上 下
3 / 168
第一章 新しい生活

第二話 今世での初めての町

しおりを挟む
とうとう僕たちの順番が来た。
門番は僕たちの格好を見て少し眉間に皺が寄った。

「身分を証明するものを出してくれ。」
と門番はこちらに手を向けた。

やはりか。
僕たちは身分証明ができるものが無い。

「ごめんなさい、何も持っていません。」

「なに? 君達のような子を見たことはなかったが、どこから来たのだ? 君達だけで移動できるようなところに村はないだろう?」

「どうにかこうにかここまで来ました。長い道でしたが大きな町で働きたいと思って頑張りました……。」
ちょっと同情を引けるような調子で話してみる。

「遠くから? そんなきれいな格好でか? 着ている物こそどこにでもあるような服だが、汚れが少ないと思うが?」

忘れていた……。
もっと薄汚れさせる場面だったか?
演技と格好があっていなかった。

「それは頑張りを見せるために一着の服を大切に持ってきて、ここに来る前に着替えたんです!」

この答にもいぶかしげな表情をしているが、それ以上時間を使うのも嫌なのか、次の言葉を発した。

「それでは身分証明がない者は仮身分証を発行しているが、発行代金の銅貨一枚はあるか?」

「それが、お金がないのです……。」

「それでは通すことはできないんだ。いくら子供でも、子供に見せかけた大人もいるのでな。」

子供に……いろんな種族がいるのかな?
今はそれどころではなく、どうしようか?

「素材を代わりに納める事ではいけませんか?」

「ん~、門でそう言った事はしていないが、本当に子供のようだし、何がある?」

僕はポケットに手を入れて取り出すふりをして亜空間収納から途中で拾っていた薬草を見せた。

この世界の植物や生き物は微妙に前世とは違うが、近い形をしている。
おそらく微量の魔力を含んでいるから、薬草で良いはずだが。
僕の前世からのアイテムボックスX(今世では亜空間収納と呼ぶが)ではそう表示される。


「薬草か。この薬草であれば、ん~五つの根を持っているか?」

そう言われ僕は五つの根を取り出し門番に渡した。

「うむ、それではこれは俺が買い取り、銅貨二枚を君達に渡すことにする。これで二人は町に入ることが出来る。」

「ありがとう! ごめんなさい時間をとらせて……。でも、入っていいんだね?」

「うむ、いいぞ。だが、俺の時間をとったと言うが、もう少し俺の時間をやろう。他の奴が今は通常の検査に回っているからな。」

たしかに、僕たちに手を取られ、この門番は役を外れている。

「君達は子供で間違いないな?」

「はい、十二歳です。」

「ん~十二歳か…………ギリギリ冒険者ギルドに登録できるな……。では君達のような子供がこの町で過ごすにはどういった方法があるか?」

「身分証明書? お金? 仕事?」

「そうだ。君達は誰かの紹介があってこの町に来て働き口があるのか?」

「いえありません。」

「そうだろ。そんな場合はどうするべきか?」

「わかりません。」

「それでよくここまで来たな……。まあ来てしまったものはどうにもならないな。では一つの生き方を教えてやろう。君達はつてがないのであれば商会は無理だ。そしてそんな子供がどこに行くかと言うと孤児院だ。」

「孤児院は嫌です。働きます。」

「そうであれば、冒険者ギルドが一番だろう。苦労はするだろうが、どうにか生活できるかもしれない。そして暮らすためのお金の他に、冒険者ギルドで簡易的な鑑定を受けることで身分証明ができるプレートが手に入る。」

「冒険者ギルドでプレートを作るために鑑定?」

「そうだ。ある程度の村でも個人を証明するプレートを教会で作成するのだがな……。君達はそれも持っていないと言うのだろ?」

「はい、ありません。」

「だったら、今から教会でプレートをもらうことはできない。あれは教会がある村がお金を納めて作ってもらうものだからな。子供がどのような適性があるか知るためにな。適性に合った仕事をするのが大体の村の決まりだからな。」

へ~、適性が分かるなんて、どんな世界なんだろ。

「時々いるのだが、君達みたいに何も知らない子供は悪い奴らにつかまって奴隷になることもあるんだよ? そうならないためにも冒険者ギルドに行くと良い。初めての登録は無料でできる。困ったことも相談できるから、どこにも所属しないよりは良いだろう。なにせ、薬草は採取できるようだしな。」

もしかして、薬草を一定数出させたのはこの先僕たちがどうやって暮らすことが出来るか考えてくれた?

「ありがとう! じゃあついでに冒険者ギルドのあるところも教えてくれたらありがたいんだけど。」

そう聞くと門番は親切に教えてくれた。
何度も僕たちに聞き返し、ちゃんと覚えているかを確認しながら。

僕たちは門番から道を聞き町の中に入った。

町は前世とそこまで変わらないように見える。
良くある中世ヨーロッパな景色。

早く環境を確かめたいところだが、ひとまず冒険者ギルドに行き登録をしないと。
そして、お金がないから野宿しかなくなるので、早く稼ごう。
まーいざとなったら魔法でどうにでもなりそうだけどね。

そう考えながらサクラと手をつなぎ冒険者ギルドへ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

あなたの妻はもう辞めます

hana
恋愛
感情希薄な公爵令嬢レイは、同じ公爵家であるアーサーと結婚をした。しかしアーサーは男爵令嬢ロザーナを家に連れ込み、堂々と不倫をする。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

浮気をなかったことには致しません

杉本凪咲
恋愛
半年前、夫の動向に不信感を覚えた私は探偵を雇う。 その結果夫の浮気が暴かれるも、自身の命が短いことが判明して……

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...