10 / 566
第一部
その9 ナタリーの危機
しおりを挟む
屋敷に帰ると、ナタリーが寂しそうに待っていた。
床から頭を覗かせて、俺のベッドに顔を伏せている。
微かに下がっている耳がとても可愛いが、それ以上にいつもの元気がない。
一体どうしたのだろうか?
「どうしたの……ナタリー?」
声を掛けると同時に、ナタリーは俺に抱きついて来た。
…………はぇ!?
「ちょ、ちょ、ちょぉおおっ!? え、何? 一体どうしたのよ!?」
「凄く……凄く怖かったんだからぁっ! うぅ……うっ」
な、泣いてる? 怖い思いをさせてしまったのか?
俺がナタリーを置いて行ったから? いや、見送りの際はかなり元気だった気がするが、これは山の天気並みに変わる女の子の気分というやつか!?
「ナ、ナタリー。詳しく話してくれないとわからないよ……」
「ぐす……あの、あのねっ――」
ナタリーの話を聞いて、俺はナタリーの涙の理由を知った。
俺とジェイル先生が外へ向かった後、ナタリーはやる事もないので、俺の部屋の隅で絵を書いていたそうだ。
勿論、この世界、奴隷に紙を与えるようなやつはいない。いるとすればそれは俺だ。
奴隷での生活ではあるが、暇で暇で死にそうになるだろう思い、ナタリーの趣味を聞いた時、彼女は「絵を描く事だ」と言った。
そう思って俺は余分なインクと紙をアンドゥにお願いした。
勿論、アンドゥは俺が使うと思っているからすぐにそれを用意し、俺の部屋に届けた。
つまり、使用人には内緒なんだ。
ばれたら何を言われるかわからない。だからナタリーも注意を払って絵を描いている。
俺が部屋にいる時はノックをするが、いない時、使用人は普通に入ってくる。主に掃除の時だがな。
酷だが当たり前の話をすると、奴隷にそういった許可はいらない。
だからナタリーも注意して絵を描く。
足音が聞こえると使用人が唯一掃除をしないナタリーのスペースに紙とインク、そしてペンを隠す。
そして寝たふりをするのだ。
主に俺が部屋から離れる際、ナタリーはこういった暮らしをしている。
今日もナタリーは寝たふりをして掃除が終わるのを待とうとしていた。
いつも魔獣族の使用人からはジロジロと見られるが、襲われる事はない。
俺がアンドゥに厳重注意したからだ。
だが今日は違った。
屋敷のシフトの関係か、今日部屋へ掃除に来た使用人はいつものドッグウォーリアの魔獣族ではなかった。
ナタリーの話ではどうやらワニ型の魔獣族だったようだ。
ナタリーが寝たふりをしていると、最初は掃除をしていたみたいだが、徐々にナタリーへと近付き、終始ナタリーの周りを掃除し始めたそうだ。
荒い息に垂れる涎。
ナタリーの顔を這うように匂いを嗅ぐワニの魔獣族に、ナタリーは生きた心地がしなかったとい話…………にゃろう。
俺はすぐにアンドゥを呼び出し、そのワニを部屋へ呼んだ。
俺の前でアンドゥが説教をすれば大人しくなるだろう。事実、ドッグウォーリアの時がそうだったから。
種族名「ダイルレックス」。ワニの大きな口に、恐竜種を混ぜたような顔をした恐ろしい顔だった。
生前の俺なら失禁していただろう。ナタリーが怖がるのも無理はないというか、生きた心地がしないという言葉が本当に当てはまる。
そのダイルレックスのこいつ、名を「ドゥムガ」というそうだ。
ドゥムガは、アンドゥや俺を前に太々しい様子で立っていた。
「ドゥムガ、お前の振る舞いにミケラルド様はご立腹だ。以後このような事がないようにと改め、そして謝罪しなさい」
「…………」
「ひっ!」
く、こいつ!
ドゥムガはアンドゥの話を無視し、それでも尚ナタリーの方を向いてニタリと笑った。
ナタリーは小さく悲鳴をあげ、俺はドゥムガを睨んだ。
アンドゥは呆れた様子で額を手で押さえると、俺に向き直った。
「申し訳ありませんミケラルド様。ドゥムガには後程きつく言っておきますので」
「恐れながらミケラルド様、一つよろしいでしょうか?」
ようやく口を開いたドゥムガ。その体躯に似合う低くしゃがれた声。
「何だ?」
「この娘、ミケラルド様が定期的に血を吸うという事で生かされてるようですが、本当でしょうか? 見たところかなり血色が良さそうですが? ……ふふふ」
この……また舌舐めずりをっ。
確かにその通りだが、その言い訳は考えてある。
「ナタリー、腕を見せてやれ」
俺の言葉にナタリーはコクリと頷いて袖をまくり右腕を見せた。
腕には確かに俺の牙の痕が付いている。
当然だ、今朝付けた傷だからな。
これはここ二ヶ月でわかった事だが、不思議な事に、腕であればあの本能的衝動は発生せず、ひと噛みで行為を止める事が出来たんだ。
これを利用し、ナタリーには痛みを我慢してもらって、たまにひと噛みさせてもらってる。幸い、ほとんど痛みはないようだが、完全にないわけではないそうだ。
ドゥムガはそれを見ると不満気な様子で俺に向き直り頭を下げた。
「大変失礼しました。奴隷を有効利用されてるようで」
いちいちカンに触る奴だ。
気のせいかアンドゥも少し驚いている? どういう事だ?
少し不審に思われていたのかもしれない。もしくはスパニッシュが何か関係しているのか?
「わかったならいい。下がって休め。アンドゥ、くれぐれも気を付けさせろ。いや、私の部屋にこいつを入れるな。掃除には別の者を使え」
「かしこまりました」
二人が部屋を出ると、ナタリーは腰と肩を同時に落とした。
気が抜けたみたいだ。可愛いとこもあるもんだな。
「はぁ……ビックリしちゃった。ドゥムガって魔獣族も怖かったけど、ミックも怖くて……」
「へ? 俺が?」
「あ、あぁ、でも! 同じ怖さじゃなくて、なんかこう威圧感って言うのかな? そんな怖さだよっ」
そんな威圧感出てたか?
いや、自分で気付けないのに考えてもしょうがない。ナタリーにはそう感じた。そういう事だろう。
「でも、これでたぶん大丈夫だと思うぞ?」
「うん、ありがとう!」
花が咲いたように笑顔を見せたナタリー。
最近ではこれが俺の癒しであり楽しみでもある。
もっと喜んでもらいたいな。だから、もっともっと頑張らなくちゃ。
◇◆◇ ◆◇◆
スパニッシュの寝室では、アンドゥが頭を垂らしていた。
ベッドの上では屋敷の主人が分厚い本をめくりながら口の端を上げている。ワラキエル家、屋敷の主であるスパニッシュだ。
「そうか、早くもそれほどにか」
スパニッシュが言葉を聞き終えると。アンドゥは顔を上げ主同様、ニタリと笑みを零す。
「えぇ、かなりの魔力を感じました。あのドゥムガを使った甲斐がありました。私も少々驚きました。まさかたった三ヶ月であそこまでの魔力を……」
「……そうだな。あの晩ハーフエルフの血を吸って、完全な魔族になると思ったが、どうやらあれには魔族とは違う血が混じってるようだ」
「と、言いますと?」
「寄生転生……この事自体公にはしていないが、召喚の儀式の際、魔族とは違う紛い物が混入したのだろう」
「道理で……。あの自意識と行動力はそういった理由が。では、もしやあの黒銀の毛もそういった事が原因でしょうか?」
「さぁ、どうだろうな……」
部屋に少しの沈黙が流れる。
アンドゥは、主人の気を損ねないように本のページを意識して声を掛けている。
気を張って本から意識が離れるタイミングを見ているのは使用人として流石と言える。その幾たび目かのタイミングが再び訪れる。
「……いかが致しましょう? このままでは危険ではありませんか?」
「何、大元の血は魔族のソレだ。感情を揺さぶってやればすぐに結果が出よう。引き続きドゥムガを使え。あれを使ってミケラルドの覚醒に迫れ。ハーフエルフなど殺して構わん」
スパニッシュはページをめくっていた手を止めて語気を強めた。
「ドゥムガはその生け贄という事ですな?」
「ふん、ハーフエルフを餌にすれば多少危険でもあいつは動く」
再びアンドゥが頭を下げる。
アンドゥが了承の意を黙して伝えると、スパニッシュはゆっくりと本を閉じた。
◇◆◇ ◆◇◆
翌日、モンスター狩りに向かう前に、俺はナタリーに一つの提案をした。
その提案にナタリーはとても喜んでいた。部屋の中で跳びはねる程に。
だから俺も安心してジェイルと外に出る事が出来たんだ。
俺もまさかその日中にこの提案が役立つとは思わなかった。
奴が……また部屋に入って来た。
提案というのはら超能力でのテレパシーを、常時ナタリーと繋げておくというものだった。
余裕のないモンスターとの戦闘中は途切れ途切れだったが、基本的にナタリーと話しながらの鍛錬だった。
どこか集中力が足りないとジェイルに注意をされたが、こういった経験も必要だと思って身体に慣らせるつもりでモンスター狩りとテレパシーを並行させた。
事件は夕暮れ近く、ジェイルの指示で一息ついた時だった。
『う、嘘っ。奴よ! またドゥムガが部屋に入って来た!』
…………くそっ!
「坊ちゃん? どこへ?」
「すみません、戻ります!」
俺は走った。短く小さな足で森の中を駆けた。
後方からはジェイルが追って来るのがわかったが、俺の様子を見たからか、引き止めるつもりはなさそうだ。
くそ、一体どういう事だっ。ドゥムガがもう部屋に入って来ないという事を過信したのか!?
アンドゥの言い付けを守らないとは思えない。以前守れなかった鬼族の部下が無残に殺されたのを覚えているし、ドゥムガだってこの屋敷のルールは知っているはずだ。
って事は……知っていて尚入った? つまり誰かの指示?
一体誰? 魔獣族の密偵? それともアンドゥの指示? いや、俺は馬鹿か。ドゥムガが殺されないと踏んで入ってるんだ! つまりアンドゥの指示! くそ、どういう事だよ!
道中ナタリーに声を掛け続けたが、途中から返事がなくなった。
頼む! 生きていてくれ! ……見えた! 屋敷だ!
部屋は二階。俺は無我夢中で風魔法を使って飛び上がった。
窓ガラスを割り、部屋に入った時、俺の目の前にいたのは血の海に立つ大きなワニだった。
その時、俺の頭の中は真っ白になって、自分の大きな鼓動が一つ聞こえたのを覚えている。
床から頭を覗かせて、俺のベッドに顔を伏せている。
微かに下がっている耳がとても可愛いが、それ以上にいつもの元気がない。
一体どうしたのだろうか?
「どうしたの……ナタリー?」
声を掛けると同時に、ナタリーは俺に抱きついて来た。
…………はぇ!?
「ちょ、ちょ、ちょぉおおっ!? え、何? 一体どうしたのよ!?」
「凄く……凄く怖かったんだからぁっ! うぅ……うっ」
な、泣いてる? 怖い思いをさせてしまったのか?
俺がナタリーを置いて行ったから? いや、見送りの際はかなり元気だった気がするが、これは山の天気並みに変わる女の子の気分というやつか!?
「ナ、ナタリー。詳しく話してくれないとわからないよ……」
「ぐす……あの、あのねっ――」
ナタリーの話を聞いて、俺はナタリーの涙の理由を知った。
俺とジェイル先生が外へ向かった後、ナタリーはやる事もないので、俺の部屋の隅で絵を書いていたそうだ。
勿論、この世界、奴隷に紙を与えるようなやつはいない。いるとすればそれは俺だ。
奴隷での生活ではあるが、暇で暇で死にそうになるだろう思い、ナタリーの趣味を聞いた時、彼女は「絵を描く事だ」と言った。
そう思って俺は余分なインクと紙をアンドゥにお願いした。
勿論、アンドゥは俺が使うと思っているからすぐにそれを用意し、俺の部屋に届けた。
つまり、使用人には内緒なんだ。
ばれたら何を言われるかわからない。だからナタリーも注意を払って絵を描いている。
俺が部屋にいる時はノックをするが、いない時、使用人は普通に入ってくる。主に掃除の時だがな。
酷だが当たり前の話をすると、奴隷にそういった許可はいらない。
だからナタリーも注意して絵を描く。
足音が聞こえると使用人が唯一掃除をしないナタリーのスペースに紙とインク、そしてペンを隠す。
そして寝たふりをするのだ。
主に俺が部屋から離れる際、ナタリーはこういった暮らしをしている。
今日もナタリーは寝たふりをして掃除が終わるのを待とうとしていた。
いつも魔獣族の使用人からはジロジロと見られるが、襲われる事はない。
俺がアンドゥに厳重注意したからだ。
だが今日は違った。
屋敷のシフトの関係か、今日部屋へ掃除に来た使用人はいつものドッグウォーリアの魔獣族ではなかった。
ナタリーの話ではどうやらワニ型の魔獣族だったようだ。
ナタリーが寝たふりをしていると、最初は掃除をしていたみたいだが、徐々にナタリーへと近付き、終始ナタリーの周りを掃除し始めたそうだ。
荒い息に垂れる涎。
ナタリーの顔を這うように匂いを嗅ぐワニの魔獣族に、ナタリーは生きた心地がしなかったとい話…………にゃろう。
俺はすぐにアンドゥを呼び出し、そのワニを部屋へ呼んだ。
俺の前でアンドゥが説教をすれば大人しくなるだろう。事実、ドッグウォーリアの時がそうだったから。
種族名「ダイルレックス」。ワニの大きな口に、恐竜種を混ぜたような顔をした恐ろしい顔だった。
生前の俺なら失禁していただろう。ナタリーが怖がるのも無理はないというか、生きた心地がしないという言葉が本当に当てはまる。
そのダイルレックスのこいつ、名を「ドゥムガ」というそうだ。
ドゥムガは、アンドゥや俺を前に太々しい様子で立っていた。
「ドゥムガ、お前の振る舞いにミケラルド様はご立腹だ。以後このような事がないようにと改め、そして謝罪しなさい」
「…………」
「ひっ!」
く、こいつ!
ドゥムガはアンドゥの話を無視し、それでも尚ナタリーの方を向いてニタリと笑った。
ナタリーは小さく悲鳴をあげ、俺はドゥムガを睨んだ。
アンドゥは呆れた様子で額を手で押さえると、俺に向き直った。
「申し訳ありませんミケラルド様。ドゥムガには後程きつく言っておきますので」
「恐れながらミケラルド様、一つよろしいでしょうか?」
ようやく口を開いたドゥムガ。その体躯に似合う低くしゃがれた声。
「何だ?」
「この娘、ミケラルド様が定期的に血を吸うという事で生かされてるようですが、本当でしょうか? 見たところかなり血色が良さそうですが? ……ふふふ」
この……また舌舐めずりをっ。
確かにその通りだが、その言い訳は考えてある。
「ナタリー、腕を見せてやれ」
俺の言葉にナタリーはコクリと頷いて袖をまくり右腕を見せた。
腕には確かに俺の牙の痕が付いている。
当然だ、今朝付けた傷だからな。
これはここ二ヶ月でわかった事だが、不思議な事に、腕であればあの本能的衝動は発生せず、ひと噛みで行為を止める事が出来たんだ。
これを利用し、ナタリーには痛みを我慢してもらって、たまにひと噛みさせてもらってる。幸い、ほとんど痛みはないようだが、完全にないわけではないそうだ。
ドゥムガはそれを見ると不満気な様子で俺に向き直り頭を下げた。
「大変失礼しました。奴隷を有効利用されてるようで」
いちいちカンに触る奴だ。
気のせいかアンドゥも少し驚いている? どういう事だ?
少し不審に思われていたのかもしれない。もしくはスパニッシュが何か関係しているのか?
「わかったならいい。下がって休め。アンドゥ、くれぐれも気を付けさせろ。いや、私の部屋にこいつを入れるな。掃除には別の者を使え」
「かしこまりました」
二人が部屋を出ると、ナタリーは腰と肩を同時に落とした。
気が抜けたみたいだ。可愛いとこもあるもんだな。
「はぁ……ビックリしちゃった。ドゥムガって魔獣族も怖かったけど、ミックも怖くて……」
「へ? 俺が?」
「あ、あぁ、でも! 同じ怖さじゃなくて、なんかこう威圧感って言うのかな? そんな怖さだよっ」
そんな威圧感出てたか?
いや、自分で気付けないのに考えてもしょうがない。ナタリーにはそう感じた。そういう事だろう。
「でも、これでたぶん大丈夫だと思うぞ?」
「うん、ありがとう!」
花が咲いたように笑顔を見せたナタリー。
最近ではこれが俺の癒しであり楽しみでもある。
もっと喜んでもらいたいな。だから、もっともっと頑張らなくちゃ。
◇◆◇ ◆◇◆
スパニッシュの寝室では、アンドゥが頭を垂らしていた。
ベッドの上では屋敷の主人が分厚い本をめくりながら口の端を上げている。ワラキエル家、屋敷の主であるスパニッシュだ。
「そうか、早くもそれほどにか」
スパニッシュが言葉を聞き終えると。アンドゥは顔を上げ主同様、ニタリと笑みを零す。
「えぇ、かなりの魔力を感じました。あのドゥムガを使った甲斐がありました。私も少々驚きました。まさかたった三ヶ月であそこまでの魔力を……」
「……そうだな。あの晩ハーフエルフの血を吸って、完全な魔族になると思ったが、どうやらあれには魔族とは違う血が混じってるようだ」
「と、言いますと?」
「寄生転生……この事自体公にはしていないが、召喚の儀式の際、魔族とは違う紛い物が混入したのだろう」
「道理で……。あの自意識と行動力はそういった理由が。では、もしやあの黒銀の毛もそういった事が原因でしょうか?」
「さぁ、どうだろうな……」
部屋に少しの沈黙が流れる。
アンドゥは、主人の気を損ねないように本のページを意識して声を掛けている。
気を張って本から意識が離れるタイミングを見ているのは使用人として流石と言える。その幾たび目かのタイミングが再び訪れる。
「……いかが致しましょう? このままでは危険ではありませんか?」
「何、大元の血は魔族のソレだ。感情を揺さぶってやればすぐに結果が出よう。引き続きドゥムガを使え。あれを使ってミケラルドの覚醒に迫れ。ハーフエルフなど殺して構わん」
スパニッシュはページをめくっていた手を止めて語気を強めた。
「ドゥムガはその生け贄という事ですな?」
「ふん、ハーフエルフを餌にすれば多少危険でもあいつは動く」
再びアンドゥが頭を下げる。
アンドゥが了承の意を黙して伝えると、スパニッシュはゆっくりと本を閉じた。
◇◆◇ ◆◇◆
翌日、モンスター狩りに向かう前に、俺はナタリーに一つの提案をした。
その提案にナタリーはとても喜んでいた。部屋の中で跳びはねる程に。
だから俺も安心してジェイルと外に出る事が出来たんだ。
俺もまさかその日中にこの提案が役立つとは思わなかった。
奴が……また部屋に入って来た。
提案というのはら超能力でのテレパシーを、常時ナタリーと繋げておくというものだった。
余裕のないモンスターとの戦闘中は途切れ途切れだったが、基本的にナタリーと話しながらの鍛錬だった。
どこか集中力が足りないとジェイルに注意をされたが、こういった経験も必要だと思って身体に慣らせるつもりでモンスター狩りとテレパシーを並行させた。
事件は夕暮れ近く、ジェイルの指示で一息ついた時だった。
『う、嘘っ。奴よ! またドゥムガが部屋に入って来た!』
…………くそっ!
「坊ちゃん? どこへ?」
「すみません、戻ります!」
俺は走った。短く小さな足で森の中を駆けた。
後方からはジェイルが追って来るのがわかったが、俺の様子を見たからか、引き止めるつもりはなさそうだ。
くそ、一体どういう事だっ。ドゥムガがもう部屋に入って来ないという事を過信したのか!?
アンドゥの言い付けを守らないとは思えない。以前守れなかった鬼族の部下が無残に殺されたのを覚えているし、ドゥムガだってこの屋敷のルールは知っているはずだ。
って事は……知っていて尚入った? つまり誰かの指示?
一体誰? 魔獣族の密偵? それともアンドゥの指示? いや、俺は馬鹿か。ドゥムガが殺されないと踏んで入ってるんだ! つまりアンドゥの指示! くそ、どういう事だよ!
道中ナタリーに声を掛け続けたが、途中から返事がなくなった。
頼む! 生きていてくれ! ……見えた! 屋敷だ!
部屋は二階。俺は無我夢中で風魔法を使って飛び上がった。
窓ガラスを割り、部屋に入った時、俺の目の前にいたのは血の海に立つ大きなワニだった。
その時、俺の頭の中は真っ白になって、自分の大きな鼓動が一つ聞こえたのを覚えている。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。
さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。
魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。
神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。
その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる