上 下
119 / 566
第一部

その118 ミケラルド式包囲網

しおりを挟む
「何でこうなった……」
「ふっふ~ん、いいじゃない♪ それだけミックが信用されてるって事だよ! うん! 凄い凄い!」

 そう言いながらナタリーは俺の頭を撫でてくる。
 何故ナタリーが成人男性の体躯である俺の頭を撫でられたのか。それには理由がある。
 ナタリーは俺の肩に乗っているからだ。これは所謂いわゆる、肩車。
 三歳男児が十一歳の淑女レディーを肩車する。言葉にすると不可解極まりないこの現状を、我が公的護衛オフィシャルガーディアンは失笑しながら見ている。

「エメラさんとクロードさんの許可がなければ……ぬぅ」
「んま、それだけミックの力を当てにしてるって事だろうよ。それに、今後はこういう事が増えていくんだろうし、早めに慣れさせておこうって算段じゃないか?」

 クマにしてはまともな事を言う。いや、クマはもっと賢いかもしれん。どこぞの世界で魔王軍の幹部とかしててもおかしくない戦闘力を持ってるしな。

「それで、私たちは東でいいんだよね?」
「あぁ、西の聖域付近はその範囲を知ってるダドリーさんがいるリィたんチームに任せた方がいいしな。俺たちは東から南下して目的の場所まで索敵していく」
「俺って必要あるのかねぇ?」
「大丈夫、ちゃんとこき使う予定だ」
「へぇ、それは……嫌だな」

 正直過ぎるマックスの感性はとても羨ましくある。

「私は私はっ?」

 ナタリーが俺の頭部を揺すりながら聞いてくる。

「マックスと同じだよ。二人には違和感を探して欲しい」
「「違和感?」」
「俺の【特殊能力】、【固有能力】、【魔法】は確かに便利だけど、これを使ったとしても肉眼や肌で感じて得た情報には勝てないって事。魔族を見つける事は簡単かもしれない。でも、魔族の目的、それとこれまでやってきた事を調べるにはそういう情報も必要って事」

 事実、この世界で生きている俺だが、まだこの世界に来て数ヶ月だ。
 全てを理解出来る程甘い世界じゃない。特にこういう深い森ではな。

「つまり、人が多いにこした事はないって事だな」
「うん、私頑張るっ!」
「という訳で、ナタリー。降りてくれ」
「えぇ~っ!?」
「帰ったらいくらでもやるから」
「降りた!」

 聞き分けがいいのか悪いのか、乙女心というのは本当によくわからない。
 さて、マックスとナタリーの同意が得られたところで、俺たちの行動が開始した。
 因みに、ダドリーが発見した洞窟については、シェルフの南側にある。
 ジェイルとクレアは北側の調査を頼んでいるが、当然それは北東と北西も含まれる。
 人数が少ない上に広範囲ではあるが、一番危険が少ない地帯だ。一日で終わらせるつもりもないし、これがちょうどいいと思っている。
 そして、リィたん、エメラ、ダドリーは西側。そこから南西へ南下し、南、南東をさらうように調べてもらう。
 最後に俺たち。このまま南東に向かい、件の洞窟付近を念入りに調査する。そう、洞窟は南東側にあるのだ。

 調査を開始して一時間程経過しただろうか、マックスが変なものを発見した。
 それは、木々の合間にあった小さな場所だった。
 マックス一人が寝そべられるような二畳程の空間。

「おいミック、こりゃ杭……かな?」
「そうみたいだね。それに変だ」
「どういう事だ?」
「この杭、魔力が込められてる」

 地面から少しだけ飛び出た杭。それが人工的に作られたものだという事はすぐにわかった。しかしこの魔力、微量だけれど不可解だ。
 深い闇に包まれるような微弱な魔力、おそらく闇魔法に関するものだろうが、情報が読めない。一部だけは読み取れるが、大部分が足りない。そんな印象を受ける。

「迂闊に手を触れない方がいい。とりあえずこの地点を地図にチェックして他を探そう。クロードさんには次の定時連絡の時に伝えておくよ」
「わかった」

 その後、定時連絡の情報をまとめたところ、おかしな事がわかった。

『という事は、北と西にも同じ杭があったんですね?』
『はい、ジェイルさんとリィたんさんからそう伺っています』
『わかりました。現状は手を出さないように指示を。それと、定時連絡を一時間から三十分に変更。また不審物を発見した時は、随時連絡をください』
『は、はい、わかりました!』

 俺がテレパシーを使ってもいいのだが、今後の事を考えると、クロードに頑張ってもらった方がいい。俺に何かが起こった時、こういった行動が出来るように経験しておくのは重要だ。それが実践出来る機会はあまりないだろうからな。まぁ、俺がいる時はそこまで気を張る必要はないだろう。
 さて、微弱なモンスターの気配はあるが、以降何も見つからないな。
 そろそろくだんの洞窟に着いてしまうのだが……?
 直後、ナタリーから連絡が入った。
 マックス、ナタリーに対しては常時テレパシーを解放している事もあり、すぐに駆け付ける事が出来た。

「これ、さっきと同じ杭……だよね?」
「…………いや、違うものだ。でも魔力は込められている」

 正確には全く同じでないというだけ。雰囲気そのものは同じだが、魔力の中にある情報が違う。しかし、これはどこかで……?

「だ、大丈夫かな……?」
「今のところはね。ナタリー、ありがとう」
「う、うん! 沢山探したよ!」

 かくれんぼをしている子供の台詞であればなんと可愛かっただろう。
 しかし、魔族を探している子供の台詞と考えてしまうと、何というか情緒というか雰囲気がぶちこわしである。
 まぁ、何してもナタリーは可愛いのだけれど。
 その後あった定時連絡で、更なる情報が更新された。

「……お父さん、何だって?」
「南西と南でまた杭が発見された……」

 一体……何が起こってる?
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...