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第一部

その99 誠意

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「よし、これくらい離れればもういいかな?」

 電車ごっこのように縄に繋がれた奴隷たち。
 俺の合図により、リィたんが駆けハルバードを振りながら拘束を切っていく。
 咄嗟の出来事に驚く奴隷たち。リィたんの凄まじい動きを見て、逃げるという選択は、最初からない。が、しかし、保険はかけさせてもらってる。

「お、おい! 俺のは何で切ってくれねぇんだよ!?」

 拘束を天に掲げ、怒声をあげる男の奴隷。
 俺は、それを見て男に近付く。

「えーっと、あなたは複数回の前科がある罪人ですよね? さすがにそこまでお人好しじゃないので、しばらく拘束はさせて頂きます。当然、他の皆への安全のためでもあります」
「てめ――――っ!?」

 俺の背後に立っていたのは、もの凄い殺気を発したリィたん。
 これにより、他の罪人たちがそれ以上騒ぐ事はなかった。

「さて、一応囲いは作っておくかな」

 俺は土塊操作の魔法により、一瞬で目の前に小型のホールのような建物を造った。
 どうやらこちらの方が罪人たちには有効だったようだ。
 奴隷たちも驚いているが、罪人たちの驚きはそれ以上だったようだ。
 まぁ、彼らは強者に対して鼻が利く。彼らが逃げ出せる唯一の望みは俺という急所だったのだろう。しかし、急所は急所ではなかった。急所という名の俺は、彼らにとって絶対に勝てない強者だったから。

「順次入って頂けますか? 悪いようにはしません」

 俺が言うと、皆従順に急造ホールに入って行った。
 はて? これまで従順だと気味が悪くなっていくが、一体どうしてだろう。
 罪人たちが目を合わせてくれないのはともかく、他の人たちは俺の前を通る度に会釈をしていく。

 全員が入り終えると、扉の前にリィたんが立つ。
 まぁ、逃亡防止のためなのだが、契約さえ済んでしまえば別に問題はない。
 俺は造った壇上に、皆は大地で造ったベンチの上に腰を下ろした。
 さて、皆の前に立ったはいいが、何から話したものか。
 ええい、なるようになれ……だ。

「初めまして。私はリーガル国の王商おうしょう、ミケラルド商店の店主、ミケラルドです」

 我ながら肩書きが増えたな。
 まぁ、他にも沢山もっているが、初対面の相手にはこれくらいで十分だろう。
 何より、王商おうしょうというのはたとえ隣国であってもネームバリューがあるものだ。俺の名前こそ知らなくてもいい。王商おうしょうと名乗れればいいのだ。
 そして、俺はそれだけの財を皆の前で示したのだから。
 ざわつく奴隷たちだったが、それもすぐに静まる。続く話に興味があるかのようだった。

「まず、あなた方を奴隷として扱うつもりはありません。大きな労働力として、あなた方を雇いたい。そう思っています。ですから、ここまで契約をせずに連れて来ました」
「「おぉ……!」」

 嬉しそうな声がちらほら聞こえる。
 これは、奴隷に身を落とした人間にとって救いとなるのだろうか。
 しかし、俺は魔族。労働力を当てにしているというのもあるが、実際には、それが魔族への荷担だと知った時、それは救いではなくなるのだろう。
 俺だって馬鹿じゃない。人間の手のひら返しは過去いくらだって見てきた。
 だから出来るだけ、出来るだけ丁寧に説明しよう。そう心掛けながら俺は説明を続けた。

「とはいっても、私がやっている事、素性を他者に話されては困ります。従って、契約はさせて頂きます」

 一瞬、皆がざわめきそうになった。
 しかし、俺はすぐに補足を入れる。こうしないで放置しては、憤りが溜まってしまう。

「安心してください。子供の約束事のようなものです。まず一つ、【今後ミケラルドに関する情報をミナジリ村より外部に漏らさない】。ミナジリ村とは、現在私が建設中の村の事です」
「そ、それくらいなら……なぁ」
「えぇそうね」

 皆頷き合いながら理解を示してくれる。

「今後、店の手伝いをお願いする事があると思います。なので二つ目、【ミケラルド商店の財産は勿論、他者の財産に手を付けない事】」

 そう、ミケラルド商店だけではないのだ。
 ミナジリ村には、今後財産を持った村人も現れる訳だ。
 村人が村人の財産に手を付ける事は、あってはならない。
 これにも皆同意を見せる。一部の罪人奴隷たちは不服そうだが、これも仕方ないだろう。

「そして三つ目。【他者を傷つけても、騙してもいけない】」

 根本的な犯罪禁止。これにより、ミナジリ村での犯罪は減る。
 まぁ、ちょっとした衝突はあるだろうけど、ジェイルズアイが作動すれば、皆一目散に逃げて行くだろう。
 すると、皆の反応が変わる。「何だ、そんな事か」と言いたげな反応である。
 さて、これが最後だ。
 クロードとエメラが、多種族同士で生きているあの二人が、契約に含めた意外で、しかし当たり前の決まり事。

「最後です。四つ目【挨拶をする事、、、、、、】」

 これをあの夫婦から聞いた時、俺は噴き出して笑ってしまったのだ。

「「ハッハッハッハッハッハ!!」」

 そう、今の彼らのように。
 さぁ、第一段階は終えた。後は彼らに契約を施すだけだ。
 ミックバス始動しなくちゃな。
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