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22話 酔姫
しおりを挟む鼻の奥をつん裂く香り。一言で言うと臭い。
ここはダンジョン武具店"モルワン"
かなり久しぶりな気がするが、1週間くらいしか空いてないんだよな。
強くなったら来いと言われたのに、短剣をダンジョンに失い来る事になるとは……
だが武器が無ければスライムすら倒せない。
それにしても相変わらずお客がいないな
加えて店主もいない
「おいっ!!」
ーー!?
後ろからいきなり声をかけられ、肩がビクッとなる。
振り返るとそこには剣とハンマーを持った強面のじじぃ、いや店主が立っていた。
「いきなり声かけないでくださいよ」
だから客が遠のくんだよ。星一レビューの理由が痛いほど分かる。
「オメェ、今、馬鹿にしたか?」
気づけば店主の持つ剣の先端が俺の目前に
風圧で前髪がふわりと持ち上がる。
って危なすぎるだろ!!
「いやいやいや!してませんよ!!」
ってか剣速が早すぎて全然反応できなかった。
今なら分かるがこの人、相当強いぞ
「ふっ……坊主、少しは強くなったみてぇじゃねえか?」
そう言って笑う店主
笑顔が怖いからやめて欲しい。
だが強くなったと言われシンプルに嬉しいな
「ありがとうございます」
「で、この前に短剣を渡したと思うが何の用だ?」
くっ……やっぱり聞かれるよなぁ
「えーと、実はダンジョンの魔物の攻撃で武器を無くしてしまいまして」
絶対怒られる……手に持ってる剣で斬られるのではないだろうか?
いつでも【移動】を使う準備をしておこう
「そうか、短剣は良かったか?」
あれ?怒られない?
「は、はい!斬れ味も使いやすさも抜群でした。」
あれ?怒られないのか?
「武具は人を守るためにある。気にすんな。だが何度も失くしてくるようなら、指の一本くらいは頂くがな!」
そう言って笑う店主
俺も釣られて笑うが、全然心から笑えないな。
「はははは……気をつけます」
「で、いくら出せる?」
武器代の事だろうか?予算的には
「120万円くらいなら……」
実際はもう少しいけるが、余裕はある程度残しとかないとな
本当は1000万円貯めてからの予定だったけど仕方がない
「ほぉ、この短期間でかなり稼いだじゃねえか。ちょっと待ってろ」
そういうと店主は店の奥に消えてった。
「待たせたな」
しばらくして店主が"木箱"と皮の鞘に入った"一振りの短剣"を持ってきた。
短剣の方は分かるけど、木箱は一体何だろう?
重厚感があるすごい高価そうな質感の木箱だ。
「それは?」
聞いてみたが返答はなく。
店主は目の前のカウンターに木箱を置き、蓋を開ける。
中には綿が敷き詰められており、その上に一振りの剣が収められていた。
黒に近い深みのある蒼い剣身と純白の柄
横には剣身と同じ蒼色の鞘が並んで置かれている。
素材は鉄?いや金属のような光沢では無いし、剣がわずがに輝いている。
これは何だろう?でもすごい惹かれる。
何だろうこの感覚は初めてだ。
ダンジョン管理局で見た超高価な剣が霞む程の強さを感じる。
「この剣はダンジョンの深層で採れた鉱石から作った剣で儂が作った武器の最高傑作の一つだ。ほれ、握ってみろ!」
「いいんですか?」
「あぁ」
ニヤリと笑う店主
なんか怖いな。でも握ってみたい。
俺は白い何かの鱗でできた柄に触れる。
ーー!!!
触れた瞬間、俺は膝から崩れた。
床に四つん這いになって、呼吸を整える。
ヤバい…全然力が入らない。剣に触れた瞬間、全身のエネルギーが吸い込まれた。
「ククククッ」
ふと見上げると店主が腹を抑えて笑ってる。
悪どい笑顔だ。殺意が湧くな。
「坊主にはまだ早いみたいだな」
「早い?どういう事ですか?」
だいぶ力が戻ってきた為、立ち上がりながら聞き返す。
「強力な武器は意志を持ち、使用者を選ぶ。要するに強い武器を扱う為には扱う者自身が強く無いといけないわけだ。後、相性もあるがな。」
武器が意志を持っている?初耳の情報だ。
しかも使用者を選ぶ?
「ちなみにこの剣を掴んだ瞬間に力が全て奪われたんですけど」
「それは剣の力量に見合っていないからだな。剣と使用者の力のバランスが取れていないと一方的に力を奪われる。剣の力を引き出すには剣に認められる力をつける必要がある」
「なるほど、前の短剣は自分の力量に見合っていたというわけですか」
「そうでもない。剣にも個性があってな、使用者が弱くても使える武器は無数にある。儂は好かんけどな。そんな誰にでも腰を振る尻軽はよ。やはり武器も女も一途ってな!」
ガハハハと笑う店主
何が一途だ。気難しい武器ってだけじゃねぇか
だが、この情報は初めて知った。ダンジョン管理局の公式HPにも無かったと思う。
「じゃあ、もし俺がその剣を使えるようになる為には、レベルアップをして強くならないとって事ですね!」
「おう!レベルもやけど武器を扱う技量もな。もし、小僧がこの剣を持てるようになれたら売ってやる。値段は5000万円でええぞ」
「5000万!?それって高いような……」
「馬鹿野郎!!これだから素人は、この剣は市場で言ったら10数億は硬ぇ!それをオメェ高いだと?」
ヤバい、逆鱗に触れたみたいだ。
圧がすごい
「すいません!無知でした!この剣を持てるようになる為に精一杯頑張ります!」
俺は速攻謝る。
言葉もすらすら出てくる。これはサラリーマン時代に身につけ、魂に刷り込まれた能力。社会人スキルという奴だな。
「まぁええ、素人あるあるだわな。そもそも小僧が持てるようになるとは思ってへんしな」
どうやら溜飲が下がったようだ。
でもムカつくな。絶対持てるようになって驚かせてやる。
「今の小僧にはこの短剣がベストだろう。ほれ!持ってみろ」
そう言って木箱と一緒に持ってきたもう一つの短剣を渡してきた。
白銀に輝く綺麗な剣身と薄紅色の柄を持つ短剣だ。
見るからに以前の短剣とは格が違う。
だけどこれって大丈夫だよな?
さっきの影響のせいか、武器を持つ事に対して疑心暗鬼になっているみたいだ。短剣を持つのに戸惑ってしまう。
「おい、なにビビってんだ!これは大丈夫だ。さっさと持て!」
ビビってるのはアンタのせいなのに
俺は心にモヤモヤしたものを抱えながらしぶしぶ短剣の柄を掴む。
「これは……」
持った瞬間驚いた。
剣に流れる何かと俺の何かが繋がったような不思議な感覚
確かにこれはすごい…
「ふっ……大丈夫のようだな。その短剣の名は【酔姫】だ。100万円で売ってやろう。ほれ!ライセンスを出せ!」
俺は言われるままにライセンスを出す。
店主は流れるような動作でライセンスをカウンターの機械に通す。
「これ領収書だ。お買い上げありがとうな」
「いえいえ、こちらこそ……」
うん、何か変だぞ?
脳内の少年名探偵が眼鏡を白く曇らせる。
「どうかしたか?小僧」
「いえ、短剣の名が少し気になりまして、どうして【酔姫】なんですか?」
勘が告げている。
この名前が怪しいと
「この酔姫はな、男の3歩後ろを歩くような男を立ててくれるいい女よ。尽くす女ってやつだな。だが、一つ欠点があってな。"血に酔うんだ"」
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「それはお楽しみって奴だ。俺から言えるのはギャップがある女の方が燃えるだろう?って小僧は童貞だから分らねぇか」
「童貞じゃねぇし!!」
あっ、あまりの屈辱的な言葉についタメ口で反射的に返してしまった。
「とりあえず、使ってみろ。【酔姫】は良い短剣だ」
結局店主は【酔姫】について深く教えてくれなかった。
だが店主は武器に対して嘘を言う人では無い。
だから信じて、まずは使ってみよう。
新しい相棒の短剣【酔姫】を
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