2 / 4
承志
しおりを挟む「standalonefake」
このメッセージを見て、草薙が最初に考えたのは、
(こいつは武田のダイイングメッセージだ。アイツは何か決定的な証拠を掴んでいて、殺される直前に俺に襷を託したんだ)ということだった。
「しかし、コイツぁどういう意味なんだ?」
武田は念のため、パソコンのページを閉じると、そうつぶやいた。
「恐らくこれは、血文字のSAFのことを指してるんだろうが…,Stannd Alone Fake、か…ん?」
考え事をしている草薙に、背後から肩を叩いた人物がいた。草薙の先輩のベテラン刑事、篠崎だ。
「おーい、草薙。どうした、泣いてんのか?」
「からかわないでくださいよ。大丈夫ですよ、篠崎さん」
「そうかい、まあなんだ、武田のことは残念だったな、まさかアイツが俺より先に逝っちまうたぁ…」
あっけらかんに見えて、気遣い性の篠崎は、本気で長年の相棒を失った草薙のことを心配をしていた。
「まったく、上司不幸なヤツです…そうだ、篠崎さん。SAFって何を意味しているんだと思います?」
刑事の勘、とでも言うのか、篠崎の直感には草薙も一目置いている。
「そうさなぁ、こいつは手掛かりの極端に少ないこの事件において、唯一の現場証拠と言えるが…俺の第一印象だがな、この血文字を初めて見たとき俺は、嘲笑っているように感じたんだ」
「嘲笑う…ですか?」
「ああ、俺はここにいるぞ、お前らには見つけられねえけどな、ってな」
「なるほど…」
「草薙ィ、南町で遺体があがった。お前も現場に出ろ」
二人の会話は部長の声によって遮られた。
「すいません、篠崎さん。俺ちょっくら出てきます。ありがとうございました。…ああそうだ、今度飲みにでも行きましょう、篠崎さんのおごりで」
「わかったわかった、んじゃな」
篠崎に見送られ、草薙は特捜本部を飛び出していった。
「被害者は中西由紀22歳、図書館司書。死因はアドレナリン多量分泌による動脈閉塞、要するにショック死です」
「相当の恐怖を与えられたっつーことか…」
現場である小さな公園に到着した草薙は鑑識から事件の概要を説明されていた。
粉砕骨折した両腕をジャングルジムに結び付けられ、昆虫標本のごとく磔にされた遺体を尻目に、足元のそれに目を向けていた。例のごとく、「SAF」の血文字がそこにあった。
「で、使用された凶器は?」
「直径7センチメートルほどの金属バッドのようなものだと思われますが…」
「あがってないんですね」
「ええ」
篠崎がこの事件は証拠が少ないと言ったのはこのためであった。この一連の事件において、未だ一つとして凶器が発見されてないどころか、死体に凶器の残留物すら付着していないのだ。
「目撃者は?…やっぱり、いないんですか?」
草薙はいち早く現場に急行していた、地元の交番勤務の警官に目撃情報の有無を確認していた。
「それがですね、一人だけ…近くに住んでいる女子高生が…」
「女子高生?」
話によると、地元の公立高校に通う16歳の女子生徒が偶然犯行の最中に通りかかったというのだった。
草薙は血文字事件で初めての目撃者が出たことにも驚いていたが、それ以上に深夜に発生した事件の目撃者が十代の女子だということに不信感を抱いていた。
「西高校2年の小清水希です」
「ノゾミさん…ね、それでは調書を取らせていただきます。少々お時間を取らせますが、ご協力をお願いします」
「はい…」
目撃者、小清水希の調書取り調べは、現場近くの交番で行われていた。
「それで、ノゾミさんが犯行を目撃したのは何時頃のことでしょうか?」
「えっと、確か…そうです、午前1時頃、コンビニからの帰り、公園の傍を通りかかった時でした。何かが折れるような変な音と、女の人のか細い悲鳴みたいな音が聞こえて、わたし怖くて、それで…まさか、こんなことになるなんて……」
小清水は、いまにも泣きそうな声で当時の状況を話し始めた。
「犯人について、気づいたことは何かありませんか?」
「……………あ、そういえば…少しだけ見たんです…犯人の顔、眼鏡をかけた…若い女の人だったと思います」
「!!…他に、他にはありませんか?そうだ、髪型とか」
犯人の具体像が初めて明らかになり、草薙の胸は高鳴っていた。
「うーん、短め…肩より上だったと思います、身長は…わたしと同じくらいだったかなあ?」
その後、2つ3つ質問をして取り調べは終わった。
「…重要な情報提供ありがとうございました。一応、住所と電話番号を教えていただけないでしょうか」
「はい、こちらこそ少しでも役に立てて良かったです」
膠着していた血文字事件の捜査は、小清水希の目撃証言により新たな進展を迎えた。
特捜本部の人員をすべて動員し、聞き込みを開始したのだ。
そして草薙は、小清水希に教えてもらった住所、すなわち小清水希の住んでいるマンションを訪れていた。
(夜中にコンビニに行くのは、まあいいとして…どうにもスラスラ答えていたような気がするんだよな、彼女のおかげで捜査が進んだ訳だが……やれやれ、こいつも刑事の勘ってやつかね)
ドアに小清水と書いてあるのを確認すると、インターホンを押した。
出てきたのは若い女性だった。
「何か御用でしょうか?」
「えーと、希さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「あの、希は私ですけど…」
「え?」
そう答えた女性の髪は肩より上のショートカットで、眼鏡をかけていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
支配するなにか
結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣
麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。
アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。
不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり
麻衣の家に尋ねるが・・・
麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。
突然、別の人格が支配しようとしてくる。
病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、
凶悪な男のみ。
西野:元国民的アイドルグループのメンバー。
麻衣とは、プライベートでも親しい仲。
麻衣の別人格をたまたま目撃する
村尾宏太:麻衣のマネージャー
麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに
殺されてしまう。
治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった
西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。
犯人は、麻衣という所まで突き止めるが
確定的なものに出会わなく、頭を抱えて
いる。
カイ :麻衣の中にいる別人格の人
性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。
堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。
麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・
※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。
どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。
物語の登場人物のイメージ的なのは
麻衣=白石麻衣さん
西野=西野七瀬さん
村尾宏太=石黒英雄さん
西田〇〇=安田顕さん
管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人)
名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。
M=モノローグ (心の声など)
N=ナレーション
「鏡像のイデア」 難解な推理小説
葉羽
ミステリー
豪邸に一人暮らしする天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)。幼馴染の望月彩由美との平穏な日常は、一枚の奇妙な鏡によって破られる。鏡に映る自分は、確かに自分自身なのに、どこか異質な存在感を放っていた。やがて葉羽は、鏡像と現実が融合する禁断の現象、「鏡像融合」に巻き込まれていく。時を同じくして街では異形の存在が目撃され、空間に歪みが生じ始める。鏡像、異次元、そして幼馴染の少女。複雑に絡み合う謎を解き明かそうとする葉羽の前に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
virtual lover
空川億里
ミステリー
人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。
が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。
主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

通詞侍
不来方久遠
ミステリー
明治28(1895)年の文明開化が提唱されていた頃だった。
食うために詞は単身、語学留学を目的にイギリスに渡った。
英語を学ぶには現地で生活するのが早道を考え、家財道具を全て売り払っての捨て身の覚悟での渡英であった。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる