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第一部
その92 国家奨励従業員
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「さぁ、クロードさん。準備はいい?」
「は、はい! だだだだだ大丈夫ですっ!」
クロードの胸元には名前が入った従業員バッジの他に、リーガル国の印章が入った「国家奨励従業員」のバッジ。今日の首都リーガルで公布された看板により、既に店の前は長蛇の列。
たとえ買い物をせずとも、エルフを一目見たくて、新聞を書いていたクロードを一目みたくて、このミケラルド商店四号店に来ているのだ。
本日はエメラとクロードでカウンターを受け持ち、奥の倉庫は俺とナタリーが受け持っている。
そう、今日シェンドの町はお休みなのだ。理由は当然、クロードのバックアップと、その心的フォロー。そして何より、三人が初めて一緒に店頭に立つ日だからである。俺はそのフォローをするだけ。
これからしばらくはリーガルの店頭にクロードを立たせ、その後マッキリーの町、シェンドの町と移って行く事になるだろう。
「それじゃあ、ミケラルド商店、開店します! よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!」」
全員の挨拶を終えると、俺は店の扉を大きく開ける。
瞬間、かつてない程の人の波が、俺の眼前まで迫った。
しかし、そこでピタリと止まるのだ。
それは当然、お客たちの視線の先に、これまで蔑視していた亜人の姿があったから。
「い、いらっしゃいませ!」
クロードは緊張の面持ちで、精一杯歓迎の言葉を叫ぶ。
だが、お客たちの足は進まない。この壁こそが、今日最大の要所。
だから、俺が用意したのは、そのキッカケ。
「おや、入らないのですか? でしたら、まずは私から」
「やぁ、いらっしゃいませ。ドマークさん」
「エルフであるクロードさんとの会話、楽しませて頂きますよ」
「勿論! 商売をする上で会話は重要。さすがドマークさん、わかってるぅ!」
「はっはっはっは!」
入店するドマーク。
すぐにエルフであるクロードのカウンター前に足を向ける。
そう、剛胆な者による先導。つまる事のサクラである。
それがミケラルド商店の人間ではいけない。だから俺は首都リーガルで知らない人はいないとされる王商ドマークに商人ギルド経由で依頼を出したのだ。「今日一番に店に入ってくれ」と。最初は狙いがわからなかったであろうドマークも、白金貨十枚の仕事と知り快く受けてくれた。詳細を話すと、ドマークはとても喜んでくれた。やはり、王商となる人間は、どこか普通の人と違うのだ。
ドマークとクロードの会話が始まると、ほんの少しお客の皆が動き始める。
「ふ、普通だな……」
「耳が尖ってるだけだしな……はは」
「当たり前だろ。我らがブライアン国王陛下が認めた人だぞ。危険なんてあるものか」
さて、そろそろ動くか。
「今週の新聞いかがですか!? こちらにいるクロードさんが書いた最新のモノですよー! 何と、エルフの生態が詳しく書かれた今週限りの新聞でーす! こちらなんと銅貨一枚! いつもの半額で販売致します!」
「ほぉ? それは面白い。ではそれを一枚頂こうか」
「あ、ありがとうございますっ!」
新聞を注文したドマークの会計をクロードが行う。
さすがドマーク、良い働きをしてくれる。
ドマークが、新聞をくるりと巻き、店を出て行く。
店の外に出たドマークは新聞を開き、ふんふんと言いながら去って行く。
これだけで、お客のエルフへの興味はかき立てられる。
さぁ最後、これでお客は動く……!
「今週の新聞、本日数に限りがございます! お早めにお求めくださーい!」
言ったが最後、お客の足は一歩、また一歩と進み、ついには店内に入る。
「し、新聞を……くれ」
「はい! 銅貨一枚です!」
「お、お、おう……」
「ありがとうございます!」
ビビってたお客の目が、後ろに並ぶお客の目と合う。
まるで「おい、俺、今エルフと喋っちゃったよ」、「まじかよ! すげぇな!」、「ど、どうって事なかったぜ……!」みたいなアイコンタクトがあるようだ。
お客が先のドマークのように店を出て、ほっと一息を吐いた瞬間、他のお客の足はゆるやかに、しかし着実に進み始めた。
そしてそれが波となり、クロードの前にどんどん進む。
「新聞を!」
「ありがとうございます!」
「一枚くれ!」
「ありがとうございます!」
「ください!」
「はい! かしこまりました!」
ここまでくればもう大丈夫。
奥から見ていたナタリーもニコリと笑い、嬉しそうに倉庫に戻って行く。
「エメラさん、後は任せます」
「はい! かしこまりました、店長!」
倉庫側のドアをくぐった後、ドアの奥――店内からは大きな声が聞こえ始めた。
一つの波が、止めどない波に変わった瞬間だった。
「さぁ、ナタリー。今日は忙しくなるぞ!」
「うん! 頑張ろうね、ミック!」
その日の客足は、閉店時間となるまで止まる事はなかった。
心労で疲れたであろうクロードは、カウンターにもたれかかりながら「きゅぅ~……」と言ってる。何だこのマスコットキャラクターは? まぁ、今日ばかりは休憩させる訳にもいかなかったから疲れて当然なんだけどな。ブラックな感じにしたくないので、明日の休憩時間は二倍にしよう。
だが、今日はここで手を休める訳にはいかない。
「さぁ、クロードさん。次の仕事ですよ」
「へっ? ま、まだ何かあるんですかっ?」
「当然です。さぁ、外に行きますよ! 外!」
「な……何ですって?」
クロードのアホ毛が、良い感じに増えた瞬間だった。
「は、はい! だだだだだ大丈夫ですっ!」
クロードの胸元には名前が入った従業員バッジの他に、リーガル国の印章が入った「国家奨励従業員」のバッジ。今日の首都リーガルで公布された看板により、既に店の前は長蛇の列。
たとえ買い物をせずとも、エルフを一目見たくて、新聞を書いていたクロードを一目みたくて、このミケラルド商店四号店に来ているのだ。
本日はエメラとクロードでカウンターを受け持ち、奥の倉庫は俺とナタリーが受け持っている。
そう、今日シェンドの町はお休みなのだ。理由は当然、クロードのバックアップと、その心的フォロー。そして何より、三人が初めて一緒に店頭に立つ日だからである。俺はそのフォローをするだけ。
これからしばらくはリーガルの店頭にクロードを立たせ、その後マッキリーの町、シェンドの町と移って行く事になるだろう。
「それじゃあ、ミケラルド商店、開店します! よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!」」
全員の挨拶を終えると、俺は店の扉を大きく開ける。
瞬間、かつてない程の人の波が、俺の眼前まで迫った。
しかし、そこでピタリと止まるのだ。
それは当然、お客たちの視線の先に、これまで蔑視していた亜人の姿があったから。
「い、いらっしゃいませ!」
クロードは緊張の面持ちで、精一杯歓迎の言葉を叫ぶ。
だが、お客たちの足は進まない。この壁こそが、今日最大の要所。
だから、俺が用意したのは、そのキッカケ。
「おや、入らないのですか? でしたら、まずは私から」
「やぁ、いらっしゃいませ。ドマークさん」
「エルフであるクロードさんとの会話、楽しませて頂きますよ」
「勿論! 商売をする上で会話は重要。さすがドマークさん、わかってるぅ!」
「はっはっはっは!」
入店するドマーク。
すぐにエルフであるクロードのカウンター前に足を向ける。
そう、剛胆な者による先導。つまる事のサクラである。
それがミケラルド商店の人間ではいけない。だから俺は首都リーガルで知らない人はいないとされる王商ドマークに商人ギルド経由で依頼を出したのだ。「今日一番に店に入ってくれ」と。最初は狙いがわからなかったであろうドマークも、白金貨十枚の仕事と知り快く受けてくれた。詳細を話すと、ドマークはとても喜んでくれた。やはり、王商となる人間は、どこか普通の人と違うのだ。
ドマークとクロードの会話が始まると、ほんの少しお客の皆が動き始める。
「ふ、普通だな……」
「耳が尖ってるだけだしな……はは」
「当たり前だろ。我らがブライアン国王陛下が認めた人だぞ。危険なんてあるものか」
さて、そろそろ動くか。
「今週の新聞いかがですか!? こちらにいるクロードさんが書いた最新のモノですよー! 何と、エルフの生態が詳しく書かれた今週限りの新聞でーす! こちらなんと銅貨一枚! いつもの半額で販売致します!」
「ほぉ? それは面白い。ではそれを一枚頂こうか」
「あ、ありがとうございますっ!」
新聞を注文したドマークの会計をクロードが行う。
さすがドマーク、良い働きをしてくれる。
ドマークが、新聞をくるりと巻き、店を出て行く。
店の外に出たドマークは新聞を開き、ふんふんと言いながら去って行く。
これだけで、お客のエルフへの興味はかき立てられる。
さぁ最後、これでお客は動く……!
「今週の新聞、本日数に限りがございます! お早めにお求めくださーい!」
言ったが最後、お客の足は一歩、また一歩と進み、ついには店内に入る。
「し、新聞を……くれ」
「はい! 銅貨一枚です!」
「お、お、おう……」
「ありがとうございます!」
ビビってたお客の目が、後ろに並ぶお客の目と合う。
まるで「おい、俺、今エルフと喋っちゃったよ」、「まじかよ! すげぇな!」、「ど、どうって事なかったぜ……!」みたいなアイコンタクトがあるようだ。
お客が先のドマークのように店を出て、ほっと一息を吐いた瞬間、他のお客の足はゆるやかに、しかし着実に進み始めた。
そしてそれが波となり、クロードの前にどんどん進む。
「新聞を!」
「ありがとうございます!」
「一枚くれ!」
「ありがとうございます!」
「ください!」
「はい! かしこまりました!」
ここまでくればもう大丈夫。
奥から見ていたナタリーもニコリと笑い、嬉しそうに倉庫に戻って行く。
「エメラさん、後は任せます」
「はい! かしこまりました、店長!」
倉庫側のドアをくぐった後、ドアの奥――店内からは大きな声が聞こえ始めた。
一つの波が、止めどない波に変わった瞬間だった。
「さぁ、ナタリー。今日は忙しくなるぞ!」
「うん! 頑張ろうね、ミック!」
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だが、今日はここで手を休める訳にはいかない。
「さぁ、クロードさん。次の仕事ですよ」
「へっ? ま、まだ何かあるんですかっ?」
「当然です。さぁ、外に行きますよ! 外!」
「な……何ですって?」
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