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第一部
その52 着実に
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『リィたん? 久しぶり~! そっちはどう?』
『む、ミックか! あれ以来シェンドでは見なかったな。マッキリーにでも行ってたのか?』
そうか、リィたんはずっとシェンドの町で依頼をこなしていたのか。
しかし、俺の事件は聞いていないのか。ネムなら話しててもいいはずなんだが……あぁいや、そうか。
リィたんは、リィたんなのだった。
ネムの話を聞く前に、依頼依頼依頼また依頼の日々だっただろう。
『いや、リーガルまで来てたんだ』
『なるほど、考えたな。リガール国の首都ならば、依頼は潤沢にある。それで、ランクBにはなったか? ふふふふ、私はもうすぐランクAになれると思うぞ?』
『いや、ランクAになったぞ』
『ほぉ、ランクBにはなったか。そうでなくては楽しめない。罰ゲーム、楽しみにしておけよ』
『いや、リィたん。もう終わり。俺はランクAになったの。罰ゲームはリィたんがやるの』
『…………ん? ……え? は? な、なにぃいいいいいいいっ!? ミックがランクAになっただと!?』
完全に勝つつもりでいたよな、リィたん。
でも、多少裏道を使ったとはいえ、勝ったのは俺だ。
リィたんへの罰ゲームか。何か面白いものでも用意しておかないとな。
慌てふためくリィたんから、これ以上返答を得られなかったので、一旦テレパシーを切る。
宿併設の酒場で一息吐いていると、対面の席にマックスが腰掛けた。
「よぉ、どうだったんだよサマリア侯爵家は?」
「ういっす。まぁお抱え的な冒険者にはなれたんじゃないか?」
「そりゃすげぇな! って事は、これからはここを拠点にするのか?」
「いや、一旦シェンドに戻るよ。それで商人にもならなくちゃな」
「うぇ!? 冒険者ランクCになるだけの強さがあって商人もやるのか!?」
「違う違う。もう冒険者ランクAだよ。ついさっきなったんだ」
「はぁあああ!?」
マックスはその場で立ち上がる程驚いた。
「どうした熊さん」
「わかってるのか、お前! ランクAの冒険者って言ったら国からの依頼も多くある重要な強さだぞ!? 依頼一つで白金貨最低五枚だと聞く! それで商人になるのか!? 十分やっていけるだろう!?」
「いや、全然足らない」
「一体何を買えばそうなるんだよ……」
言葉に詰まったらしいマックスは置いといて、俺は革袋の中の金を整理する。服以外はシェンドの町に置いて来ている。というか、マックスたちに取り上げられてるんだけどな。
今この場にあるお金は、白金貨が二十九枚と、金貨が八十枚。
「おい、俺の気のせいじゃなけりゃ、その白金貨増えてないか?」
「お、よく気付いたな。実は増殖するんだよ。この白金貨」
「そうなのか!? じゃあくれ!」
「やれるか!」
マックスは本当だと思ったんだろうか。
いや、笑ってるし、冗談は通じてるんだよな。
見たところ結構酔っていらっしゃるようだ。日も暮れてきたし、ちょうどいい時間だとは思うが、飲み過ぎは良くないぞ?
「まぁ商人になるんだったら、マッキリーに一度寄ってみるといい。あそこには商人ギルドがあるからな」
「おぉ、やっぱり商人にもギルドがあるのか」
「冒険者ギルドと対をなすようなギルドだからな。冒険者の中にもミケラルドみたいに商人をやっているヤツもいる。入るにしても入らないにしても、顔を出すだけ出しておいた方がいいぞ」
「確かに」
「俺たちは明日帰るんだが、ミケラルドも一緒に帰るか?」
「うーん、連れがいるんだが、それでもいい?」
「勿論さ。それに、ミケラルドがいれば帰りは安心だしな」
上手い事言われてしまったが、シュバイツと牢番をシェンドに連れて行くには、これが一番だしな。マックスに乗せられといてやるか。
「明日の出発は?」
「昼過ぎには出る。本当は午前中がいいんだが、護送の事後処理が面倒でな。仕方ないだろう」
なら、俺もそろそろまともな服を探しに行くか。
いつまでもクロードのおさがりじゃ、恰好がつかないからな。
「ところでミケラルド」
「なんだよ?」
「この短期間でどうやったら連れが出来るんだ?」
「ま、前に知り合った人だよ。今後の仕事に必要なんで口説き落としただけさ」
「ほ~」
血を吸っただけなんだがな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おぉミケラルド、こっちだこっち!」
「悪い、待たせたか?」
「いや、丁度良かったぜ。しかし、大分サマになったじゃないか?」
「だろ?」
午前中に用意した俺の服――灰色のパンツとダークブラウンのブーツとインナー。パンツと同色のベストと、群青のマント。ベルトはマントに合わせ、簡易ポーチはブーツやインナーと合わせた。
流石リーガル国の首都。色んな服があって迷ってしまった。
武器はとりあえず、闇空間から取り出した【吸魔のダガー】があればいいだろう。
打刀はシェンドの町だしな。
「そいつらがミケラルドの言ってた連れってやつかい?」
「あぁ、シュッツとランドだ」
「「宜しくお願いします」」
シュッツはシュバイツで、ランドは牢番だった男だ。
二人共、命を助けてやる条件に、チェンジを使って顔を変えた。シュバイツは厳つさが顔から消え、穏やかな顔つきに。ランドは好青年という感じだ。
既に二人からは魔族に対する恐怖や嫌悪の感情を取り除いた。すると、驚いた事に俺に忠誠を誓ったのだ。
何故かはわからないが、命を救った事と、俺の魔力が原因だと考えている。
そんな訳で、今後は開拓地のメンバーとなるだろう。
出来れば女っ気を増やしたいところだが、誰かいないものかな。
「さぁ、出発だ」
「おう!」
たった数日の短い期間だったが、侯爵家という強いパイプが出来た事は非常に大きい。
ナタリーたちは元気にしているだろうか。
『む、ミックか! あれ以来シェンドでは見なかったな。マッキリーにでも行ってたのか?』
そうか、リィたんはずっとシェンドの町で依頼をこなしていたのか。
しかし、俺の事件は聞いていないのか。ネムなら話しててもいいはずなんだが……あぁいや、そうか。
リィたんは、リィたんなのだった。
ネムの話を聞く前に、依頼依頼依頼また依頼の日々だっただろう。
『いや、リーガルまで来てたんだ』
『なるほど、考えたな。リガール国の首都ならば、依頼は潤沢にある。それで、ランクBにはなったか? ふふふふ、私はもうすぐランクAになれると思うぞ?』
『いや、ランクAになったぞ』
『ほぉ、ランクBにはなったか。そうでなくては楽しめない。罰ゲーム、楽しみにしておけよ』
『いや、リィたん。もう終わり。俺はランクAになったの。罰ゲームはリィたんがやるの』
『…………ん? ……え? は? な、なにぃいいいいいいいっ!? ミックがランクAになっただと!?』
完全に勝つつもりでいたよな、リィたん。
でも、多少裏道を使ったとはいえ、勝ったのは俺だ。
リィたんへの罰ゲームか。何か面白いものでも用意しておかないとな。
慌てふためくリィたんから、これ以上返答を得られなかったので、一旦テレパシーを切る。
宿併設の酒場で一息吐いていると、対面の席にマックスが腰掛けた。
「よぉ、どうだったんだよサマリア侯爵家は?」
「ういっす。まぁお抱え的な冒険者にはなれたんじゃないか?」
「そりゃすげぇな! って事は、これからはここを拠点にするのか?」
「いや、一旦シェンドに戻るよ。それで商人にもならなくちゃな」
「うぇ!? 冒険者ランクCになるだけの強さがあって商人もやるのか!?」
「違う違う。もう冒険者ランクAだよ。ついさっきなったんだ」
「はぁあああ!?」
マックスはその場で立ち上がる程驚いた。
「どうした熊さん」
「わかってるのか、お前! ランクAの冒険者って言ったら国からの依頼も多くある重要な強さだぞ!? 依頼一つで白金貨最低五枚だと聞く! それで商人になるのか!? 十分やっていけるだろう!?」
「いや、全然足らない」
「一体何を買えばそうなるんだよ……」
言葉に詰まったらしいマックスは置いといて、俺は革袋の中の金を整理する。服以外はシェンドの町に置いて来ている。というか、マックスたちに取り上げられてるんだけどな。
今この場にあるお金は、白金貨が二十九枚と、金貨が八十枚。
「おい、俺の気のせいじゃなけりゃ、その白金貨増えてないか?」
「お、よく気付いたな。実は増殖するんだよ。この白金貨」
「そうなのか!? じゃあくれ!」
「やれるか!」
マックスは本当だと思ったんだろうか。
いや、笑ってるし、冗談は通じてるんだよな。
見たところ結構酔っていらっしゃるようだ。日も暮れてきたし、ちょうどいい時間だとは思うが、飲み過ぎは良くないぞ?
「まぁ商人になるんだったら、マッキリーに一度寄ってみるといい。あそこには商人ギルドがあるからな」
「おぉ、やっぱり商人にもギルドがあるのか」
「冒険者ギルドと対をなすようなギルドだからな。冒険者の中にもミケラルドみたいに商人をやっているヤツもいる。入るにしても入らないにしても、顔を出すだけ出しておいた方がいいぞ」
「確かに」
「俺たちは明日帰るんだが、ミケラルドも一緒に帰るか?」
「うーん、連れがいるんだが、それでもいい?」
「勿論さ。それに、ミケラルドがいれば帰りは安心だしな」
上手い事言われてしまったが、シュバイツと牢番をシェンドに連れて行くには、これが一番だしな。マックスに乗せられといてやるか。
「明日の出発は?」
「昼過ぎには出る。本当は午前中がいいんだが、護送の事後処理が面倒でな。仕方ないだろう」
なら、俺もそろそろまともな服を探しに行くか。
いつまでもクロードのおさがりじゃ、恰好がつかないからな。
「ところでミケラルド」
「なんだよ?」
「この短期間でどうやったら連れが出来るんだ?」
「ま、前に知り合った人だよ。今後の仕事に必要なんで口説き落としただけさ」
「ほ~」
血を吸っただけなんだがな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おぉミケラルド、こっちだこっち!」
「悪い、待たせたか?」
「いや、丁度良かったぜ。しかし、大分サマになったじゃないか?」
「だろ?」
午前中に用意した俺の服――灰色のパンツとダークブラウンのブーツとインナー。パンツと同色のベストと、群青のマント。ベルトはマントに合わせ、簡易ポーチはブーツやインナーと合わせた。
流石リーガル国の首都。色んな服があって迷ってしまった。
武器はとりあえず、闇空間から取り出した【吸魔のダガー】があればいいだろう。
打刀はシェンドの町だしな。
「そいつらがミケラルドの言ってた連れってやつかい?」
「あぁ、シュッツとランドだ」
「「宜しくお願いします」」
シュッツはシュバイツで、ランドは牢番だった男だ。
二人共、命を助けてやる条件に、チェンジを使って顔を変えた。シュバイツは厳つさが顔から消え、穏やかな顔つきに。ランドは好青年という感じだ。
既に二人からは魔族に対する恐怖や嫌悪の感情を取り除いた。すると、驚いた事に俺に忠誠を誓ったのだ。
何故かはわからないが、命を救った事と、俺の魔力が原因だと考えている。
そんな訳で、今後は開拓地のメンバーとなるだろう。
出来れば女っ気を増やしたいところだが、誰かいないものかな。
「さぁ、出発だ」
「おう!」
たった数日の短い期間だったが、侯爵家という強いパイプが出来た事は非常に大きい。
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