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第一部
その156 ランクアップ
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オリハルコンの塊に触れるドマークの手が震える。
大きさは成人男性の人間頭大。ボーリング玉程の大きさである。
「本物……ですな」
「えぇ、ダンジョン産のオリハルコンの欠片を固めました」
「そうでしたか……確かにリーガルのダンジョンからはオリハルコンの欠片を得られる。しかし、これ程の量を……? いや、あの魔導書の数を考えれば必然なのかもしれませんな」
実際にはもっとあるけどな。
事実、リィたんは嬉しそうにオリハルコンのハルバードを頬ずりをしながらリーガルのダンジョンに向かった。きっと今頃魔導書以上にオリハルコンの欠片を集めているに違いない。
「……して、ミナジリ卿は私にこれをどうしろと仰るのかな?」
流石のドマークにも動揺が窺える。
オリハルコンをチラチラと見ながら俺の返答を待っているようだ。
「是非ドマークさんにご購入を――」
「――買いましょう」
神速だった。
一瞬、時が止まったかと思ったくらいだ。
「……ま、まだ値段の話をしていないのですが」
ここは【交渉】を発動しておくべきだろう。
「む、そうでしたな。いかほどでしょう?」
「リーガル白金貨一万二千枚……でどうでしょう?」
「……一万枚でいかがでしょう?」
凄いな、ぼったくったとは思ったけど、ちゃんと食らいついてきた。
「一万二千です」
「一万一千でいかがでしょう?」
「一万二千です。その代わり、この場でドマークさんの望む形に加工しましょう」
「おぉ、本当ですか! ならば一万二千出しましょう」
交渉材料に加工オプションを残しておいて良かった。
「それで、どのような形をご所望ですか?」
「そうですな……国宝以上の価値を見出しつつ、注目を集められる。加工品となると、やはり美術品でしょうか」
「壺や皿のようなものでしょうか?」
「いえ、出来れば信仰すら集められるようなモノがいいかと」
「ならば何かを象った像……でしょうかね」
「それです! そうですな、龍を象っていただけますかな?」
「かしこまりました」
俺が知ってる龍なんて一人しかいないけどな。
「な、何だか部屋が温かくなったような……?」
「魔力で抑えてはいますが、加工しやすいように超高熱でオリハルコンを熱しています」
「なるほど、それで欠片を塊に……。いやはや素晴らしい能力だ」
「こんな、ところで、どうで、しょう、っと」
「これは!」
「水龍リバイアサン。オリハルコンの青白い発光がよく合うと思います」
「おほぉ~……素晴らしい!」
珍しくドマークが興奮している。
この人でもこんな笑い方するんだな。
「ミナジリ卿、神技の如き技術、しかと拝見致しました。今後加工の依頼をお願いしても?」
「問題ありませんよ。我がミケラルド商店は【鍛冶】、【錬金術】、【修理】、【付与】と色々対応しておりますよ」
「ほぉ、さぞかし素晴らしい職人を抱えていらっしゃるのでしょうな……」
全てお前がやっているんだろ? って感じの視線だ。
ダンジョン産のマジックアイテムを使えば出来るし、簡単なものだったらエメラやクロードでも出来る。まぁ、難しいのは俺がやるしかないけどな。
「はははは、こちらは助かってますよ」
「ですが一つ忠告を」
「はい? 何でしょう?」
「加工という手札を持っていたのであれば、最後の交渉で一万三千に上げた方が良かったですよ」
凄まじい忠告だった。
「……もしかして、少々演技を?」
「ほんの少しですがね」
やられた。
どこからどこまで演技だったのかと聞きたくなるが、【交渉】で得られた戦果は薄かったと言わざるを得ないだろう。
くすりと笑っていたドマークは人差し指を立てて丁寧に説明してくれた。
「このオリハルコンの塊、単体でリーガル白金貨一万二千枚は正に妥当な金額です。しかしこれは加工されていない状態の価格です。なので私は、予算の中から加工代として白金貨二千枚を引いた額を提示したのです」
「それが一万……」
「その通りです。ですがミナジリ卿は一歩も引かなかった。ここまでは流石でした」
「つまり、そこからがダメだったと」
「まぁ、別の意味で流石でしたが」
苦笑するドマーク。
これは加工の腕の話をしたのだろう。
「因みに、加工済みの水龍像だと、どれくらいが適正価格だったのでしょう?」
「うーん、そうですね……リーガル白金貨にして、およそ一万五千」
「ごっ!? 三千枚も損したんですか!?」
「ふふふ、勉強代と思う事ですな」
「ぬぅ……今日を朝からやり直したい……」
「ははははは! ではもう一度交渉されますか? 私は引きませんが?」
「いや、勝てる気がしないのでもうそれでいいです」
「引き際は心得ていらっしゃるようですな」
「ははは……」
大人の世界って……何て怖いんだろう。
「しかし、今回の売買をもってミナジリ卿も商人ランクAですな」
「え、そうなんです?」
「商人ランクをBからAに上げるには、各国の白金貨で、一度に五千枚以上の取引及びランクB以降白金貨を一万枚稼ぐ事にありますから」
「つまり、一度に全て行ってしまったと」
「こちらに関しては、心の底から流石と言わせて頂きます。あぁそうだ、実はミナジリ卿にお願いがありまして」
「何でしょう?」
「そちらの水龍像、マッキリーから首都リーガルまで輸送を頼まれてはくれませんか? 流石にそれを持ち歩く度胸は持ち合わせておりませんので……」
「かしこまりました。では後日、ドマーク商会へお届けにあがります」
こうして、俺は商人ランクAに上がった。
リーガル国王ブライアンの提示した白金貨一万枚。
来年の税金を見越した二千枚も得て、ミナジリ領を購入する準備は整った。
しかし、まだその時期ではない。リーガルとシェルフとの同盟、そして落成式。自国の自給問題の解決等々、やる事は非常に多い。
これら全ての問題が解決した時、俺は、俺たちの国は……誕生するのだ。
大きさは成人男性の人間頭大。ボーリング玉程の大きさである。
「本物……ですな」
「えぇ、ダンジョン産のオリハルコンの欠片を固めました」
「そうでしたか……確かにリーガルのダンジョンからはオリハルコンの欠片を得られる。しかし、これ程の量を……? いや、あの魔導書の数を考えれば必然なのかもしれませんな」
実際にはもっとあるけどな。
事実、リィたんは嬉しそうにオリハルコンのハルバードを頬ずりをしながらリーガルのダンジョンに向かった。きっと今頃魔導書以上にオリハルコンの欠片を集めているに違いない。
「……して、ミナジリ卿は私にこれをどうしろと仰るのかな?」
流石のドマークにも動揺が窺える。
オリハルコンをチラチラと見ながら俺の返答を待っているようだ。
「是非ドマークさんにご購入を――」
「――買いましょう」
神速だった。
一瞬、時が止まったかと思ったくらいだ。
「……ま、まだ値段の話をしていないのですが」
ここは【交渉】を発動しておくべきだろう。
「む、そうでしたな。いかほどでしょう?」
「リーガル白金貨一万二千枚……でどうでしょう?」
「……一万枚でいかがでしょう?」
凄いな、ぼったくったとは思ったけど、ちゃんと食らいついてきた。
「一万二千です」
「一万一千でいかがでしょう?」
「一万二千です。その代わり、この場でドマークさんの望む形に加工しましょう」
「おぉ、本当ですか! ならば一万二千出しましょう」
交渉材料に加工オプションを残しておいて良かった。
「それで、どのような形をご所望ですか?」
「そうですな……国宝以上の価値を見出しつつ、注目を集められる。加工品となると、やはり美術品でしょうか」
「壺や皿のようなものでしょうか?」
「いえ、出来れば信仰すら集められるようなモノがいいかと」
「ならば何かを象った像……でしょうかね」
「それです! そうですな、龍を象っていただけますかな?」
「かしこまりました」
俺が知ってる龍なんて一人しかいないけどな。
「な、何だか部屋が温かくなったような……?」
「魔力で抑えてはいますが、加工しやすいように超高熱でオリハルコンを熱しています」
「なるほど、それで欠片を塊に……。いやはや素晴らしい能力だ」
「こんな、ところで、どうで、しょう、っと」
「これは!」
「水龍リバイアサン。オリハルコンの青白い発光がよく合うと思います」
「おほぉ~……素晴らしい!」
珍しくドマークが興奮している。
この人でもこんな笑い方するんだな。
「ミナジリ卿、神技の如き技術、しかと拝見致しました。今後加工の依頼をお願いしても?」
「問題ありませんよ。我がミケラルド商店は【鍛冶】、【錬金術】、【修理】、【付与】と色々対応しておりますよ」
「ほぉ、さぞかし素晴らしい職人を抱えていらっしゃるのでしょうな……」
全てお前がやっているんだろ? って感じの視線だ。
ダンジョン産のマジックアイテムを使えば出来るし、簡単なものだったらエメラやクロードでも出来る。まぁ、難しいのは俺がやるしかないけどな。
「はははは、こちらは助かってますよ」
「ですが一つ忠告を」
「はい? 何でしょう?」
「加工という手札を持っていたのであれば、最後の交渉で一万三千に上げた方が良かったですよ」
凄まじい忠告だった。
「……もしかして、少々演技を?」
「ほんの少しですがね」
やられた。
どこからどこまで演技だったのかと聞きたくなるが、【交渉】で得られた戦果は薄かったと言わざるを得ないだろう。
くすりと笑っていたドマークは人差し指を立てて丁寧に説明してくれた。
「このオリハルコンの塊、単体でリーガル白金貨一万二千枚は正に妥当な金額です。しかしこれは加工されていない状態の価格です。なので私は、予算の中から加工代として白金貨二千枚を引いた額を提示したのです」
「それが一万……」
「その通りです。ですがミナジリ卿は一歩も引かなかった。ここまでは流石でした」
「つまり、そこからがダメだったと」
「まぁ、別の意味で流石でしたが」
苦笑するドマーク。
これは加工の腕の話をしたのだろう。
「因みに、加工済みの水龍像だと、どれくらいが適正価格だったのでしょう?」
「うーん、そうですね……リーガル白金貨にして、およそ一万五千」
「ごっ!? 三千枚も損したんですか!?」
「ふふふ、勉強代と思う事ですな」
「ぬぅ……今日を朝からやり直したい……」
「ははははは! ではもう一度交渉されますか? 私は引きませんが?」
「いや、勝てる気がしないのでもうそれでいいです」
「引き際は心得ていらっしゃるようですな」
「ははは……」
大人の世界って……何て怖いんだろう。
「しかし、今回の売買をもってミナジリ卿も商人ランクAですな」
「え、そうなんです?」
「商人ランクをBからAに上げるには、各国の白金貨で、一度に五千枚以上の取引及びランクB以降白金貨を一万枚稼ぐ事にありますから」
「つまり、一度に全て行ってしまったと」
「こちらに関しては、心の底から流石と言わせて頂きます。あぁそうだ、実はミナジリ卿にお願いがありまして」
「何でしょう?」
「そちらの水龍像、マッキリーから首都リーガルまで輸送を頼まれてはくれませんか? 流石にそれを持ち歩く度胸は持ち合わせておりませんので……」
「かしこまりました。では後日、ドマーク商会へお届けにあがります」
こうして、俺は商人ランクAに上がった。
リーガル国王ブライアンの提示した白金貨一万枚。
来年の税金を見越した二千枚も得て、ミナジリ領を購入する準備は整った。
しかし、まだその時期ではない。リーガルとシェルフとの同盟、そして落成式。自国の自給問題の解決等々、やる事は非常に多い。
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