ある意味大変で、ある意味面白いひとときだった。

「よし、それじゃあ戻るか」
「うむ、そうだな」
「あ、待っ――」
「――へ?」

 リィたんと共に帰ろうとしたところ、俺はレミリアに手を引かれた。
 ぐいと引かれる手の先にはレミリアの困惑した顔。
 きっと俺はそれ以上に困惑した表情を浮かべているのだろう。

「何か?」
「て、てて……」

 ふむ、確かにお手々ててを繋いでいるな。

「手合わせを! 所望するっ!」
「…………ほぉ」

 リィたんは口を尖らせそう言うも、俺はそんな状況ではなかった。
 最近、戦闘多くありません?

 ◇◆◇ ◆◇◆

 確かに、シード選手になったおかげで、今日のカロリー消費はまだまだ必要だろう。
 しかし、相手が剣聖ともなると話は違ってくる。
 俺は後ろで歩くリィたんとレミリアをちらちらと見ながらそう思っていた。
 意外や意外。犬猿の仲かと思いきや、二人は普通に話している。
 リィたんが頑張ってレミリアに色々聞いているが、この聴取は俺にどんな情報をもたらしてくれるのか。
 さて、そろそろリィたんにテレパシーで聞いてみるか。

『どう、リィたん?』
『ミックの剣に惚れたようだぞ』
『剣に?』
『試合を観たそうだ』

 という事はつまり……ジェイルの剣という事なのでは?

『レミリア程の剣士が言うのだ。おそらく竜剣を使うのはジェイルとミックしかいないのだろう』
『確かに、ジェイルさんが弟子をとったのは俺だけだね』
『未知の剣を使う命の恩人だ。相当緊張したそうだ』
『ははは、ありがとう』

 なるほど、だからあんなに石のように固まっていたのか。
 首都リプトゥアの冒険者ギルドにやって来た俺たち三人は、ギルド職員に裏の広場の使用許可を得ると、すぐにそこへ向かった。
 すぱっとやってしゅっと帰ろう。先に帰ってるネムが、お腹を空かして待っているだろうからな。
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