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しおりを挟む歩けない廻の世話をして、風呂からでると新しい服が用意されていた。
ラトヤはかっちりした銀灰色のロングジャケットに、同色のパンツとベスト。
中のシャツは黒。
廻はその姿に見惚れた。
廻のは桜色のグラデーションで、裾にむかって銀灰色が使われているショートジャケット。
ボレロに近い。
パンツはラトヤと同じ銀灰色で、スリムな形だった。
「これは、誰が作るんですか?
すごく、ピッタリで」
「これは服飾部隊がつくってるんだよ。」
生まれたての子鹿状態の廻は全てラトヤにお世話され、また、縦抱っこで食堂へと向かった。
近いたのがわかる、いい匂いに、お腹がクゥゥ~と鳴って返事をした。
「ははは、早く朝飯だな。」
「すみません、こっちに来てからご飯食べてなくて、お腹がなっちゃいました。
恥ずかしい~」
そこで、ラトヤはギョッとした。
「あいつら、めぐに食べさせてなかったのか」
低く、怒気をはらんだのが分かった。
「ごめんなさい、僕、そんなにお腹空かないから、食べなかったの。
だから誰も悪くないです!」
「めぐ、ここは向こうの世界じゃない。
誰も、めぐを怒ったりしないよ。
ごめんね。
お腹が空いたら、ちゃんと言って。
ね?」
ちょっとだけ、潤んだ瞳をラトヤに向け微笑んだ。
食堂は、すでに食べ終わった者や、これからの者、途中の者でごった返していたが、2人が入った途端、水を打ったようにシーンと静まり返った。
「そのままで聞いてくれ、この子は異世界から戻られたメグライアの廻だ。
そして、私の伴侶となった。」
一瞬、皆は何を言われたかわからなかったように、反応が無かった。
「明日、此処を立つ
戦闘装備にて、王都へ廻を連れて行く。
隣国のシュトーレスとの戦場になりかねない、この場を護るものも必要だ。
命を賭して、ついてきて欲しい。
めぐの為に、頼む」
ラトヤが頭を下げて、その場にいた全員に真摯に目を向けた。
「めぐ、心を込めて、みんなが幸せになる様に、歌か祈りを捧げてくれないか?」
「僕、お祈りとか、歌とかした事ないけど、神様にお願いしてみます。」
口元あたりに手を組んで、目をつぶって小さく神様、と呟いた。
光の粒が無数に舞う様に廻を取り囲むと、部屋全体に広がり、もし、空から見ている者がいたら建物も、森も無数の光の粒に包まれたのが分かったはずだ。
初めて意思を持って使う心力は、強大だった。
誰もが、その姿に泣きそうな程魅入って膝をついた。
「僕の大好きな世界と人々が守るべき者を護り、愛すべき人を愛せる様にお願いします。」
目を開くと、金色の中にさらに桜色が混じり心力はそのまま土に、森に、水に、空気に人に、浸透した。
花開く様に、廻の纏う光が更に拡散すると、傷を癒し、病を治し、心を包んだ。
「めぐ、すごいなぁ」
「らーにゃ様、僕はこの世界が好きだから、この人達が大事だから、一生懸命お願いしました。」
瞬間、周りの空気が割れるくらいの歓声が上がった。
ビリビリと空気まで振動し、大地も震える様に振動した。
水は波紋を広げた。
「メグライア様!メグライア様!
我ら、命に替えても御身の為に戦います!」
ラトヤも破顔し、ジェラストも笑い、ロウナーも微笑んだ。
廻はロウナーを見つけると、その腕を伸ばし抱きしめた。
お母さんに愛してもらう子供の様に。
ロウナーも、その頭を撫で、目元に優しくくちづけた。
廻も嬉しくて幸せで、全身ですりすりとロウナーに抱きつき、大好きー、と笑った。
可愛くて可愛くて、ロウナーは自分の子供と宣言してしまえそうだった。
「ぉ、かぁさん」
小さく小さく呟くと、聞き逃さなかったロウナーは涙を流して、お母さんですよ、と抱きしめた。
小越も諏訪も初めてみた廻の心力に圧倒されたのと、ほんの少しだけ燻っていた黒い心力が全て払拭され、感覚的には2度と入り込めない様にラップで包まれたようだった。
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