142 / 566
第一部
その141 二人のギルドマスター
しおりを挟む
ミナジリ領で色々済ませた俺は、シェンドの町の冒険者ギルドへやって来ていた。
するとギルド受付員のネムが席から立ち上がって俺を迎えた。
「あ、ミケラルドさん! お待ちしておりました! 奥でディック様とゲミッド様がお待ちですよー!」
……はて? 今日は試作品を届けに来ただけなのだが、何故昨日連絡したはずのディックがいるのだろうか?
俺は首を傾げながら他のギルド職員に案内されるがまま、支部長室へ入って行った。
そこでは、金剛力士像の如く仁王立ちした二人のギルドマスターが俺を待っていた。
え、何ココ? 地獄か何か?
俺は顔を強張らせながらソファーに腰を下ろし、二人に聞いた。
「それで……何でディックさんが? 確かに昨日ネムには連絡をお願いしましたけど、流石に早すぎません?」
そう、ディックの体術では一日で首都リーガルからシェンドまで来る事は不可能だ。
「ちょっとした連絡があってな、昨日の時点でマッキリーにいたんだよ」
「マッキリー……という事はサマリア公爵家に?」
「何でそれだけでそこまでわかるんだよ」
「連絡ならギルド通信がある。それでも、ディックさんが動かざるを得ない理由……と考えれば王家からの依頼だと思いまして」
「……当たりだ」
隠していないという事は、密使の類ではないだろう。
……って、ん? もしかして連絡ってアレか? レティシアを俺の嫁にどうかってあれか?
確かにランドルフは俺と一緒にリーガルを出た。あの会談の後、もう一度会ったというのは考えにくい。そうか、道理で。まったく、雑談レベルだろ、そんな連絡。
……まぁ、周囲に伏せるという意味では冒険者ギルドのディックに頼る事は悪くない。
つまり昨日、俺はディックと行き違いでサマリア公爵家に行ったって事か。
そしてディックがその後向かうであろう先はマッキリー。
ネムがリーガルに連絡し、ディックはマッキリーにいる事を知った。
だから今日ここにいるって事か。
「さて、ミケラルド……ネムを抱き込んでどうするつもりだ?」
「ちょ、人聞きが悪いですよゲミッドさん」
「ギルドマスターに逆らう受付嬢は初めてだったものでな」
「どういう事で?」
「昨日、儂がディックに連絡する事を止めたのは、何を隠そうネムだ」
「あ~、そういう事でしたか」
「あれ程強情なネムを見たのは初めてだ。『明日、ミケラルドさんが来るまで連絡はお控えください』と何度も言われてしまったわい」
ネムには悪い事をしたな。今度何かご馳走しよう。
ちょっと考えれば予想出来た事だが、まぁ過ぎた事は仕方がない。
次にディックが言う。
「さぁ、来てやったぞ。ネムのその態度、理由。洗い浚い吐いてもらおうじゃないか」
「既にギルド通信――【水晶】の代替品の事は?」
「儂が話した」
「その話は【水晶】を通して話していないという事でよろしいですね?」
ディックは肩を竦めて口をへの字にした。これは彼なりの肯定なのだろう。
「ネムには……彼女には昨日話してしまったんですよ」
「何をだ?」
「ギルド通信は第三者に盗聴されてるって」
「「なっ!?」」
俺は人差し指を口に持っていき、彼らの声を抑えさせた。
流石ギルドマスターだ。この情報だけでどうすればいいかがわかっている。
「本当なのか、ミケラルド?」
ディックの言葉に俺は頷く。
「嘘でこんな事言わないですよ」
「なるほど、だからネムは儂を止めたのか。儂が【水晶】を使えば、必ずミケラルドの名前が出る」
頭の回転が早い事早い事。話が早くて助かる。
「そういう事です。犯人はおそらく【水晶】をレンタルしてる張本人。あ、一応確認しておきます?」
「出来るのかっ?」
ゲミッドが片眉を上げて驚く。
俺は【闇空間】から一つのマジックスクロールを取り出し、テーブルに置く。
「解析を付与したこのマジックスクロールで【水晶】を見ればすぐかと」
「古代魔法のマジックスクロールだと?」
「出所は内緒です♪」
「真新しい羊皮紙で何を言う……?」
目の付け所がギルドマスターだよなぁ。感心するよ、ホント。
「ゲミッドさん、目が怖いです♪」
「ディック、任せる」
「あぁ」
ディックはそれを持ち、奥の通信室へ向かう。
一分もしない内に彼は戻り、ゲミッドに向かって頷いたのだ。
「まったく……爺共に何て言えばいいのやら……」
爺が「爺」って言うんだから、ギルド本部の人間たちは相当な高齢者たちで構成されてるのだろう。
「いや、すまなかったなミケラルド。貴殿の忠言がなければ、情報を抜き取られ続けていただろう」
どうやら、これまでゲミッドが俺に抱いていた不信感は拭えたようだな。
ディックは一度交渉してるせいか、感心半分、呆れ半分といった様子だ。
「まぁ、まだ現在進行形ですけどね」
「それで、先の話題にあった代替品、用意出来たのか?」
「既に用意しています。どうぞ」
再び【闇空間】を開き、テーブルに置いたそれは現代地球人にとって見慣れたものだった。
しかし彼ら二人のギルドマスターは異世界人。
これが何かはわかるはずもないのだ。
「「これは一体?」」
「【マイク】です」
木彫りのなんちゃってマイクだけどな。
するとギルド受付員のネムが席から立ち上がって俺を迎えた。
「あ、ミケラルドさん! お待ちしておりました! 奥でディック様とゲミッド様がお待ちですよー!」
……はて? 今日は試作品を届けに来ただけなのだが、何故昨日連絡したはずのディックがいるのだろうか?
俺は首を傾げながら他のギルド職員に案内されるがまま、支部長室へ入って行った。
そこでは、金剛力士像の如く仁王立ちした二人のギルドマスターが俺を待っていた。
え、何ココ? 地獄か何か?
俺は顔を強張らせながらソファーに腰を下ろし、二人に聞いた。
「それで……何でディックさんが? 確かに昨日ネムには連絡をお願いしましたけど、流石に早すぎません?」
そう、ディックの体術では一日で首都リーガルからシェンドまで来る事は不可能だ。
「ちょっとした連絡があってな、昨日の時点でマッキリーにいたんだよ」
「マッキリー……という事はサマリア公爵家に?」
「何でそれだけでそこまでわかるんだよ」
「連絡ならギルド通信がある。それでも、ディックさんが動かざるを得ない理由……と考えれば王家からの依頼だと思いまして」
「……当たりだ」
隠していないという事は、密使の類ではないだろう。
……って、ん? もしかして連絡ってアレか? レティシアを俺の嫁にどうかってあれか?
確かにランドルフは俺と一緒にリーガルを出た。あの会談の後、もう一度会ったというのは考えにくい。そうか、道理で。まったく、雑談レベルだろ、そんな連絡。
……まぁ、周囲に伏せるという意味では冒険者ギルドのディックに頼る事は悪くない。
つまり昨日、俺はディックと行き違いでサマリア公爵家に行ったって事か。
そしてディックがその後向かうであろう先はマッキリー。
ネムがリーガルに連絡し、ディックはマッキリーにいる事を知った。
だから今日ここにいるって事か。
「さて、ミケラルド……ネムを抱き込んでどうするつもりだ?」
「ちょ、人聞きが悪いですよゲミッドさん」
「ギルドマスターに逆らう受付嬢は初めてだったものでな」
「どういう事で?」
「昨日、儂がディックに連絡する事を止めたのは、何を隠そうネムだ」
「あ~、そういう事でしたか」
「あれ程強情なネムを見たのは初めてだ。『明日、ミケラルドさんが来るまで連絡はお控えください』と何度も言われてしまったわい」
ネムには悪い事をしたな。今度何かご馳走しよう。
ちょっと考えれば予想出来た事だが、まぁ過ぎた事は仕方がない。
次にディックが言う。
「さぁ、来てやったぞ。ネムのその態度、理由。洗い浚い吐いてもらおうじゃないか」
「既にギルド通信――【水晶】の代替品の事は?」
「儂が話した」
「その話は【水晶】を通して話していないという事でよろしいですね?」
ディックは肩を竦めて口をへの字にした。これは彼なりの肯定なのだろう。
「ネムには……彼女には昨日話してしまったんですよ」
「何をだ?」
「ギルド通信は第三者に盗聴されてるって」
「「なっ!?」」
俺は人差し指を口に持っていき、彼らの声を抑えさせた。
流石ギルドマスターだ。この情報だけでどうすればいいかがわかっている。
「本当なのか、ミケラルド?」
ディックの言葉に俺は頷く。
「嘘でこんな事言わないですよ」
「なるほど、だからネムは儂を止めたのか。儂が【水晶】を使えば、必ずミケラルドの名前が出る」
頭の回転が早い事早い事。話が早くて助かる。
「そういう事です。犯人はおそらく【水晶】をレンタルしてる張本人。あ、一応確認しておきます?」
「出来るのかっ?」
ゲミッドが片眉を上げて驚く。
俺は【闇空間】から一つのマジックスクロールを取り出し、テーブルに置く。
「解析を付与したこのマジックスクロールで【水晶】を見ればすぐかと」
「古代魔法のマジックスクロールだと?」
「出所は内緒です♪」
「真新しい羊皮紙で何を言う……?」
目の付け所がギルドマスターだよなぁ。感心するよ、ホント。
「ゲミッドさん、目が怖いです♪」
「ディック、任せる」
「あぁ」
ディックはそれを持ち、奥の通信室へ向かう。
一分もしない内に彼は戻り、ゲミッドに向かって頷いたのだ。
「まったく……爺共に何て言えばいいのやら……」
爺が「爺」って言うんだから、ギルド本部の人間たちは相当な高齢者たちで構成されてるのだろう。
「いや、すまなかったなミケラルド。貴殿の忠言がなければ、情報を抜き取られ続けていただろう」
どうやら、これまでゲミッドが俺に抱いていた不信感は拭えたようだな。
ディックは一度交渉してるせいか、感心半分、呆れ半分といった様子だ。
「まぁ、まだ現在進行形ですけどね」
「それで、先の話題にあった代替品、用意出来たのか?」
「既に用意しています。どうぞ」
再び【闇空間】を開き、テーブルに置いたそれは現代地球人にとって見慣れたものだった。
しかし彼ら二人のギルドマスターは異世界人。
これが何かはわかるはずもないのだ。
「「これは一体?」」
「【マイク】です」
木彫りのなんちゃってマイクだけどな。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
魔王を瞬殺して引退した転生勇者の元おっさんはエルフの幼妻とらぶえっちな生活がしたいです
中七七三
ファンタジー
現世で死んで異世界に転生したおっさん。
異世界に転生して、勇者として凄まじい英才教育をうける。
人類には勇者が必要だった。
恐るべき、魔王の軍団が人類世界を滅ぼそうとしていたのだ。
成長した元おっさんの勇者は魔王軍団を瞬殺。
あまりのチート、無双ぶりに、勇者は強制引退。
その力は危険と見なされ封印される。
そのかわり、エルフの幼妻をもらい、自分の領土ももらったのだった。
それは、南海常夏の孤島だった。
でも構わない。
ふたりでいれば幸せだ。
そして、エルフの幼妻のために島を開発し、楽しく暮らせるようにすればいい。
元おっさんの引退勇者とエルフの幼な妻の甘く蕩けるいちゃらぶ生活が始まった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜
北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。
この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。
※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※
カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!!
*毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。*
※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※
表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる