上 下
126 / 566
第一部

その125 偽装と戦果

しおりを挟む
「それじゃあヒミコさん。この【闇空間】の中にある【リッチ】の宝を、私の【闇空間】に♪」

 自分の闇空間の中には、当然荷物が入っている。
【呪縛】で捕らえたヒミコが言うには、どうやら【リッチ】のお宝は、この【闇空間】に入れっぱなしだという。なんて杜撰ずさんなセキュリティなのだろう。
 そう思いながらも、俺は闇空間の取り扱いの怖さを今一度心に刻んだのであった。
 ふむ、色々あるみたいだが、今はそれを気にしている場合ではない。
 まずはこの状況をどうにかすべき……だろうな。

「ふぅ。ミック、中々見事な作戦だった」
「リィたん、助かったよ。迷宮を抜けてくるダークマーダラーの数が絶妙だった」
「意外に呆気なかったな。まぁ、我ら三人を相手にしたのだから、これもこうなって然るべきか」
「ジェイルさんもありがとうございました。二人の陽動作戦は完璧でしたね」

 迷路の途中にはダークマーダラーがリィたんやジェイルに遭遇するスペースがあった。
 そこを守護する二人が適度に奴らを取りこぼし、迷宮の先へ進ませる。
 その調整こそ、出口で待ち受ける俺の吸血診察待ち時間という事だ。
 出て来たダークマーダラーを待ち受け、背後から傷付け、爪に付着した血をぺろり。
 後に続くダークマーダラーが不審がる事はない。何故なら、俺によって操られたダークマーダラーが笑顔で手招きしているのだから。
 途中からこちらの人員が増え、リィたんとジェイルの助けがいらなくなると、彼らは自分で【闇空間】を発動し、出口にある俺が発動した【闇空間】へ出て来られるという寸法だ。
 最後のヒミコは余裕をもって迎えられた。いやぁ、簡単だったなぁ。
 まぁ、この後始末の方が大変なんだよな。

「まず迷宮を消して……この闇空間を破壊する。発動さえしてしまえば壊すのは簡単♪」
「で、簡単なのはここまでな訳だが?」

 ジェイルの言葉が胸に突き刺さる。

「問題はこのダークマーダラーたちだな。いくら何でも戦闘の形跡がないのはまずかろう?」
「そ、その通りだねリィたん」
「策はあるのか?」
「な、何も……」
「なら何匹か殺しておくか?」
「あ、うん。言われるとは思ったけどそれは却下で」

 でも、リィたんの言う通りなんだよな。
 ダークマーダラーの足跡が迷宮の道があった場所になぞって、、、、あるだけで、血しぶき一つ落ちていない。こんな戦場があってたまるかって話だ。
 しかし、何もなかったら何もなかったで我々に嫌疑がかけられる。
「そもそも魔族の侵攻すらも嘘だったのでは?」と。それではいけない。
 ならば、と俺が出した答えは簡単なものだった。

 ◇◆◇ ◆◇◆

「な、なんという数のダークマーダラーッ!」
「さ、三百はいるのではないか……!?」

 戻って来たローディとディーンの感想は、俺の望むものだった。

「これ程の数のダークマーダラーを……生け捕り、、、、とは……!」

 バルトの疑問は俺たちの武力に尽きるだろう。

「全て気を失っているだけです」
「殺さないのは何故です?」
「情報は誰が持っているかわかりません。彼らをリーガルに連れ帰り尋問をしようと思っています」
「しかし奴らの中には我々の同胞を食らった奴がいるのですぞ!」
「無論、それが判明次第シェルフに引き渡します。それとも、我らの戦果を横取りされるおつもりで?」
「あ、いや……そういうつもりでは……」

 流石のバルトも口ごもる。
 そう、倒したのは俺たちであり、このダークマーダラーという存在の占有権は俺たちにある。たとえ国家からの要請だろうと、これは非公式な要請だ。契約書なんてあるはずもない。ならば傾けるべきは信頼。

「これに関しては私から契約書を書きます。ローディ様、それでよろしいですね?」
「うむ、シェルフを救ってくれた恩人の言葉です。無下に出来る訳もありません。がしかし、これを民に見せる訳にもいきませんな……」

 ◇◆◇ ◆◇◆

「で、今私たちの闇空間の中にはダークマーダラーが一杯入ってるって訳っ!? 何それ、怖い!」

 まぁ、ナタリーの言葉はもっともである。
 だが、これしか方法がなかったのも事実だ。
 リーガルへは急げば三日もあれば着く。これをバルトに伝えたら「脱帽ですな」と言われてしまった。【闇空間】に魔族を閉じ込めている間に魔族が死んでしまっては情報を探れない。そういった危惧がバルトにはあったのだろうが、幸い、我々は良くも悪くも人外なのだ。
 調査拠点で皆と祝賀会をあげていた俺は、ナタリーにその話をしていた。
 すると、その父親クロードが俺の前までやって来た。

「ミケラルドさん、この度は私の故郷を救って頂き、本当にありがとうございました」
「どういたしまして……と言うべきかは迷います。こちらも利益で動いている部分もありますから」
「はははは、流石はミケラルドさん。隠しませんね」
「隠せてないだけでしょ」
「ナタリーさん、辛辣では?」
「あ、そうだミック。アレ、、、帰りにとってきたけどどうするの?」

 ナタリーが言ったアレというのは、例の【杭】の事。
 魔法の発動が終わった事で役目を終えたであろう杭は、あの後簡単に抜けたそうだ。
 各地点から六本の杭についても、こちらで調べ、後程シェルフに報告するという取り決めだ。国家の危機を救ったという手前、向こうも強く言えない事も勿論あるが、それ以上に俺たちに任せた方が情報を得られると踏んだのだろう。
 信頼についてはかなり勝ち得たとは思う。事実、ここにはダドリーもクレアもいない。
 身内だけなのだ。
 この功績で俺は同盟に足る信頼を勝ち得たかはわからない。
 だが、それも明日の謁見という名の交渉次第だという事は、わかっているつもりだ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

処理中です...