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第9話① 差し入れ
しおりを挟むさくらは午前中に焼いた差し入れのクッキーを持って、王城に隣接する騎士団を訪れた。
城門でレオンの妻であることを伝えると、門番の男性に酷く驚かれ、「本当にあのレオン・クラレンス団長の奥様なのですか……?」と何度も質問された。嘘偽り無く彼の妻であることを説明するが、なかなか信じて貰えず、先程ようやく中に通してもらったのだ。
予想外に時間が掛かってしまい、昼食時となってしまった。さくらはキャロルの後を付いて、騎士団棟へと続く廊下を急いだ。
「お化粧をしてない顔だと、レオン様の奥様って信じて貰えないみたいです……。あの格好良くて素敵なレオン様の妻が、こんな地味な顔だなんて、そりゃ驚きますよね」
せっかく騎士団に差し入れを届けるのなら、バッチリメイクをして行こうと意気込んでいたのだが、使用人の皆に全力で止められた。代わりに、キャロルの手によって化粧を施されたのだが、スッピンの顔と何ら変わらない結果となってしまった。
一生懸命化粧をしてくれたキャロルに意見など言える筈もなく、結局そのまま出かけることとなったのだ。
「奥様……。きっとそれは逆ですわ……」
「……逆?」
「ぅゔっ!! キョトリとする奥様良いですぅ……っ!」
意味が分からずコテリと首を傾げると、キャロルは小さな瞳に涙を溜めてプルプルと悶えた。
――キャロルさんって、細い目の地味な顔が好みなのかな……。まぁ、人の好みって色々だもんね。
そんなことを考えていると、廊下の向こうからレオンが鬼気迫る勢いでやってきた。余程急いでいたのか、いつもキッチリと後ろに撫で付けた前髪が少し乱れ、何本か額に掛かっている。
「レオン様……!? そんなに急いでどうされたんですか?」
「サクラが私に会いに来たと聞いてね」
「連絡もなしに急に来てしまって、すみません」
「いや、仕事中に君に逢えるなんて嬉しいよ」
乱れた髪を掻き上げながら、レオンは微笑む。色香を帯びたその仕草に、さくらは頬を染めた。
「それより。ここまで来るのに、誰かに話しかけられたりしなかったかい?」
「はい。特にそんな人はいませんでした」
「……ダメだ。これほど美しい女性が、こんな狼の巣窟みたいな場所を歩くなんて危険すぎる……」
レオンが何かブツブツと呟いたかと思うと、さくらをフワリと抱き上げる。さくらは突然の出来事に驚き、彼に落とされないよう首にギュッと抱きついた。
「よし。これで安心だ」
彼は至ってまじめな表情で語るが、何が安心なのか分からない。さくらはどんどん顔に熱が集まるのを感じた。
「おっ、降ろしてください。恥ずかしいです!」
「ここは危険だ。早く団長室へ行こう」
「えっ? 腕利きの騎士様がいっぱいいるのに、騎士団棟って危険なんですか?」
「そうだよ。……狼が沢山いる」
「狼!? その辺を野生の狼がウロウロしているんですか? この世界って実はメチャクチャ危険なんですか……?」
「あぁ。サクラなんてパクリと食べられてしまうから、私から離れてはいけないよ」
ここは異世界だ。日本とは環境も生態系も全て違うのかもしれない。さくらはレオンの首に回した腕の力を強め、コクコクと頷いた。
そんな二人のやり取りを、キャロルは静かに観察する。旦那様思いの使用人は「奥様……! 狼とは奥様を狙う男性のことですのよ」という心の呟きを声に出すことはなかった。
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