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第一部
その128 バルトの危惧
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「一体どういう事か説明してください! ミケラルド殿!」
「いやぁ、私を魔族と知った上でそう呼んでくださるとは光栄ですねー!」
「そういう事を言ってるのではありません! がしかしっ、あなたは本当に、ま、魔族……なのですね?」
徐々に小さくなっていくバルトの声は、周囲への気遣いと恐れを内包していて非常に人間味溢れている。やはり人間ってのはこうでなくちゃ。まぁ、バルトはエルフだけどな。
「供はなし、単身で調査拠点にいらっしゃる豪気。流石はバルト商会のドンですね♪」
「あなたのこれまでがなければそんな気もおきませんでしたよ……まったく」
「それで、ローディ様は何と?」
「……いえ、族長たちには話しておりません」
それは意外な事だ。
「では私を強請りに?」
「そんな小さい事を私がすると本気で思っておられるのですか?」
「まずは軽いジャブからでもと思いまして」
「では私からもパンチを」
「何でしょう?」
「…………今回の事件、ミケラルド殿は無関係なのですな?」
やはりその確認はするよな。
魔族という括りならば、俺もそれに該当する訳だ。
バルトは「ダークマーダラーと共謀して企てたのではないか?」と聞きたいのだ。さて、これは素直に否定したいところだが、どう返すべきか。
「そんな小さい事を私がすると本気で思っておられるのですか?」
目の前に商人の教科書があったからこれでいいや。
俺がそう返すと、バルトは毒気を抜かれたように目を丸くした。
「そういう方でしたな、ミケラルド殿は……はぁ」
溜め息を吐いたバルトに、俺は改めて聞き直す。
「それで、何故ローディ様に進言されなかったのです?」
「現状築いたリーガル国との関係を崩さぬための私の個人的……いえ、政治的判断です」
「それはありがたいですね。先の話、改めて否定致します。私は確かに魔族ですが、現状魔界とは関係ありません」
「現状と言いますと?」
「魔界から逃れて来ましたから」
「ミケラルド殿程の実力があっても……という事ですかな?」
「そういう事で結構ですよ。今の実力があっても戻りたいとは思いませんが」
「なるほど、詳細は追々伺うつもりですが……ミケラルド殿が新国家の建国を目指している理由はその……やはり――」
「――魔族の地位向上……とまでは言いませんが、誰彼構わず差別しない国を目指したいですね」
「それに魔族も含まれると?」
「その魔族をエルフに言い換えた時、そう、今のバルトさんのような引っかかりをなくしたいだけですよ」
「何とも……困った御仁のようですな、ミケラルド殿は」
「行動で示すつもりですよ。正直、内心ビクビクしてましたから」
「ほぉ?」
「『ローディ様にバラされたらどうしよう♪』と」
「何故バラさないと思ったのです?」
「ここまで築き上げたシェルフとリーガル国との関係を崩したくないという政治的判断を……バルトさんがされると思いましたから」
「ふっ、本当に食えぬ御方ですな」
この人は、今後色々な事に関わってくるだろう。
シェルフの商いを握ってると考えれば、正直リーガルのブライアン王より敵に回したくない。まぁ帰ったら帰ったであの王様は色々仕掛けてきそうだけどな。
そんな俺たちのやり取りを見守っていたであろうリィたんが、バルトの隣に立った。
「貴重な【龍の血】をくれてやったのだ。今後ミックに不義理があった場合、私は真っ先に貴様を滅しに行く。それを努々忘れるでない……!」
まぁ、リィたんにしては随分我慢したよな。
ただの舌戦だったのだが、ここに水龍を足すと割り切れず殺意だけが余りそうだ。
「……彼女は?」
「【鑑定】を使われる事をおすすめします」
その後、バルトは日に二回目の失神を経験した。
彼の搬送を買って出た俺は、聖人君子か何かなのだろうと、自分に言い聞かせていた。
◇◆◇ ◆◇◆
翌日、俺は再び族長ローディと謁見していた。
「ミナジリ卿、この度は本当にありがとうございました」
【龍のポーション】により快復したであろうアイリスが深々と頭を下げる。
なるほど、マックスが鼻の下を伸ばすだけある。宙に浮かび「私は女神」と言っても否定出来ないだろう。クロードがエメラを射止め、ディーンがアイリスを射止めた事を考えると、世の人妻は皆、美の化身なのではなかろうか?
「アイリス様、ご快復おめでとうございます」
甘い物は程々に……と言いたいところだが、それはまだ言うべきじゃないだろうな。
後で、バルトを通して伝えておいてもらうか。
「――ではミナジリ卿、同盟の約定、及び調印式の日程、場所につきましては後日冒険者ギルドを通じて連絡させて頂きます」
「かしこまりました」
そうか、冒険者ギルドは絶対中立。ならばこの決定は頷ける。
遠方と通話する術がある場を通してのやり取り。人間はテレパシーが使えないからな。
そろそろそういう情報伝達システムの改善も視野に入れたいところだ。
まぁ、俺が真っ先にしなくちゃいけないのは別にあるけどな。
そう、昨晩のあの後、目を覚ましたバルトが俺に教えてくれたのだ。
「ミケラルド殿、まずは【鑑定】から逃れる術を身につけるべきです。魔族という存在を敵視するこの世界で、それを曝け出すのは余りにも危険です」
よく今までバレなかったなと反省です、はい。
「いやぁ、私を魔族と知った上でそう呼んでくださるとは光栄ですねー!」
「そういう事を言ってるのではありません! がしかしっ、あなたは本当に、ま、魔族……なのですね?」
徐々に小さくなっていくバルトの声は、周囲への気遣いと恐れを内包していて非常に人間味溢れている。やはり人間ってのはこうでなくちゃ。まぁ、バルトはエルフだけどな。
「供はなし、単身で調査拠点にいらっしゃる豪気。流石はバルト商会のドンですね♪」
「あなたのこれまでがなければそんな気もおきませんでしたよ……まったく」
「それで、ローディ様は何と?」
「……いえ、族長たちには話しておりません」
それは意外な事だ。
「では私を強請りに?」
「そんな小さい事を私がすると本気で思っておられるのですか?」
「まずは軽いジャブからでもと思いまして」
「では私からもパンチを」
「何でしょう?」
「…………今回の事件、ミケラルド殿は無関係なのですな?」
やはりその確認はするよな。
魔族という括りならば、俺もそれに該当する訳だ。
バルトは「ダークマーダラーと共謀して企てたのではないか?」と聞きたいのだ。さて、これは素直に否定したいところだが、どう返すべきか。
「そんな小さい事を私がすると本気で思っておられるのですか?」
目の前に商人の教科書があったからこれでいいや。
俺がそう返すと、バルトは毒気を抜かれたように目を丸くした。
「そういう方でしたな、ミケラルド殿は……はぁ」
溜め息を吐いたバルトに、俺は改めて聞き直す。
「それで、何故ローディ様に進言されなかったのです?」
「現状築いたリーガル国との関係を崩さぬための私の個人的……いえ、政治的判断です」
「それはありがたいですね。先の話、改めて否定致します。私は確かに魔族ですが、現状魔界とは関係ありません」
「現状と言いますと?」
「魔界から逃れて来ましたから」
「ミケラルド殿程の実力があっても……という事ですかな?」
「そういう事で結構ですよ。今の実力があっても戻りたいとは思いませんが」
「なるほど、詳細は追々伺うつもりですが……ミケラルド殿が新国家の建国を目指している理由はその……やはり――」
「――魔族の地位向上……とまでは言いませんが、誰彼構わず差別しない国を目指したいですね」
「それに魔族も含まれると?」
「その魔族をエルフに言い換えた時、そう、今のバルトさんのような引っかかりをなくしたいだけですよ」
「何とも……困った御仁のようですな、ミケラルド殿は」
「行動で示すつもりですよ。正直、内心ビクビクしてましたから」
「ほぉ?」
「『ローディ様にバラされたらどうしよう♪』と」
「何故バラさないと思ったのです?」
「ここまで築き上げたシェルフとリーガル国との関係を崩したくないという政治的判断を……バルトさんがされると思いましたから」
「ふっ、本当に食えぬ御方ですな」
この人は、今後色々な事に関わってくるだろう。
シェルフの商いを握ってると考えれば、正直リーガルのブライアン王より敵に回したくない。まぁ帰ったら帰ったであの王様は色々仕掛けてきそうだけどな。
そんな俺たちのやり取りを見守っていたであろうリィたんが、バルトの隣に立った。
「貴重な【龍の血】をくれてやったのだ。今後ミックに不義理があった場合、私は真っ先に貴様を滅しに行く。それを努々忘れるでない……!」
まぁ、リィたんにしては随分我慢したよな。
ただの舌戦だったのだが、ここに水龍を足すと割り切れず殺意だけが余りそうだ。
「……彼女は?」
「【鑑定】を使われる事をおすすめします」
その後、バルトは日に二回目の失神を経験した。
彼の搬送を買って出た俺は、聖人君子か何かなのだろうと、自分に言い聞かせていた。
◇◆◇ ◆◇◆
翌日、俺は再び族長ローディと謁見していた。
「ミナジリ卿、この度は本当にありがとうございました」
【龍のポーション】により快復したであろうアイリスが深々と頭を下げる。
なるほど、マックスが鼻の下を伸ばすだけある。宙に浮かび「私は女神」と言っても否定出来ないだろう。クロードがエメラを射止め、ディーンがアイリスを射止めた事を考えると、世の人妻は皆、美の化身なのではなかろうか?
「アイリス様、ご快復おめでとうございます」
甘い物は程々に……と言いたいところだが、それはまだ言うべきじゃないだろうな。
後で、バルトを通して伝えておいてもらうか。
「――ではミナジリ卿、同盟の約定、及び調印式の日程、場所につきましては後日冒険者ギルドを通じて連絡させて頂きます」
「かしこまりました」
そうか、冒険者ギルドは絶対中立。ならばこの決定は頷ける。
遠方と通話する術がある場を通してのやり取り。人間はテレパシーが使えないからな。
そろそろそういう情報伝達システムの改善も視野に入れたいところだ。
まぁ、俺が真っ先にしなくちゃいけないのは別にあるけどな。
そう、昨晩のあの後、目を覚ましたバルトが俺に教えてくれたのだ。
「ミケラルド殿、まずは【鑑定】から逃れる術を身につけるべきです。魔族という存在を敵視するこの世界で、それを曝け出すのは余りにも危険です」
よく今までバレなかったなと反省です、はい。
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