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第70話「ジン」⑦

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 シャルロット様がルイと名乗る襲撃犯に攫われて行方不明になってから、すっかり意気消沈してしまったご主人様。心を取り戻す鍵と思われる、人との繋がりのため、ここは何としてでも奮起させなくてはなりません。

「確かに、このままシャルロット様が行方不明のままの方がご主人様のためかもしれません」

「そういう事だ。俺が女と仲良くするべからずの会則があるこのテンプル騎士団にいるためにはな」

「いえ、キマイラやグーラーを退治したのはご主人様という事になってますが、実際は大いにシャルロット様のお陰と言う事が露見する心配が無くなるからです」

「なんだと?」

「実際は火の奇跡を自在に操るシャルロット様が戦いの主導権を握り、ご主人様はその影に隠れていただけですからね」

「言葉が過ぎるぞコーディス」

「しかしそれも致し方ありませんね!ご主人様は奇跡を全く使えない点はもちろん、今では剣の腕でも負けてる可能性は高いのですから!」

「いい加減にしろコーディス!」

「ご主人様にはシャルロット様が必要なのです!テンプル騎士団とか、聖ヨハネ騎士団とか関係無く!ギルバート様を失い、シャルロット様までをあの世間知らずの若造に奪われ失う事をこのまま座視するおつもりですかー!!」

「コーディス!」

 ふぅふぅと息を荒げまくし立てる私に、珍しく声を荒げるご主人様。テンプル騎士団の会則には、自らの楯持ちを殴打してはいけないと言う条項がありますが、ここで殴打されるのはそれは致し方ない事です。ギュッと目を閉じ、痛みに耐える準備をしますが、来るべき衝撃が一向に来ないので恐る恐る目を開けると、そこにはうなだれ、片手で目元を覆い、天を仰ぐご主人様の姿がありました。

「……ご主人様?」

 また恐る恐る声を掛けてみると、フゥーと溜息を付き、少し間を置いてご主人様が答えました。

「確かにコーディスの言う通りだ。ギルバートを失うのは止められなかったが、シャルロットを失うのはまだ止められるはずだ。ここで何もせずに、後で落ち込んでいたら、それこそ愚か者の極みだな」

「ご主人様!」

「会則違反になるかもしれんが、まぁそこは上手くやれば良い。なんせ違反なんて初めてじゃないんだからな」

 これでこそご主人様です。テンプル騎士団追放?そんなのを恐れるのはご主人様らしくありません!

「それに」

「?」

「シャルロットに恩を売り、剣技においても俺が上だと思い知らせ、そしてあの世間知らずの襲撃犯に一発喝を入れる。まさに一石三鳥だからな」

 相変わらずご主人様は素直では無いようです。素直じゃない同士のご主人様とシャルロット様が上手くいかないのも道理と言うものです。
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