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第一部

その163 渦巻く陰謀

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「何故そのような者がギュスターブ子爵家にっ!?」

 ランドルフは立ち上がり疑問をぶつける。
 当然、ぶつけられたゼフがわかるはずもない。首を振るゼフにランドルフがようやく落ち着きを見せる。

「ミック、其方そなたであれば何かわかるのではないか……?」
「私も気になるところです。再度調査し、またご報告に上がります」
「頼んだぞ」

 過去の問題の洗い直しが必要かもしれない。

 ◇◆◇ ◆◇◆

 ミナジリ領に戻った俺は、まず最初にリーガル公爵家に雇われていた刺客たちを集めた。
 まさかこんなに身近にドノバンを知っている者たちがいるとは思わなかった。

「――つまり、ドノバンなる男はアルフレド様の側近として仕えていたと?」
「はい」
「使用人が?」
「そ、そうです。確かに使用人如きが公爵様の側近なんて恐れ多い事ですけど、あの時はそう感じなかったもので……へぃ」

 周囲の者たちからは「俺も」、「俺もだ」という不可解な同意が聞こえてくる。
 やはり、ドノバンは何らかの能力を用いていた可能性がある。
 という事はまさか……!

「っ? ミケラルド様、どちらへ?」
「リーガルに向かう。ナタリーに夕飯はいらないって伝えておいてくれ」

 テレパシーで伝えると怒るんだよな、最近。

「最後に確認なんだけど」
「……へぇ?」

 ◇◆◇ ◆◇◆

「陛下への謁見……でございますか?」
「そうです、ミケラルド・オード・ミナジリが来たとお伝えください」
「申し訳御座いません。本日は陛下の安息日、どなたも陛下にお会いになる事は出来ません」

 なんてこった。
 いや、ここで目くじらを立てても仕方ない。
 最近覚えた【固有能力】を使って入ってしまえばいいのだ。
 固有能力【透過】を使用し、城の外壁を潜り抜け、城内へと侵入。
 壁走りだと目立ってしまうから夜じゃないと無理である。しかしこれなら、たとえ昼間だろうが簡単に侵入出来る。

 王の部屋には過去に一度侵入している。
 バルコニーの陰から「陛下」と呼ぶと、ブライアン王はすぐにそこへやって来た。

「……やはりミックか」

 跪いて待っていた俺を見下ろしたブライアン。
 当然、それは鋭い視線を伴っている。

「余の安息日を邪魔する程の用件か?」
「然り」
「……申せ」
「アルフレド様の一件……まだ片が付いていないかもしれません」
「何だと?」
「実は――――」

 それから俺は、これまで起きた事を全てブライアンに説明した。
 落成式で起きた問題。ギュスターブ卿に魔族の存在をほのめかした事。その息子が起こした問題とそれに仕えるドノバンという男の名。そして、ドノバンが最初に仕えていたのはアルフレド・フォン・リーガルであり、使用人でありながら側近を務めていたという事実を。

「――――なるほど。つまりアルフレド自身も操られていたという可能性があるという事だな」
「はい」
「疑問が残る」
「何でしょう?」
「何故ドノバンは其方そなたの包囲網から逃れる事が出来た?」
「というと?」
其方そなた、レティシアと同じ【看破】の能力を持っているであろう?」

 ギクリ。

「こ、後学のために何故私が看破の能力を持っていると……?」
「信用に足る人間かを瞬時に見分けておる。先の爵位の授与式。あの時参列した貴族たちの見分に使っていたのは明白。白か黒か、それとも灰色か。何とも羨ましき能力よ」

 どんな化け物だよ、この人。
 人間としての格が高すぎるのではなかろうか?

「因みに、ランドルフも気付いているはずだ」

 絶対にバレちゃいけない人に……。
 そうなると過去の問題が色々出てくるのだが……まぁこれは後で考えよう。

「それで、余の疑問……どう解消してくれる?」
「私が集めた情報によると……ドノバンは初めから私の包囲網の中にいなかったのかと」
「アルフレドの側近がアルフレドの近くにいなかった?」
「ずっと気になっていたんです。アルフレド様がリプトゥア国と通じた時、誰を介したのか」
「っ!」
「リプトゥアへの密書、リプトゥアからの密書。このどちらも、おいそれと部下に渡す訳にはいきません。アルフレド様は最も近い者にソレを任せたのではありませんか?」
「……そういう事か!」
「えぇ、ドノバンはあの時偶然にも私の包囲網に最初からいなかった。何故なら彼は密書を持ち、隣国へと移動していたのだから」

 重要な情報を任せるのであれば身近な存在。
 武勇なくば、一人でリーガル近郊からリプトゥア国へ向かう事は困難。しかしそれが出来る存在であれば? 一人で全てをこなしてしまう程の実力者であれば? ドノバンの能力が未知数である以上、大きな行動には出られないが、奴は次の脅威をミナジリ領と定めた。それだけは事実だ。

「ドノバンはリプトゥア国の間者。これに間違いはないでしょう」

 ブライアン王の拳が強く握られる。
 見える、彼の静かな怒りが。見える、底知れぬ憤怒の塊が。

「……よく知らせてくれた、ミケラルド、、、、、

 あぁ、これは多分アレだ。
 ミック呼びしないのは、これから俺に仕事を与えるからだろう。

「ミケラルド……ドノバンなる男を余の前に連れて参れ。必ず……生きて……ここへ連れて来るのだ……!」

 我があるじ、まことおかんむりそうろう。
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