14 / 19
14. 突きつけられる選択
しおりを挟む
帰路に着いたのは翌朝だった。
心配そうに出迎えたリリーナを抱き寄せた。
「遅くなって悪かった。…薬草の……代償の情報を探してきた」
ハオルドの胸に抱かれながらリリーナは静かに頷く。
「あの薬草は"サクリファイス"という名らしい。犠牲や生贄という意味だ。青い目が摘むと目が見えなくなり、不老が摘むと生きてきた齢の体になるらしい。…普通の人間が摘むと、薬効が消える上に即死だそうだ……」
リリーナへ嘘偽りのない情報を伝えたのは、牧師の先祖のように何も知らないリリーナが薬草を摘んでしまわないかという懸念と、どちらにせよ80年生きてきた自分はリリーナと過ごせる時間が後10年ほどしか残っていないと分かっていたからだ。
リリーナはそれを聞き、即答した。
「薬草は、私が摘む。いきなり80歳の老人になるよりマシだろう?」
「忘れたのか?俺は不老であって、不死ではない。齢は変わらないんだ。平均的な寿命と同じと考えれば不老のままでも生きられるのは後10年ほどだろう。この先何十年生きていくリリーナを失明させる訳にはいかない」
忘れていた訳ではなかったが、こんなにもはっきりとハオルドの寿命という現実を突き付けられ、リリーナはこれから話そうとしていた事を伝えるべきか迷っていた。
しかし、ハオルドも真実を伝えてくれたのだ。
リリーナは少しの沈黙の後、口を開いた。
「永遠の愛を誓ったんだ。死せる時も共にと。ハオルドがこの世を去ったら、私だけなら迷わず後を追うだろう。……私だけなら」
「ん…?何が言いたいんだ?」
「赤ん坊が出来たんだよ、私たちの」
「本当か?!こんなめでたいことがあるか!」
ハオルドは大喜びしたが、リリーナの顔は曇ったままだ。
「私もこの子も、ハオルドと共に生きられるのは後10年ほどなのか?」
ハオルドは挙げていた両手をゆっくりと下げ、リリーナを優しく抱き締めた。
「例えば俺たちの子供が10歳になる頃、父親は天に召され、母親は目が見えないともなってみろ。あまりに可哀想じゃないか。リリーナには子供の成長を見ていてほしい。俺の最期の時も、俺を見ていてくれないか?」
やっとの思いで芽が出た薬草。
愛する人との子供を身篭ったという、こんなにもめでたく待ち望んだ瞬間であるというのに、二人に突き付けられた現実はあまりに残酷なものであった。
心配そうに出迎えたリリーナを抱き寄せた。
「遅くなって悪かった。…薬草の……代償の情報を探してきた」
ハオルドの胸に抱かれながらリリーナは静かに頷く。
「あの薬草は"サクリファイス"という名らしい。犠牲や生贄という意味だ。青い目が摘むと目が見えなくなり、不老が摘むと生きてきた齢の体になるらしい。…普通の人間が摘むと、薬効が消える上に即死だそうだ……」
リリーナへ嘘偽りのない情報を伝えたのは、牧師の先祖のように何も知らないリリーナが薬草を摘んでしまわないかという懸念と、どちらにせよ80年生きてきた自分はリリーナと過ごせる時間が後10年ほどしか残っていないと分かっていたからだ。
リリーナはそれを聞き、即答した。
「薬草は、私が摘む。いきなり80歳の老人になるよりマシだろう?」
「忘れたのか?俺は不老であって、不死ではない。齢は変わらないんだ。平均的な寿命と同じと考えれば不老のままでも生きられるのは後10年ほどだろう。この先何十年生きていくリリーナを失明させる訳にはいかない」
忘れていた訳ではなかったが、こんなにもはっきりとハオルドの寿命という現実を突き付けられ、リリーナはこれから話そうとしていた事を伝えるべきか迷っていた。
しかし、ハオルドも真実を伝えてくれたのだ。
リリーナは少しの沈黙の後、口を開いた。
「永遠の愛を誓ったんだ。死せる時も共にと。ハオルドがこの世を去ったら、私だけなら迷わず後を追うだろう。……私だけなら」
「ん…?何が言いたいんだ?」
「赤ん坊が出来たんだよ、私たちの」
「本当か?!こんなめでたいことがあるか!」
ハオルドは大喜びしたが、リリーナの顔は曇ったままだ。
「私もこの子も、ハオルドと共に生きられるのは後10年ほどなのか?」
ハオルドは挙げていた両手をゆっくりと下げ、リリーナを優しく抱き締めた。
「例えば俺たちの子供が10歳になる頃、父親は天に召され、母親は目が見えないともなってみろ。あまりに可哀想じゃないか。リリーナには子供の成長を見ていてほしい。俺の最期の時も、俺を見ていてくれないか?」
やっとの思いで芽が出た薬草。
愛する人との子供を身篭ったという、こんなにもめでたく待ち望んだ瞬間であるというのに、二人に突き付けられた現実はあまりに残酷なものであった。
20
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

【完結】気弱だと思ったあなたは全く違ったのね。あなたに会って生活が一変したの。
まりぃべる
ファンタジー
この国スパーランスには、闇物が出る。
それは闇から、稀に煙のように現れるとされ、見つけた生き物を飲み込むと消滅するとされる。
だから皆、家の中では火を絶やさない。
私、ミラーフィス。
薬草師をしながら山で生活をしている。
しかし、ある男の子と出会って生活が一変する。
その男の子は実は…。
☆間違って、完結ボタン押していたみたいです…。
15話で完結しますので、読んでいただけると嬉しいです。
☆この作品の中での世界観です。現実と違うもの、言葉などありますので、そこのところご理解いただいて読んでもらえると嬉しいです。

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。
貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや……
脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。
齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された——
※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

聖女は聞いてしまった
夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」
父である国王に、そう言われて育った聖女。
彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。
聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。
そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。
旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。
しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。
ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー!
※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

【完結】転生したらもふもふだった。クマ獣人の王子は前世の婚約者を見つけだし今度こそ幸せになりたい。
金峯蓮華
ファンタジー
デーニッツ王国の王太子リオネルは魅了の魔法にかけられ、婚約者カナリアを断罪し処刑した。
デーニッツ王国はジンメル王国に攻め込まれ滅ぼされ、リオネルも亡くなってしまう。
天に上る前に神様と出会い、魅了が解けたリオネルは神様のお情けで転生することになった。
そして転生した先はクマ獣人の国、アウラー王国の王子。どこから見ても立派なもふもふの黒いクマだった。
リオネルはリオンハルトとして仲間達と魔獣退治をしながら婚約者のカナリアを探す。
しかし、仲間のツェツィーの姉、アマーリアがカナリアかもしれないと気になっている。
さて、カナリアは見つかるのか?
アマーリアはカナリアなのか?
緩い世界の緩いお話です。
独自の異世界の話です。
初めて次世代ファンタジーカップにエントリーします。
応援してもらえると嬉しいです。
よろしくお願いします。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる