モーレツ熊

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突風に巻かれた桜の花びらは、廻を包むように同じ空間を揺蕩っていた。
赤子が胎内で眠るように、体を丸める廻を胎で育てなおすかのように。

そして、規則的な呼吸に合わせるように、ゆっくりと、そしてその体は少しずつ色を変えていった。


日本という国で平凡や地味と言われていた上宮廻かみみやめぐるが、この世界では違うのだと言うように、
つややかに瑞々しさをのぞかせながら新芽が芽吹くように、理と理と離れた者の祝福を受けていた。

廻は懐かしい声を耳の奥で聞いていた。

『メグライア様・・・メグライ・・、様?』

-------懐かしい声・・・誰かの名前を呼んでる?・・・-------

呼びかけてくる声は、懐かしい音で体中に響くと、廻の意識を少しずつ深海から浮上するように、体と意識が一つになっていった。
明るく温かい光が焦点の合わない瞳に差し込まれ、なんだか痛いと思う寸前のような感覚に何度も目をしばたたかせた。


やっと瞳が明るさに慣れ、焦点が合うと周りが懐かしいような悲しいような、日本のどこかではない景色が広がっていた。

「こ、こは?」

誰に聞くとはなしに、廻は声に出していた。

廻が起きた場所は、観たこともない色の草花が咲き乱れていたが、どこか物淋しい場所だった。
周りを見渡してみると、だいぶ遠くに白く大きな建物がみえた。
形は、ガウディのような異国を思わせるが、だいぶ材質が違うように思えた。

遠くから見ても、壁が光を反射してキラキラと光るところがあるし、窓のようなものはあまり見えなかった。

ーどうしたら・・・、ここ、どこ?
 でも、見たことがある様な気もするし。-

廻は、記憶のどこかでこの場所を知っている気がした。
慌てることもなく、なぜかぼんやりとしていた。


『メグライア様!』

その時、いきなり頭に誰かの名前を叫んでいる声が響いた。

「えぇ?!
 何?!
 誰?!」


慌てて周りを見たり、頭に直接響く声に、どこか自分がおかしくなってしまったのかと、
この時初めて廻は慌てていた。

急に頭上に影がさし、上を見上げると、ファンタジー漫画に出てきそうなドラゴンが
爬虫類の翼をはためかせて、急降下してきていた。

「!!!!」

『メグライア様!ご無事で!』

また頭に響く声が誰かの安否を心配していた。
廻は、他の誰かを探してみるも、そこにいるのは自分ひとりだけで、
降りてくるドラゴンにどうしたらいいのかわからずに、きょろきょろとするだけだった。

逆光になっていたために見えなかったが、廻の立つ地上へ近づいてくると、
ドラゴンの全貌が見え、その背中にはアッシュグレーの髪色を持った人物が、
立ち上がり気味にドラゴンの手綱を持っているのが見えた。

口をぽかんと開け、降りてきたドラゴンの大きな体躯と、精悍な顔つきを見つめていた。

着地する半ばで、ドラゴンの背中から飛び降りてきた人物は、
これまた、お約束な美丈夫で廻の頭2個分は背が高かった。

「メグライア様、よくぞお戻りで。
 我らはお帰りを心待ちにしておりました。」

美丈夫は膝をつき、廻の前に頭を垂れた。

「い、や、あの、
 えー?!」

ぼんやり地味目な廻にしては珍しく、大きな声を上げていた。

「メグライア様?
 どうなさいました?」

顔を上げて、美丈夫は廻を見上げた。
その顔は、ファッション紙に絶対いそうなほどの美形で、甘く口元を緩め微笑んでいる。
服装も、そのままランウェイを歩けてしまうんじゃないかと思える程、スーツの様なかっちりした中に、ふわりとしたシフォンが、襟の合わせから斜めに流れていた。

廻は、焦りと照れで何をどうしてこの美丈夫がホストの様に、膝をついてるのか聞くのも忘れて、ただ赤面するしかなかった。

「ぽ、僕は、メグライアさんじゃないですっ!」

やっと出た言葉は、人違いだ、と言う事だけだった。

「いいえ、貴方様は間違いなくメグライア様です。
 我らが神オライア様の唯一の愛し子です。」

「僕、メグライアって名前じゃないです。
 上宮 廻です。
 めぐる、が名前です。」

「めぐる、メグライア、似てるじゃないですか。」

笑みを含んだ声で、美丈夫は応えた。

ーダジャレじゃないんだからー

そんな押し問答をしていると、また、ドラゴンの一団が上空から現れた。

美丈夫のドラゴンの隣に降り立ったのは、一回り小さいドラゴン達が5体、その背中には美丈夫と微妙に違うデザインの服を着た、5人の男性達で、やはり身長も高く整った顔立ちだった。
そして、その後ろからは、校門前で見えなくなった、3人が顔を覗かせていた。

「き、むらくん、たちも?」

廻は見知った顔にホッとはしなかった。
むしろ、二度と会いたくないくらい、心は拒絶していた。

ひょこっと、飛び出す様に、木村が廻の前へ出てきて、膝をついている美丈夫に潤んだ瞳を見せながら、儚く笑って見せた。

おもむろに美丈夫は立ち上がると、どう言う事かと後ろの一団に顔を向けた。

すると、木村は美丈夫の右手を取り、自分の胸のあたりで両手で握り締めた。

「僕、聡です。
 知らないところに来て、すごく不安で。
 でもきっと、僕が来た意味があると思うと、怖くても貴方が一緒なら頑張れると思うんです。」

木村の事を応援する様に、小越と諏訪までが美丈夫の前へと出てきた。

「ここに来るまでに、神オライア様の愛し子メグライア様の話を聞きました。
 身体的な特徴を聞いて、聡のことだと確信したんです!」

小越が、美丈夫に向かって少し興奮気味に声を上げた。

「見るもの全てを優しく包み、その行いは静謐で、姿は美しくそして、強さを持ち合わせているでしたよね。
 いきなり知らない場所に来て、助けて下さったこのドラゴン騎士団の方々が、聡を見て、メグライア様だと教えて下さいました。」

得意気に小越が語ると、後ろの一団は口々におぉ、と歓声をあげていた。

ただ1人、美丈夫だけは感情の読めない表情のままだった。





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