上 下
1 / 1

おらたちからの遺言

しおりを挟む
おら、お父さんやお母さんのこと、よく覚えてないんだ。
小さい頃に、はぐれちゃったのか、道ばたにひとりでいたんだって。

「キジトラのちっち」って名前を付けられて、おばさんがいつもミルクをくれてた。
まだ小さかったけど、それはしっかり覚えているよ!

だけど、そこには先におらの先輩が住んでいて、ミルクを飲まなくなった頃に一緒には暮らせないんだって知った。

少しして、おばさんと知らないおうちに行った。
優しそうなふたりの女の人がいて、おらのシッポを見て少し驚いていた。
これ、ボブテイルって言うんだよ!
かっこいいでしょ!って自慢したのを覚えてる。

おばさんはひとりで帰ってしまって、その日からここがおらのおうちになった。
おらは「ちっち」から「たろ」って名前に変わった。

ふたりの名前は「たーこ」と「にゃーこ」って言うんだって。
へんてこりんな名前だなぁって思った。
ふたりは喧嘩をする時もお互いのことをそう呼びあっていて、自分のこともそう呼んでいて、すごく面白いなぁと思った。

おらは、茶色い毛布をかけているふたりのお膝にのっておっぱいを飲むのが大好きだった。
あとはね、いつも「変なの」って笑われるけど、足の先で首を強く撫でられるのが最高に大好きなんだ!

お昼間はほとんど「たーこ」と一緒で、小さなぬいぐるみを持って行くと何回も投げてくれて遊んでくれた。
咥えて持っていったら嬉しそうに褒めてくれるから、おらって多分天才だと思う。

2年くらい過ぎた頃には、おらの体も大きくなって「……たぬき?」って少し戸惑わせてしまった。
「にゃー」って鳴くし、猫だと思ってるけど……
まぁ、どっちでも幸せだからなんだっていいや!

ある日、何やらヌルヌルした動きのちっこいのがやってきた。
そいつは「ハチワレのゆに」って呼ばれてた。
元々は「どら」だったんだって。

おらはそいつに興味津々で、たくさん匂いを嗅ぎに行った。
ものすごく臭くて、ふたりが楽しそうにお風呂でゆにを洗ってたのを今でも思い出す。

ゆには、初めてのおうちで怖がってたから「ふたりはすっごく優しい人だから大丈夫だよ」って言ったけど、丸くなってるだけだった。

ケージの外から、ちゃんとご飯とお水を飲んでるか定期的にチェックしに行った。
ふたりは「たろもゆにも、シャーって言わなくてえらいね」って褒めてくれた。

威嚇なんてするわけないよ!
だって、ゆにも家族になったってことでしょ?
だったら、おらはゆにの「お兄ちゃん」だもん!

何日かウネウネして、だんだん動くようになったなぁって見守ってたら、ふたりがゆにをケージから出したんだ。
ゆにのシッポを見て驚いた!
おらと同じ、ボブテイルだったんだ。

おらたち、なんだか似てるって思ったらますます仲良くなりたくなった。
ゆにもおらたち家族にどんどん心を開いていって、一緒に走り回ったりして遊べるようになった。

おらはお兄ちゃんだから、ゆにの前でふたりに甘えるのは少し恥ずかしくなって昔みたいには甘えなくなった。
ゆにをいっぱい舐めてあげて一生懸命お兄ちゃんをしたよ!

たまに喧嘩になるけどすぐ仲直り。
だって兄弟だからね!
なによりおらは、ゆにのことがすごく好きなんだ。
ゆには自由気ままな性格だから、おらがその分しっかりして守ってあげなくちゃって思うんだ。

気付けば、おらがふたりの家族になって、5年近くになっていた。
ふたりは普段とっても仲がいいんだけど、たまに喧嘩をしているのを見ると不安になるんだ。
このままみんなバラバラになっちゃうんじゃないかって。

でも、ふたりは必ず仲直りをして、おらにはちょっと難しいけど、たくさんの試練を乗り越えてきたんだ。

おらはゆにのことも大好きだけど、お父さんとお母さんを知らないおらにとっては、ふたりがお父さんとお母さんなんだ。

ふたりの笑い声を聞くと、とても嬉しくなる。
ちょっぴりうるさいけど、何故かその声を聞くと安心して眠れるんだ。

ふたりの喧嘩の声を聞くと、とても悲しくなるけど「ふたりなら大丈夫、仲直りできるよ」っていつも応援してるんだけど届いてるのかな?
応援してるのは、ゆにだって同じだよ!

ゆにってば、いつもはすごくマイペースなのにふたりの喧嘩の時だけは「早く仲直りできますように」って、一生懸命お祈りしてるんだ。
寝てるだけに見えるだろうけど、おらにはちゃんとそう聞こえてる。

おらたちだって何回喧嘩したって最後は仲直りするし、ふたりもおらたちもずーっと一緒にいれるって信じてるよ。

ある時、「たーこ」の大切な妹がお空に行っちゃったんだって。
白と茶色と黒い毛皮……
三毛猫っていうらしい。
とーっても美人だったらしい。

約20年一緒に育ってきたって。
おらとゆにみたいに、兄弟だったんだね。
悲しそうな表情をして泣いてる「たーこ」を励まそうとしても、日に日に体調は悪くなっていった。

そんな「たーこ」に、「にゃーこ」は妹を描いた絵をあげたり、ぬいぐるみをあげたりして、おらたちと一緒に元気づけようとすごく頑張ってたんだ。

だけど「たーこ」の体調は安定しなくて、そのうち「にゃーこ」もそんな「たーこ」を支えるのに疲れちゃったみたい。

おらたちがふたりを好きなように、ふたりとも好き同士なのは伝わってくるのに、また喧嘩……

「お兄ちゃん、ふたりとも大丈夫だよね?」ってゆにが不安そうに聞いてくる。
何も気にしてなさそうなゆにだけど、本当はすごく怖がりで、おらと同じくらい甘えん坊で、「ずっと4人一緒がいい!」っていつも言うんだ。

おらだってそう思うよ。
朝飛び乗って「にゃーこ」を起こすのがおらの日課だし、足でガシガシするのは「たーこ」が一番なんだ。
最近はゆにもガシガシにハマってるみたい。

ゆには、自分のお皿がすぐ横にあるのに、おらがおやつを食べてる時に何故か奪いにくるんだ。
いつもみたいに「仕方ないなぁ」って譲ってあげたあと、ふとこんな事を言ったんだ。

おらたちが家族とはぐれてしまったのは「たーこ」と「にゃーこ」の元に来るためだったんだねって。

本当にそうだと思った。
きっとおらたちが今一緒にいるのは、偶然じゃないんだって思ったんだ。

おらたち、病院代とか掛からないようになるべく元気で居続けるし、お留守番の時だって良い子にするし、ふたりが苦しい時は癒しになれるように頑張るよ。

だからさ、お願い。
絶対絶対長生きしてみせるから。
どうかバラバラにならずに最期までおらたちと仲良く過ごして、幸せな思い出をもっともっと作らせてほしいな。

きっと、人間のふたりより先にお空に逝ってしまうと思うけど、おらたちの最期を見送ったあとも仲良く一緒にいてほしいんだ。

だってね、いつかふたりがおらたちの所へ来た時にふたり一緒にいなかったら、おらたちお空から見守ってたのに「やっと会えたね!」って4人で言えないでしょ?

おらとゆには、本当に「たーこ」と「にゃーこ」のことが大好き。
「ちっち」から「たろ」になって、「どら」から「ゆに」になったけど、おらたちはこの名前とっても気に入ってる!

だから死ぬまでこの名前でいたいんだ。
ふたりが付けてくれたこの名前で、生き抜きたい。

おらかゆにか、どっちかが先にお空に逝ってしまった時、きっとふたりだけじゃなくて、おらたちもすんごく寂しいと思う。
その時はふたりでおらたちのことを支えてほしいな。

みんなで泣いて、いっぱい思い出話して、たっくさん撮った写真を見ながら先にお空に逝っちゃった方のお話をしてほしいんだ。

おらは、ゆにを失うのも、ふたりを失うのもとってもこわい。
おらたちにとって、「たーこ」と「にゃーこ」だけが唯一の家族だから。

お迎えが来た時は、ふたりの声を聞きながら眠りにつきたいな。
最期までその大好きな声で、大切なおらの名前を呼んで欲しい。

そうしたら痛みや苦しみも、少し紛れるんじゃないかなぁって。
それくらいふたりのことが好きで、本当は出来ることならずーっとそばにいたいんだ。
もしもの時は、たくさん触れて、冷たくなっちゃっても怖がらずに撫でてほしいな。

「たーこ」へ
ちょっぴり自分に余裕が出来た時には、「にゃーこ」のことに目を向けてあげてね。
「にゃーこ」はたまに投げやりになっちゃったり、溜め込んじゃうところがあるから。

「にゃーこ」へ
「たーこ」は「にゃーこ」にたくさん感謝してるけど、それだけじゃ足りないと思う時があるの、おらは知ってるよ。
そんな時は、もっと素直に「たーこ」を頼るといいよ。
絶対に「たーこ」は「にゃーこ」を見捨てたりしないよ。

おらたち、ふたりのこと大好きでずっとずっと見てるから色んなこと知ってるよ。
何がおもしろいんだろう?って思うことでいっぱい笑ってるふたりがとても大切だよ。

おらたちは一生ふたりの味方だよ。
ふたりに出会えて、こんなに幸運なのってやっぱりおらたち天才だと思う。

「たーこ」、「にゃーこ」。
これからも4人でずっといてください。
家族にしてくれて本当にありがとう。
そして、おらたちの最期を支え合って見送ってね。

ふたりも絶対に長生きしてね!
来世でもまた巡り会えるように、おらたちがお空から見守ってる間もちゃんと仲良くいるんだよ!
絶対だよ!約束だよ!!
喧嘩しても「ごめんね」っていえば、おらたちみたいに仲直りできるから。

いつかの時まで、いっぱい写真撮って、たくさん話しかけて、なでなでとガシガシと、美味しいおやつをお腹いっぱいください。

忘れないで。
ふたりなら大丈夫、4人なら最強!



これが、
おらたちからの遺言。




しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ひいちゃん
2024.07.27 ひいちゃん

「みけとが夜々」先生、おっは~!(*´▽`*)b
「RBFC」女子部の「ひいちゃん」でーす!

3日遅れで「新作」を読ませてもらいましたよー!
今回は写真付きで超ラブリー!(〃▽〃)ポッ
仲良さそうでいいですねー!💓
早速、RBFC女子部メンバーと赤井先生、「あーくん」さんたちに連絡しておきまーす!

今回は「ゆるーく」読めてよかったです。
ネコちゃん達の「気持ち」がリアルに伝わりました!
「ネコ」は愛されて「なんぼ」の家族ですもんねー!

私事ですが、「おじさまと猫」っていう、ペットショップで売れ残った「ぶさネコ」ちゃんと、ダンディーで優しいおじさまのマンガにはまってます!
凄く、癒されるマンガですよー!
「みけとが夜々」先生は読まれた事はありますかー?
「絶対」のお勧めです!

あと、ネコものマンガでは、NHKでアニメ化された「夜回り猫」もね!
「死ぬのを待つ」しかなかった「子猫」を、主人公のネコがみんなの反対を押し切って育てる話なんか「超好き」!
「失っていい命」なんか一つもないですよねー!
あっ、脱線!
(。-人-。)

また、ネコちゃんの話待ってますねー!
コラム連載してもらうと閲覧ポイントも上がって、ランキングも上位になって、更にたくさんの人に「真実」を知ってもらえる機会になっていいと思いまーす!
「エッセイ・ノンフィクション」カテは閲覧数も多いからいいと思いますよー。
好き勝手言ってすみませーん!m(__)m
「みけとが夜々」先生、ぱにゃにゃんだー!
(⋈◍>◡<◍)。✧💓

みけとが夜々
2024.07.27 みけとが夜々

ひいちゃん様
感想ありがとうございます!
こう思っててくれたら嬉しいなという思いも込めて、書いてみました(笑)

その漫画は読んだことないですねー💦
タイトルからして惹き付けられますね👏🐈
「夜回り猫」の方はタイトルだけ耳にしたことがあります!

今回の作品は確かにノンフィクションではありますが、エッセイでもないかなぁ?と思い児童書にジャンル分けしました😅
またコラムの方も内容が思いつきましたら考えてみたいと思います!
ぱにゃにゃーむฅ^•ω•^ฅ

解除

あなたにおすすめの小説

とげとげウィリー

一花八華
児童書・童話
誰かを傷付けてばかりのハリネズミの男の子のお話。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

三途の川のほとり住まい

よつば 綴
児童書・童話
賽の河原の石積みを邪魔する鬼は、三途の川のほとりに住んでいる。 自分が何者かを知らない鬼は、記憶の石を探しに行く。 全てを思い出した時、その結末がハッピーエンドと言えるのだろうか。 ୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧ 一見、悲しい結末を迎えたように思いますが、それが主人公にとっては悲しい結末だったのか。純粋に望んだ結果が、果たして正解だったのか。そういった、多方向からの見方をできる作品に仕上げました。 とある賞に応募して、最終選考まで残していただいた作品です。 5才の子供に読み聞かせて気に入ってくれたお話です。読んでくださった方の心にも刺されば嬉しいです。 匿名での感想やメッセージなどはコチラへ💌 https://ofuse.me/e/32936

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

神社のゆかこさん

秋野 木星
児童書・童話
どこからともなくやって来たゆかこさんは、ある町の神社に住むことにしました。 これはゆかこさんと町の人たちの四季を見つめたお話です。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ この作品は小説家になろうからの転記です。

彼の愛は不透明◆◆若頭からの愛は深く、底が見えない…沼愛◆◆ 【完結】

まぁ
恋愛
【1分先の未来を生きる言葉を口にしろ】 天野玖未(あまのくみ)飲食店勤務 玖の字が表す‘黒色の美しい石’の通りの容姿ではあるが、未来を見据えてはいない。言葉足らずで少々諦め癖のある23歳 須藤悠仁(すどうゆうじん) 東日本最大極道 須藤組若頭 暗闇にも光る黒い宝を見つけ、垂涎三尺…狙い始める 心に深い傷を持つ彼女が、信じられるものを手に入れるまでの……波乱の軌跡 そこには彼の底なしの愛があった… 作中の人名団体名等、全て架空のフィクションです また本作は違法行為等を推奨するものではありません

【完結】イタズラ大好きケントくんと不思議なペン

衿乃 光希
児童書・童話
イタズラが大好きなケントくんは、ママやパパをよく困らせています。 せっかく遊園地に遊びに来たのに、妹のキヨカちゃんに合わせるので、ケントくんは不満を溜めこんでいました。 ひとりでトイレに来たケントくんは、不思議なペンを手に入れました。 描くともこもこと風船みたいにふくらみます。 花やねずみを描いて楽しくなったケントくんは、大作にいどむことにしました。後に大騒ぎになってしまうのに―― 第2回きずな児童書大賞にエントリーしています。全9話で完結します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。