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しおりを挟むラトヤは”兄上”に廻の報告をするため、書簡を作成していた。
特殊なもので、伝書と呼ばれる心力で内容をメールのように飛ばすので、本書は手元に残る形になる。
言った言わない、届いた、届かないもなく、受取人本人がその場で開封すると、特殊な書簡にサインが浮かび上がる仕組みだった。
ただ、一般的な物ではなく軍事にかかわる者や、最重要項目、秘匿事項など緊急の場合に使用されていた。
使用できる権限も、長がつく役職の中でも中枢にかかわる者だけの特権だった。
「廻は、私の伴侶になるのだから、兄上と義姉上にもそれを前提として紹介しなくては。
式は盛大にしてもらおう。
お前は安心して私に甘えていればいいからな。」
神経質そうな美形なのに、ちょっと?、大分面白い人だなー、なんてぼんやり廻は思っていた。
「ラトヤ様っておいくつなんだろう?
この世界の人って年齢が僕たちとは違うからな~
ご結婚されるのか~」
少し上を見ながら、ふふふって笑って、
「僕も頑張って帰らないとな~
小越君と諏訪君はどうするの?
木村君とお付き合いしてるなら、お迎えにいってあげてね。」
ふふ、と笑んだ。
廻の言葉を聞いていたのは、小越と諏訪だけだった。
小越と諏訪は廻の顔を盗み見ながら、ラトヤの発言がなかったことにされてるのに同情を禁じえなかった。
『けっこうきついな、おい』
伝書はすぐ向こうへ届きそして開封された。
ラトヤの出した本書の方にサインが浮かび上がり本人が受け取ってることを確認出来た。
廻はいつまでもベッドの中にいるわけにはいかないと、使わせてもらったブランケットを畳みながらそれに向かって、何かを小さく呟いた。
ギューッと抱きしめてから、また、ポンポンと形を整えて立ち上がった。
「シャモン様、僕の服はどこでしょうか?」
拘束を解いたとはいえ、小越と諏訪のことは監視対象としての扱いなので、シャモンや他の騎士が護衛として側にいた。
「廻様、王への謁見があると思いますので、まずは入浴でもどうですか?
着替えは用意しておきます。
あの辺りの輩が覗かないようにちゃんと警護しますよ~」
冗談とも本気ともつかない明るさで、場を和ませるシャモンに周りは救われていた。
これから木村の行動を予測すると、民衆を巻き込んでの戦争になりかねない。
要塞都市国家シュトーレスが木村によって惑わされていたら、どのような手段に出るかわからなかった。
廻には、自分の意志で心力を使って欲しいが、不可侵であるはずのメグライアの件を、三国協議なしに決定はできなかった。
まずは自国の王陛下と宰相との話し合いだった。
影を落としているのは木村の存在。
誰の心にも、木村のあの病的までな貪欲さが恐ろしかった。
廻が入浴を終えて出てくると、着替えが約束通り置いてあった。
薄い桜色と灰色のグラデーションで染められた長衣の下に、細身の同じ灰色のパンツ、中のインナーはハイネックの黒のカットソーが甘く女性的な雰囲気を引き締めてくれていた。
みんなの声がする方へ歩いて行くと、ロウナーが廻を見つけ手招きで廻を自分の前に座らせた。
「ちゃんと拭かないと、またお熱が出てしまいますよ。
少し、髪も整えましょうね」
まだ濡れている髪を、ロウナーが足の間に座らせて、拭いてゆく。
「気持ちいい。
こんな風に触ってもらうのって、初めてです。
気持ちいいんですね」
ロウナーの手に子猫が擦り寄るように少し傾けて、目を閉じていた。
熱を出せば、自分の体を抱えてひたすら耐える子供の情景が目に浮かんだ。
身体を丸めて、幼子が必死に寂しさや不安、恐怖を堪えてる姿が、鮮明にイメージできるほど、廻の何気ない言葉が重かった。
優しく髪を拭きながら、鼻歌まじりに子守唄をロウナーが歌えば、かくんと落ちるように静かな寝息を立てていた。
シャモンにブランケットを持ってこさせると、赤子が母から抱かれる時にするおくるみのように、廻を包み込んであげれば、ラトヤが軽々と抱き上げて自分の寝室に運ぶと言った。
そこで、ジェラストやロウナーから物言いが入りそうだが、この国で廻を庇護するには一番適任と言わざるを得ないのがラトヤだった。
この国オルライエンと同じ名を持つ、ラテューリャ=オルライエン王弟殿下その人だった。
「廻は私の庇護下に置き、伴侶とする。
この宣言は、王陛下並びに女王陛下の許可済みである。
廻本人から否やがない限り、恒久的に不動のものとする。」
「私は、承服したくありませんが、今は、・・・それしか。」
ロウナーが、ぎりぎりのところで我慢しているのがわかる。
「俺もだ。
だが、シュトーレス国が木村を庇護下に置いた以上、何があるかわからん。
国同士の問題にしようとしている以上、地位が無いと守り切れん。
だが、頼むから、無理矢理だけはするな・・・!
それだけは約束してくれ・・・!
廻が拒否しても、庇護下に置くと宣言してやってくれ。
今までの環境を考えれば、簡単に自分を手放してしまいそうなんだ。
・・・・頼みます。ラテューリャ=オルライエン王弟殿下。」
「当たり前だ。
私は、廻を愛している。
変わることなく、だ。」
廻が入浴をしている間に、伝書の返事が来た。
ラトヤの”兄上”である王陛下から。
シュトーレス国王より、メグライアである木村 聡を庇護下に置いたので、三国協議の開催を宣言してきたということだった。
それにより、メグライアである木村聡を侮辱及びいわれなき拘束をしたことの謝罪として、罪人上宮廻を差し出せと、親書を出してきた。
王から王への親書である。
問題は国家間へと発展してしまった。
ただ、逃げ道があった。
ラトヤが廻の報告と、伴侶宣言を伝書で送って来て、許可の返事を出してからの親書だったことが幸いした。
既に、ラトヤの伴侶として廻は公認されている以上、木村の地位より今は上だった。
木村がメグライアだとしても、三国協議で認められない限り、シュトーレス国の庇護下にある人物なだけで、侮辱罪は問われない。
廻の地位は、オルライエン国の法律で、王位継承権が発生していた。
いわれなき拘束に関しては、こちら側に小越と諏訪がいる限り証言として問題にはならない。
伴侶の宣言にしても、伝書で出すときに伴侶の報告をすると声に出して宣言されていた。
そして、伝書の素晴らしいところは開封のサインが受け取り時間も含めて出ることだった。
これ以上の証拠はない。
後は、廻の返事だけである。
もし否やを宣言したとしても、それは解消されるということだけで、庇護下に入ることは変わらない。
屁理屈の押し問答をするだけである。
それに、木村はメグライアではないことはジェラストやロウナー、シャモン以下の騎士団連中からの証言がある。
むしろ、廻の心力がメグライアその人だと告げていた。
それでも、木村の存在がジェラストも、ロウナーも恐ろしく感じていた。
底なし沼のような、からめとられてしまったら抜け出せないような、どす黒い何かを感じていた。
-.-.-.-..-..-.-.-.-...-.-.-.-...-.-.-.-.-.-.-...-.-.-.-.-.-.--
エロ場がないと、進みが悪いのはなぜだろう・・・・
次話、廻もいよいよか?!
と、ちょっと期待してます。
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