【武士道ソウル】~弥助の子孫である仁と坂本龍馬の最強コンビ!『土佐勤王党』&『新選組』と手を組み政府軍に戦いを挑む!~【完】

みけとが夜々

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3. 虫の知らせ

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 慶応3年(1867年)の秋。
 京都の町は秋風に揺れる紅葉の彩りに染まっていた。
 坂本龍馬は二条城の一室にて、冷たい茶を前にして独り佇んでいた。
 彼の心には、これまでの努力と決意が揺らぐ思いがあった。

 龍馬は長州藩と薩摩藩の同盟を実現し、徳川幕府を倒すための道筋を作り上げた。
 しかし、その道がどこに繋がるのか。
 彼の頭の中には、血と闘争による変革の後に残る荒廃した日本の姿が浮かんでいた。

「まっことこれでえいがか……」

 龍馬は頭を抱え、呟いた。
 彼は仲間たちの顔を思い浮かべた。
 西郷隆盛さいごうたかもり高杉晋作たかすぎしんさく中岡慎太郎なかおかしんたろう陸奥宗光むつむねみつ……そして、かつて対立していた新撰組の志士たち。
 彼らは皆、新しい時代のために命を賭けていた。

 しかし、龍馬の心は次第に重くなっていった。
 彼は血で血を洗うような変革に疑問を抱いていたのだ。

 その夜、龍馬は筆をとった。
 それは西郷隆盛宛のもので、龍馬がこれ以上の倒幕運動に関与しない旨を伝えるものであった。

 本来直接会って話すべきことを手紙で伝えることを謝罪した上で、近代化によって日本人としての誇りを失っていく国の行く末への危機感と、武士道の精神を忘れるべきではないという龍馬の思いを手紙にしたためた。

 一方で、西郷隆盛もまた龍馬の迷いに日に日に共感することが多くなっていた。
 彼は元々保守的な一面があり、明治政府の急激な近代化改革に反発するようになり、龍馬からの手紙に返事こそ出さなかったもののその後は武士道の精神を重んじる動きを取っていた。

 ◆

「時代は繰り返される。頭では分かっちゅうつもりじゃったけんど……」

「龍馬さん?」

「いや、なんちゃあ無いき。今日のところは稽古は終わりじゃ。腹減っちゅうろ、夕飯の準備じゃ」

 こうして、仁は龍馬の寺に住み込みで稽古をする日々を送るようになった。

 最初の数ヶ月は、剣術の基本を徹底的に学ぶ日々であった。
 毎朝早くから日が沈むまで、木刀を握りしめ、ひたすら型を繰り返す。
 龍馬は一つ一つの動作に対し丁寧に指導し、その意義を説いた。

「仁、剣はただ振るうだけではいかんがぜよ。一刀一刀に命を賭ける覚悟を剣に込めるがじゃ」

 仁はその言葉を胸に刻みながら、黙々と稽古を続けた。
 徐々に彼の動きは洗練されていき、筋力も増していった。

 ある日龍馬は、仁との稽古の合間にふと笑みを浮かべ、昔の友人のことを話し始めた。

「仁、ちぃと休憩じゃ。……おまん、西郷隆盛ち知っちゅうがかえ?」

「あの薩摩藩のですか?」

 龍馬は頷き、仁は興味津々で耳を傾けた。
 龍馬は懐かしき思い出を手繰り寄せるように、少し遠くを見つめていた。

「西郷どん……あん人はほんっにでかい漢やった。心も体もな。初めて会うたがは、江戸の薩摩屋敷やったがぜよ。儂らは初めは敵同士んようなもんやったけんど、話をしゆううちに意気投合して、いつん間にか友になっちょった」

「どのようなお話をされたので?」

「西郷どんとは、国んことをよう話したがよ。あん人は心から日本の未来を思っちょった。儂も同じ気持ちやったけんど、方法がちぃと違うた。西郷どんは、まずは薩摩を強くせんといかん言いよった。けんど儂は、こん国全体が一つにならんちいかんと思うちょったがじゃ」

 龍馬はしばし言葉を止め、仁の目を見つめた。

「仁。儂らは、互いを理解し合うて、互いの考えを尊重し合いよった。西郷どんは、ほんに優しい男じゃった。いつも人んことを思いやって、自分んことは後回しにするような奴じゃった」

 仁は静かに龍馬の話を聞いていた。

「ある日、西郷どんが儂に言うたがよ。『龍馬、君が思う日本はどんな国や?』って。儂は『自由で平和な国じゃ。誰もが笑うて暮らせる国じゃ』って。西郷どんはそん時、にっこり笑うて『そいがいっちばんやな』ち言うたがよ」

 龍馬の瞳には懐かしさが宿っていた。

「要は何が言いたいち言うと、武士道は剣術だけやないがぜ。一番大事ながは、人を思いやる心やちいうことぜよ」

 仁は深く頷いた。
 腕を磨くのみが武士道ではないという龍馬の言葉が強く心に響いた。
 龍馬は微笑みながら、仁の肩を軽く叩いた。

「仁、儂がおまんを立派な侍に育てちゃるき」

 そう言って、仁と龍馬は再び稽古に戻った。
 仁はその言葉を胸に、今よりさらに努力を続ける決意を新たにした。

 しかし、龍馬の心には少し暗い靄がかかっていた。
 何故、今になって西郷隆盛との思い出話を仁にしようと思ったのか。

 確かに武士道の精神を伝えかったというのも事実だが、何かの虫の知らせのような気がしていた。
 この日を境に、龍馬は夢にうなされるようになった。

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