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第一部
その125 偽装と戦果
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「それじゃあヒミコさん。この【闇空間】の中にある【リッチ】の宝を、私の【闇空間】に♪」
自分の闇空間の中には、当然荷物が入っている。
【呪縛】で捕らえたヒミコが言うには、どうやら【リッチ】のお宝は、この【闇空間】に入れっぱなしだという。なんて杜撰なセキュリティなのだろう。
そう思いながらも、俺は闇空間の取り扱いの怖さを今一度心に刻んだのであった。
ふむ、色々あるみたいだが、今はそれを気にしている場合ではない。
まずはこの状況をどうにかすべき……だろうな。
「ふぅ。ミック、中々見事な作戦だった」
「リィたん、助かったよ。迷宮を抜けてくるダークマーダラーの数が絶妙だった」
「意外に呆気なかったな。まぁ、我ら三人を相手にしたのだから、これもこうなって然るべきか」
「ジェイルさんもありがとうございました。二人の陽動作戦は完璧でしたね」
迷路の途中にはダークマーダラーがリィたんやジェイルに遭遇するスペースがあった。
そこを守護する二人が適度に奴らを取りこぼし、迷宮の先へ進ませる。
その調整こそ、出口で待ち受ける俺の吸血診察待ち時間という事だ。
出て来たダークマーダラーを待ち受け、背後から傷付け、爪に付着した血をぺろり。
後に続くダークマーダラーが不審がる事はない。何故なら、俺によって操られたダークマーダラーが笑顔で手招きしているのだから。
途中からこちらの人員が増え、リィたんとジェイルの助けがいらなくなると、彼らは自分で【闇空間】を発動し、出口にある俺が発動した【闇空間】へ出て来られるという寸法だ。
最後のヒミコは余裕をもって迎えられた。いやぁ、簡単だったなぁ。
まぁ、この後始末の方が大変なんだよな。
「まず迷宮を消して……この闇空間を破壊する。発動さえしてしまえば壊すのは簡単♪」
「で、簡単なのはここまでな訳だが?」
ジェイルの言葉が胸に突き刺さる。
「問題はこのダークマーダラーたちだな。いくら何でも戦闘の形跡がないのはまずかろう?」
「そ、その通りだねリィたん」
「策はあるのか?」
「な、何も……」
「なら何匹か殺しておくか?」
「あ、うん。言われるとは思ったけどそれは却下で」
でも、リィたんの言う通りなんだよな。
ダークマーダラーの足跡が迷宮の道があった場所になぞってあるだけで、血しぶき一つ落ちていない。こんな戦場があってたまるかって話だ。
しかし、何もなかったら何もなかったで我々に嫌疑がかけられる。
「そもそも魔族の侵攻すらも嘘だったのでは?」と。それではいけない。
ならば、と俺が出した答えは簡単なものだった。
◇◆◇ ◆◇◆
「な、なんという数のダークマーダラーッ!」
「さ、三百はいるのではないか……!?」
戻って来たローディとディーンの感想は、俺の望むものだった。
「これ程の数のダークマーダラーを……生け捕りとは……!」
バルトの疑問は俺たちの武力に尽きるだろう。
「全て気を失っているだけです」
「殺さないのは何故です?」
「情報は誰が持っているかわかりません。彼らをリーガルに連れ帰り尋問をしようと思っています」
「しかし奴らの中には我々の同胞を食らった奴がいるのですぞ!」
「無論、それが判明次第シェルフに引き渡します。それとも、我らの戦果を横取りされるおつもりで?」
「あ、いや……そういうつもりでは……」
流石のバルトも口ごもる。
そう、倒したのは俺たちであり、このダークマーダラーという存在の占有権は俺たちにある。たとえ国家からの要請だろうと、これは非公式な要請だ。契約書なんてあるはずもない。ならば傾けるべきは信頼。
「これに関しては私から契約書を書きます。ローディ様、それでよろしいですね?」
「うむ、シェルフを救ってくれた恩人の言葉です。無下に出来る訳もありません。がしかし、これを民に見せる訳にもいきませんな……」
◇◆◇ ◆◇◆
「で、今私たちの闇空間の中にはダークマーダラーが一杯入ってるって訳っ!? 何それ、怖い!」
まぁ、ナタリーの言葉は尤もである。
だが、これしか方法がなかったのも事実だ。
リーガルへは急げば三日もあれば着く。これをバルトに伝えたら「脱帽ですな」と言われてしまった。【闇空間】に魔族を閉じ込めている間に魔族が死んでしまっては情報を探れない。そういった危惧がバルトにはあったのだろうが、幸い、我々は良くも悪くも人外なのだ。
調査拠点で皆と祝賀会をあげていた俺は、ナタリーにその話をしていた。
すると、その父親クロードが俺の前までやって来た。
「ミケラルドさん、この度は私の故郷を救って頂き、本当にありがとうございました」
「どういたしまして……と言うべきかは迷います。こちらも利益で動いている部分もありますから」
「はははは、流石はミケラルドさん。隠しませんね」
「隠せてないだけでしょ」
「ナタリーさん、辛辣では?」
「あ、そうだミック。アレ、帰りにとってきたけどどうするの?」
ナタリーが言ったアレというのは、例の【杭】の事。
魔法の発動が終わった事で役目を終えたであろう杭は、あの後簡単に抜けたそうだ。
各地点から六本の杭についても、こちらで調べ、後程シェルフに報告するという取り決めだ。国家の危機を救ったという手前、向こうも強く言えない事も勿論あるが、それ以上に俺たちに任せた方が情報を得られると踏んだのだろう。
信頼についてはかなり勝ち得たとは思う。事実、ここにはダドリーもクレアもいない。
身内だけなのだ。
この功績で俺は同盟に足る信頼を勝ち得たかはわからない。
だが、それも明日の謁見という名の交渉次第だという事は、わかっているつもりだ。
自分の闇空間の中には、当然荷物が入っている。
【呪縛】で捕らえたヒミコが言うには、どうやら【リッチ】のお宝は、この【闇空間】に入れっぱなしだという。なんて杜撰なセキュリティなのだろう。
そう思いながらも、俺は闇空間の取り扱いの怖さを今一度心に刻んだのであった。
ふむ、色々あるみたいだが、今はそれを気にしている場合ではない。
まずはこの状況をどうにかすべき……だろうな。
「ふぅ。ミック、中々見事な作戦だった」
「リィたん、助かったよ。迷宮を抜けてくるダークマーダラーの数が絶妙だった」
「意外に呆気なかったな。まぁ、我ら三人を相手にしたのだから、これもこうなって然るべきか」
「ジェイルさんもありがとうございました。二人の陽動作戦は完璧でしたね」
迷路の途中にはダークマーダラーがリィたんやジェイルに遭遇するスペースがあった。
そこを守護する二人が適度に奴らを取りこぼし、迷宮の先へ進ませる。
その調整こそ、出口で待ち受ける俺の吸血診察待ち時間という事だ。
出て来たダークマーダラーを待ち受け、背後から傷付け、爪に付着した血をぺろり。
後に続くダークマーダラーが不審がる事はない。何故なら、俺によって操られたダークマーダラーが笑顔で手招きしているのだから。
途中からこちらの人員が増え、リィたんとジェイルの助けがいらなくなると、彼らは自分で【闇空間】を発動し、出口にある俺が発動した【闇空間】へ出て来られるという寸法だ。
最後のヒミコは余裕をもって迎えられた。いやぁ、簡単だったなぁ。
まぁ、この後始末の方が大変なんだよな。
「まず迷宮を消して……この闇空間を破壊する。発動さえしてしまえば壊すのは簡単♪」
「で、簡単なのはここまでな訳だが?」
ジェイルの言葉が胸に突き刺さる。
「問題はこのダークマーダラーたちだな。いくら何でも戦闘の形跡がないのはまずかろう?」
「そ、その通りだねリィたん」
「策はあるのか?」
「な、何も……」
「なら何匹か殺しておくか?」
「あ、うん。言われるとは思ったけどそれは却下で」
でも、リィたんの言う通りなんだよな。
ダークマーダラーの足跡が迷宮の道があった場所になぞってあるだけで、血しぶき一つ落ちていない。こんな戦場があってたまるかって話だ。
しかし、何もなかったら何もなかったで我々に嫌疑がかけられる。
「そもそも魔族の侵攻すらも嘘だったのでは?」と。それではいけない。
ならば、と俺が出した答えは簡単なものだった。
◇◆◇ ◆◇◆
「な、なんという数のダークマーダラーッ!」
「さ、三百はいるのではないか……!?」
戻って来たローディとディーンの感想は、俺の望むものだった。
「これ程の数のダークマーダラーを……生け捕りとは……!」
バルトの疑問は俺たちの武力に尽きるだろう。
「全て気を失っているだけです」
「殺さないのは何故です?」
「情報は誰が持っているかわかりません。彼らをリーガルに連れ帰り尋問をしようと思っています」
「しかし奴らの中には我々の同胞を食らった奴がいるのですぞ!」
「無論、それが判明次第シェルフに引き渡します。それとも、我らの戦果を横取りされるおつもりで?」
「あ、いや……そういうつもりでは……」
流石のバルトも口ごもる。
そう、倒したのは俺たちであり、このダークマーダラーという存在の占有権は俺たちにある。たとえ国家からの要請だろうと、これは非公式な要請だ。契約書なんてあるはずもない。ならば傾けるべきは信頼。
「これに関しては私から契約書を書きます。ローディ様、それでよろしいですね?」
「うむ、シェルフを救ってくれた恩人の言葉です。無下に出来る訳もありません。がしかし、これを民に見せる訳にもいきませんな……」
◇◆◇ ◆◇◆
「で、今私たちの闇空間の中にはダークマーダラーが一杯入ってるって訳っ!? 何それ、怖い!」
まぁ、ナタリーの言葉は尤もである。
だが、これしか方法がなかったのも事実だ。
リーガルへは急げば三日もあれば着く。これをバルトに伝えたら「脱帽ですな」と言われてしまった。【闇空間】に魔族を閉じ込めている間に魔族が死んでしまっては情報を探れない。そういった危惧がバルトにはあったのだろうが、幸い、我々は良くも悪くも人外なのだ。
調査拠点で皆と祝賀会をあげていた俺は、ナタリーにその話をしていた。
すると、その父親クロードが俺の前までやって来た。
「ミケラルドさん、この度は私の故郷を救って頂き、本当にありがとうございました」
「どういたしまして……と言うべきかは迷います。こちらも利益で動いている部分もありますから」
「はははは、流石はミケラルドさん。隠しませんね」
「隠せてないだけでしょ」
「ナタリーさん、辛辣では?」
「あ、そうだミック。アレ、帰りにとってきたけどどうするの?」
ナタリーが言ったアレというのは、例の【杭】の事。
魔法の発動が終わった事で役目を終えたであろう杭は、あの後簡単に抜けたそうだ。
各地点から六本の杭についても、こちらで調べ、後程シェルフに報告するという取り決めだ。国家の危機を救ったという手前、向こうも強く言えない事も勿論あるが、それ以上に俺たちに任せた方が情報を得られると踏んだのだろう。
信頼についてはかなり勝ち得たとは思う。事実、ここにはダドリーもクレアもいない。
身内だけなのだ。
この功績で俺は同盟に足る信頼を勝ち得たかはわからない。
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