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7. 皇室での失望
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襲撃を受けてから、仁は更に過酷な修行に自らに課した。
武士道の精神の叩き込んでくれた恩師とも呼べる龍馬の命を守ることが、己の使命だと感じていた。
冬が終わり、雪が溶け始めるとともに道が開け、春の訪れを告げる風が吹き始めた頃。
龍馬は日本政府からの呼び出しを受けた。
天皇が龍馬の意見を聞きたいというのだ。
龍馬は仁を連れて東京へ向かうことにした。
「お上直々に儂に意見を求めるち、まっこと分かりやすい口実やにゃあ」
「それを承知の上で東京へ?危険すぎます」
「今やどこにおっても危険やき、こん際こっちから出向いちゃってもえいじゃろ」
心配する仁を横目に、どこか余裕の笑みを浮かべる龍馬。
「全くもう……」
二人は旅支度を整え、東京からはるばる護衛役としてきた軍人たちと共に正覚寺を後にした。
旅路の道中、雪解け水が川に流れ込む音や、春の芽吹きを感じさせる風景が広がっていた。
長い冬を耐え忍んだ大地が、再び生命力を取り戻しているようだった。
東京に到着すると、二人は町の変貌ぶりに驚かされた。
整然とした街並みが広がり、立派な建物が立ち並んでいた。
何より目を引いたのは、厳かに行進する政府軍の姿だった。
農民たちは軍人として立派に訓練され、軍備も充実していた。
彼らは整然とした隊列を組み、最新の武器を手にしていた。
「なんちゅうことじゃ……あれが今の政府軍ながかえ」
「この二年でここまで変わるとは……」
仁もまた、その光景に目を奪われた。
龍馬は驚きと共に、どこか不安げな表情を浮かべた。
皇居もまた、京都から東京へと遷都され、かつての江戸城がその威容を誇る一新された姿となっていた。
皇居へは龍馬のみ入ることを許された。
龍馬は、和装姿で刀を差したまま皇居へと足を踏み入れた。
皇居の門をくぐると、その荘厳な雰囲気に圧倒されると同時に、龍馬はかつての幕府時代とは異なる新たな時代の到来を強く感じた。
広大な庭園を進み、ついに天皇の御前へと案内された。
天皇の横には、かつて『海援隊』として共に日本の開国と近代化を推進し、倒幕運動を行っていた『陸奥宗光』が立っていた。
宗光は、海援隊での活動を通じて、外交や経済に関する知識と経験を多く積んでおり、その能力と実績を高く評価され、新政府の役人として要職に就いていた。
「おまん……宗光、何しゆうがじゃ」
「陛下に挨拶を」
久方ぶりの再会にも一切動じることなく、陸奥は冷たい声で龍馬に天皇への挨拶を促した。
「……陛下、大変お久しゅうございます」
龍馬は深く一礼し、静かに天皇の前に立った。
若き明治天皇は威厳を保ちながらも、その表情にはどこか不安げな色が浮かんでいた。
天皇の隣には、陸奥の他に憎きグレン・マッカーサーが立っていた。
語学堪能なマッカーサーは龍馬に向かってこう言い捨てた。
「ココでその刀を差したままというのは、廃刀令に反する行為デス」
マッカーサーは鋭い視線で龍馬を見据え、厳しい口調で言った。
その声には権力を誇示するかのような冷たさがあった。
「廃刀令に従い、ココでその刀を捨ててクダサイ」
龍馬は『廃刀令』というその単語を聞いて西郷隆盛のことを思い出し、怒りが込み上げてきた。
ぐっと感情を抑え冷静さを取り戻し、天皇に目を向けた。
「陛下。この件につきましては、ぜひ陛下のご判断を仰ぎたいと思います」
しかし、若き明治天皇はその言葉に答えることができず、視線を逸らしてしまった。
天皇の顔には不安と迷いが見て取れた。
彼はマッカーサーの影響下にあり、その強い圧力に抗うことができないでいる様子であった。
「陛下……」
龍馬の言葉は虚しく響いた。
天皇が何も言えないまま目を逸らす光景に、龍馬は深い悲しみと失望を覚えた。
「坂本龍馬サン。陛下が何も仰らないのであれば、コレは命令デス。今スグに刀を捨ててクダサイ」
マッカーサーの声が静かな室内に響き渡った。
龍馬はしばし考え込み、そして深く息をついた。
「儂ん刀は、単なる武器やないき。これは武士の誇りであり、象徴ぜよ。おまんらの命令に従うがはできん」
龍馬は静かにそう言うと、刀を差したまま立ち続けた。
その行為には彼の決意と誇りが込められていた。
「龍馬、戦わずして敵を屈するは善の善なる者なり。忘れたか?」
陸奥が龍馬の刀を押さえ、龍馬に囁く。
「暫く見ん間に随分と腑抜けゆうな。侍ん心を捨てるがは、死ぬのと同じぜよ。こん刀を捨てろ言うがは、儂に死ね言うことぜよ」
「お前だけの話ではない!罪のない民まで犬死にさせることはないだろう……!こちらの軍備は完璧だ。とは言え、戦になれば何百何千という犠牲が出る。お前らも……刀で太刀打ち出来るわけがない……!」
「そん手ぇを離すがじゃ。儂は武士として生きていきゆうだけじゃ。おまんらが農民を兵器に変えたがじゃろ。そん兵器を使う気ぃじゃったら、儂は武士として名誉の死を選ぶだけぜよ」
室内には緊張が漂い、沈黙が訪れた。
誰もがその場の重苦しい雰囲気を感じ取っていた。
「……いいだろう、坂本龍馬。お前には東京での謹慎を命じる。……そして、自害か不平士族討伐の参加、どちらかを選ばせてやろう」
陸奥の冷酷な声が響いた。
「不平士族討伐の参加じゃと……?!」
龍馬はその言葉に対し、深い怒りと無念を抱いたが、冷静さを失うことはなかった。
「……おまんらの命令には従わんち言うたがじゃ」
龍馬はいまだ口を硬く結んだままの天皇に一礼し、その場を去った。
外に出ると、春の風が龍馬の顔を撫でた。
武士道の精神の叩き込んでくれた恩師とも呼べる龍馬の命を守ることが、己の使命だと感じていた。
冬が終わり、雪が溶け始めるとともに道が開け、春の訪れを告げる風が吹き始めた頃。
龍馬は日本政府からの呼び出しを受けた。
天皇が龍馬の意見を聞きたいというのだ。
龍馬は仁を連れて東京へ向かうことにした。
「お上直々に儂に意見を求めるち、まっこと分かりやすい口実やにゃあ」
「それを承知の上で東京へ?危険すぎます」
「今やどこにおっても危険やき、こん際こっちから出向いちゃってもえいじゃろ」
心配する仁を横目に、どこか余裕の笑みを浮かべる龍馬。
「全くもう……」
二人は旅支度を整え、東京からはるばる護衛役としてきた軍人たちと共に正覚寺を後にした。
旅路の道中、雪解け水が川に流れ込む音や、春の芽吹きを感じさせる風景が広がっていた。
長い冬を耐え忍んだ大地が、再び生命力を取り戻しているようだった。
東京に到着すると、二人は町の変貌ぶりに驚かされた。
整然とした街並みが広がり、立派な建物が立ち並んでいた。
何より目を引いたのは、厳かに行進する政府軍の姿だった。
農民たちは軍人として立派に訓練され、軍備も充実していた。
彼らは整然とした隊列を組み、最新の武器を手にしていた。
「なんちゅうことじゃ……あれが今の政府軍ながかえ」
「この二年でここまで変わるとは……」
仁もまた、その光景に目を奪われた。
龍馬は驚きと共に、どこか不安げな表情を浮かべた。
皇居もまた、京都から東京へと遷都され、かつての江戸城がその威容を誇る一新された姿となっていた。
皇居へは龍馬のみ入ることを許された。
龍馬は、和装姿で刀を差したまま皇居へと足を踏み入れた。
皇居の門をくぐると、その荘厳な雰囲気に圧倒されると同時に、龍馬はかつての幕府時代とは異なる新たな時代の到来を強く感じた。
広大な庭園を進み、ついに天皇の御前へと案内された。
天皇の横には、かつて『海援隊』として共に日本の開国と近代化を推進し、倒幕運動を行っていた『陸奥宗光』が立っていた。
宗光は、海援隊での活動を通じて、外交や経済に関する知識と経験を多く積んでおり、その能力と実績を高く評価され、新政府の役人として要職に就いていた。
「おまん……宗光、何しゆうがじゃ」
「陛下に挨拶を」
久方ぶりの再会にも一切動じることなく、陸奥は冷たい声で龍馬に天皇への挨拶を促した。
「……陛下、大変お久しゅうございます」
龍馬は深く一礼し、静かに天皇の前に立った。
若き明治天皇は威厳を保ちながらも、その表情にはどこか不安げな色が浮かんでいた。
天皇の隣には、陸奥の他に憎きグレン・マッカーサーが立っていた。
語学堪能なマッカーサーは龍馬に向かってこう言い捨てた。
「ココでその刀を差したままというのは、廃刀令に反する行為デス」
マッカーサーは鋭い視線で龍馬を見据え、厳しい口調で言った。
その声には権力を誇示するかのような冷たさがあった。
「廃刀令に従い、ココでその刀を捨ててクダサイ」
龍馬は『廃刀令』というその単語を聞いて西郷隆盛のことを思い出し、怒りが込み上げてきた。
ぐっと感情を抑え冷静さを取り戻し、天皇に目を向けた。
「陛下。この件につきましては、ぜひ陛下のご判断を仰ぎたいと思います」
しかし、若き明治天皇はその言葉に答えることができず、視線を逸らしてしまった。
天皇の顔には不安と迷いが見て取れた。
彼はマッカーサーの影響下にあり、その強い圧力に抗うことができないでいる様子であった。
「陛下……」
龍馬の言葉は虚しく響いた。
天皇が何も言えないまま目を逸らす光景に、龍馬は深い悲しみと失望を覚えた。
「坂本龍馬サン。陛下が何も仰らないのであれば、コレは命令デス。今スグに刀を捨ててクダサイ」
マッカーサーの声が静かな室内に響き渡った。
龍馬はしばし考え込み、そして深く息をついた。
「儂ん刀は、単なる武器やないき。これは武士の誇りであり、象徴ぜよ。おまんらの命令に従うがはできん」
龍馬は静かにそう言うと、刀を差したまま立ち続けた。
その行為には彼の決意と誇りが込められていた。
「龍馬、戦わずして敵を屈するは善の善なる者なり。忘れたか?」
陸奥が龍馬の刀を押さえ、龍馬に囁く。
「暫く見ん間に随分と腑抜けゆうな。侍ん心を捨てるがは、死ぬのと同じぜよ。こん刀を捨てろ言うがは、儂に死ね言うことぜよ」
「お前だけの話ではない!罪のない民まで犬死にさせることはないだろう……!こちらの軍備は完璧だ。とは言え、戦になれば何百何千という犠牲が出る。お前らも……刀で太刀打ち出来るわけがない……!」
「そん手ぇを離すがじゃ。儂は武士として生きていきゆうだけじゃ。おまんらが農民を兵器に変えたがじゃろ。そん兵器を使う気ぃじゃったら、儂は武士として名誉の死を選ぶだけぜよ」
室内には緊張が漂い、沈黙が訪れた。
誰もがその場の重苦しい雰囲気を感じ取っていた。
「……いいだろう、坂本龍馬。お前には東京での謹慎を命じる。……そして、自害か不平士族討伐の参加、どちらかを選ばせてやろう」
陸奥の冷酷な声が響いた。
「不平士族討伐の参加じゃと……?!」
龍馬はその言葉に対し、深い怒りと無念を抱いたが、冷静さを失うことはなかった。
「……おまんらの命令には従わんち言うたがじゃ」
龍馬はいまだ口を硬く結んだままの天皇に一礼し、その場を去った。
外に出ると、春の風が龍馬の顔を撫でた。
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