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第33話「怪し火」⑬

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 他の護衛は手傷を負ってしまい、ご主人様は大型グールにかかりっきり。今や馬車のすぐそこまでグールの群れが迫っています。

「くそっ!皆さんお逃げください!」

 ご主人様が叫びますが、馬車の周りを囲まれ逃げ道は無い状況です。グールは死体を貪るだけでなく、女に欲情すると言いますが、このままでは……

「私の家族に近寄るで無い!」

 そう叫ぶと、なんとネラ様ご自身が剣を抜き、馬車から降りてきたのです。しかし歴戦の騎士ながら高齢のネラ様、明らかに足元が覚束ない様子です。

「うっ……ぐぁ!」

 案の定、飛びかかってきたグールに押され、倒れこんでしまいます。

「お父様!」

 シャルロット様の悲鳴とも似た叫びが上がります。

「シャルロットよ!中にいるのだ!」

「ネラ様!今行きます!」

 ご主人様はそう言いますが、一太刀入れても未だ怯まない大型グールに手を焼いているのは明らかです。

「グギャァァ!」

 そして、今まさに一匹のグールが顔面に食いつこうとした瞬間!一筋の炎が走るのが見えたのです。

「グギャ!グギャアア!」

 炎に包まれ、苦しみ悶えるグール。馬車の方に視線を戻すと、そこには右手に首から掛けた十字架を握りしめ、そして身体に炎を纏わせたシャルロット様の姿が。

「お父様から離れなさい!この汚らしいケダモノ供!」

 そう叫び終わるが早いか、シャルロット様が纏っていた炎が暴れ回り、グールの群れを一瞬にして炎で包んだのです。残ったのは、グールの燃えカスのみ。いやはや、火の奇跡がこれほどの物とは……

「大丈夫か!」

 ようやく大型グールを片付け、駆け寄るご主人様。そこには纏っていた炎も消えたシャルロット様と、抱き合うネラ様と奥様が居ました。

「お父様……火……私、やはり呪われているのね……」

 自らのした事が信じられないご様子のシャルロット様。

「いや、シャルロットよ。これは呪いなんぞでは無い。レード殿も言っていた、これは火の奇跡、そなたを守る力だと。現にこうして我々を守ってくれたでは無いか」

 優しく諭すネラ様。その顔にはもう怯えや疲れなど無く、あるのは優しい父の顔のみでした。

「レード殿、そなたの言う通りであった。火の奇跡が娘に宿ったのは呪いなどでは無い。これからは娘と共にこの力と向き合うことにする」

「どうかシャルロット様には剣の稽古も続けさせてあげて下さい。剣は人を傷つけるだけでなく、運動は心身を……」

「分かっとる。だが教養を身につけるのも一緒にな。レード殿に似るのは、強さだけにして欲しいのでな」

 ムギュッとした顔をするご主人様。そして沸き起こる笑い。流石はネラ様、フランスでも有数の大貴族だけあり、賢明なお方です。
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