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第一部

その82 ミケラルドの思慮

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 あの後、クロードの家のリビングと、ミナジリの村、シェンドにある二号店の二カ所をテレポートポイントで繋いだ。
 これで、クロードの家からシェンドの町に行くのも一瞬だ。ナタリーもすぐに帰れるし、クロードもすぐエメラとナタリーの様子を見に行ける。
 まぁ、クロードがシェンドの町に来るのは、たとえ二号店の中だけであっても危ういので、まだ出来ないだろうけどな。
 シェンドの町とマッキリーの町は、別の箪笥チェストで繋がっている。
 つまり、二カ所のテレポートポイントを二つの箪笥チェストで繋ぐ。決まった場所にしか転移出来ないという訳だ。どの箪笥チェストにも自由に行き来出来るのは現状俺だけである。
 在庫の管理もしやすくなるし、わざわざマッキリーの町から聖薬草や聖水を運ばなくていいのはありがたい。

「予想以上にエメラが魔導書グリモワールを売ってるから、奮発して買ってしまったが…………ここ、ドマーク商会の正面じゃねぇか」

 正に見切り発車。
 早速マッキリーの町と首都リーガルを繋げようと思ってリーガルまでやって来たはいいものの、土地ばかりに目がいって周囲の状況を把握してなかった。
 冒険者ギルドは一つ先のブロックだが、立地としては非常に良い。
 白金貨百二十枚というとんでも金額な土地ではあるが、これ以上ない場所である。
 広さも、シェンドの町の二号店の倍はあるだろう。
 ドマーク商会を敵に回したくはないが、これも商人の辛いところか。

「おし、こんなものか」

 単純構造のミケラルド商店四号店を造った俺は、出来上がった店舗を見てうんうんと頷いていた。すると、背後から聞き慣れた破裂音が聞こえた。
 それが、拍手の音だと気付くのに、そう時間はかからなかった。

「いやぁ、素晴らしいですな。流石は音に聞くミケラルド殿」
「や、やぁドマークさん……お久しぶりです」

 相変わらず恰幅が良く、人の良さそうな顔をした中年男。
 それがドマーク商会のドンであるドマークという男だ。
 以前、護衛依頼をしてきた縁で、顔見知りではあるが、今回は同じ商人として出会う。
 呼称も変わってるな。以前は「ミケラルド君」だったのに、今じゃ「ミケラルド殿」だ。
 まぁ、俺は変えないけどな。

「商人になったとは驚きですよ」
「まさか、ドマークさんともあろう人がご存知ない訳ないでしょう」

 そう、俺はリーガル王家に認められ王商おうしょうとなったのだ。
 どうやらようやくマッキリーの町にもその情報が届いたようで、現在カミナは店に殺到するお客を捌くので大忙しだろう。ミナジリ村からシュッツとランドを手配したからなんとか回ると思うけどな。
 まさか王商おうしょうの看板がそれ程までに効果があるとは思わなかったが、王家の認可って事は安心安全って皆思うのだろうな。これは、日本人が国産を買う感覚に似ている。まぁ、他より安くしている面もあるのだろう。
 こりゃ明日にはシェンドの町にも御触れ、、、が出るな。エメラとナタリーには連絡を入れておこう。倉庫番くらいならクロードも手伝えると思うし、なんとか回るだろう。
 で、その御触れがいち早く出た首都リーガルで、情報を何より重んじるドマークが、俺の情報を知らないはずがない訳なのだよ。

「ふふふふ、流石にわかってしまいますか。実はその土地は私も狙っていたのですよ」
「うぇ? そうだったんですか?」
「ですが、我慢しました」
「へ?」
「私がミケラルド殿ならこの土地を買うと判断したからです」
「……つまり、私が買う事をわかっていてこの土地を買わなかった、と?」
「最近はめっきり商売に張り合いが出なかったのです。がしかし、新進気鋭の商人がいきなり王商おうしょうとなったのです。胸が躍るというものです。当然、これは誰にでもわかる異常性。けれども、私は騙されません。この立身が異常なのではなく、異常なのはミケラルド殿本人。私は、それを、ミケラルド殿を間近で見たくなったのですよ」
「は、はははは……」

 ……侮れないな、この人は。

「といってもまだ店も建てたばかりのようだ。もしよろしければ我がドマーク商会本店でお話でも?」
「あ、いえ! 今日はちょっと!」
「そんなに警戒なさらずとも……」
「いえ、そうじゃなくて、この後予定があるんですよ。明日でもいいですか?」
「そういう事でしたら、明日お待ちしております」

 ドマークが踵を返し、ドマーク商会本店に向かって歩き始める。
 ふぅ、よかった。この後すぐマッキリーの町と首都リーガルを繋げなくちゃならないんだからな。リィたんがリーガルに来るのを楽しみにしてるし、ナタリーもエメラもカミナもそうだ。閉店時間の後、リーガルで遊ぶ約束をしてるから、遅れる訳にはいかない。
 さて、まずは箪笥チェストを買いに……ん? ドマーク商会本店?

「あ、そうだ!」
「はい?」

 歩いていたドマークが足を止める。

「ドマーク商会さんて箪笥チェストも取り扱ってます?」
箪笥チェストですか? それは勿論ですが?」
「買います!」
「は?」
「あ、お話は明日なんですけど、急ぎ箪笥チェストだけ売ってください! はい!」

 俺がそう言い切ると、ドマークは丸くしていた目を元に戻す。
 そして、その大きな身体を上下に揺らしながら、大きな口を開けた。

「ハッハッハッハッハ! いや、流石ミケラルド殿ですな! 本当に興味深い!」
「へ? 何でです?」
「ライバルの偵察をしに来た私の店で物を買いますか……なるほど、私には出来ない芸当です」

 やっべ。
 ちょうど良いとか思った俺の思慮の浅さに、ちょっとショックを受ける俺だった。
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