上 下
11 / 14

11. 光の蹂躙

しおりを挟む
 手を開いて閉じての動作を繰り返す銀髪。
 じゃああの時のは……
 悪霊なんかじゃなく、人間を殺してたのか。

 銀髪が腕を振り払うと、マントのような黒い影が彼を包む。
 そしてそれが剥がれた時には、目の前に七条袈裟に身を包んだ銀髪の男が姿を現していた。

「私の名は公卿 雨暗くぎょう うあん。呪言師達よ。私を止めたければ……天界まで追ってくるがいい。私は天界ごと、お前の力を飲み込むぞ」

 公卿雨暗と名乗る男が印を結ぶと、目の前に御札が貼られた真っ赤な扉が出現した。
 そいつは扉の中へと消えていった。

「ついに尻尾を捕えたな……言慈、頼む。この通りだ。お前は面倒だと思うかもしれねえ……けど、俺だけじゃ絶対に勝てない。お願いだ! 俺達の仲間の無念を晴らさせてくれ!」

 そう必死に懇願するように、頭を下げる新田。
 俺の中で既に答えは決まっていた。

「……自分が何者なのか、どういう運命を辿ってきたのかを知りたい。あの中に答えがあるんだな?」

「お前の隠した力と、奪われた記憶。取り返しにいくぞ!俺達の因縁の相手がやっと尻尾出しやがったんだ。力合わせてぶっ倒そうぜ!」

「ああ……もうこれで終わりのようだしな。アイツが全ての元凶ってんなら、一発ぶん殴らないと気が済まねえ。けど新田、あいつに勝てるのか?」

「結局お前の力は戻ってないしな。記憶も一部か……。あっちでお前の力を取り戻せさえすれば……」

 まあ、この際勝てるかどうかの算段なんてどうでもいいな。
 この運命に決着をつけなければ。
 俺達は出現した扉へと入っていく。
 何が待ち受けてるか分からない。
 しかし、この妙な高揚感はなんだろうな……
 やっと与えられた使命を果たせるような気がした。

「こ、ここは……」

「どうやら天界のようだな」

 扉を抜けた先は、かつて新田に何度も送られていた天界だった。

「お、おい!あれを見ろ、言慈!」

 新田が指差す方向──
 袈裟の男……公卿雨暗とヒョウが対峙していた。
 既にアミダは地面に倒れ意識がないようだ。
 くそっ!
 アミダ……あんな傷だらけになって……

「……最近、妙に感覚が鈍ると思ったら、こっちにまで入り込んでたんだね。公卿雨暗とか言ったね?あんたが厭魅術を使う張本人って訳ね。まったく……あの子達には悪い事したね」

「私の呪いの残滓ざんしの影響で新田の呪言を危険視してしまったようだな、ヒョウ。天界最高位者の名も廃るな。……さて、私も思う存分暴れさせてもらおうか」

 雨暗は片手で印を結び"爆ぜ消えよ"と唱える。
 黒い炎が手のように形作ると、その魔の手をヒョウへと伸ばす。

「甘いわよ……っ!」

 ヒョウは炎に人差し指を向けると、それは光に包まれて消えていく。

「無駄よ。こんなもので私を倒せるとでも?」

「……腐っても天界の最高位者であるか。ならばこれはどうだ?」
  
 雨暗は視線を移す事なく、不意にこちらに手を向けた。
 その黒い炎が、今度はこちらに襲いかかる。

「うぉ?!」

「あんた達……!」

 当たる寸前、黒い炎が光の矢とぶつかって消滅した。
 遠くからヒョウが両手を掲げて、援護してくれたのだ。
 その表情は苦い笑みを見せており、どこか申し訳なさそうだった。

「ああ、そうだ。その隙が見たかったのだ」

 雨暗は姿を消し、一瞬にしてヒョウの背後に立つ。
 そしてその無垢な背中を掌底突きで殴打し、その掌からは無数の針が突き出ていた。

「ぐあっ……!」

 その攻撃でヒョウは力無く倒れてしまった。
 雨暗は倒れ込んだヒョウの体に手を突っ込み、光の球体を取り出した。
 雨暗はそれを躊躇なく飲み込んだ。

「あぁ、力が湧き上がる。クク、素晴らしい。面倒であった者が地に伏せた。これでこの天界も私のものだ」

「あいつ、ヒョウの力を奪いやがったのか……!」

「次は貴様らだ。貴様らを葬る事で、ようやく私の宿願は成される」

 新田が探し求めていた男。
 そして、俺の記憶を奪った男だ。

「"烈風切裂れっぷうせつれつ"」

 雨暗が片手を軽く振る。
 すると、辺りに凄まじい烈風が吹き荒び、俺達の肉体を切り裂いていく。

「ぐあっ!!!」

「な、なんて呪言だ……!」

 目の当たりにする巨悪。
 こんな化け物とどう戦えば!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

バレてはいけないこと

つっちーfrom千葉
恋愛
 僕はどこにでもある高校の二年生。自分には恋人はいないが、卓球部に所属している親友の原田と尾鳥さんという大人しい女子が付き合ってるという噂が耳に入る。その情報が原田の口から自分には知らされていなかったことに僕は憤った。しかも、ふたりの生々しい恋文を拾ってしまう。原田を問い詰めようとした僕だが、この恋愛の裏側には特別な事情があるらしい。何でも、彼女には誰も知り得ない秘密があるらしいのだが……。基本は恋愛ですが、単純なミステリー要素もあります。なるべく簡潔にまとめてみました。よろしくお願いいたします。

嘘に染まる

黒巻雷鳴
恋愛
やさしい言葉が、わたしの全てを麻痺させて狂わせている。ずっと一緒にいられるって、信じさせている。あなたはいつまでも恋人気分でいるようだけれど、それって、ズルいと思う。 ※無断転載禁止

好きな子の推しになりたくて

ツヅラ
恋愛
悪徳貴族を成敗し、その富を飢えに苦しむ人々に分け与える義賊 ” ジャックドア ” その立ち振る舞いは、ミステリアスでありながら、紳士的。 神出鬼没、正体不明の大悪党。 ――という好きな子の趣味全開のキャラクターを演じることになった片思い中の男の子のお話。

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

処理中です...