上 下
139 / 566
第一部

その138 忙しき日々

しおりを挟む
「くそ!? 何だそれ!? 知らない! 何で家如きが出来ただけで人呼んでパーティーしなくちゃいけないんだ!? 失礼のない料理、食器、家具、マナー、人員、どれをとっても俺にとって無縁の話だ!」

 と、叫びながらマッキリーに向かう中、俺はサマリア領とマッキリーまでの道を【土塊つちくれ操作】の魔法で舗装していた。
 これはランドルフが俺に気を遣ってくれたようだ。ランドルフ曰く、「道の舗装はそもそもサマリア公爵家からの依頼だったと言えばいい」と。「ギュスターブ辺境伯家へのプレゼンになるし、私がミナジリ子爵家を紹介する事も出来るから、ギュスターブ辺境伯家に近いミナジリ領でデモンストレーションをした。気に入ったのなら落成式来なよ。私がミナジリ卿と仲介しよう。ミナジリ卿からの招待状を待っててくれ」みたいな手紙をギュスターブ家に送るそうだ。これにより、貴族の顔に泥を塗った事にはならなくなる。
 みたいなランドルフスマイルをくれたのだが、これは体の良い言い訳、、、だ。
 ランドルフの顔には確かに書いてあった。「無料タダで道路舗装♪ 無料タダ~♪」みたいな欲望満載の文字が。
 相変わらず抜け目のないおっさんである。

「あ、ミケラルド様! お帰りなさい!」
「あぁカミナ、ただいま~」

 マッキリーにあるミケラルド商店三号店、そこで店番をしていたカミナが俺を迎える。

「何度も言うけど、ミケラルド『さん』とかでいいよ?」
「何度も言いますけど、ミケラルド『様』で通させて頂きます♪」

 まぁ、これはいつものやり取りだ。

「はぁ、それで今日の店の在庫は?」
「ん~、聖水と聖薬草がこころもとなくなってきたかなーって感じです」
「わかった、夜はマッキリーのダンジョンに潜るよ」

 ◇◆◇ 夜、マッキリーのダンジョン内 ◆◇◆

 ダイアウルフ(亜種)を倒した後、俺はダンジョンの最終階層で休憩をとっていた。
 ダンジョンのシステムは、大体把握してきたという自負がある。
 最終階層では、ダイアウルフ(亜種)……つまりそのダンジョンのボスを倒す事で宝箱が出現する。しかし、備え付けのように置いてある【聖薬草】と【聖水】は、最終階層に辿り着いた時に現れるようだ。つまり、俺が最終階層に降りた時点で、ボスと二つのアイテムが出現する。そして、ボスを倒した事により、最後の宝箱が出現する。
 因みに、ダンジョン内で転移魔法は使えない。何らかの妨害魔法が働いているのだろう。という訳で、ボスを倒す以外では、引き返さない限りこのダンジョンからは出られないというのだ。
 問題は転移装置の起動タイミング。これはダンジョン産のアイテムを取った瞬間に起動するものだ。つまり、ボスを倒した後、【聖薬草】と【聖水】をとらないと転移装置は起動しない。とらずに引き返す事も可能だが、そうする冒険者はいないだろう。
 しかし、ボスを倒した後、ゆっくりする事も可能なのだ。
 リーガルのダンジョンは岩肌がゴツゴツしているが、ここは緑溢れるマッキリーのダンジョン最終階層。夜なのに明るい場所で緑を満喫出来る絶好の休憩ポイントと言える。
 この間、他の冒険者が現れる事はない。リィたんも今マッキリーのダンジョンに潜っているが、別行動である。仮にリィたんが最終階層に着いたとしても、それはそれで別の最終階層に向かうだけ。同じタイミングでダンジョンに潜った者でないと合流出来ないのだ。
 従って冒険者ギルドでは、ダンジョンの冒険者救出といった類の依頼はない。

「おーし、【テレフォン】の魔法完成っと。後はこれをドマーク商会で買ったマジックスクロールに付与すれば……紙の電話が完成」

 やはり見栄えが悪い。紙に話しかけるネムやニコルを想像するだけで笑えてくる。
 そもそもマジックスクロールは羊皮紙に錬金術アルケミーの技を発動させるだけで出来るものだ。そしてマジックスクロールに付与魔法を施す事で、魔力の少ない者……たとえば戦士でも火の魔法を使えたりする訳だ。因みに、各ミケラルド商店に設置しているテレポートポイントも同じ原理である。箪笥チェストに付与魔法を施せるように錬金術アルケミーの能力を使っているのだ。
 ならば、羊皮紙ではなく別の物を媒体としても問題ない。それこそ、そこらへんに落ちている木の棒でもいいのだ。でもそれだと審美的によろしくない。やはりカッコいいのは水晶だが、それでは二番煎じである。もっと何かないか?
 現代地球人ならではの通信道具。
 その後、小一時間悩んだ結果、ある一つの答えに辿り着いた。

「よし! これならそこそこ格好がつくんじゃないか? あぁ~、喉渇いた!」

 そこまでは良かった。
 そこまでは良かったのだ。
 俺は無意識の内に手を伸ばしてしまった。
 自分でウォーターの魔法を使えば良かったのだ。しかし、そうしなかったのは現代地球で過ごした時間の長さが原因だろう。そう、俺は無意識の内に手を伸ばしてしまった。
 それは、マッキリーのダンジョン産の高価な水。
 ミケラルド商店で金貨四十枚で売られているあの水……そう、【聖水】に。
 気付いた時は遅かった。
 豪快に【聖水】のピッチャーを取り、嚥下えんげする事――二回。

「カッハッッ!?!?」

 過去数億年遡っても、聖水を呑んだ吸血鬼は俺みたいな馬鹿しかいないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...