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13. 最強復活

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 これは……最初だ。
 呪言師として、現代社会の影に隠れながら齷齪あくせくと任務をこなす日々。

『横浜言慈』

『ん、誰だ?』

 1人で帰宅する深夜──
 俺の自宅の前に、黒いフードを被り、和服に身を包んだまるで死神のような出で立ちをした人影。

 俺の問いに答える事なく、ただ不敵な笑みを浮かべる目元の見えない男。
 何かヤバいと異変を感じた頃には、厭魅術は完了していたのだ……

 一瞬の衝撃と共に俺は意識を暗転させ、冷たい地面で眠った。
 記憶を奪われた瞬間だった。
 そこからの記憶が酷く曖昧だったんだ。
  
『あ、ああ……』

 起きた時には、悪い酒を浴びるように飲んで、誰彼構わず悪態を突くような酩酊状態に近い感じだった。

 記憶も混濁し、自分が何者かさえ分からない。
 ただ、記憶を奪われたことは何となく分かっていて、力の隠し場所がやつの手に渡ってしまったと自暴自棄になっていた気がする。

 その時、駆け付けた新田を見て……
 いつも調子の良い新田を見て、普段の愚痴を思い切りぶつけた。
 俺の言葉は全て本音だった。
 いい仲間だと思っていた反面、こいつの生き生きとした楽観的な性格が羨ましくて、羨望は嫉妬へと変わり……軽蔑し、嫌いになった。

 そんな濃霧の中を歩いているような暗黒の中で、俺の耳元ではっきりと囁く声があった。
 雨暗の声だった。


『"飛び込め"』


 その言葉を聞くや否や、自然と身体が動いていた。
 そして……もう全てがどうでもよくなって。
 俺は──ああ、そうだ……
 俺は……


 ◆


「……くっ、青い炎で何も見えん!だが新田は死んだようだな……あとは貴様だけだ横浜──」


「"切り裂け"」


「何?!ぐがっ!」

 雨暗の片腕が袈裟の袖ごと吹き飛ぶ。その一瞬の出来事に、雨暗も動揺を隠せていない。

「なんだこの凄まじい呪言は……! 貴様、まさか!」

「……清々しい気分だ。ようやく本来の自分に戻れたよ」

 新田が命を賭けて取り戻してくれた記憶に隠れていた、力の在り処。
 本人も気付いていないようだったが、新田の中に隠していた……いや、託していた俺の記憶。
 気配すらも消して……
 まさしく灯台もと暗しだ。

「力が戻ったというか?……ふっ、どこまでもしぶといやつだ "再生しろ"」

 雨暗の腕が元通りに治る。

「天界の力をも吸収した私は天下無双。貴様など相手ではないわ! 私は全てを支配す──」

「ごちゃごちゃ喋ってる暇あんのか?こっちだウスノロ!!……"落雷らくらい"」

 俺は雨暗の背後へと回り込み、背中に雷撃を食らわせる。

「がああああぁぁーッ!?」

 少しして、まともに攻撃を食らい倒れ込んだ雨暗は静かに立ち上がった。
 その顔には禍々しい模様が浮かび上がった。

「面白い……益々お前の力が欲しくなったわ。"吹き飛べ"」

 防御する一寸の間もなく、天界ごと潰されてしまうんじゃないかと思えるほどの衝撃波で吹き飛ばされた。

「くそっ……いってぇな。でも……ヒョウのビンタのがよっぽど効くな!"四肢腐敗ししふはい"」

 雨暗の手足が猛スピードで腐っていく。
 天界に異臭が漂う。

「ぐぁぁぁ……っ!!このような呪言を使っても自らに跳ね返らぬとは……貴様の体ごと乗っ取ってくれるわ!"幻影げんえい"」

 雨暗は厭魅術と呪言を混ぜながら対抗してくる。
 手足のない雨暗の幻影たちが俺を囲む。
 その数はどんどんと増えていき、数体から数十体にまで増殖した。

「なんだよ、気持ち悪いなぁ」

「"万本針まんぼんばり"」

 やはり攻撃の速さはほぼ互角のようだ。
 防ぎ切れず全身に無数の針がぶっ刺さり、思わず膝から崩れた。
 抜くことも出来るが、そうすると血が溢れ出して止まらなくなるだろう。
 いや……
 でも、この針は……使える。

「痛いか?今ラクにしてやる」

 高笑いしながら無数の幻影達が俺を取り込むように次々に重なってくる。

「"吸しゅ……」

 雨暗が『吸収』と唱える瞬間を待っていた。
 今だ……っ!

「"万本毒針まんぼんどくばり"」

「なに?!……ぐぁ、はっ」
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