上 下
106 / 566
第一部

その105 コバックの誤算

しおりを挟む
 まさかこんなところで再会するとは思わなかった。
 しかし、ドゥムガがコバックに捕まっているとは意外だ。
 いや、しかしこのコバックの実力なら或いは可能なのかもしれない。
 ドゥムガの腕には奴隷を示す焼き印。やはり、コバックの奴隷となっているのか。

「な、何故貴様がこいつの名を知ってるっ!? おい! お前は奴を知ってるのか!?」

 コバックの驚きは当然。
 ドゥムガはコバックの威圧的な命令が嫌なのか、反抗的な目を見せる。
 しかし、コバックはやはりあるじのようで、その命令には逆らえないようだ。

「……知らねぇな」

 ドゥムガが知らないのも無理はない。
 俺は今完全に人間。牙もなければ紅い瞳でも――

「――いや、待て……お前っ!?」

 おや?

「そ、その黒銀こくぎんの髪……っ!」

 なるほど、髪の毛で気付くか。
 なら俺も隠す必要はない……か。

「嘆きの渓谷以来ですね、ドゥムガさん」

 俺がそう言った瞬間、ドゥムガの気付きは確信へと変わった。

「やはりお前か、ガキィ!」

 それと共に、ドゥムガの表情が変わる。
 そう、これはあいつの頭の中であるプランが決まったのだろう。
 どこか打算をしている。そんな顔をしたドゥムガは、ニヤリと口を開いてから言った。

「おいガキ、俺様を助けろ! そうすりゃおぇに協力してやってもいいぜぇ!?」

 まぁ、ドゥムガの事だからと思っていたが、完全にドゥムガな計画だった。
 どうしてドゥムガはこう……ドゥムガなんだろう。
 そんな事を言ったところで、ドゥムガが現在コバックの奴隷だという事は変わらない。

「……ふん、貴様もしや魔族だな? 道理でドゥムガの事を知っている訳だ。がしかし、魔族だろうと関係ない。ドゥムガ! 支援魔法だ!」

 コバックが言うと同時、ドゥムガは無言でコバックに魔法を掛けた。
 あれはおそらく雷魔法の【疾風迅雷】。なら俺も使うか。
 発動した俺の【疾風迅雷】を見てコバックとドゥムガが驚く……が、二人の目には別々の驚きがあった。

「へへへ、成長してんじゃねぇか……!」
「同じ魔法が使えたところで我ら二人の攻撃をかわせる訳もない! 行くぞっ!」

 ドゥムガの目にやる気はない。
 が、どうしても奴隷契約の力が働く。
 左右から向かって来る二人に、俺は【解放】を発動する事で対応した。

「っ!? 速いっ!?」

 全ての力を使わずともコバックを御する事は出来る。
 それ以上にドゥムガの方が厄介だ。あいつの動きを止めても問題ないのか?
 俺は過去ドゥムガの血を吸っている。【呪縛】によってドゥムガを止めた場合、奴隷契約の力を打ち消す事が出来るのか? いや、そうは考えにくい。
 下手に使用してドゥムガの命が絶たれてしまうのは困るのだ。

「はぁ……」
「ハハハハハッ! この戦闘中に溜め息とは余裕だな、ガキィ! どうやら更なる力をつけたと見える!」
「えぇ、だから痛いですよっ」
「んなっ!? ぐぉ!?」

 俺はドゥムガの戦闘不能を狙い、その背中を強く蹴った。
 壁に強く叩きつけられたドゥムガは、床に落ちた後震えながら俺を睨む。

「にゃ、にゃろう……!」
「馬鹿な!? あんな細い身体のどこにそんな力がっ!?」

 どこかで聞いた事のあるような言葉を聞き、俺は前世を思い出した。
 戦闘中だというのに、俺はくすりと笑ってしまったのだ。

「ひっ!?」

 それがこのコバックにどういう目で映ったのかはわからない。
 がしかし、控えめに言っても……悪魔的だったに違いない。
 圧倒的なスピードでコバックに近付き、俺はその腹部を強打する事によって戦闘を終わらせた。あるじの意識喪失。これで以降ドゥムガに命令する事は出来なくなる。
 俺はうずくまるドゥムガを脇目に、爪でコバックの腕を傷つけ、その血をぺろりと舐める。と同時に【呪縛】の発動。

「立て」

 俺の命令によりゆらりと立ち上がるコバック。
 早急にコリンを探したいところだが、まずは後方の確保からだ。

「ドゥムガの奴隷契約を破棄しろ」
「……はい」

 俺の命令に従い、コバックはドゥムガの方に向いて言い放つ。

「ドゥムガ、奴隷契約解除だ」

 奴隷契約の解除は簡単である。奴隷と契約したあるじが奴隷契約の力を使って自由を言い放つだけ。契約の解除にまで契約の力を使う……中々皮肉がきいている。
 ドゥムガは自由になったと理解したのか、ニタリと笑う。だが、そうは問屋が卸さない。
 さて、次は俺の番だな。

「ドゥムガさん、その場で待機です。動く事は許しません」
「くっ!?」

 今度は【呪縛】により俺がドゥムガを拘束する。
 逃げられては厄介だし、魔族を人間界に放つのも憚られる。

「てめぇ、一体どういうつもりだ、ガキッ!」
「それはこっちの台詞ですよ。一体何でコバックの奴隷に?」
「何でてめぇに話さなくちゃ――」
「――話してください」

 ナタリーの命を狙い、俺を嘆きの渓谷に投げ入れたやつだ。
 ここは遠慮なくいかせてもらう。

「……あの後、ガキと離れ俺様は人間界にやってきた。しかし、俺様が人間界で生きていく術はほとんどないに等しかった。だが、一つだけあった」
「それがコバックですか」

 ドゥムガは首を縦に振る。

「そいつは魔族に人間を売る闇の奴隷商。俺様も若い頃、種の使いっ走りで何度か使った事がある。秘密の受け渡し場所。そこで張ってたら案の定……ってな。ちっ、人間相手に油断したぜ……!」

 人間は魔族以上に強かだ。最初はドゥムガに協力したとしても、それは一時的。ドゥムガの隙をいて奴隷契約したのだろう。
 しかし気になる。奴隷契約には奴隷の契約内容復唱が必要なはず。ドゥムガがそれを呑んだのか? いや、隙を衝いて捕縛し、餓死寸前までドゥムガを追い込めばそれは可能……か。
 先の戦闘で周りの檻に入っている皆も怯えきっている事だろう。この人たちをどうするかが問題だな。とりあえず、ダイモンにも連絡しておくか。
 さて……その間にコリンを探さなくちゃな。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

処理中です...