上 下
103 / 566
第一部

その102 コリンの行方

しおりを挟む
 ダイモンが集めた情報によるとダイモンの娘であるコリンは、ダイモンが奴隷となった後、たちの悪い奴隷商に捕まったそうだ。
 その話を聞いた俺は、まずはと思いテレポートポイントを使い、皆を首都リプトゥアからミナジリの村へ移動させた。シュッツとランド、そしてジェイルに後の事を任せ、ドルルンドの町に移動して待っていたダイモンと共に、先程奴隷を大量購入した奴隷商店へと向かった。当然、俺は彼等にとってお得意様である。
 俺の顔を見つけて悪い顔をする者はいないだろう。
 店の前を掃除する奴隷を監督する奴隷商に近付くと、すぐに気付かれる。

「おや旦那! もうお戻りで? 流石に新しい奴隷はいねぇですぜ? はははは!」

 奴隷商に肉薄しようとするダイモンを腕で御し、俺は静かに一礼した。

「実は、とある奴隷商を探しています」
「ほぉ?」

 俺の希望を聞くと同時、奴隷商は嫌らしい笑みを浮かべながら言った。
 同じ商人として見習うべき部分はあるが、それが相手にわかっては意味がない。
 まぁ、今回に関しては彼の打算に乗る他ないだろうけどね。

「首都リプトゥアで子供をさらって奴隷にする奴隷商について聞きたいのです」

 瞬間、奴隷商の瞳に動きがあったのを、俺は見逃さなかった。
 心当たりが頭を過ぎったのだろう。しかし、奴隷商すぐに目を伏せ、更には背を向けたのだ。

「……知らねぇな」

 なるほど、これだけの上客が相手でも答えを渋る相手……という事か。

「おい! 何か知ってるんだろ、お前!? 頼む! 教えてくれ!」

 我慢が出来なくなったか、ダイモンはついに口を出した。
 その気持ちはわかる。実の娘の行方を知っているかもしれない男から情報が引き出せないのだ。焦る気持ちはわかるのだが、ダイモンの怒声を受けても彼は反応を見せなかった。

「っ! おいっ!」

 ついには奴隷商に掴みかかろうとするダイモン。
 しかし、俺は腕で彼を制した。

「ダイモンさん、落ち着いてください」
「これが落ち着いてられる――――」

 と言い掛けた直後、俺は彼の意識を奪った。奪うしかなかったというのが正解だ。
 催眠ガスを吸わせると、ダイモンはほんの少し朦朧もうろうとした後、俺の肩に倒れこんだ。

「へっ、すげぇ腕だな……アンタ。がしかし、ちゃんと契約してりゃ、その奴隷も言うこときいたってのによ。どうしてそんなに回りくどい事をする?」
「はははは、そう見えましたか? 大丈夫、ちゃんと彼はわかってくれますよ」
「どうだかねぇ……」

 奴隷商から情報を聞き出す。
 彼から血を吸って得てもいいが、それは最後の手段にしておきたい。
 ならば、ここは彼が信用するモノで【交渉】した方がいい。

くだんの奴隷商の情報……リーガル白金貨はっきんか一枚でいかがです?」

 先の嫌らしい目付き。当然、それは情報を売ろうと画策した目である。
 しかし、その情報が彼の手に余るモノだとしたら、顔をそらしてしかるべき。
 ならば情報の価格を法外なものにすればどうなるか。

「……今夜、十一時に裏に来てくんな」

 なるほど、【交渉】の能力も相まって、彼を振りかえらせるだけの力はあったか。

 ◇◆◇ ◆◇◆

 夜、ダイモンが目覚める。
 ダイモンは俺が情報を買えそうだと言った瞬間、先の無礼をすぐに詫びた。

「……すまねぇ」
「冷静になれとは言いません。こんな事があれば誰だって頭に血が上るでしょう」

 そう、俺だって過去血塗れのナタリーを見て冷静じゃいられなかった。
 寧ろ、自我があっただけダイモンはマシな方だ。
 簡単な食事を済ませた後、俺たちは先の奴隷商店の裏へ向かう。
 約束の時間の五分前。
 すると、そこには男の奴隷が立っていた。

「ミケラルドさんですね」
「……彼は?」

 聞くと、男はそれきり無言のまま俺に一枚の小さな羊皮紙を差し出した。
 なるほど、情報は彼の奴隷経由で渡すという事か。
 俺は白金貨を男の奴隷に渡し、その羊皮紙を受け取る。
 俺とダイモンがそれをのぞき込むと、俺は驚きに、そしてダイモンの顔は恐怖に染まった。

「私の目の前でそれを燃やして頂けますか?」
「えぇ、彼には感謝をお伝えください」

 俺はそれを火魔法で燃やし、消し炭にする事で彼の情報をこの世から消した。
 俺の火魔法に驚いた男奴隷は、出しかけていた後始末の道具をしまい、静かに闇夜に消えていった。
 この場で話す事ははばかられる。そう判断した俺は、ダイモンに一時帰宅を身振りで説明し、ドルルンドの空き家へ戻った。
 緊張と恐怖をあらわにしたダイモンは、空き家の出入り口で硬直したままだ。
 それも当然だろう。
 俺は、あの時受け取った羊皮紙の中身を思い出す。

 奴隷商の名前は《コバック》。
 首都リプトゥアで裏奴隷商を営む危険な男。
 何故危険かは、あの奴隷商が注意書きで教えてくれた。

 ……なるほど、魔族、、と関わりがある奴隷商か。
 そりゃ怖がる訳だ。

「ミ、ミケラルドの旦那……」

 いつから俺は旦那になったのかはわからないが、別にこの呼ばれ方は悪い気はしない。
 ダイモンはすがるような視線を俺に向け言うも、その先に続く言葉は聞こえない。魔族という言葉だけで、彼は悟ってしまうのだ。「もう無理だ」と。
 それだけ人間には魔族という存在は恐ろしいものなのだ。
 だがしかし、忘れてはいまいか? このミケラルド君も魔族だという事を。

「まずは接触からですね」
「で、でも一体どうやって……!」
「とりあえず絶世の美女になります」
「…………は?」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...