廻

21

ラトヤは、島国の小さな神々の存在を知っていた。
メグライアが最後に黒い心力から、解放した小さな魂たちが、この神々の根源だった。

解放された事に喜び、メグライアが消えた事に落胆した。

メグライアの様に護りたい、その一心が小さな恩恵を与えられる者へと変化を遂げた。

ラトヤはその一部始終を長い年月の中、見守り続けていた。
大地の均衡が壊れない様に。



「こんにちは。
　僕、廻です。」

『今は、廻様ですね。
　気持ちの良い譜を我らに頂き、感謝いたします。
　オキ・ハルカの黒い、いや今はもうそれ以上に穢れた心力に立ち向かうべく、力を頂きました。
　我らの譜を捧げましょう。
　小さな力ですが、廻様のお力の一部へお使いください。』

光を帯びて、小さな神々たちは幾重にも重なり合う譜を歌った。

それぞれの譜は小さいが、重なり合う譜は強大な光の洪水になり、大地へと染み込んだ。

穢れた心力を入れないために。

「ありがとうございます。
　綺麗な譜ですね。
　これから、この大地は戦いの場になります。
　この力が、少しでも貴方方の為に使える様に頑張りますね。」

穢れた心力。
今の木村はもう止めようがなかった。
自ら堕ち、自ら穢れた者になった。

守るべきはこの地だけではなく、メグライアが愛するこの世界の全てを護らなければならなかった。

『やはり、戦いを躊躇されますか？
　愛する者を犠牲にしてまで、護られた我ら残された者たちの長い年月を、思い遣っては貰えませんか？
　アージェント殿の想いを。』

ラトヤを見た。
優しい微笑みで、廻を包む。

「はい、愚かでした。」

短い言葉に、廻はその意を決した。





森の宿泊地にいた人々は、この数時間の間に起こった奇跡に、メグライアとしての廻に心酔していた。

ドラゴンを従え、島国の神々さえも言祝ぎ、この大地は神の力で溢れていた。

伝え聞くメグライアの力を廻の中に見ていた。




「では、戦いのために、神の子として、貴方達を使うことをお許し下さい。」

『なんなりと、我らは貴方様の手足となりましょう』

廻は神々全てを抱きしめる様に、大きく手を広げた。
小さな神々が何十も集まり、光の球になった。

そして、新たな神を、三柱として創造した。

水を統べる神、火を統べる神、風を統べる神。

その姿は力強く、雄大だった。
それぞれが、白い髪、赤い髪、青い髪で、軍神として廻に膝をついた。

「我らの力、存分にお使いください」






王都ではなく、辺境ともいえる森の宿泊地で軍神が生まれたことは、すぐに隣国シュトーレスや島国のホレイスへと伝わった。

オルライエン国では、メグライアであることが証明されただけのことだ、と。
これで、三国協定への準備も有利なものとなった。
ただ、メグライアは不可侵であるということが協定の中にある、それなのに王弟殿下の伴侶でもある。

国王陛下以外は、難しい顔を隠せない宰相や主だった貴族たちだった。