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しおりを挟むジェラストは、何かがおかしい気がした。
『違和感』が、頭を過ぎる。
何が、とは言えないが周りの反応が余りにもおかしかった。
そして、何故か自称メグライア木村に嫌悪感しか抱けなかった。
「とにかく、王宮へ帰還する!
全員、騎乗せよ!」
それぞれのドラゴンに騎乗しようとしていると、木村はジェラストに向かって当然のように一緒に騎乗しようと、横に並んだ。
「ロウナー!
こちらをお前が面倒をみて差し上げろ!
俺は、廻様を同乗して王宮へお連れする!」
最初に現れた時の組み合わせを指示した。
「しかし、聡様は隊長と同行する事を要望しておられます。
メグライア様を帯同されるのは、隊長の役目では?」
ロウナーと呼ばれたのは、木村を乗せてメグライアだと決めつけた隊員だった。
そして、木村の意向を汲むようにジェラストに意見した。
木村はクスクスと笑いながら、ジェラストの腕に、自分の腕を絡ませた。
「ね、お願いです。
僕、貴方に守って欲しいんです。
ダメ、ですか?」
木村はジェラストの眼をじっと見つめた。
「っ! ・・・
わ、かった、廻様を、ロウナーに。」
ジェラストは口に出してから、はっとした。
まさか、自分が承諾するはずがないのに、騎士としての叩き込まれたマナーのせいか、と。
一度出してしまった言葉は、飲み込む事が出来ず、不承不承ながら自分のドラゴンに同乗させる事にした。
「あ、あの、すみません。
僕は、行かなくていいです。
その、木村君が皆さんの探してる方のようですし、関係ないのに着いて行くのもご迷惑でしょうから、歩いて帰り道を探します。」
一人蚊帳の外だった廻が、ジェラストとその周りの隊員に声をかけた。
「いや、待て!
何でそうなる!
まだ、メグライア様だと決まったわけじゃない!」
ジェラストは廻の言葉に狼狽た。
まさか、行かないとか、異世界から来たのに歩いて帰るとか!
ありえない事を言い始めたからだ。
「あぁ、上宮君、一人にさせてしまった上に、何だか君を、聡の事情に巻き込んでしまってごめんよ。
俺たちは聡のパートナーだから当たり前だけど、君には事故だったよね。」
小越が格好をつけながら、何故か巻き込み事故だと言い始めた。
「うーん?
まあ、確かに事故、ですね。
貴方方とまた、遭遇してしまいましたからね。」
トゲのある言い方をしながら、ふふ、と廻は口元に笑みを刷いた。
その言葉に少なからず、小越と諏訪は言葉に詰まってしまった。
廻の本心は、『別に、どうでもいいんだけど。』である。
だが、校門での出来事を忘れたわけではないし、始まらなかった恋なんてこの世には五万とある。
それに、あんなに焦がれた人が間違いなく残念な人にしか見えなくなっていたからか、心の底から、どうでもいいのであった。
ざわつくのは、木村の言動。
でも、見たくなかった。
目の前で、ジェラストに腕を絡み付ける仕草や、可愛らしく笑って庇護してほしいと訴える事にも、イライラとさせられた。
「そうだね、上宮君は来ない方が良いかも。
だって、僕は必要とされてるから良いけど、君、何も出来ないよね?」
本当に分からないと言ったように、小首を傾げて、行かないとか言う廻の意思を肯定した。
「なら、そう言う事で。
さあ、ジェラスト様、行きましょう。
連れていってください。」
木村は、ジェラストを促した。
「だから、あんたがメグライア様だと決まったわけじゃねーよ!
何度も言わせんなよ!」
ジェラストは、先程からの違和感と不快感で、やたら絡みついてくる木村を怒鳴り、牽制した。
「廻様、頼みますから来てください。
貴方様しか、私にはメグライア様だと思える方はいないんです。」
ジェラストは廻の細い両肩を掴み、そのまま抱きしめた。
「?!」
「!!!」
廻は何が起こったのか理解できずに硬直し、周りはギョッと目を見開いて、凝視した。
「ち、ちょっと!
はな、してください!」
意識を取り戻したように、廻はジェラストの腕の中で暴れた。
「いや、無理!
無理です!
離せません!
こんなに、良い匂いしてて、無理ですよ。」
甘い笑顔がより一層甘く、廻に向けられた。
ジェラストは、廻の髪を手で梳き顔を出させてしっかり確認すると、うん、やっぱり、と頷きまた、髪を元に戻した。
ジェラストの奇行に関心がいってしまい、誰も廻の顔立ちを見てはいなかった。
また、見ていても、何故かどんな顔だったかハッキリしないのであった。
「申し訳ないが、自称メグライア木村様、やはりロウナーと同行してください。
騎士として口に出した言葉を撤回するのは些かどうかと思うが、私ジェラストの矜恃が、護りたい人を護れないのは許せませんから。」
その腕に廻を抱きしめたまま、木村を見ながらアイスブルーの瞳で笑って見せた。
「ぶっ!
あっはっはっは!
ひっ、ひっ、酷!
ぷっ、くく、くっ!
ひっひっひ!」
廻がジェラストの言葉を聞いて吹き出した。
盛大に、肩を震わせながら、我慢してられないと言うように。
「ひー、ひー、もー、お腹痛い!
背中も痛いよー!
笑いが止まんないよー!
どこのリングネームだよ!
あっはっはっは!
じ、自称って!」
この世界の住人たちは、ポカーン(・Д・)である。
とうとうしゃがみ込んで、体を丸めて笑ってしまった廻に、ギリリと音がしそうなほど唇を噛んで握り込んだ拳をぷるぷると震わせながら、木村は睨みつけた。
「そういや、そんな、キックボクサーかなんかいたよね? ぷぷっ!
自演乙だっけ? ふー、おさまってきたよ。
あ、意味合いは一緒だねw」
廻のトドメが炸裂してしまった。
小越も真っ赤になりながら、ものすごい形相でプルプル震えていた。
諏訪だけが、ん?と考え、あー、なるほど、と手を打つ仕草で納得していた。
そしてジェラストは、笑い転げる廻を愛おしげに見つめていた。
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