上 下
161 / 566
第一部

その160 お土産

しおりを挟む
「しかし、私としても落とし前はつけたいところです。本日ギュスターブ卿にお越し頂いたもう一つの事業りゆう、無償にて執り行わせて頂きます」
「いや、しかし……よろしいのか?」

 ギュスターブ卿は俺、ランドルフ、そして何故かリィたんを見ながら確認する。

「ミックの誠意が受け取れぬ器か」
「頂こう」

 先程からリィたんがこの場を仕切っている気がする。
 まぁ、あれだけの反則級の魔力を間近で見せつけられては、何も言えるはずもないか。
 そういえばそうだったな。リィたんと最初出会った時、俺は土下座で彼女を出迎えたのだから。

「ギュスターブ卿をお送りしがてらお見せしますよ」
「それは楽しみだな」
「さてミック」

 今度はランドルフが俺をミック呼びしてきた。
 まぁ、ここは表の世界ではない。ギュスターブ卿の前だからと言って別に気にする事でもないか。

「リィたんは一体何者か?」
「彼女の前でそれを聞きます……か」
「いや、彼女の前だからこそだ。それを話すには彼女の、リィたんの許可が必要だろう?」
「ほぉ、人間にしてはぶんわきえているではないか」

 言っちゃったよ。

「なっ!」

 ギュスターブ卿が立ち上がる。
 人間ではない事をバラしたようなものだからな、今の発言は。

「よい、ギュスターブ卿。陛下もご存知の事だ」

 ランドルフがギュスターブ卿を制止する。
 ランドルフとブライアン王が認識しているのは、このミナジリ領に魔族がいるという事実だけ。
 それ以上の情報は俺が吸血鬼であるという事しか知らない。リィたんの素性はトップシークレットなはずだったんだけどなぁ。何事も万事上手くいく訳じゃないって事か。

「陛下がっ!? しかし、それではミナジリ卿は……っ!」
「おっとギュスターブ卿、それ以上は口を噤んでおいた方が得策ですよ」

 姿を見せるまでは危険。それがこの時の俺の判断だった。
 俺は立ち上がり、話を続けた。

「予め、我々はリーガル国の味方であると明言しておきます。衣、食、住がある今の暮らしを続けたいだけです」

 そして、先の一件でギュスターブ卿が落とした剣を拾い上げ、【鍛冶ブラックスミス】の技を発動させた。

「リィたん、いいかい?」
「ミックに任せる」

 ならば、こちらの方が効果的……だな。

「リィたんの正体をこの場、この段階で申し上げる事は難しいのです」

 ミスリルの剣は熱により折れ曲がり、二つに分かれ、溶けて球体に変わる。
 その球体が少しずつ形を変え、先日ドマークが見たあの像、、、へと変わっていく。

「お土産です。お二人には是非持ち帰って頂きたい」

 彼らの眼前に置かれたのは、二つの水龍像だった。

「何という事だ……!」

 ギュスターブ卿は頭を抱え、ランドルフはただ黙って驚いた。

「先のあの言葉、、、、に……嘘偽りはなかったという事か……」

 ギュスターブ卿の言葉はリィたんの「国が滅ぶ」発言の事を言っているのだろう。
 先程受けた魔力圧と、匂わせたリィたんの正体が彼らの頭の中でどう動くのか。
 それは俺にはわからない。しかし、リィたんのこれまでの態度を理解させるには悪い動きではないかもしれない。

 ◇◆◇ ◆◇◆

 その後、俺はギュスターブ卿を彼の屋敷に送り届けながら、約束通りシェンドとギュスターブ領の道路を舗装した。
 みるみる変わる道路に興奮したのか、ギュスターブ卿は馬車から身を乗り出していたのだった。
 そして、俺はミナジリの屋敷に戻った訳だが、

「何でランドルフ様がここに?」
「レティシアが今日はここに泊まりたいと言うのでな」
「大人しくそれに従ったと? 言い聞かせる事もなく?」
「言葉は凶器なのだぞ、ミック」

 にゃろう、まるで言葉を覚えたばかりの子供じゃないか。

「ミックーっ!」

 まぁ、あんなに嬉しそうなレティシアを帰すのも気が引ける……か。

「レティシア様、今日はお泊まりになるそうで。どちらのお部屋なのです?」
「ふふ、ナタリーとコリンと同じ部屋でお泊まり会ですの」

 なるほど、幼女おとまり会か。

「よろしいのですか、ランドルフ様?」
「構わぬ。レティシアの友情を阻む方が問題だ」

 流石、王家の血がなくとも公爵になった器なだけはある。
 ちょっとばかりお調子者だけどな。

「ミック、私はリンダと共に休ませてもらう。お主はラファエロと語り合ってはどうか? 歳も近いのだろうし」
「前に言いましたが、私は三歳ですよ」
「おぉ、そういえばそうだったな! ははははははっ!」

 ◇◆◇ ◆◇◆

 まぁ、ラファエロと親交を深めるのも悪くないだろう。
 という訳で、俺はサマリア公爵家の嫡男ラファエロがいる部屋へお邪魔したのだった。

「はははは、ミナジリ卿の前では父上も素に戻れるようですね」
「ラファエロ様、どうかミケラルドとお呼びください」
「ではミケラルド殿と。ミケラルド殿も私の事は気軽にお呼びください」
「ではこちらもラファエロ殿と」
「ありがとうございます。しかし、今日は大変でしたね」
「お恥ずかしいところをお見せしました」
「いえ、まさかアンドリュー様があのような振る舞いをされるとは思いませんでした」
「ラファエロ殿とアンドリュー殿はお知り合いなのですか?」
「昨年まで通っていた騎士学校の先輩でした」

 そんな学校があるのか。

「ギュスターブ辺境伯のように気高く、理知的な方だったはずなのですが、あの荒れようは驚きました」
「レティシア様は何も?」
「レティシアもアンドリュー様を怖がってはいませんでした」

 やはりそうか。
 俺の【看破】にも反応しなかった事から、根は真面目なヤツなのだろう。
 だが、そう考えるとおかしいかもしれないな。彼の行動の全てにラファエロの言う理知など感じられなかった。いくら俺がギュスターブ家に喧嘩を売るような真似をしたとしても、表向きには公爵家の指示でやった事になっている。
 とても理知的なヤツが起こす行動ではない。
 ……もしかしてこの件、まだ片付いていないのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...