2 / 3
壱 招かれざる客
憧れの存在
しおりを挟む
騒ぎを落ち着かせたあと、胡樂と閻魔は妊婦さんを病院へ送ったり、扉の修理やあと片付けなどにおわれた。
辺りはすっかり真っ暗である。
「はぁーーーー。なんで俺まで手伝わされてんだ?」
「いいだろ?どうせ暇なんだし。喧嘩はいいけどあと片付けがいつも大変なんだよな」
誰もいなくなった店で割れたガラス片を拾い集めていると、窓のない扉を勢いよく開け、青年が入ってきた。
よく見ると昼間の喧嘩の仲裁をしていた青年だった。
「...あ、昼間の。悪いけどこんな状態なんで今日は店仕舞いなんだ。」
「いえ!俺はあなたに用があってきたんです。」
青年はズカズカと店に入ってきて、胡樂の手を力ずよく握った。
「「胡樂さん、俺を弟子にしてください!」」
「...え?」
突然の事で胡樂も何事か理解出来ず、閻魔は割れたガラス片をいじって遊んでいる。
カオスである。
「ちょっっと待ってね。まず、君の名前は?」
青年ははっと気づき、気をつけをした。
「自分、狴犴というものです。昼間のあれ、見ました。あんな無駄のない右ストレートは初めて見ました!弟子にしてください!」
「なるほどよくわかった。ひとまず落ち着こう。お茶出すから座って。」
胡樂は頭を抱えてカウンター席に通す。
閻魔はなぜか既にカウンター席でお茶を待っている。
お茶を出すと、狴犴は軽く頭を下げ、口に運んだ。
礼儀はとても良い。育ちが良いのだろう。
「...あ、美味しいです、これ。」
「気に入った?これ、中国から仕入れたお茶なんだ。」
「あぁ…通りで懐かしいわけだ。」
狴犴はなにかに思いを馳せるようにお茶を眺める。
すると閻魔が急にはっとして
「もしかして、お前竜の子か?」
「竜の子?」
「...はい。」
狴犴曰く、中国には竜が産んだ九匹の子がいて、それぞれ違った容姿、性格をしているそう。しかし、誰も親である竜になれていないのだという。
「...俺は兄弟の中で1番力を好んでいます。しかし、逆に言えば力以外何も持っていない。だから親のような竜になれないのだと思い、力も強く、心も持ち合わせた胡樂さんに弟子入りを申し込んだんです。」
「...なるほどね。でも、俺んとこに弟子入りしても竜になれるか...ゆうて強くないし俺。」
胡樂は謙遜するが、狴犴は引き下がらない。
一向に進みそうもない話を閻魔がバッサリと斬る。
「じゃあ、バイトはどう?」
「「はい??」」
「だから、狴犴は胡樂のところでバイトするの。胡樂、店1人で切り盛りしてて大変って前話してたじゃん。で、狴犴はバイトしながら胡樂のこと観察できるでしょ?」
「なるほど...でも俺がもし何も教えてやれなかったらどうするんだ?」
「んー...狴犴、お前どこ住んでる?」
「今は修行中の身なので旅をしながら宿をとったりしていました。」
「じゃあ胡樂の家の部屋貸してやれば?どうせ余ってんだろ」
「まあね。じゃあ俺は働き手を確保する代わりに宿と時たま技術を教えて、狴犴はタダで住みながら修行ができる、ってことか。」
「素晴らしいです。さすが閻魔大王ですね。アイデアのベクトルが違う。」
閻魔のすばらしい発想で何とかその場は収まった。
「それじゃあ俺は早速宿から荷物取ってきます。胡樂、よろしくお願いします!」
「おー。あんまし期待しないでくれよ」
言い終わると狴犴は風のように店を去っていった。
「嵐みたいなやつだな。」
「いいじゃないか。これから楽しくなるぞ」
閻魔は他人事のようにケタケタと笑っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~解説~
「狴犴」...中国の昔話、竜生九子のひとり。
親は竜。姿は虎に似ていて、力や悪人を裁
くこと、おしゃべりを好む。監獄の扉など
のモチーフになったりする。
辺りはすっかり真っ暗である。
「はぁーーーー。なんで俺まで手伝わされてんだ?」
「いいだろ?どうせ暇なんだし。喧嘩はいいけどあと片付けがいつも大変なんだよな」
誰もいなくなった店で割れたガラス片を拾い集めていると、窓のない扉を勢いよく開け、青年が入ってきた。
よく見ると昼間の喧嘩の仲裁をしていた青年だった。
「...あ、昼間の。悪いけどこんな状態なんで今日は店仕舞いなんだ。」
「いえ!俺はあなたに用があってきたんです。」
青年はズカズカと店に入ってきて、胡樂の手を力ずよく握った。
「「胡樂さん、俺を弟子にしてください!」」
「...え?」
突然の事で胡樂も何事か理解出来ず、閻魔は割れたガラス片をいじって遊んでいる。
カオスである。
「ちょっっと待ってね。まず、君の名前は?」
青年ははっと気づき、気をつけをした。
「自分、狴犴というものです。昼間のあれ、見ました。あんな無駄のない右ストレートは初めて見ました!弟子にしてください!」
「なるほどよくわかった。ひとまず落ち着こう。お茶出すから座って。」
胡樂は頭を抱えてカウンター席に通す。
閻魔はなぜか既にカウンター席でお茶を待っている。
お茶を出すと、狴犴は軽く頭を下げ、口に運んだ。
礼儀はとても良い。育ちが良いのだろう。
「...あ、美味しいです、これ。」
「気に入った?これ、中国から仕入れたお茶なんだ。」
「あぁ…通りで懐かしいわけだ。」
狴犴はなにかに思いを馳せるようにお茶を眺める。
すると閻魔が急にはっとして
「もしかして、お前竜の子か?」
「竜の子?」
「...はい。」
狴犴曰く、中国には竜が産んだ九匹の子がいて、それぞれ違った容姿、性格をしているそう。しかし、誰も親である竜になれていないのだという。
「...俺は兄弟の中で1番力を好んでいます。しかし、逆に言えば力以外何も持っていない。だから親のような竜になれないのだと思い、力も強く、心も持ち合わせた胡樂さんに弟子入りを申し込んだんです。」
「...なるほどね。でも、俺んとこに弟子入りしても竜になれるか...ゆうて強くないし俺。」
胡樂は謙遜するが、狴犴は引き下がらない。
一向に進みそうもない話を閻魔がバッサリと斬る。
「じゃあ、バイトはどう?」
「「はい??」」
「だから、狴犴は胡樂のところでバイトするの。胡樂、店1人で切り盛りしてて大変って前話してたじゃん。で、狴犴はバイトしながら胡樂のこと観察できるでしょ?」
「なるほど...でも俺がもし何も教えてやれなかったらどうするんだ?」
「んー...狴犴、お前どこ住んでる?」
「今は修行中の身なので旅をしながら宿をとったりしていました。」
「じゃあ胡樂の家の部屋貸してやれば?どうせ余ってんだろ」
「まあね。じゃあ俺は働き手を確保する代わりに宿と時たま技術を教えて、狴犴はタダで住みながら修行ができる、ってことか。」
「素晴らしいです。さすが閻魔大王ですね。アイデアのベクトルが違う。」
閻魔のすばらしい発想で何とかその場は収まった。
「それじゃあ俺は早速宿から荷物取ってきます。胡樂、よろしくお願いします!」
「おー。あんまし期待しないでくれよ」
言い終わると狴犴は風のように店を去っていった。
「嵐みたいなやつだな。」
「いいじゃないか。これから楽しくなるぞ」
閻魔は他人事のようにケタケタと笑っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~解説~
「狴犴」...中国の昔話、竜生九子のひとり。
親は竜。姿は虎に似ていて、力や悪人を裁
くこと、おしゃべりを好む。監獄の扉など
のモチーフになったりする。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?
紺
ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。
世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。
ざまぁ必須、微ファンタジーです。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
転生もふもふ九尾、使い魔になる
美雨音ハル
ファンタジー
目が覚めると、真っ白でもふもふな狐の赤ちゃんになっていた。どうやら私は「幻獣」と呼ばれる特別な生き物らしい。森の精霊たちに可愛がられながら、元気いっぱいに育ち、私は七本の尾を持つ美しい狐に成長した。そしてその結果……自分で言うのもなんだが、私はわがままな女帝九尾になってしまった。森で豪華絢爛、贅沢三昧、気の向くままに暮らす日々。そんなあるとき、魔獣管理官と名乗る、真っ黒な服を着た美しい男がやってきて、私に言った。「俺の使い魔になれ」と。
カクヨム様掲載中、小説家になろう掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる