上 下
14 / 566
第一部

その13 死闘の時

しおりを挟む
「共闘……という事ですか?」
「あぁん? 文句あんのか?」
「あ、いえ、大丈夫です。はい」

 ……おのれ、顔が怖いぞお前。
 だが、協力してくれるのは有難い。
 互いに利があるし、実力も知った者同士。これなら……。

「簡単な打ち合わせだ。お前の使える魔法は風魔法だけか?」
「……ダークヒール」

 俺は昼間のドゥムガの怪我を思い出し、闇系回復魔法を放った。
 回復を終えると、ドゥムガはダメージの大きい腹部をさすって驚いてみせた。
 おぉ、自分にしか使った事なかったけど、ちゃんと効果を発揮するのか。

「はん、こいつぁいい。雷魔法は?」

 根掘り葉掘り聞いてくるが、ドゥムガに殺意はない。
 ここは教えた方が得策か。どちらにしろドゥムガの協力がないと勝算が低い戦いだ。

「いえ、まだ」
「そうか、ま、俺が雷魔法を使えるからいいだろう。生憎俺はガキと違って一種の魔法のみだが……固有能力についてはどこまで知ってる?」
「鬼族だと……超回復の事ですよね?」
「……なるほど、末恐ろしいガキだ」

 学習能力だけは普通の三歳児より圧倒的に上かもしれないが、今だけだぞ?
 末は恐ろしくはないはずだ。そもそも、三歳児の方が感性は豊かだろうしな。

「自分はまだ固有能力を使えません」
「そうか、ガキの超回復は見込めねぇか。俺の嗅魔は半径2キロまでのある程度大きい魔力を察知出来るというだけ。対してアンドゥは鬼族の固有能力、超回復が使え、土魔法の使い手。これはかなり厳しいかもしれねぇな」

 そうだ、本で読んだ事がある。固有能力・特殊能力・魔法。これが一人の個が持つ戦闘力だと。
 固有能力は魔獣族や鬼族といった一族固定の能力。
 特殊能力は吸血鬼やダークマーダラーといった種族だけが持つ能力。
 そしてその個体に合った魔法。
 確かダイルレックスが持つ特殊能力は…………バイトクラッシュ。
 己の牙で噛んだのであれば、能力発動時にその部位を必ず破壊するという恐ろしい能力だ。
 だが、破壊しても超回復で回復されてはあまり意味がない。何とかしてアンドゥ対策を練らなくちゃだな。

「あれ、アンドゥの……ダークマーダラーの特殊能力って何ですか?」
「硬化だ。あくまで物理的衝撃に対してだけだが、例外があって、保有属性魔法に対しては強くなる」

 という事は、土魔法に対して強くなるのか。なら、そこに関しては大丈夫だな。
 でも、衝撃に強いのは変わりない。常時という事ではないだろうが、決め手となると、ドゥムガのバイトクラッシュに頼る事になりそうか。
 問題は超回復か……うーん、何も思い付かない。……何とかならないものか。

「……入ったな。間も無くアンドゥがここへ来る」
「よくこっちが俺だとわかったものですね」
「スパニッシュの野郎が《呼び戻しの風》の魔法を使ったんだよ。それでお前らの匂いを嗅ぎ分けたって事だ」

 呼び戻しの風……過ぎ去った風の呼び戻す魔法。
 主に強風の風を戻して身体を浮かせたり、ちょっとした防御に使う事が出来ると本で読んだ。
 なるほど、こういう使い方もあるのか。使い方次第で魔法は更に便利になるって事だな。
 さて、現在俺の使えるのは、

 ◆魔法◆
 風魔法:エアスライス・浮遊滑空・ヘルメスの靴
 闇魔法:ダークヒール・暗衣あんい
 光魔法:?
 ◆特殊能力◆
 解放・呪縛・超能力:サイコキネシス・テレパシー・チェンジ

 戦闘で使える魔法や能力はある。だが、相手の強さを考えると心もとないな。
 浮遊滑空は風を使った大ジャンプ。ナタリーを助けるために自分の部屋に跳んで入ったのがこれだ。
 暗衣は、ゲームや何かで言うところの、強力なマジックシールドみたいなものだ。
 超能力のチェンジは、何のことはない、身体の変化能力だった。
 ナタリーの前でジェイルに変化した時は大変だった。服が破けたからな。
 慌てて元の姿に戻ってビンタされたのは、ある種の幼馴染イベントだったのだろうか。

 ん、あれ、何だこの感覚? 誰かが……近づいて来る?
 この魔力量…………もしかしてアンドゥか?

「……来たな」

 やはり来たのか。だが、これは一体?
 いや、今はそんな事を考えている場合じゃないか。

「ほっほっほっほ、ミケラルド様にドゥムガ。これは面白い組み合わせですね」

 プロレスラー並みの剛体。
 いつの間にかアンドゥは、橋の手前に立っていた。

「ほざけ、俺たちを殺しに来たんだろ? 俺はお前を潰してさっさとトンズラする予定があるんだ、ごたく並べてねぇで掛かって来やがれ!」
「あなたはおまけです。私が殺しに来たのはミケラルド様。所詮ダイルレックス種の半端者がどこで何を吹聴しようが、旦那様に痛手にならないですから」
「っ!」

 一瞬でドゥムガの殺気の圧が変わった。
 熱くさせて動きを単調にするつもりなのか、どうやら半端者という単語が気に食わないみたいだな。
 戦闘前から戦闘が始まってる……単調な心理戦ってところか、勉強になる。

「けれど安心してください。旦那様の命令の中にあなたを殺すという指示は入っていますから。ほほほほ、さぁミケラルド様、残念でなりませんがお別れの時間ですよ」

 俺は、この段階で既に暗衣を発動した。
 黒く深い闇が俺の身体を覆い始めた。これ、背中がぞわぞわしてあまり好きじゃないんだけどな。
 命がかかってる戦闘だ、仕方ないだろう。

「……本当に残念な才能です。はっ!」
「地走る蛇だ! 避けろ!」

 アンドゥが地面に手を置いて掛け声を出した瞬間、地面から鞭状のしなる土を放った。
 そうか、だから橋の手前、地面があるところに立ったのか。
 しかし、ここで戦うと決めたドゥムガも流石だ。
 俺たちの足の支えが木製の橋である以上、地の理は俺たちにある。ホント、少しだけな。
 それにしても魔法名の詠唱って必要ないのか! そう言えば初めて発動した時言ってなかった! くそ、ちょっとしたブラックヒストリーだぜ。
 俺はドゥムガの声に左へ避け、ドゥムガは反対に避けた。

「続きますよ、ふっ!」

 アンドゥの左右には小さな大砲のような土が形成された。それはもう沢山。

「く、砲岩か! ありゃ、避けらんねぇ! ガキ、下がれ!」
「はい! だっ!」

 後方へ跳びながらエアスライスを大砲に放つ。……当たった!
 そこまで硬くはないようで二つ三つ壊せたが、その数は軽く二十は超えていた。
 アンドゥの手が前に倒されると、土の大砲は「ポンッ」という間の抜けた音を発して放たれた。

「くっ!」

 その時、ドゥムガの後ろに隠れた俺は、正面に出されるドゥムガの手から歪んだ何かが放たれたのを見た。
 あれは雷魔法か?
 土の砲弾がドゥムガの巨体に向かって放たれているが……おかしい。着弾音が聞こえない?

「弾が……浮いている?」

 弾は、ドゥムガの正面で紫電に発光する壁に阻まれて静止していた。
 弾がゆっくりと地面に落ちると、アンドゥの左右の大砲は崩れながら消えていった。

「……流石、実力で種の第五席まで上りつめた男ですねぇ。仕方ありません、あなたから殺しましょう」
「ガキ、能力で援護しやがれ! 来るぞ!」

 体術で来ると言ったのだろう。
 そう思った時には、既にアンドゥがドゥムガに強烈な一撃を放っていた。
 肩を揺らすドゥムガを見て、俺は遅れながらにもアンドゥにサイコキネシスを使った。

「む……何とっ! 既に超能力までっ?」

 辛うじて制御に成功したが……重い、脳がはち切れそうだ!

「お返しだぜ、クソ爺ぃ!」

 ドゥムガの強力な尾撃が、直撃した。

「ぐぅっ! 重いですねぇ!」
「くそ、硬化で凌がれた! もう一度だ、ガキ!」
「こなくそっ!」
「ほほほほ、先程より力が落ちてますねぇ! あの力が最大値だったのでしょうね。何とおいたわしい。ほほほほほ」
「ちっ、逃げられたか!」

 ぐ……くぅうううっ。痛い……超絶頭痛い。
 これ、無理過ぎるだろ。まるで強制負けイベントみたいだ。

「お次はミケラルド様です」

 嘘っ!? 休憩させてくれよっ! 一瞬だけの後退でアンドゥが俺に向かって来た。
 くそ、浮遊滑空でしか逃げられない!

「だっ!」
「クソガキ、そりゃ悪手だ馬鹿野郎っ!」

 あ、よくあるやつだ。跳んだ位置はそう簡単に変えられない。
 アンドゥにとって格好の的って事か。そ、そうだ、アレを!

「お、おぉっ!?」
「何と、これは私が甘かったですね。私も跳び上がれば殺せたものを……」
「サイコキネシスで、砲岩だった土を宙へ持って来て、足場としたのか」

 空中で歩行するイメージで土を仮初の地面としたんだ。咄嗟の機転だったが、どうやらうまくいったようで良かった。

「何とも……厄介な能力ですねぇ……ふっ!」
「がっ!?」
「ドゥムガさんっ!!」

 くそ、視えなかった! ドゥムガの腹部にアンドゥの手がめり込む。
 あれはどう見ても体内まで届いてる……、くそ!
 瞬間、ドゥムガがニヤリと笑みを零した。刺さったアンドゥの右手を掴み、更に体内へと運んだ。
 痛い……あれは痛いぞ!

「ぐっ……ふっ、踊りやがれ」
「ちぃっ! これはまさか!? は、離しなさい!」
雷の領域スパークホール!」

 アンドゥの周りを雷の球体が包み、中央にいるアンドゥ目掛けて集束するように放電が始まった。

「がぁああああああああっ!!」
「ぬぅううううううううっ!!」

 当然、ドゥムガもその被害に遭う、何とか救出を……!

「う、腕だ! ガキッ!」
「そ、そうか! はっ!」

 この助言で、ドゥムガの体内に深々と突き刺さる腕に向かってエアスライスを放った。

「ぎぃ!? ガガガガガガッ!」

 切断が成功し、ドゥムガが尻餅を突いて後方へ倒れた。
 スパークホールはそこまで効果時間の長い魔法ではない。そして、アンドゥも固定しているドゥムガが離れたため、その場から離れる事が出来た。
 だが、利き腕の切断という、大きなダメージを与える事が出来たのだ。流石に超回復と言えど、無くなった腕の再生には多少の時間が必要だ。
 正に肉を切らせて骨を断つというやつだな。おっと、ドゥムガの回復をしなくては。

「ど、どうだ、やってやったぜちきしょうめ!」
「ぐぅううううう……。殺します。皆殺しです……。ぶっ殺して墓の上から小便ぶっ掛けてやりますよ愚か者どもぉおおおおっ!!」

 大変だ、腹の口が目を覚ました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...