美醜逆転の世界で純情騎士団長を愛でる

ゆな

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23話 団長室への来客者 (Leon side)

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 第五騎士団補佐官ミラードの実家であるヴィンセン伯爵領は、王都から最南端に位置する。今年は長雨の影響から河川が氾濫し、農村への甚大な被害が出た。

 ヴィンセン伯爵領の資金繰りは問題無いが、立て直しには数ヶ月を要するだろう。

 それに加え、第五騎士団は大きな盗賊団の根城を発見、捕縛に成功したことから後処理に追われている。

 ミラードはある程度の目処が立てば、早急に補佐官の職に戻って来ると言っていた。しかし、その間セイロンと二人で仕事を処理していくのはきついものがある。

 出来るだけ早く帰宅しようと日々の業務と奮闘するが、日を跨いでしまうことも多い。

 臨時補佐官の募集も行ったが、私の容姿が影響し応募は殆ど無い。応募してきた数名も、調査すると埃が出る者ばかりで、とても王城内に隣接する騎士団棟へ通わせる訳にはいかなかった。



 ミラードが領地に呼び戻され、一ヶ月が過ぎた頃。睡眠不足から目の下に隈を作った私を見て、さくらは心配そうに告げた。

「では、私が臨時補佐官として騎士団に通うのはどうでしょう?」

 私の妻は本当に慈愛に満ち溢れた女神のようだ。元の世界では事務職に就いていたと言っていたので、ありがたい申し出だった。

 しかし、サクラを補佐官として雇用するにあたり、懸念されることがいくつもある。

 まずサクラは美し過ぎる。

 夜会でサクラの美しさは周知のものとなった。いつ見知らぬ男がサクラを奪いに来るのかと、毎日気が気でならないのが本音だ。

 それに、騎士団棟へ差し入れを持って来てくれた際の、騎士達のサクラへ向ける熱い視線と、私への嫉妬。それに加え、権力を用い無理矢理妻に娶ったのではないかという、疑いの眼差し。

 サクラが補佐官として毎日騎士団棟へ赴くならば、先が思いやられるのは明確だ。

 どうしたものかと考えを張り巡らせていると、「疲労には睡眠が一番です! 今日はゆっくり寝ましょう」とサクラは身を寄せてきた。

 今日はせっかく早目に帰ってきたのに……と、ショックを隠せないまま目を瞑るが、このまま眠ってしまうなど出来るはずがない。薄いネグリジェ越しに感じる柔らかな肢体が、湯浴みを終えたばかりの艶やかな黒髪から香る甘い花の香りが、私を誘う。

 サクラは心底私の身体を心配してくれているのに、……押し倒したら呆れられてしまうだろうか。サクラからしてみれば、三十を超えたおじさんなのに、出来ることなら毎日彼女の体を堪能したいという煩悩まみれの夫は……嫌われてしまうだろうか。

 そんな不安を全て掻き消すように、愛を囁けば頬を薔薇色に染め、優しく触れれば甘い蜜を垂らし、彼女は私の全て受け入れてくれてくれるのだった。



 次の日の朝。

「あの、昨日の臨時の補佐官の件なんですが。やっぱり私、レオン様のお役に立ちたいんです! ……それに、レオン様の働いている姿、もっと見ていたいし……」

 頬を真っ赤に染め私の顔を見上げる妻が可愛すぎて、私は一瞬息をするのも忘れた。

「あっ! ごめんなさい。不純な動機で!!」

 頬を両手で覆い、俯く妻が可愛い。いや、サクラを構成する全てが可愛い。
 私は気が付いたら、了承の言葉を口にしていたのだった。




 ……☆☆……




 サクラが臨時の補佐官として働くようになり、残業することは殆ど無くなった。

 サクラは驚くほど優秀だった。私が処理しやすいよう、細やかな配慮が見て取れる仕分けられた書類。伝票処理も早く、計算にミスが無い。

 それに、毎日サクラと同じ空間で仕事をするのは、モチベーションが上がり仕事が捗る。

 ……ただ、モチベーションが上がるのは私だけではないようだ。いつもは殆ど誰も来ない、第五騎士団の団長室にしては来訪者が多すぎる。

「失礼致します。レオン団長、先日の盗賊捕縛に関する報告書をお持ちしました!」

 扉を叩く音が聞こえ入室を許可すると、先日の盗賊捕縛チームの一人が顔を出す。いつもは私に書類を直接手渡すのに、顔を赤く染めた騎士は、まるで虫が美しい花の蜜に引き寄せられるように、サクラに書類を手渡す。

「報告書ですね。お預かり致します」
「補佐官殿! もしも書類に不備があればすぐに直しに来ますので、いつでも自分を呼んでください!!」
「ふふふ。真面目なんですね。分かりました」

 私は席を立つと書類を取り上げ、目を通す。案の定、書類は不備だらけだ。サクラにまた会いたいからといって、このようなことでは困る。しかも、サクラは私の妻なのだ。

 私は柔らかな表情のまま、淡々と不備を指摘すると、騎士は冷や汗を掻きながら敬礼をすると部屋を出ていった。

 それからも……。

「失礼致します。レオン団長、訓練の際、木剣が数本折れてしまいまして……。補佐官殿! 新しい木剣を購入する見積書です!」

 いつもなら、ここには来ないで副団長のウィットに話を通すだろう。……サクラをデレデレとした顔で見るんじゃない!

「失礼致します。レオン団長、お茶をお持ちしました!」

 そんなこと今までしたこと無いだろう。サクラにお菓子を渡すんじゃない!!

 柔らかな表情で対応を続けるが、心の中は大荒れだ。そろそろ限界を迎えそうで、げんなりと肩を落とし小さなため息をつくと、サクラが側に寄ってきた。

「レオン様。団長室に訪れる方って凄い多いのですね。これではレオン様のお仕事が進みません。対応は私に任せて、レオン様はお仕事に専念して下さい」

 心配そうに見つめるサクラを見て、私の胸はキュッと締め付けられる。

 サクラを他の男から守る為には、君に来訪者の対応をまかせるなんてさせられないんだよ。
 他の男の好意や、私の気苦労に全く気が付かないサクラは、クイッと私の肩口を引っ張ると、頬を染め耳元で小悪魔のように囁く。

「早く仕事を終わらせて、お家で二人、ゆっくりと過ごしましょ……?」

 可愛い妻にひそひそ話をされ、思わず床に崩れ落ちそうになるのを必死で耐える。

 …………私の妻が可愛い。


 様々な邪魔は入るものの、サクラとの甘い仕事時間は捨てがたい。いや、セイロンのことも決して忘れてはいない。

 しかしこれらの出来事は、ほんの序章に過ぎなかった。
 
 団長室の扉がノックも無しに大きな音を立てて開く。私は咄嗟に剣に手を掛けるが、相手の姿を見て姿勢を戻した。

「クラレンス卿! 自分だけ狡いよ!!」

 そこには、真っ白なふわふわな髪の、目元や鼻の隠れる美しい装飾の白い仮面を付けた少年が佇んでいた。

 後ろから付いて来た護衛は、勢いよく頭を下げる。

「何ごとだい?」
「ミュゼ様の護衛騎士、ハロルドと申します。本日はいきなりの訪問、誠に申し訳ございません」
「構わないよ。でも、次からは連絡を入れて訪問してもらえると助かるかな」
「寛大なお言葉、感謝致します。ミュゼ様、帰りますよ」
「嫌だ! 僕はクラレンス卿と話があるん……だ……から……」

 ミュゼはサクラとパチリと目が合うと、仮面に隠れていない部分の顔がみるみる朱に染まっていくのが見えた。

 私は額に手を当てると、小さくため息をつく。

「ミュゼ、こっちのソファーで話をしよう。セイロン、申し訳ないが席を外してくれ」




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