上 下
9 / 13

9. 宣戦布告

しおりを挟む
 仁を上から下まで舐めるようにして見つめる声の主を見て、龍馬は驚きを隠せず思わず走り寄った。

「武市はん!こがなとこで何しゆうがじゃ?!元気にしよったがかえ?!」

 声の主は、龍馬が東京へ来ることを聞きつけ待っていた、武市半平太たけちはんぺいただった。
 武市は、かつて『土佐勤王党とさきんのうとう』を結成し、龍馬と共に幕府に対抗していた人物だ。

「龍馬、皆も待っちょったぜよ」

 武市は、日本が近代化に進んでいく中で、武士道を捨てきれない数多くの侍たちを率いていた。
 その中には、倒幕派に対立した立場にあったはずの『新撰組』の面々らがいた。



 新撰組局長を務めていた近藤勇こんどういさみ、鬼の副長として恐れられた土方歳三つちかたとしぞう、若くして天才的な剣術家である沖田総司おきたそうし、三番隊隊長を任されていた武闘派の斎藤一さいとうはじめ

 彼らもまた、新撰組解散後、急速に進む近代化に疑念を抱き、土佐勤王党に合流した武士道の精神を貫く漢たちであった。

「こりゃあ驚いた…新撰組までおるとは」

 龍馬がそう言うと、一人の男が前に出てきた。

「坂本龍馬、久しぶりだな」

 近藤勇が、穏やかな笑みを浮かべていた。
 その隣には、土方歳三が立っており、冷徹な視線を龍馬に向けていた。

「ふんっ……まさか、お前と手を組むことになるとは思わなんだわ」

 後ろには沖田総司と斎藤一が静かに佇んでいた。
 沖田が少し前へ出て、龍馬に話し掛ける。

「龍馬さん、我々は仲間です。みな同じ志を持って政府に抗おうとしています。天皇のお姿を見られたでしょう?このままでは近代化に乗じて、マッカーサーに……いや、米国に日本ごと乗っ取られてしまいかねない」

 その場にいた者たちがみな深く頷いた。
 龍馬にとって彼らとの再会は心強いものであった。
 みな武士道の精神を胸に、政府の急速な近代化に対抗する決意を固めていた。

 斎藤がゆっくりと口を開く。

「若き天皇のみならず皇室全体を牛耳る勢いのマッカーサーは、土佐勤王党を反乱軍とみなしている。この意味が分かるな?」

 マッカーサーの役割は日本の近代化を進め、米国以外の海外からの圧力に対抗できるだけの軍隊を作ることだった。
 彼の成果によって、日本は米国と武器の独占販売権の契約を結ぶという手筈になっていたのだ。
 武士たちの反発は、米国の計画にとって脅威であった。

 龍馬は、もはや政府軍との対決は避けられないと悟った。
 マッカーサーの手によって、彼らは国家反逆者として見なされ、追われる身となることを覚悟しなければならなかった。

「これでえいがじゃ。儂一人でも片をつけるつもりやったき。……西郷どんの仇も討たないかん。それより、仁。皆おまんが珍しいみたいじゃき、挨拶したり」

「お、お初にお目にかかります。伊作 仁と申します。師匠の龍馬さんとは--」

「りょ、龍馬が師匠じゃて?!」

 武市は吹き出し、からかうようにして龍馬を指差し笑っている。

「おい、仁!弟子にとったつもりはないぜよ!」

 その時、先程の町の騒ぎを聞きつけたマッカーサーが護衛を連れて走ってきた。

「コレがあなたの答えデスカ?その人数で政府軍と本気で戦えると思っているのデスカ?」

 仁が威嚇するように、マッカーサーの前に立ちはだかる。

「貴様なんぞに、この国をくれてやるものか!武士の誇りはこの国の宝ぞ!それが分からん貴様が皇室を牛耳るなぞ言語道断!」

 仁は方天戟を地面に突き刺すように叩き付け、鬼の形相で町中に叫んだ。

「みな、よう聞け!近代化もいいだろう!着物を脱ぎ、洋服を着るのも自由だ!しかし、日本人としての魂まで捨て置くのか?!武士の心まで奪う権利が誰にあると言う!誠にそれでよいのかぁ!!」

 仁の声が響き渡ると同時に、マッカーサーが護衛から銃を奪い空に向かって発砲した。

「アナタたちの気持ちは分かりました。コチラも正々堂々とアナタ方に挑みマス。次は戦場で会いまショウ。今日のところはココまでデス」

 そう言い残し、持っていた銃を護衛に押し付けマッカーサーは去っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死か降伏かー新選組壬生の狼ー

手塚エマ
歴史・時代
幕末の京の都。 新選組オールスターズ。 壬生狼と呼ばれ、都人を震え上がらせた新選組に、 単身立ち向かった町人の少年。 彼は時に新選組に反目し、時に新選組を援助する。 果たして、彼の目的は……。 モテキャラの沖田が、本作ではフラれ役。 ほんのりBL風味。というか、男色ですね。 刀剣アクション。 なんでもありです。

藤散華

水城真以
歴史・時代
――藤と梅の下に埋められた、禁忌と、恋と、呪い。 時は平安――左大臣の一の姫・彰子は、父・道長の命令で今上帝の女御となる。顔も知らない夫となった人に焦がれる彰子だが、既に帝には、定子という最愛の妃がいた。 やがて年月は過ぎ、定子の夭折により、帝と彰子の距離は必然的に近づいたように見えたが、彰子は新たな中宮となって数年が経っても懐妊の兆しはなかった。焦燥に駆られた左大臣に、妖しの影が忍び寄る。 非凡な運命に絡め取られた少女の命運は。

泣いた鬼の子

ふくろう
歴史・時代
「人を斬るだけの道具になるな…」 幼い双子の兄弟は動乱の幕末へ。 自分達の運命に抗いながら必死に生きた兄弟のお話。

雪の果て

紫乃森統子
歴史・時代
 月尾藩郡奉行・竹内丈左衛門の娘「りく」は、十八を数えた正月、代官を勤める白井麟十郎との縁談を父から強く勧められていた。  家格の不相応と、その務めのために城下を離れねばならぬこと、麟十郎が武芸を不得手とすることから縁談に難色を示していた。  ある時、りくは父に付き添って郡代・植村主計の邸を訪れ、そこで領内に間引きや姥捨てが横行していることを知るが──

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

奴隷少年♡助左衛門

鼻血の親分
歴史・時代
 戦国末期に活躍した海賊商人、納屋助左衛門は人生の絶頂期を迎えていた。しかし時の権力者、秀吉のある要請を断り、その将来に不安な影を落とす。  やがて助左衛門は倒れ伏せ、少年時代の悪夢にうなされる。 ──以後、少年時代の回想  戦に巻き込まれ雑兵に捕まった少年、助左衛門は物として奴隷市場に出された。キリシタンの彼は珍しがられ、奴隷商人の元締、天海の奴隷として尾張へ連れて行かれることになる。  その尾張では、 戦国の風雲児、信長がまだ「うつけ」と呼ばれていた頃、彼の領地を巡り戦が起ころうとしていた。  イクサ。  なぜ、戦が起こるのか⁈  なぜ、戦によって奴隷が生まれるのか⁈  奴隷商人が暗躍する戦場で見た現実に、助左衛門は怒りを覚える!!   そして……。

新選組の漢達

宵月葵
歴史・時代
     オトコマエな新選組の漢たちでお魅せしましょう。 新選組好きさんに贈る、一話完結の短篇集。 別途連載中のジャンル混合型長編小説『碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。』から、 歴史小説の要素のみを幾つか抽出したスピンオフ的短篇小説です。もちろん、本編をお読みいただいている必要はありません。 恋愛等の他要素は無くていいから新選組の歴史小説が読みたい、そんな方向けに書き直した短篇集です。 (ちなみに、一話完結ですが流れは作ってあります) 楽しんでいただけますように。       ★ 本小説では…のかわりに・を好んで使用しております ―もその場に応じ個数を変えて並べてます  

和ませ屋仇討ち始末

志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。 門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。 久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。 父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。 「目に焼き付けてください」 久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。 新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。 「江戸に向かいます」 同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。 父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。 他サイトでも掲載しています 表紙は写真ACより引用しています R15は保険です

処理中です...