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12. 天下の座
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本能寺の変から数年、信長たちは機を伺いつつ、流浪していた将兵を集め自らの軍も着実に増やし力を付けていった。
「疑っていたわけではありませぬが......これは少し驚きましたな」
評定の場で、家康は信長の先見の明に舌を巻いた。
しかし信長は常と変わらぬ様子で、こう言った。
「やはりな。秀吉の考えそうなことだ。ただし一筋縄ではいかぬだろうな」
「と、申しますと?」
「山崎には地の利がある。加えて向こうには、黒田官兵衛や竹中半兵衛がおる。もしここで戦うことになれば、激戦は必至であろう。特に黒田官兵衛にはより注意が必要だ。あやつは何をしでかすか、まるで読めぬからの」
家康も光秀もそれぞれに頭を抱えた。
「ううむ。どうしたものか......」
そんな中、おずおずと半蔵が手を上げた。
「どうした、半蔵。なにか策があるなら申してみよ」
「は、では軍師を各個に討ち取っていくというのはいかがでしょうか」
「ほう。して、どのようにする」
「おそらく彼らは城内もしくは、城の周辺のどこかに陣を敷き、使番によって指示を出すと見えます。であれば、使番の動きを突き止めることができれば、軍師の元にたどり着くのは容易。統率が取れている兵は強いですが、軍師を討てばどれだけの数の兵がいようとも、歩みが乱れた雑兵に過ぎませぬ。あとは城で高みの見物をする秀吉のものまで一足で行けるかと」
「ふむ......勝算はあるのか」
「我らは忍であります。相手が統率力ならば、こちらは搦手を使うまで。黒田官兵衛を落とした後ならば、撹乱もたやすいでしょう」
信長は一寸だけ考え、結論を出した。
「分かった。家康も光秀も、この評定に異はないか」
二人は頷いた。
「問題ありませぬ」
半蔵、弥助もそれに続いて頷く。
全員の採が取れたところで、信長は改めて言った。
「では、そのようにしよう。黒田官兵衛は、半蔵、弥助に任せる。竹中半兵衛は残りの伊賀衆と家康が。儂と光秀で秀吉を討つ。各将兵らも準備はよいな」
一同は闘志をたぎらせていた。
ついにこの時がきたのだ。
信長は軍の闘志の火を、さらに燃え立たせる。
「気を抜くな!この戦はもはや天下泰平を賭けただけのものではない!我らが同胞、才蔵の弔い合戦でもある。みなのもの、必ずや羽柴、いや、豊臣秀吉を討て!」
「うおおおぉ!!!」
南蛮寺の夜に喝采が響いた。
信長が目を光らせたのは、大坂城ではなくあくまでも光秀に扮した才蔵を討ち取られた山崎城であった。
その見立て通り、秀吉は山崎城に入城していた。
秀吉が山崎城に拘ったのは、未だ抵抗を続ける島津や北条の残党に引導を渡してやるための拠点になるだろうと考えていたからだ。
そしてなにより、ここは地の利に長けている、という黒田官兵衛からの進言があった。
よもや、ここが自身の死に場所になるなど、夢にも思っていなかった。
入城してからしばらく、秀吉はこれまでの半生を振り返っていた。
それはそれは、長かった。
ここに来るまで、本当に長かった。
信長に仕え、光秀を寝返らせ、本能寺を奇襲させ、その光秀も討ち取った。
まだいくつかの懸念は残されているが、ようやく天下を手中に収めたのだ。
「......なんとも、あっけないものだな」
結局、出てきた言葉はそれだった。
秀吉にしてみれば、こうなることは初めから決まっていたようなものだ。
織田家に仕えていたときから、出世の為にありとあらゆることをしてきた。
誰にでも媚びへつらい、取り入り、自らが有利になるよう駒を進めてきた。
どんな辛酸も舐め、どんな苦渋も飲んだ。
すべては天下統一のため。
しかし、いざその座についてみると、退屈だと感じた。
「疑っていたわけではありませぬが......これは少し驚きましたな」
評定の場で、家康は信長の先見の明に舌を巻いた。
しかし信長は常と変わらぬ様子で、こう言った。
「やはりな。秀吉の考えそうなことだ。ただし一筋縄ではいかぬだろうな」
「と、申しますと?」
「山崎には地の利がある。加えて向こうには、黒田官兵衛や竹中半兵衛がおる。もしここで戦うことになれば、激戦は必至であろう。特に黒田官兵衛にはより注意が必要だ。あやつは何をしでかすか、まるで読めぬからの」
家康も光秀もそれぞれに頭を抱えた。
「ううむ。どうしたものか......」
そんな中、おずおずと半蔵が手を上げた。
「どうした、半蔵。なにか策があるなら申してみよ」
「は、では軍師を各個に討ち取っていくというのはいかがでしょうか」
「ほう。して、どのようにする」
「おそらく彼らは城内もしくは、城の周辺のどこかに陣を敷き、使番によって指示を出すと見えます。であれば、使番の動きを突き止めることができれば、軍師の元にたどり着くのは容易。統率が取れている兵は強いですが、軍師を討てばどれだけの数の兵がいようとも、歩みが乱れた雑兵に過ぎませぬ。あとは城で高みの見物をする秀吉のものまで一足で行けるかと」
「ふむ......勝算はあるのか」
「我らは忍であります。相手が統率力ならば、こちらは搦手を使うまで。黒田官兵衛を落とした後ならば、撹乱もたやすいでしょう」
信長は一寸だけ考え、結論を出した。
「分かった。家康も光秀も、この評定に異はないか」
二人は頷いた。
「問題ありませぬ」
半蔵、弥助もそれに続いて頷く。
全員の採が取れたところで、信長は改めて言った。
「では、そのようにしよう。黒田官兵衛は、半蔵、弥助に任せる。竹中半兵衛は残りの伊賀衆と家康が。儂と光秀で秀吉を討つ。各将兵らも準備はよいな」
一同は闘志をたぎらせていた。
ついにこの時がきたのだ。
信長は軍の闘志の火を、さらに燃え立たせる。
「気を抜くな!この戦はもはや天下泰平を賭けただけのものではない!我らが同胞、才蔵の弔い合戦でもある。みなのもの、必ずや羽柴、いや、豊臣秀吉を討て!」
「うおおおぉ!!!」
南蛮寺の夜に喝采が響いた。
信長が目を光らせたのは、大坂城ではなくあくまでも光秀に扮した才蔵を討ち取られた山崎城であった。
その見立て通り、秀吉は山崎城に入城していた。
秀吉が山崎城に拘ったのは、未だ抵抗を続ける島津や北条の残党に引導を渡してやるための拠点になるだろうと考えていたからだ。
そしてなにより、ここは地の利に長けている、という黒田官兵衛からの進言があった。
よもや、ここが自身の死に場所になるなど、夢にも思っていなかった。
入城してからしばらく、秀吉はこれまでの半生を振り返っていた。
それはそれは、長かった。
ここに来るまで、本当に長かった。
信長に仕え、光秀を寝返らせ、本能寺を奇襲させ、その光秀も討ち取った。
まだいくつかの懸念は残されているが、ようやく天下を手中に収めたのだ。
「......なんとも、あっけないものだな」
結局、出てきた言葉はそれだった。
秀吉にしてみれば、こうなることは初めから決まっていたようなものだ。
織田家に仕えていたときから、出世の為にありとあらゆることをしてきた。
誰にでも媚びへつらい、取り入り、自らが有利になるよう駒を進めてきた。
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