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第一部

その119 ワラキエル家の現状

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「お疲れ様です」
「「お疲れ様でーす!」」

 まるでミケラルド商店の営業終了時間のようだが、あくまで一日目の調査終了というニュアンスなのだ。なのだが、やはり慣れって怖いな。
 不意にダンジョンに潜ろうとテレポートでマッキリーまで帰ろうとしてしまった自分は、最早もはやミケラルド商店の社畜なのだろう。

「さて、状況整理ですね」

 調査拠点にある大テーブルの上に広がる周辺一帯の地図。

「今回の戦果は一つだけ。不可解な杭……それだけです」

 事実、洞窟近くに行ってもダークマーダラーの気配はなかった。
 つまり、近辺にもう魔族はいないのだ。

「しかし、杭についてわかった事もあります。あれには闇魔法の魔力因子がありました」
「ふむ、やはりか……」

 リィたんもそこまでは行き着いたか。

「杭の数は六つ。この六カ所が……北、西、東、南西、南東、そして南です」

 木のブロックを地図上の該当箇所に六つ置き、俺は説明を続ける。

「この六カ所について、何か不自然に感じる事はありますか?」

 皆が眼下に広がる地図をジッと見つめる。

「あっ」

 すると、ナタリーが親指と中指の間の空間を使い、物差し代わりにして六カ所の距離を測る。
 これに皆が注目する。

「全て等間隔ですね……」

 クレアが顎先に手を当てながら言う。

「何でしょう、この六角形……?」
「六角形? 本当にそうか……?」

 エメラの言葉にリィたんが疑問を持つ。
 ふむ、こういう時の相場はその中央だろうか。
 俺は全ての杭の中央にブロックを一つ置いてダドリーに聞く。

「ここには何があります?」
「「っ!?」」
「……シェルフですね」
「もっと正確に言うと……?」
「っ! 精霊樹があります!」

 と、ここまでは簡単に出せる。
 だが、それ以上の正確な情報は出てこない。

「何らかの魔族的な儀式……?」
「「知らないな」」

 流石に不自然過ぎると思うぞ。リィたんにジェイルよ。
 まぁ、この二人が知らないというのであれば、それは知らない事なんだろう。

「ダークマーダラーはこの地で一体何をしていたのか。あの杭は一体何なのか。魔族の目的は。問題が一つ増えましたがやる事は変わりません。明日は洞窟に入ります。メンバーは私、リィたん、ジェイルです」

 流石に最重要地点にナタリーは連れて行けないからな。

「それ以外の方は杭周辺をもう一度調べてください」
「「わかりました!」」

 ◇◆◇ ◆◇◆

 二日目。
 ミナジリ村の三強は揃って洞窟へ入った。
【嗅覚】を使いある程度は知っていたつもりだが、やはりそこは凄惨な場だった。

「……エルフの人骨だね。それに、乾いているとはいえまだ新しい血。奴らはここを拠点に、何かをしていた」
「だが、もぬけの殻」

 リィたんの言葉に俺は頷く事しか出来なかった。
 すると、ジェイルが何かを発見した。

「ミック、これを見ろ」
「これはっ!」

 それは、人骨ではなかった。
 死体と呼べるだけの形状を留めていた。
 女のエルフの変死体がそこにあった。そして、俺はその死体に見覚えがあった。
 いや、この人を知っている訳ではない。この死に方に見覚えがあったのだ。

「干からびてるな。という事はこの件には妖魔族、、、も関わっていたのか」

 そう、人間の生気を吸い取り糧とする魔族だ。
 俺の三歳の生誕祭の時、スパニッシュの屋敷に来ていた妖魔族ようまぞく

「という事は……父親スパニッシュが親玉ですか?」

 俺がジェイルに聞くと、彼は首を横に振った。

「奴は今こんな事をしている暇はない。今頃十魔士への根回しで手一杯だろうからな」
「それはどうして?」
「「ミックのせいだろう」」

 どうやら知らない内にパパに迷惑を掛けていたようだ。

「そんなハモらなくてもいいじゃない」

 俺のジト目に、二人は呆れまなこを送ってくる。

「いいか? ワラキエル家に忠誠を尽くし奉公していたのは誰だ?」
「えっと……アンドゥ?」
「そうだ。それをミックとドゥムガが殺した」

 そんな物騒な。
 まぁ、事実だから否定は出来ないけどな。
 その後、更にジェイルは続けた。

「ダークマーダラーの元頭首でもあるアンドゥが、ワラキエル家に仕えていたのには理由がある」
「それは……十魔士の中で立場を良くするため?」
「その通りだ。当然スパニッシュもそれを理解している。野心を持って仕えていようがスパニッシュには関係ない。何故ならダークマーダラーを迎え入れる事でスパニッシュにも利があるからだ」
「あ、力を誇示出来るね」
「その通りだ。互いに利があるからこそあの二人は組んでいた。しかし、その片割れが命を落とした。これが原因で何が起きると思う、ミック?」
「……アンドゥの死により、ダークマーダラー種がスパニッシュから……ワラキエル家から離れる」
「そうだ。引退した後でもアンドゥは種に尽くしていた。ダークマーダラーの中でもその信頼は厚い。そしてアンドゥの死を隠せる程、魔界は甘くない。あの後、スパニッシュはダークマーダラー種から凄まじい糾弾を受けた事だろう」

 なるほど、そういう事か。
 ダークマーダラー種がワラキエル家から離れるきっかけを作ったのが……俺という訳だ。
 物凄い他人事ひとごとで申し訳ないが、その内、四天王を追放されるんじゃないだろうか……ワラキエル家のスパニッシュさん。

「人骨の数からして大半がダークマーダラー種の仕業だろう。だが、指揮を執っていたのは妖魔族だ。ミック、わかるか?」
「……この変死体が最奥にあったから」

 解答に辿り着いた俺に、ジェイルが笑みを見せる。

「その通りだ」

 そしてジェイルはリィたんに視線を向ける。

「リィたん、これはやはり……」
「あぁ、別の四天王、、、、、が動いてるな……」

 俺がリィたんの結論を聞いた瞬間、耳を塞ぎたくなった。
 割に合わないぞ、この仕事。
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