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第一章 新しい生活
第十一話 持ち帰った物は誰の物
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ギルマスはまた何も言わなくなった。
目の前に広げられる物……。おそらくかなりの価値のある物も含まれている。
僕も集められた物をしまうときに驚いたが、あのゴブリン達は商人を襲った時もあったのだろう。
更に言うと、貴族の物もあるように感じた。
「これは誰の物になるの? 僕達が頑張ったから戻って来た物だから、ただでは渡したくないな。今はお金が欲しいしね。」
ちょっと疲れたようにギルマスは口を開いた。
「これは全てお前らの物だ。魔物でも盗賊でも倒した後にアジトや集落に合った物は、倒した時にいた者で分配される。だが……取り戻したいと言うやつらもいるのは確かだ。」
そうだろうね。大切なものもあるだろうし、ただでなければ持ち主に返してもいいけどね。
「買戻しと呼ばれる制度がある。お前らはまだ冒険者になり立てだから知らないかもしれないが、商品を冒険者ギルドに委ね、買い戻したい商品を自分の物だったと証明し、自らの手に買い戻す制度だ。」
ふーん。自らの物と証明するという所はいいね。
「しかし、それにはまずは手に入れたお前らの許可が必要だ。どうする、俺達に任せるか?」
どうしようかな……。
今はお金と、普段持ち歩く装備を作る素材だけは手元に残したいけどな。
最悪お金で装備を買うか……。
「委ねる物は僕達が決めてもいいですか?」
「もちろんだ。お前らが手放してもいいと思う物だけだ。何しろ一度失った物は戻らないのが普通だ。まして魔物に奪われた物は盗賊が奪った物より取り扱いが厳しい。盗賊であれば人間、自作自演も疑われるが、魔物にそんな演技はできないだろ。」
「確かにそうですね。うん、じゃあ逆に冒険者ギルドに委ねてほしい物はありますか?」
そう聞くと案の定、貴族の持ち物らしき物を指した。
おそらくだが、僕はまだこの世界についてわからないが、あのナイフについている紋章は、どこかの家紋だろう。
「それですか……そのナイフの素材は色々と使えそうなのですがね……。」
と言ってみる。
その言葉を聞いたギルマスは、一瞬表情を変えそうになったが堪え答えてきた。
「そのナイフはあるお方が探していた物だ。冒険者ギルドは国からの援助もある。ほぼ独立した組織だが、一部国の意向も働いている。お前らはまだわからないだろうが、一応説明しておくと……貴族との争いはめんどくさいという事だ……。」
説明になっていない、何だよめんどくさいって……。
それは僕が一番避けたいことじゃあないか。
「そのナイフはいりません!」
「そうか。だが、こうなってしまうとただで相手に渡すこともできないんだ。それが一番めんどくさいところでもある。今このナイフの所有者はお前らだ。それをただで貴族に返すという事は、貴族が借りを作るという事だ。借りは時に重しになる。だから、対価が絶対に必要になる。そして……これは一人言だが、この紋章の貴族はめんどくさい。」
「めんどくさいとは?」
「自分の立場だけを主張して役割を全うせず、欲しい物はどんな手段を用いても手に入れようとし、ケチだ……。」
ケチ……対価を渋るという事か?
「それだったら、金額はお任せしますよ。僕達の事は内緒にしておいてくれたら。」
「もう無理だろう。最近大きな出来事はなかった。だが、お前らはゴブリンの討伐証明を下で三十位はしたのだろ? それを見ていた冒険者の口は塞げないからいずれはお前らにたどり着く……。俺には見える面倒ごとに巻き込まれているお前らの姿が……。」
どこの預言者だよそれは……。
だけどギルマスが言うってことはそうなるんだろうな。
「いっそのことナイフはなかったことにはできない?」
「それもいいが、他の物を出しておいてどこから勘繰られるかわからないぞ。」
「じゃあ全て無しでは?」
「それは勘弁してくれ。俺はこの町のギルマスとして大切な物は持ち主に返してやりたい。」
「僕達の立場は考えてくれないの? まだ登録したてなんだけど……。」
「それは十分わかっている。だから、俺の権限が及ぶ範囲でランクアップさせてやろう。本来は色々な依頼をこなす必要はあるが、討伐依頼数だけで一ランクアップさせてやる。」
「やや微妙ですが。」
「なんと! 一ランクアップするのがいかに大変かまだ分からないか! まー仕方がない。だが、金が必要ならランクアップすると稼ぎの額が変わるぞ。特にお前らのような強い奴はもっと強い魔物の討伐報酬を得られるぞ!」
ん……ランクアップか。
これくらいが面倒ごとの妥協点か。
別に高ランクの魔物の素材を勝手に売ったらいいだけにも思えるけど。
「高ランクの魔物の素材を売るのには何か条件でもあるのですか?」
「特にはない。だが本人のランクに合わない魔物の素材を買い取る時は調べることが多いぞ。時間がかかるぞ。」
時間か……。
毎回めんどくさいことをするのか……。
うん、やっぱり一ランクアップで今回一度めんどくさい展開を受け入れるのが正解かな。
「わかりました。今回の買戻しはお任せします。僕達が今回手に入れた物を全て対象にします。」
「それはありがたい。俺に任せておけ! 出来る限りは何も起きないように尽力しよう!」
ギルマスとのやり取りは不安が残る結果だった。
しかし帰るころにはEランク冒険者プレートに変化した身分証を持ち宿へ戻るのだった。
ここはしばらく時間がかかりそうだから、連泊の手続きをして宿の部屋で休んだ。
目の前に広げられる物……。おそらくかなりの価値のある物も含まれている。
僕も集められた物をしまうときに驚いたが、あのゴブリン達は商人を襲った時もあったのだろう。
更に言うと、貴族の物もあるように感じた。
「これは誰の物になるの? 僕達が頑張ったから戻って来た物だから、ただでは渡したくないな。今はお金が欲しいしね。」
ちょっと疲れたようにギルマスは口を開いた。
「これは全てお前らの物だ。魔物でも盗賊でも倒した後にアジトや集落に合った物は、倒した時にいた者で分配される。だが……取り戻したいと言うやつらもいるのは確かだ。」
そうだろうね。大切なものもあるだろうし、ただでなければ持ち主に返してもいいけどね。
「買戻しと呼ばれる制度がある。お前らはまだ冒険者になり立てだから知らないかもしれないが、商品を冒険者ギルドに委ね、買い戻したい商品を自分の物だったと証明し、自らの手に買い戻す制度だ。」
ふーん。自らの物と証明するという所はいいね。
「しかし、それにはまずは手に入れたお前らの許可が必要だ。どうする、俺達に任せるか?」
どうしようかな……。
今はお金と、普段持ち歩く装備を作る素材だけは手元に残したいけどな。
最悪お金で装備を買うか……。
「委ねる物は僕達が決めてもいいですか?」
「もちろんだ。お前らが手放してもいいと思う物だけだ。何しろ一度失った物は戻らないのが普通だ。まして魔物に奪われた物は盗賊が奪った物より取り扱いが厳しい。盗賊であれば人間、自作自演も疑われるが、魔物にそんな演技はできないだろ。」
「確かにそうですね。うん、じゃあ逆に冒険者ギルドに委ねてほしい物はありますか?」
そう聞くと案の定、貴族の持ち物らしき物を指した。
おそらくだが、僕はまだこの世界についてわからないが、あのナイフについている紋章は、どこかの家紋だろう。
「それですか……そのナイフの素材は色々と使えそうなのですがね……。」
と言ってみる。
その言葉を聞いたギルマスは、一瞬表情を変えそうになったが堪え答えてきた。
「そのナイフはあるお方が探していた物だ。冒険者ギルドは国からの援助もある。ほぼ独立した組織だが、一部国の意向も働いている。お前らはまだわからないだろうが、一応説明しておくと……貴族との争いはめんどくさいという事だ……。」
説明になっていない、何だよめんどくさいって……。
それは僕が一番避けたいことじゃあないか。
「そのナイフはいりません!」
「そうか。だが、こうなってしまうとただで相手に渡すこともできないんだ。それが一番めんどくさいところでもある。今このナイフの所有者はお前らだ。それをただで貴族に返すという事は、貴族が借りを作るという事だ。借りは時に重しになる。だから、対価が絶対に必要になる。そして……これは一人言だが、この紋章の貴族はめんどくさい。」
「めんどくさいとは?」
「自分の立場だけを主張して役割を全うせず、欲しい物はどんな手段を用いても手に入れようとし、ケチだ……。」
ケチ……対価を渋るという事か?
「それだったら、金額はお任せしますよ。僕達の事は内緒にしておいてくれたら。」
「もう無理だろう。最近大きな出来事はなかった。だが、お前らはゴブリンの討伐証明を下で三十位はしたのだろ? それを見ていた冒険者の口は塞げないからいずれはお前らにたどり着く……。俺には見える面倒ごとに巻き込まれているお前らの姿が……。」
どこの預言者だよそれは……。
だけどギルマスが言うってことはそうなるんだろうな。
「いっそのことナイフはなかったことにはできない?」
「それもいいが、他の物を出しておいてどこから勘繰られるかわからないぞ。」
「じゃあ全て無しでは?」
「それは勘弁してくれ。俺はこの町のギルマスとして大切な物は持ち主に返してやりたい。」
「僕達の立場は考えてくれないの? まだ登録したてなんだけど……。」
「それは十分わかっている。だから、俺の権限が及ぶ範囲でランクアップさせてやろう。本来は色々な依頼をこなす必要はあるが、討伐依頼数だけで一ランクアップさせてやる。」
「やや微妙ですが。」
「なんと! 一ランクアップするのがいかに大変かまだ分からないか! まー仕方がない。だが、金が必要ならランクアップすると稼ぎの額が変わるぞ。特にお前らのような強い奴はもっと強い魔物の討伐報酬を得られるぞ!」
ん……ランクアップか。
これくらいが面倒ごとの妥協点か。
別に高ランクの魔物の素材を勝手に売ったらいいだけにも思えるけど。
「高ランクの魔物の素材を売るのには何か条件でもあるのですか?」
「特にはない。だが本人のランクに合わない魔物の素材を買い取る時は調べることが多いぞ。時間がかかるぞ。」
時間か……。
毎回めんどくさいことをするのか……。
うん、やっぱり一ランクアップで今回一度めんどくさい展開を受け入れるのが正解かな。
「わかりました。今回の買戻しはお任せします。僕達が今回手に入れた物を全て対象にします。」
「それはありがたい。俺に任せておけ! 出来る限りは何も起きないように尽力しよう!」
ギルマスとのやり取りは不安が残る結果だった。
しかし帰るころにはEランク冒険者プレートに変化した身分証を持ち宿へ戻るのだった。
ここはしばらく時間がかかりそうだから、連泊の手続きをして宿の部屋で休んだ。
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