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5. 武士の果て
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龍馬は書斎の中で手紙を手に取り、静かに封を切った。
手紙は薩摩からのもので、見覚えのある筆跡が目に入った瞬間、龍馬の心臓は一瞬止まりそうになった。
手紙には、西郷隆盛が廃刀令に逆らった末に処刑された旨が記されていた。
「なんちゅう……」
龍馬は込み上げる怒りを抑え、何度も手紙を読み返した。
手紙によれば、処刑を命じたのは近代化を目指す日本政府が師範役兼指揮官として雇ったグレン・マッカーサーだった。
日本政府は、龍馬たちが共に倒幕運動をやめた以降もずっと目をつけていた。
近代化を目指すことをやめた龍馬たちが、再び近代化を目指す今の日本政府にいずれ牙を剥くのではないかと恐れていたのだ。
龍馬はその事を察しながら、正覚寺に身を置いて隠居していた。
「……いよいよ動き出したちいうことか」
龍馬は手紙を握り締め、立ち上がって窓の外を見た。
とっくに陽は落ち、暗闇に光る月の灯りが書斎に差し込み、彼の影を長く引き伸ばしていた。
外の竹林は風に揺れ、静寂が辺りを包む。
龍馬は寺を掃除している仁に話しかけた。
「仁、ちぃと話があるがじゃけんど」
「……?どうされました?どうも顔色が悪いようですが」
「西郷どんの話したがは覚えちゅうがか?」
「えぇ……それがどうされ--」
「殺されたがよ」
「えっ……そ、それまたどうして?!」
「廃刀令に逆ろうたがが理由ながやけんど、ほがな事は建前じゃ。倒幕運動をやめた時から西郷どんも日本政府に目ぇをつけられちょったがよ」
「も……って、それでは龍馬さんも政府に?」
「ついに動き出したちいうことは、儂も今頃捜されゆうかもしれんき……おまんはもうこん寺から出てけ」
「何を申しますか!龍馬さんの身が危ないと聞き、このまま出てゆくなど……俺に武士道とは何たるかを教え込んでくれたご自分のお言葉をお忘れか!」
反論する仁を笑いながら諭す龍馬。
「儂は大丈夫じゃき。おまんを巻き込む訳にはいかんぜよ」
「龍馬さん、このまま黙って殺されるのを待つおつもりで?」
仁に真っ直ぐ見つめられ、少し困った表情を浮かべながら返事をした。
「こん寺に篭っちょったように、またどっかに隠れることは出来るぜよ。けんど……」
龍馬は、裾から抜いた刀を見つめながら覚悟を持った声で続けた。
「己が命は侍の魂でもある『これ』が奪うもんやき。それが、誰かんもんでも……儂んもんでも。名誉ある死こそ、武士の果てながじゃ」
龍馬のその言葉からは闘志が感じられた。
龍馬は確かに、自分の命を奪うのは他人の刃か自分の刃か……だと言った。
「それは……自ら腹を切る覚悟でもあると申しますか」
「どいてそんな顔するがじゃ。切腹もまた……武士道の名誉ある死やち儂は思うちゅうがで」
「俺を立派な侍にしてくれると申したではないか!絶対に……絶対に龍馬さんを死なせたりなどしません」
仁が力強くそう言った時、蝋燭の明かりが微かに揺れた。
突如として冷たい隙間風が襖から吹き込み、異様な雰囲気が漂い始めた。
「……龍馬さん、これは」
「くそ……先を越されたちいうことながか」
その瞬間、外から微かに足音が聞こえてきた。
二人は目を合わせ、即座に身構えた。
「仁、はよう方天戟持ってこい」
「はい」
龍馬は静かに言いながら、脇差しを手に取った。
仁は急いで方天戟を持ち、龍馬の元へ戻った。
手紙は薩摩からのもので、見覚えのある筆跡が目に入った瞬間、龍馬の心臓は一瞬止まりそうになった。
手紙には、西郷隆盛が廃刀令に逆らった末に処刑された旨が記されていた。
「なんちゅう……」
龍馬は込み上げる怒りを抑え、何度も手紙を読み返した。
手紙によれば、処刑を命じたのは近代化を目指す日本政府が師範役兼指揮官として雇ったグレン・マッカーサーだった。
日本政府は、龍馬たちが共に倒幕運動をやめた以降もずっと目をつけていた。
近代化を目指すことをやめた龍馬たちが、再び近代化を目指す今の日本政府にいずれ牙を剥くのではないかと恐れていたのだ。
龍馬はその事を察しながら、正覚寺に身を置いて隠居していた。
「……いよいよ動き出したちいうことか」
龍馬は手紙を握り締め、立ち上がって窓の外を見た。
とっくに陽は落ち、暗闇に光る月の灯りが書斎に差し込み、彼の影を長く引き伸ばしていた。
外の竹林は風に揺れ、静寂が辺りを包む。
龍馬は寺を掃除している仁に話しかけた。
「仁、ちぃと話があるがじゃけんど」
「……?どうされました?どうも顔色が悪いようですが」
「西郷どんの話したがは覚えちゅうがか?」
「えぇ……それがどうされ--」
「殺されたがよ」
「えっ……そ、それまたどうして?!」
「廃刀令に逆ろうたがが理由ながやけんど、ほがな事は建前じゃ。倒幕運動をやめた時から西郷どんも日本政府に目ぇをつけられちょったがよ」
「も……って、それでは龍馬さんも政府に?」
「ついに動き出したちいうことは、儂も今頃捜されゆうかもしれんき……おまんはもうこん寺から出てけ」
「何を申しますか!龍馬さんの身が危ないと聞き、このまま出てゆくなど……俺に武士道とは何たるかを教え込んでくれたご自分のお言葉をお忘れか!」
反論する仁を笑いながら諭す龍馬。
「儂は大丈夫じゃき。おまんを巻き込む訳にはいかんぜよ」
「龍馬さん、このまま黙って殺されるのを待つおつもりで?」
仁に真っ直ぐ見つめられ、少し困った表情を浮かべながら返事をした。
「こん寺に篭っちょったように、またどっかに隠れることは出来るぜよ。けんど……」
龍馬は、裾から抜いた刀を見つめながら覚悟を持った声で続けた。
「己が命は侍の魂でもある『これ』が奪うもんやき。それが、誰かんもんでも……儂んもんでも。名誉ある死こそ、武士の果てながじゃ」
龍馬のその言葉からは闘志が感じられた。
龍馬は確かに、自分の命を奪うのは他人の刃か自分の刃か……だと言った。
「それは……自ら腹を切る覚悟でもあると申しますか」
「どいてそんな顔するがじゃ。切腹もまた……武士道の名誉ある死やち儂は思うちゅうがで」
「俺を立派な侍にしてくれると申したではないか!絶対に……絶対に龍馬さんを死なせたりなどしません」
仁が力強くそう言った時、蝋燭の明かりが微かに揺れた。
突如として冷たい隙間風が襖から吹き込み、異様な雰囲気が漂い始めた。
「……龍馬さん、これは」
「くそ……先を越されたちいうことながか」
その瞬間、外から微かに足音が聞こえてきた。
二人は目を合わせ、即座に身構えた。
「仁、はよう方天戟持ってこい」
「はい」
龍馬は静かに言いながら、脇差しを手に取った。
仁は急いで方天戟を持ち、龍馬の元へ戻った。
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