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第1話「グール」①

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 強い獣臭に腐敗臭、そして血の匂い。辺り一面に不快な香りが立ち込める中、2人の男が色黒で毛むくじゃら、背丈は子供程、腰が大きく曲がって前傾姿勢の醜い異形の怪物数体と戦っています。

「グキャャア!」

 叫び上げる異形の怪物共。立ち向かう男達が身につけるのは白いマントとサーコート、1人は短く刈り上げた金髪に赤く焼けた精悍な顔に碧眼に無精髭。肉体年齢は25歳でありながら、叫び声を上げ飛びかかってくるその怪物の攻撃を、身を翻しで避けながらすかさず剣で真っ二つにするほどの使い手。この方こそが、テンプル騎士団の修道騎士であり我がご主人様、レード様であらせられめす。少し……いや、大分変わったお方ですが、とある事情により致し方ない面もあるのかもしれません。

「コーディス!ボサッとしてないで背後の動きを教えろ!」

 おっと、レード様に怒られてしまいました。

「ギルバート様!背後に一体います!」

 もう1人の黒髪を短く刈り上げた30代のお方はギルバート様。同じく修道騎士であり、常に2人1組で行動するテンプル騎士団において、レード様の相棒です。私の声に応じて、背後の怪物の攻撃を咄嗟に横に飛んで避けました。

「すまんレード!」

 教えたのは私なのですが、ご主人様に礼を言うのは、私の楯持ちとしての手柄はご主人様の手柄なので致し方ありません。

 それからしばらくして、2人の修道騎士により怪物、グールは全て斬り伏せられました。

「ようやく終わりか……死体の散乱した 異教徒の襲撃跡というグール共の格好の食事場とは言え、街道からそう遠くない場所に出没するとは……」

「戦いのある所に死体あり、死体ある所にグールありだ。つまり今やこの聖地はグールばかりってことだな」

 ギルバート様の嘆きに、剣を収めながら答えるご主人様。相変わらず冷めてます。

「そのために俺たちテンプル騎士団があるんだろ。異教徒、野盗、そして怪物……やる事は尽きんな」

 1099年7月12日、聖地エルサレムが十字軍により陥落。結果、4つの十字軍国家が誕生しましたが、その領土のほとんどはパレスチナとシリアの沿岸部のみ。周囲はイスラム教徒、つまりサラセン人に囲まれており、領内の街道の安全すらままならないと言う状況です。その中で、後の初代総長ユーグ・ド・パイヤン様と8人の騎士達が無償での街道警備を買って出ました。そうして作られたのがキリストの貧しき騎士達、通称テンプル騎士団。今からおよそ20年前の事です。

 我がご主人様であるレード様は、かつて呪いにより心臓を失ってしまいました。今や大勢力となりつつあるテンプル騎士団に所属し、その失った心臓を取り戻すために活動していますが、それは私、楯持ちのコーディスとレード様、二人の秘密となっています。

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