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第32話「怪し火」⑫
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それから数日が経ちましたが、ネラ様は今回の一件で考える事が大いにあったようで、フランスへの帰国を決めました。エルサレムからヤッファの港まで、お見送り兼警護としてご主人様が同行することが許されたのは、きっとネラ様もご主人様の言葉に想うところがあったからなのでしょう。
「シャルロット様、フランスに帰国されてからもどうか健やかに」
ネラ様が近くにいるためのご主人様の慣れない敬語もあってか、シャルロット様の顔には微笑が浮かんでいます。
「レード……その、ありがとう。お父様に私の事について何か意見してくれたのでしょう?」
「いえ、私からは何も……そうだ、聖地巡礼のお土産と言っては何ですが、これをどうぞ」
と言ってご主人様が差し出した物、それは十字架の首飾りでした。
「あら、ありがとう。でもお土産はこれ以外にも、もう一つあるんじゃなくて?」
「お見通しでしたか。正直これを渡していいのか迷うのですが……」
そう言って差し出したもの、それは新しい木剣でした。
「そうこなくちゃ!フランスに帰ってからもこれですんごく特訓して、いつか絶対レードを負かしてやるんだから!覚悟しなさい!」
もはや嬉しさで笑顔がはち切れんばかりのシャルロット様。シャルロット様にとって、ご主人様は唯一の理解者なのでしょう。
「剣もよろしいですが、チェスや本なども嗜む事を忘れてはいけませんよ。良き騎士は剣と心で成り立つものです」
「はぁ~い」
打って変わって気の無い返事。正直、脳筋お姫様にならないか心配です。ともあれ、ネラ様と奥様、それにシャルロット様は召使いが操る馬車で、ご主人様は馬でヤッファ目指して出発です。
エルサレムーヤッファ間は相変わらず安全とは言えない道筋ですが、ご主人様とネラ様のご家来が護衛に付いているのです。何も心配することはないでしょう。と思ってました。道で飢えたグールの群れと遭遇するまでは。
「護衛は馬車から離れるな!」
護衛に指示を出すご主人様。自身はグールを引きつけようと進みますが、そこに一際大きなグールを見つけたのです。
「ここまで肥え太ったグールは初めてだ。さぞ死体には困らなかったようだなっ!」
そう言い捨て、早速ご主人様は斬りかかりますが、デカいだけでなく俊敏なグール、なかなか一筋縄ではいかないようです。
「きゃぁああ!」
そんな時、馬車から悲鳴が。見ると護衛はグールの群れにやられ、召使いは逃げ出し、今まさに馬車に乗るシャルロット様達が襲われようとしていたのです。
「シャルロット様、フランスに帰国されてからもどうか健やかに」
ネラ様が近くにいるためのご主人様の慣れない敬語もあってか、シャルロット様の顔には微笑が浮かんでいます。
「レード……その、ありがとう。お父様に私の事について何か意見してくれたのでしょう?」
「いえ、私からは何も……そうだ、聖地巡礼のお土産と言っては何ですが、これをどうぞ」
と言ってご主人様が差し出した物、それは十字架の首飾りでした。
「あら、ありがとう。でもお土産はこれ以外にも、もう一つあるんじゃなくて?」
「お見通しでしたか。正直これを渡していいのか迷うのですが……」
そう言って差し出したもの、それは新しい木剣でした。
「そうこなくちゃ!フランスに帰ってからもこれですんごく特訓して、いつか絶対レードを負かしてやるんだから!覚悟しなさい!」
もはや嬉しさで笑顔がはち切れんばかりのシャルロット様。シャルロット様にとって、ご主人様は唯一の理解者なのでしょう。
「剣もよろしいですが、チェスや本なども嗜む事を忘れてはいけませんよ。良き騎士は剣と心で成り立つものです」
「はぁ~い」
打って変わって気の無い返事。正直、脳筋お姫様にならないか心配です。ともあれ、ネラ様と奥様、それにシャルロット様は召使いが操る馬車で、ご主人様は馬でヤッファ目指して出発です。
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「護衛は馬車から離れるな!」
護衛に指示を出すご主人様。自身はグールを引きつけようと進みますが、そこに一際大きなグールを見つけたのです。
「ここまで肥え太ったグールは初めてだ。さぞ死体には困らなかったようだなっ!」
そう言い捨て、早速ご主人様は斬りかかりますが、デカいだけでなく俊敏なグール、なかなか一筋縄ではいかないようです。
「きゃぁああ!」
そんな時、馬車から悲鳴が。見ると護衛はグールの群れにやられ、召使いは逃げ出し、今まさに馬車に乗るシャルロット様達が襲われようとしていたのです。
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