StandAloneFake

電柱

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承志

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 「standalonefake」

 このメッセージを見て、草薙が最初に考えたのは、
 (こいつは武田のダイイングメッセージだ。アイツは何か決定的な証拠を掴んでいて、殺される直前に俺に襷を託したんだ)ということだった。
 「しかし、コイツぁどういう意味なんだ?」
 武田は念のため、パソコンのページを閉じると、そうつぶやいた。
 「恐らくこれは、血文字のSAFのことを指してるんだろうが…,Stannd Alone Fake自立した偽者、か…ん?」
 考え事をしている草薙に、背後から肩を叩いた人物がいた。草薙の先輩のベテラン刑事デカ、篠崎だ。  
 「おーい、草薙。どうした、泣いてんのか?」
 「からかわないでくださいよ。大丈夫ですよ、篠崎さん」
 「そうかい、まあなんだ、武田のことは残念だったな、まさかアイツが俺より先に逝っちまうたぁ…」
 あっけらかんに見えて、気遣い性の篠崎は、本気で長年の相棒を失った草薙のことを心配をしていた。
 「まったく、上司不幸なヤツです…そうだ、篠崎さん。SAFって何を意味しているんだと思います?」
 刑事の勘、とでも言うのか、篠崎の直感には草薙も一目置いている。
 「そうさなぁ、こいつは手掛かりの極端に少ないこの事件において、唯一の現場証拠と言えるが…俺の第一印象だがな、この血文字を初めて見たとき俺は、嘲笑っているように感じたんだ」
 「嘲笑う…ですか?」
 「ああ、俺はここにいるぞ、お前らには見つけられねえけどな、ってな」
 「なるほど…」

 「草薙ィ、南町で遺体があがった。お前も現場に出ろ」

 二人の会話は部長の声によって遮られた。
 「すいません、篠崎さん。俺ちょっくら出てきます。ありがとうございました。…ああそうだ、今度飲みにでも行きましょう、篠崎さんのおごりで」
 「わかったわかった、んじゃな」
 篠崎に見送られ、草薙は特捜本部を飛び出していった。



 「被害者ガイシャは中西由紀22歳、図書館司書。死因はアドレナリン多量分泌による動脈閉塞、要するにショック死です」
 「相当の恐怖を与えられたっつーことか…」
 現場である小さな公園に到着した草薙は鑑識から事件の概要を説明されていた。
 粉砕骨折した両腕をジャングルジムに結び付けられ、昆虫標本のごとく磔にされた遺体を尻目に、足元のそれに目を向けていた。例のごとく、「SAF」の血文字がそこにあった。
 「で、使用された凶器は?」
 「直径7センチメートルほどの金属バッドのようなものだと思われますが…」
 「あがってないんですね」
 「ええ」
 篠崎がこの事件は証拠が少ないと言ったのはこのためであった。この一連の事件において、未だ一つとして凶器が発見されてないどころか、死体に凶器の残留物すら付着していないのだ。
 「目撃者は?…やっぱり、いないんですか?」 
 草薙はいち早く現場に急行していた、地元の交番勤務の警官に目撃情報の有無を確認していた。
 「それがですね、一人だけ…近くに住んでいる女子高生が…」
 「女子高生?」
 話によると、地元の公立高校に通う16歳の女子生徒が偶然犯行の最中に通りかかったというのだった。
 草薙は血文字事件で初めての目撃者が出たことにも驚いていたが、それ以上に深夜に発生した事件の目撃者が十代の女子だということに不信感を抱いていた。



 「西高校2年の小清水希です」
 「ノゾミさん…ね、それでは調書を取らせていただきます。少々お時間を取らせますが、ご協力をお願いします」
 「はい…」
 目撃者、小清水希の調書取り調べは、現場近くの交番で行われていた。
 「それで、ノゾミさんが犯行を目撃したのは何時頃のことでしょうか?」
 「えっと、確か…そうです、午前1時頃、コンビニからの帰り、公園の傍を通りかかった時でした。何かが折れるような変な音と、女の人のか細い悲鳴みたいな音が聞こえて、わたし怖くて、それで…まさか、こんなことになるなんて……」
 小清水は、いまにも泣きそうな声で当時の状況を話し始めた。
 「犯人について、気づいたことは何かありませんか?」
 「……………あ、そういえば…少しだけ見たんです…犯人の顔、眼鏡をかけた…若い女の人だったと思います」
 「!!…他に、他にはありませんか?そうだ、髪型とか」
 犯人の具体像が初めて明らかになり、草薙の胸は高鳴っていた。
 「うーん、短め…肩より上だったと思います、身長は…わたしと同じくらいだったかなあ?」
 その後、2つ3つ質問をして取り調べは終わった。
 「…重要な情報提供ありがとうございました。一応、住所と電話番号を教えていただけないでしょうか」
 「はい、こちらこそ少しでも役に立てて良かったです」
 


 膠着していた血文字事件の捜査は、小清水希の目撃証言により新たな進展を迎えた。
 特捜本部の人員をすべて動員し、聞き込みを開始したのだ。
 そして草薙は、小清水希に教えてもらった住所、すなわち小清水希の住んでいるマンションを訪れていた。
 (夜中にコンビニに行くのは、まあいいとして…どうにもスラスラ答えていたような気がするんだよな、彼女のおかげで捜査が進んだ訳だが……やれやれ、こいつも刑事の勘ってやつかね)
 
 ドアに小清水と書いてあるのを確認すると、インターホンを押した。
 出てきたのは若い女性だった。
 「何か御用でしょうか?」
 「えーと、希さんはいらっしゃいますでしょうか?」
 「あの、希は私ですけど…」
 「え?」
 そう答えた女性の髪は肩より上のショートカットで、眼鏡をかけていた。
 
 
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