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第一部

その68 闇夜の訪問

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 宿に着き、仮眠を取ること数時間。
 時刻は午前二時頃。四時間は寝られただろうか。
 今頃、公爵家の屋敷は大騒ぎになっている頃だろう。
 働く人間には申し訳ないが、少しだけ我慢してもらう他ないだろう。
 まぁ、今は問題解決に注力しよう。
 身体を起こし、次に向かうはリーガル城。俺の行動と、この証拠を持ち、ランドルフに会わなくちゃいけない。
 そのためには、この時間くらいがちょうどいいだろう。
 ミナジリの村がある山脈から北へ向かい、弧を描くように東に向かうと、その山脈の南を背に、公爵家の屋敷がある。その南に位置し、南下する山脈の東側にピタリとくっつけたような堅城こそ、リーガル城である。
 北に公爵家、東は深い山々。遠くはあるが、西にも山があるため、首都リーガルへの侵入口は、南側からしかあり得ない。南にあるリプトゥア国が今のリーガル国と仲良くないのであれば、正に目の上のたんこぶという訳だ。
 そんな堅城であろうが、【いつものセット】を発動した俺からすれば、侵入する事はわけない。
【壁走り】で目標の尖塔に向かい、ランドルフが捕らえられている部屋に行くまで、そこまで時間はかからなかった。
 尖塔の形状を覚え、壁面を土塊操作で変形させ、内部に侵入する。
 当然、寝ていたであろうランドルフも、壁が軋む音に目を覚ます。

「……何者だ?」

 警戒色の強いランドルフの声。

「こんばんは」

 俺は少しだけ声を低くして言った。

「……ま、魔族だとっ!?」

 そう、俺は侵入の際、成人吸血鬼としてランドルフの前にやってきたのだ。
 光る深紅の瞳に、青白い肌。闇夜の魔族の訪問に、ランドルフも驚いているようだが、彼の場合、どこにも逃げ場はない訳だし、初手は魔族状態の方がいいと思ったのだ。

「ご家族は無事保護しましたよ、ランドルフ様」

 口調を戻し、【トーチ】を発動する。
 照らされる俺の顔に驚愕するランドルフ。その顔はやはりレティシアの父親なのか、恐怖より驚きの方が強かったようだ。

「ま、まさかミケラルド殿!?」
「えぇ、今回の報酬は弾んでもらいますよ。ランドルフ様」

 笑顔で言う俺に、どうやらランドルフの思考が付いて来られないようだ。

「これは……なんという事だ……!」

 ふむ、どうやらまだ恐怖が残っているか。

「一点だけ、良い情報があります」
「な、何だねっ!」
「娘さんは、いち早く俺を認めてくれましたよ」
「っ!」

 こう言えば、魔族への恐れより、娘への信頼に感情が傾くだろう。
 ランドルフの顔から次第に恐怖は消え、近くにあった手拭いをとり、顔の汗を拭き取れば、いつものランドルフに戻っていた。
 俺もそれに合わせていつもの、、、、ミケラルドに戻る。

「まさか、ミケラルド殿が魔族とは思わなんだ」
「まさか、ランドルフ様が投獄されるとは思いませんでした」
「言ってくれるな。あんな証拠をでっち上げられてしまえば、捕まる他あるまい」
「雲行きはどうです?」
「陛下のお心だけは……だが、それ以外の者は誰も私の言葉を信じない。おそらくアルフレド様が手を回しているのだろう。それより、家族は本当に無事なのだな?」
「えぇ、心配なさらないでください。どこよりも安全な場所に匿っています」
「そうか、それを聞いて安心したぞ……」
「魔族の言葉ですよ?」
「私を殺さず、自分の不利益となる正体をバラす魔族とはな。私の知る魔族とは明らかに違うぞ」
「はははは。こちらとしては、良好な関係を築きたいと思っていますよ」
「ほぉ、囚われの侯爵との良好な関係とな?」
「はい、お土産です」

 手渡したのは、勿論、あの密書。
 丸められた密書を読んだランドルフの顔が、俺を見た時以上に青ざめる。

「なんという事だ!? これは明らかにリプトゥア国の印! それも、アルフレド様宛のものではないか!」

 驚き以上の怒り。怒り以上の恐れ。
 公爵家の国家転覆計画なんて、大問題だ。レティシアの誘拐から兆候はあったものの、実際にここまで行動を起こすとは俺も驚いた。それを知れば、侯爵家であるランドルフが怒り、恐れるのも当然だ。

「証拠の一部にはなりますけど、突っぱねられてしまう可能性もありますよね、コレ」
「……た、確かにそうだ。あくまでリプトゥア王家からの密書。その中にたとえアルフレド様の名前があろうと、『リプトゥア国の陰謀だ』と言われては意味を成さない」
「欲しいですね、アルフレド様が出した密書」
「慎重なアルフレド様の事だ。直近のものはもうこの国にないだろう」
「では、それを手に入れておきます」
「可能なのか!?」
「ちょっとした裏技ですよ」

 証拠のねつ造だけどな。
 公爵家にリーガル王家の手が入りこの密書を見つけたのであれば、証拠能力として高いかもしれないが、それをするには無理がある。ならば、この密書の返事を、アルフレド本人に書かせればいい訳だ。

「ランドルフ様、失礼を承知でお伺いしますが、リーガル国王は信用に足るお方でしょうか?」
「……陛下にであれば、殺されても文句は言えん」

 なるほど、答えにはなっていないが、良い答えだ。
 俺はランドルフから返却された密書を受け取り、丸める。

「結構です。では朗報をお待ちください」
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