173 / 566
第一部
その172 リプトゥア国へ
しおりを挟む
「ネム、今日は悪いね」
「何を言うんですか、ミケラルドさん! 今日は負けられない戦いが待ってるんですから!」
「…………本当に俺たちの正体をニコルさんから聞いたんだよね?」
「へ? 聞きましたよ?」
「にしては気後れしないというか何というか……」
「ふふん、それは私を過小評価していますよ」
小さな胸をどんと張るネム。
そんなネムの後ろから受付越しにニコルが言う。
「最初聞いた時は本当に焦っていましたよ」
「あっ! ちょっとニコル先輩っ!」
「その後、何度も私に相談を」
「あ、あの、その! ち、違うんです! 違いますから!」
「『私、明日ミケラルドさんとちゃんと話せますかね? 大丈夫でしょうか? ぐすん』と」
「『ぐすん』は言ってませんー!」
「だそうです」
ニコルのドSっぷりは、ネムという後輩がいて初めて成り立つのかもしれない。
「つまり、『ぐすん』以外は本当だと」
「わぁ!?」
両手をぶんぶん振って吐いた言葉を消そうとしているようだが、世界はそんな都合良く出来ていないのだ。
顔を真っ赤にしたネムを俺とニコルがからかっていると、後ろからリィたんがやって来た。
「遅れたか?」
「もうちょっと早く来ればネムの変顔が見れたかも」
「何? それは惜しい事をしたな」
「んもう! お二人とも! それはいいですから! 早く! 早くリプトゥア国に行きましょう! 遅れちゃいますよ!」
ネムは恥ずかしがりながら俺とリィたんを押して行く。
苦笑する俺とリィたんをよそに、ネムはニコルに向かって言った。
「そ、それじゃあ行って来まーす!」
「朗報を期待しております、ミケラルドさん、リィたんさん」
深々と頭を下げるニコルを背に、俺たちは国境へと向かった。
◇◆◇ ◆◇◆
「わふーい!」
久しぶりのミックバス。
初乗車のネムは大喜びで窓から顔を出し興奮と喜びを叫んでいる。
運転席に座る俺に、リィたんが言う。
「しかし何故テレポートでリプトゥアに向かわないのだ?」
テレポートの件は、既にネムも知っている事実。他言はしないように頼んでるけどな。
ブライアン王にでも知られたら事である。
「今回は冒険者ギルドの職員同伴の公式な移動なんだよ。流石に国境はしっかり通らなくちゃまずいんだ」
「ふん、面倒な」
「国境越えたらテレポートしちゃうけどね」
「ところでミック」
「ん?」
「今日は楽しみだな?」
「リィたんと対峙した時、俺が楽しそうだったらもう一回言って」
「ふふふふ、せいぜい足掻いてみせろ」
「まぁ、決勝まで残って良い戦いをすれば、二人ともランクSになれるかもってディックさんが言ってたよ」
「何? 優勝者だけではないのか?」
「優秀な成績って話だよ。ねぇネム?」
俺が窓から身を乗り出すネムに聞くも、ネムには届いてないようだった。
「ネムちゃん? それ危ないからやめましょうね~」
「はっ! す、すみません! 興奮しちゃって!」
まぁ、ランドルフやレティシア、ゼフよりかはマシか。
「で、何でしたっけ?」
「ランクSの枠だよ。優勝しなくてもなれる可能性はあるんでしょ?」
「えぇ、過去何度かそういった事例があります。一人から最大で四人……だったかな?」
顎先に指を当て、思い出しながら言ったネムを見て、リィたんが不服そうな表情を浮かべる。
「むぅ、意外と多いのだな……」
そんなリィたんの言葉に、ネムがぶんぶんと首を横に振る。
「とんでもないです! 今日リプトゥア国には、全世界からランクAの猛者たちが集まるんです! 十年間ランクAを務めた方は漏れなくランクSに昇格しますけど、九年目までの人は殆ど参加するんですからそれはもう物凄い数のランクA冒険者が集まりますよ!」
「ほぉ、どれくらいいるのだ?」
「た、確か……二百人はいたかと」
へぇ、ランクA冒険者ってそんなにいたのか。
「どれだけいようが全てを倒して優勝するのはこの私だ」
それは間違いないと思う。
先日ラジーンと戦ってみて思ったが、俺はこれまでずっとリィたんの実力を過小評価していた。この子、きっとSSS以上の実力を持ってる。
どう戦うか今から考えておかないとな。
そんな事を考えていると、ネムがもじもじと言いにくそうにしながら俺を見た。
「あのぅ、一応申し上げておきますと、リーガル国出身の冒険者は……その……」
「ん?」
「っ! すっごく馬鹿にされると思います!」
意を決して言った様子のネムを前に、俺とリィたんは目を丸くした。
「馬鹿に……って、どういう事?」
「冒険者の本場は法王国です。当然、冒険者の質は法王国に近い程高いと言われています。冒険者ランクAという存在が珍しいリーガル国の参加は本当に久しぶりなのです。だから……その――」
「――洗礼があるって事?」
「……はぃ」
申し訳なさそうに俯くネムを見て、俺とリィたんは顔を見合わせる。
しかし、直後俺たちはニヤリと口の端を上げたのだった。
そんな俺たちの反応に不可解そうな顔を見せるネム。
「あ、あの……?」
心配そうなネムをよそに、俺とリィたんは声を揃えたのだった。
「「上等……!」」
「何を言うんですか、ミケラルドさん! 今日は負けられない戦いが待ってるんですから!」
「…………本当に俺たちの正体をニコルさんから聞いたんだよね?」
「へ? 聞きましたよ?」
「にしては気後れしないというか何というか……」
「ふふん、それは私を過小評価していますよ」
小さな胸をどんと張るネム。
そんなネムの後ろから受付越しにニコルが言う。
「最初聞いた時は本当に焦っていましたよ」
「あっ! ちょっとニコル先輩っ!」
「その後、何度も私に相談を」
「あ、あの、その! ち、違うんです! 違いますから!」
「『私、明日ミケラルドさんとちゃんと話せますかね? 大丈夫でしょうか? ぐすん』と」
「『ぐすん』は言ってませんー!」
「だそうです」
ニコルのドSっぷりは、ネムという後輩がいて初めて成り立つのかもしれない。
「つまり、『ぐすん』以外は本当だと」
「わぁ!?」
両手をぶんぶん振って吐いた言葉を消そうとしているようだが、世界はそんな都合良く出来ていないのだ。
顔を真っ赤にしたネムを俺とニコルがからかっていると、後ろからリィたんがやって来た。
「遅れたか?」
「もうちょっと早く来ればネムの変顔が見れたかも」
「何? それは惜しい事をしたな」
「んもう! お二人とも! それはいいですから! 早く! 早くリプトゥア国に行きましょう! 遅れちゃいますよ!」
ネムは恥ずかしがりながら俺とリィたんを押して行く。
苦笑する俺とリィたんをよそに、ネムはニコルに向かって言った。
「そ、それじゃあ行って来まーす!」
「朗報を期待しております、ミケラルドさん、リィたんさん」
深々と頭を下げるニコルを背に、俺たちは国境へと向かった。
◇◆◇ ◆◇◆
「わふーい!」
久しぶりのミックバス。
初乗車のネムは大喜びで窓から顔を出し興奮と喜びを叫んでいる。
運転席に座る俺に、リィたんが言う。
「しかし何故テレポートでリプトゥアに向かわないのだ?」
テレポートの件は、既にネムも知っている事実。他言はしないように頼んでるけどな。
ブライアン王にでも知られたら事である。
「今回は冒険者ギルドの職員同伴の公式な移動なんだよ。流石に国境はしっかり通らなくちゃまずいんだ」
「ふん、面倒な」
「国境越えたらテレポートしちゃうけどね」
「ところでミック」
「ん?」
「今日は楽しみだな?」
「リィたんと対峙した時、俺が楽しそうだったらもう一回言って」
「ふふふふ、せいぜい足掻いてみせろ」
「まぁ、決勝まで残って良い戦いをすれば、二人ともランクSになれるかもってディックさんが言ってたよ」
「何? 優勝者だけではないのか?」
「優秀な成績って話だよ。ねぇネム?」
俺が窓から身を乗り出すネムに聞くも、ネムには届いてないようだった。
「ネムちゃん? それ危ないからやめましょうね~」
「はっ! す、すみません! 興奮しちゃって!」
まぁ、ランドルフやレティシア、ゼフよりかはマシか。
「で、何でしたっけ?」
「ランクSの枠だよ。優勝しなくてもなれる可能性はあるんでしょ?」
「えぇ、過去何度かそういった事例があります。一人から最大で四人……だったかな?」
顎先に指を当て、思い出しながら言ったネムを見て、リィたんが不服そうな表情を浮かべる。
「むぅ、意外と多いのだな……」
そんなリィたんの言葉に、ネムがぶんぶんと首を横に振る。
「とんでもないです! 今日リプトゥア国には、全世界からランクAの猛者たちが集まるんです! 十年間ランクAを務めた方は漏れなくランクSに昇格しますけど、九年目までの人は殆ど参加するんですからそれはもう物凄い数のランクA冒険者が集まりますよ!」
「ほぉ、どれくらいいるのだ?」
「た、確か……二百人はいたかと」
へぇ、ランクA冒険者ってそんなにいたのか。
「どれだけいようが全てを倒して優勝するのはこの私だ」
それは間違いないと思う。
先日ラジーンと戦ってみて思ったが、俺はこれまでずっとリィたんの実力を過小評価していた。この子、きっとSSS以上の実力を持ってる。
どう戦うか今から考えておかないとな。
そんな事を考えていると、ネムがもじもじと言いにくそうにしながら俺を見た。
「あのぅ、一応申し上げておきますと、リーガル国出身の冒険者は……その……」
「ん?」
「っ! すっごく馬鹿にされると思います!」
意を決して言った様子のネムを前に、俺とリィたんは目を丸くした。
「馬鹿に……って、どういう事?」
「冒険者の本場は法王国です。当然、冒険者の質は法王国に近い程高いと言われています。冒険者ランクAという存在が珍しいリーガル国の参加は本当に久しぶりなのです。だから……その――」
「――洗礼があるって事?」
「……はぃ」
申し訳なさそうに俯くネムを見て、俺とリィたんは顔を見合わせる。
しかし、直後俺たちはニヤリと口の端を上げたのだった。
そんな俺たちの反応に不可解そうな顔を見せるネム。
「あ、あの……?」
心配そうなネムをよそに、俺とリィたんは声を揃えたのだった。
「「上等……!」」
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜
北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。
この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。
※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※
カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!!
*毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。*
※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※
表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる