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第一部
その14 覚悟
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「……かかかか、こうなっては旦那様にあなた方を殺した証拠を持ち帰るのが難しくなりますねぇ」
食事の時だけじゃないんだな、あのお腹。
燕尾服なんかボロボロじゃないか……。
「やべぇ、覚醒しやがった! ガキ、しっかりと援護しやがれ!」
「ダークヒール!」
するとドゥムガの腹に入っていたアンドゥの腕が押し出されるように出てきた。
ぼとりと橋の上に落ちる右手は、生前の俺だったら吐き気がする程グロテスクだった。
「……生意気な」
とりあえず最優先でドゥムガの回復をしたけど、援護ってこういうのでいいんだよな?
あ、ヘルメスの靴を掛ける事は出来るんだろうか?
……悩むよりとりあえずやってみるか。
「お、おっ? こりゃ……ヘルメスの靴か! ガキ、あるなら何故使わなかった!?」
「他者に掛けられるとは知りませんでした!」
「くそ、そこはガキかよ!」
ガキというか青臭いんだろうな。申し訳ない。
「ならこれじゃ分が悪い! うぉおおおおおっ!! かぁっ!!」
おお、ドゥムガの身体が筋肥大した!?
これがドゥムガの覚醒か、あの時にこれを出されてたら危なかっただろう。というか負けていた。
「よし、ガキ、お前が囮になれ」
「何ですと?」
「アンドゥが殺したい標的はお前だ、ならお前に意識が集中しやすくなる。それを利用すんだよ」
あれと対峙しろと?
俺のサイズだと手や足だけとかじゃなく、文字通り一飲みだぞ?
「ま、頑張りな!」
「うぉっ!?」
ドゥムガにばちんと背中を叩かれ、そのままアンドゥの前まで吹き飛ばされた。
くそ、ナイスコントロールだよ!
「さぁ、ミケラルド様、死んでくださいませ!」
「お断り、だっ!」
「ほぉ、速度は中々ですね! それだけでしたらドゥムガより上でしょう!」
あれ、かなり速くなっている? 身体が軽いというより、筋肉が刺激されて力が出るような……?
これはもしかして!?
「ふん、俺の疾風迅雷を仕込んでやったんだ。それくらい出来てもらわなくちゃ困るんだよ!」
そうか、これが筋力活性の雷魔法、疾風迅雷……!
これならアンドゥの動きをサイコキネシスで抑えつつかわす事が出来る!
よし、背後に回った! 一度エアスライスを放てる! そうすれば!
「かかかか、残念」
アンドゥは正面のドゥムガを見据えながら言った。まるで俺なんか眼中にないように。
そう言ったと思いきや、俺の目の前が一面真っ白になった。
熱い……、身体が、燃えそうな程熱い!
「ぐ……あっ!? な、何だ……何が起こったんだ?」
「まだまだ勉強不足ですね、ダークマーダラーの口は腹から背に移動出来るのですよ」
なるほど……その口から圧縮された魔力を放ったのか。
魔力が飛び道具になるなんて初めて知ったぜ。くそ!
「くっ、ダークヒ――っ!?」
「させるとお思いですか?」
くそ、足がふらついて……アンドゥの速度に対応出来ない!
左手で腕を掴まれたっ! 万事休すかっ!? 折角アンドゥを倒す方法を見つけたってのに!
「いや、そこは俺がさせねぇよ! がぁああああっ、しゃああああああ!」
「いえ、あなたにはさせませんよ!」
ドゥムガのバイトクラッシュが決まると思った時、アンドゥは無かったはずの右手でドゥムガの突進を払った。
その時、俺は前世では決して無理だったであろう覚悟を決めた。
「馬鹿な、超回復にしても早過ぎるっ!? まさかそれは……!?」
「そう、土魔法で作った疑似の腕です。さぁ……さようなら、ミケラルド様。……なっ!? いない!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い…………痛いっ!
「くぅううううううっ!! くそ、あぁああああああ痛ぇえええええ!」
「ほほほほ、咄嗟に風魔法で己の腕を切断したのですか。全く厄介なコンビです」
「クソガキ、中々の根性だ、やるじゃねぇか!」
くそ、マジで痛ぇ……! 生まれて三ヶ月で隻腕かよっ!
確かに昔漫画とかでカッコイイなとか思ったけど、無理だからこれ!
尻が……尻が拭けないだろぉぉおおおおおおおおっ! あぁ……くそ、痛ぇええええっ!
そ、そうだ、確かあそこに……!
「ぐぅうう……、痛ぇ、痛ぇ……血が、血が止まらねぇっ!」
「闇雲にそうした甲斐があったのかどうか。はてさて、戦力の差は既に歴然ですねぇ。全く、這いつくばって転がって、それでもワラキエル家の子息ですか? あぁ、いえ、偽の子息でしたねぇ? ほほほほほっ!」
後少し……後少しなんだ。
演技しろ、確かに痛いが、俺にはもう何の武器もない事をアピールするんだ!
アンドゥの視線、ドゥムガの視線、俺の視線は常に自然に。視界の端に捉えたアレは、絶対に俺の切り札だ。
俺にはもうダークヒールを放つ余裕なんてもうない、魔力も尽き、痛みに耐えている俺を偽装しろ!
最後のチャンスなんだ、援護しろよ、ワニ野郎!
「…………っ!」
そう、お前なら知ってるだろう、俺の特殊能力を! アンドゥなら絶対に忘れてるだろう、俺の特殊能力を!
みっともなくてもいい。カッコ悪くてもいい。
這いつくばってでも最後に生きてた者が勝ちなんだ! 少なくとも俺の師匠はそう教えてくれた!
「見苦しいですね。さぁ、死になさい!」
アンドゥが最後の攻撃をと腕を振り被った瞬間、ドゥムガがタックルしてそれを止めた。
「おぉおおおおおおおっ!」
「く、こいつ! 魔族なら魔族らしく潔く死んでみなさい! は、離せ!」
今だっ!
「至近距離なら敵うとでも思ったんですか!? やはりまずはお前からだ! かぁああああっ!」
「ぐぬぅううううううっ!?」
アンドゥが背中にあった大口を腹に移動させ、ドゥムガの巨体を上下から挟み込んだ時、俺の口は目的の場所まで辿り着いていた。
間に合った!
「がぁ!? 何だ!? 身体の言う事がきかない!?」
「いっつ……ててててて。ハハ、間に合った間に合った……!」
「ど、どういう事ですっ!? これは一体っ!?」
「さぁ、そのデカイ口を開けて……ドゥムガを出すんだアンドゥ!」
するとアンドゥは大口をゆっくりと開き、寄りかかるように倒れるドゥムガを解放した。
まずはこいつの回復からしないといけないな。
「ダークヒール!」
んで、俺もアンドゥが落とした俺の腕をくっつけて……っと。
「ダークヒール! ……ふぅ」
「くそ、何故身体が動かんっ! こ、こんな魔法は……まさかサイコキネシス!?」
「いや……そ、そいつぁサイコキネシスじゃねぇ……」
そう、ドゥムガの言う通り、俺のサイコキネシスじゃアンドゥの速度を緩めるくらいしか使い道がない。
もっと訓練すればそれは変わるかもしれないが、今出来る武器でこれを行うならばそれは一つしかない。
「で、では一体!?」
「……これ、なーんだ?」
俺はアンドゥの腕をぶら下げて見せてやった。
「そ、それは風魔法で切られた、私の腕…………まさかっ!?」
「そう、これは【血の呪縛】。切り離されたお前の腕から血を飲んだんだよ。どうやら外気に触れた血でもそれが有効な事がわかった」
「ば、馬鹿な……同族の血を吸うなど、出来るはずがありません! あの方が血の盟約で縛り……魔族間の食を禁じたはずです!」
「悪いね……半端者なもんで、そんな縛りは俺には効かないみたいだ」
「あ、あり得ませんっ!」
はたして俺は人間なのだろうか、それとも魔族なのだろうか。
魔族な容姿に人間な脳。どう考えても半端者。
こんな俺は、この危ない世界でどう生きていくんだろう?
本気で生きると決めた。本気で行くと決めた。
だが、向かう先にはどう考えても困難しかないような気がしてならない。
まぁ、今は今を生きる。笑える話だが、ここばかりは生前の俺という訳だろう。
「あばよ、アンドゥ……」
ドゥムガの大きな腕が、アンドゥの恐怖に引きつった顔を捉える。
目を逸らしたい気持ちになったが、ドゥムガと協力してアンドゥと戦ったんだ。
正当防衛とはいえ俺の罪でもあるこの殺しは、不思議と目を離さないでいられる事が出来た。
「だ、旦那様ぁああああああああああああああああああっ!!」
アンドゥの断末魔は渓谷中に響き渡り、そして、中途半端に消えた。
最後にそれが聞こえたのは、ドゥムガが大きく腕を振り払った先に飛んでいった、首からだった。
「……お、終わったぁああああ」
あまりの緊張感、そしてその解放に、俺はその場にへたり込んでしまった。
俯く橋板にはドゥムガの大きな影。見上げればそこまで悪いやつに見えないのが不思議だ。
ん? 何故今俺は首根っこを掴まれ持ち上げられているんだ?
「へ?」
「あばよ、クソガキ……ふんっ!」
「えぇええええええええええええええっ!?」
投げ飛ばされた!?
何処に!? この先は渓谷!? 嘘だろ!?
この高さはどう頑張っても跳び上がれる高さじゃないぞ!?
え、どうしてドゥムガ!?
「はん、生きてたらまた会おうぜ、クソガキ!」
「な、何で!?」
下降しながら俺は、最大限の疑問をドゥムガに投げた。
「これだけ騒げば嘆きの渓谷の主がこちらまで来る! 最後まで俺の囮を務めな! ハハハハハハッ!」
風魔法の浮力を使って、何とか渓谷の底まで着地した俺は、遥か上で見下ろすドゥムガの笑い声を聞いた。
くそ、見事なフラグ回収だよ!
ジェイルがあぁ言ってたのを覚えていたはずなのに! くそ、置いて行きやがった!
いや、こうなる事は必然だったのか……。だが、一体どうやってここから出るんだ!?
傾斜が緩やかな場所まで進むか? 方向的にはオリンダル高山はこっち……東の方みたいだが。
と思った時、俺の背後から大怪獣が叫んだような恐ろしい咆哮が聞こえた。
……やばい。
食事の時だけじゃないんだな、あのお腹。
燕尾服なんかボロボロじゃないか……。
「やべぇ、覚醒しやがった! ガキ、しっかりと援護しやがれ!」
「ダークヒール!」
するとドゥムガの腹に入っていたアンドゥの腕が押し出されるように出てきた。
ぼとりと橋の上に落ちる右手は、生前の俺だったら吐き気がする程グロテスクだった。
「……生意気な」
とりあえず最優先でドゥムガの回復をしたけど、援護ってこういうのでいいんだよな?
あ、ヘルメスの靴を掛ける事は出来るんだろうか?
……悩むよりとりあえずやってみるか。
「お、おっ? こりゃ……ヘルメスの靴か! ガキ、あるなら何故使わなかった!?」
「他者に掛けられるとは知りませんでした!」
「くそ、そこはガキかよ!」
ガキというか青臭いんだろうな。申し訳ない。
「ならこれじゃ分が悪い! うぉおおおおおっ!! かぁっ!!」
おお、ドゥムガの身体が筋肥大した!?
これがドゥムガの覚醒か、あの時にこれを出されてたら危なかっただろう。というか負けていた。
「よし、ガキ、お前が囮になれ」
「何ですと?」
「アンドゥが殺したい標的はお前だ、ならお前に意識が集中しやすくなる。それを利用すんだよ」
あれと対峙しろと?
俺のサイズだと手や足だけとかじゃなく、文字通り一飲みだぞ?
「ま、頑張りな!」
「うぉっ!?」
ドゥムガにばちんと背中を叩かれ、そのままアンドゥの前まで吹き飛ばされた。
くそ、ナイスコントロールだよ!
「さぁ、ミケラルド様、死んでくださいませ!」
「お断り、だっ!」
「ほぉ、速度は中々ですね! それだけでしたらドゥムガより上でしょう!」
あれ、かなり速くなっている? 身体が軽いというより、筋肉が刺激されて力が出るような……?
これはもしかして!?
「ふん、俺の疾風迅雷を仕込んでやったんだ。それくらい出来てもらわなくちゃ困るんだよ!」
そうか、これが筋力活性の雷魔法、疾風迅雷……!
これならアンドゥの動きをサイコキネシスで抑えつつかわす事が出来る!
よし、背後に回った! 一度エアスライスを放てる! そうすれば!
「かかかか、残念」
アンドゥは正面のドゥムガを見据えながら言った。まるで俺なんか眼中にないように。
そう言ったと思いきや、俺の目の前が一面真っ白になった。
熱い……、身体が、燃えそうな程熱い!
「ぐ……あっ!? な、何だ……何が起こったんだ?」
「まだまだ勉強不足ですね、ダークマーダラーの口は腹から背に移動出来るのですよ」
なるほど……その口から圧縮された魔力を放ったのか。
魔力が飛び道具になるなんて初めて知ったぜ。くそ!
「くっ、ダークヒ――っ!?」
「させるとお思いですか?」
くそ、足がふらついて……アンドゥの速度に対応出来ない!
左手で腕を掴まれたっ! 万事休すかっ!? 折角アンドゥを倒す方法を見つけたってのに!
「いや、そこは俺がさせねぇよ! がぁああああっ、しゃああああああ!」
「いえ、あなたにはさせませんよ!」
ドゥムガのバイトクラッシュが決まると思った時、アンドゥは無かったはずの右手でドゥムガの突進を払った。
その時、俺は前世では決して無理だったであろう覚悟を決めた。
「馬鹿な、超回復にしても早過ぎるっ!? まさかそれは……!?」
「そう、土魔法で作った疑似の腕です。さぁ……さようなら、ミケラルド様。……なっ!? いない!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い…………痛いっ!
「くぅううううううっ!! くそ、あぁああああああ痛ぇえええええ!」
「ほほほほ、咄嗟に風魔法で己の腕を切断したのですか。全く厄介なコンビです」
「クソガキ、中々の根性だ、やるじゃねぇか!」
くそ、マジで痛ぇ……! 生まれて三ヶ月で隻腕かよっ!
確かに昔漫画とかでカッコイイなとか思ったけど、無理だからこれ!
尻が……尻が拭けないだろぉぉおおおおおおおおっ! あぁ……くそ、痛ぇええええっ!
そ、そうだ、確かあそこに……!
「ぐぅうう……、痛ぇ、痛ぇ……血が、血が止まらねぇっ!」
「闇雲にそうした甲斐があったのかどうか。はてさて、戦力の差は既に歴然ですねぇ。全く、這いつくばって転がって、それでもワラキエル家の子息ですか? あぁ、いえ、偽の子息でしたねぇ? ほほほほほっ!」
後少し……後少しなんだ。
演技しろ、確かに痛いが、俺にはもう何の武器もない事をアピールするんだ!
アンドゥの視線、ドゥムガの視線、俺の視線は常に自然に。視界の端に捉えたアレは、絶対に俺の切り札だ。
俺にはもうダークヒールを放つ余裕なんてもうない、魔力も尽き、痛みに耐えている俺を偽装しろ!
最後のチャンスなんだ、援護しろよ、ワニ野郎!
「…………っ!」
そう、お前なら知ってるだろう、俺の特殊能力を! アンドゥなら絶対に忘れてるだろう、俺の特殊能力を!
みっともなくてもいい。カッコ悪くてもいい。
這いつくばってでも最後に生きてた者が勝ちなんだ! 少なくとも俺の師匠はそう教えてくれた!
「見苦しいですね。さぁ、死になさい!」
アンドゥが最後の攻撃をと腕を振り被った瞬間、ドゥムガがタックルしてそれを止めた。
「おぉおおおおおおおっ!」
「く、こいつ! 魔族なら魔族らしく潔く死んでみなさい! は、離せ!」
今だっ!
「至近距離なら敵うとでも思ったんですか!? やはりまずはお前からだ! かぁああああっ!」
「ぐぬぅううううううっ!?」
アンドゥが背中にあった大口を腹に移動させ、ドゥムガの巨体を上下から挟み込んだ時、俺の口は目的の場所まで辿り着いていた。
間に合った!
「がぁ!? 何だ!? 身体の言う事がきかない!?」
「いっつ……ててててて。ハハ、間に合った間に合った……!」
「ど、どういう事ですっ!? これは一体っ!?」
「さぁ、そのデカイ口を開けて……ドゥムガを出すんだアンドゥ!」
するとアンドゥは大口をゆっくりと開き、寄りかかるように倒れるドゥムガを解放した。
まずはこいつの回復からしないといけないな。
「ダークヒール!」
んで、俺もアンドゥが落とした俺の腕をくっつけて……っと。
「ダークヒール! ……ふぅ」
「くそ、何故身体が動かんっ! こ、こんな魔法は……まさかサイコキネシス!?」
「いや……そ、そいつぁサイコキネシスじゃねぇ……」
そう、ドゥムガの言う通り、俺のサイコキネシスじゃアンドゥの速度を緩めるくらいしか使い道がない。
もっと訓練すればそれは変わるかもしれないが、今出来る武器でこれを行うならばそれは一つしかない。
「で、では一体!?」
「……これ、なーんだ?」
俺はアンドゥの腕をぶら下げて見せてやった。
「そ、それは風魔法で切られた、私の腕…………まさかっ!?」
「そう、これは【血の呪縛】。切り離されたお前の腕から血を飲んだんだよ。どうやら外気に触れた血でもそれが有効な事がわかった」
「ば、馬鹿な……同族の血を吸うなど、出来るはずがありません! あの方が血の盟約で縛り……魔族間の食を禁じたはずです!」
「悪いね……半端者なもんで、そんな縛りは俺には効かないみたいだ」
「あ、あり得ませんっ!」
はたして俺は人間なのだろうか、それとも魔族なのだろうか。
魔族な容姿に人間な脳。どう考えても半端者。
こんな俺は、この危ない世界でどう生きていくんだろう?
本気で生きると決めた。本気で行くと決めた。
だが、向かう先にはどう考えても困難しかないような気がしてならない。
まぁ、今は今を生きる。笑える話だが、ここばかりは生前の俺という訳だろう。
「あばよ、アンドゥ……」
ドゥムガの大きな腕が、アンドゥの恐怖に引きつった顔を捉える。
目を逸らしたい気持ちになったが、ドゥムガと協力してアンドゥと戦ったんだ。
正当防衛とはいえ俺の罪でもあるこの殺しは、不思議と目を離さないでいられる事が出来た。
「だ、旦那様ぁああああああああああああああああああっ!!」
アンドゥの断末魔は渓谷中に響き渡り、そして、中途半端に消えた。
最後にそれが聞こえたのは、ドゥムガが大きく腕を振り払った先に飛んでいった、首からだった。
「……お、終わったぁああああ」
あまりの緊張感、そしてその解放に、俺はその場にへたり込んでしまった。
俯く橋板にはドゥムガの大きな影。見上げればそこまで悪いやつに見えないのが不思議だ。
ん? 何故今俺は首根っこを掴まれ持ち上げられているんだ?
「へ?」
「あばよ、クソガキ……ふんっ!」
「えぇええええええええええええええっ!?」
投げ飛ばされた!?
何処に!? この先は渓谷!? 嘘だろ!?
この高さはどう頑張っても跳び上がれる高さじゃないぞ!?
え、どうしてドゥムガ!?
「はん、生きてたらまた会おうぜ、クソガキ!」
「な、何で!?」
下降しながら俺は、最大限の疑問をドゥムガに投げた。
「これだけ騒げば嘆きの渓谷の主がこちらまで来る! 最後まで俺の囮を務めな! ハハハハハハッ!」
風魔法の浮力を使って、何とか渓谷の底まで着地した俺は、遥か上で見下ろすドゥムガの笑い声を聞いた。
くそ、見事なフラグ回収だよ!
ジェイルがあぁ言ってたのを覚えていたはずなのに! くそ、置いて行きやがった!
いや、こうなる事は必然だったのか……。だが、一体どうやってここから出るんだ!?
傾斜が緩やかな場所まで進むか? 方向的にはオリンダル高山はこっち……東の方みたいだが。
と思った時、俺の背後から大怪獣が叫んだような恐ろしい咆哮が聞こえた。
……やばい。
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