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10. 顕現せし呪い
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「この嫌な感じ……どこか厭魅術を彷彿させる。お前、まさか──」
「耳を貸すなよ横浜。やつは厭魅術を扱ってあんたをまた殺す気だ。そういえばあんたの力を奪った僧侶……あれは確か、腹部に十字架のような傷があったはずだ。ほら、あれを見ろ」
銀髪が指差す新田の身体。
塵と化した服の隙間から見える横腹には、十字架のような傷跡が見え隠れしていた。
「何……言ってんだてめぇ。それを知ってるってことは……」
「ほら、これを見ろ。あんたはこれを見て何を思う?」
銀髪はさっきの写真を新田の方に投げた。
「袈裟の男が……言慈?どういうことだ?!」
俺に鋭い視線を向ける新田。
「記憶を取り戻すまでは混乱すると思って言うつもりはなかったんだがな……袈裟の男の正体は横浜自身だ。自分で天界にその力を記憶ごと隠したんだよ」
「俺が……袈裟の男?」
「聞くな、言慈!惑わされるな!何が嘘で本当か……見極めるんだ」
直後、新田の顔付きが精悍なものへと変貌する。
普段の軽薄そうな顔からは想像も出来ない、鬼のような憤怒の表情。
俺はその殺意が込められた形相にゾッとした。
「あああぁぁーッ!!」
雄叫びを上げながらこちらへ向かってくる新田。
その怒りの矛先は銀髪……
俺は身体が勝手に動いていた。
俺は前へと躍り出て、新田の身体を抱きかかえるように抑え込む。
「やめろ……っ!新田!」
「邪魔するな、言慈!!阻むならまずはお前からだ!」
全てを恨むような怨嗟。
力を失くした俺でも分かるほど、ひしひしとそれが伝わってくる。
さっきの傷跡……
新田……本当にお前がそうなのか?
しかし指を絡ませ、取っ組み合いをしている最中、突然新田が俺に囁いた。
「言慈、よく聞け──」
「え?」
────
──
「今だ!やれ!!」
「う、うおおおぉーッ!」
やられる前にやる。
新田の手が迫る前に、俺は新田にナイフを刺突する。
何故か身体が勝手に動いていた。
「う……っ」
新田は腹を押さえ、膝をついて地へ伏した。
そんな様子を見ていた銀髪は、笑みを浮かべて近づいてくる。
「あの新田をよく殺ったな。それでいい……あんたは呪言師の未来を守ったんだ」
「……」
「辛いだろうが仕方ない。因果応報ってやつだ」
倒れ込み動かなくなった新田を一瞥し、俺の方へ振り向いた銀髪。
その瞬間、新田が起き上がった。
「敵に背中見せんじゃねぇよ」
手に火炎を纏わせた新田が銀髪の身体を掴む。
「何だと?!」
炎は銀髪に伝播し、その服を燃やしていく。
「くそ……っ!助けてくれ横浜!」
「見えるか!言慈!」
足掻く銀髪。
その燃え欠けた服から見える腹部には、ハッキリと十字架に刻まれた黒い傷跡が残されていた。
「十字架の傷、なんでお前にもあるんだよ!」
俺がそう問い詰めた瞬間、銀髪の様子が一変する。
目元に暗い影を落とし、深く息を吐く。
その一瞬の呼吸は、邪悪なる気配を全身の肌で感じる程であった。
「……欺瞞の戯言。そう安易にはいかぬか」
声色や口調が変わった。
心なしか顔も変わっている気がする。
銀髪が指をパチンと鳴らすと、新田の腹部に刻まれていた傷が、まるで水に流された絵の具のように落ちて消えていく。
「正体を現しやがったな……袈裟の男!」
新田が声を荒げる。
袈裟の男……銀髪のコイツが、俺の力と記憶を奪った張本人なのか?
じゃあさっきの俺の袈裟を纏った写真は……?
「児戯に等しき噺遊びとはいえ、私を欺いたのは善哉よ。いつ横浜を籠絡した?」
「籠絡はしてねえよ。ただの呪言だ」
そう、あの時。
取っ組み合いをしている最中に、新田が小声で『奴の真実を確かめたい。"俺を殺せ"』とナイフを差し出し、咄嗟に囁いてきたのだ。
俺の身体は勝手に動き、気付いたら新田を刺していた。
俺を利用して、やつの動向を伺ってたのだ。
「何が嘘で本当なんだ……」
「くくく……知りたいか?写真や諸々の記憶の改竄、消去。それらは認めよう。しかし、お前の力は奪われたのではない。私に力を奪わせまいと自ら天界へ隠したのだ。呪言師最強とも称されたお前の力を私が狙っていることを察したお前は、自ら力を手放した」
「それで天界を彷徨いてやがったのか」
「力のないただの猿などもはや必要ないと思うて、自ら命を絶つように仕向けたのよ。しかし、力を取り戻させればよいと考え直してな。お前達を泳がせたわけだ」
「俺はまだ、なんの力も取り戻してないぞ?!」
「このままではいたちごっこだ。じっと待つのももう飽きたのだ。どこに力を隠したのか、思い出せ」
「……確かに、言慈の力は桁外れのもんだった。力を奪う目的はなんだ?!」
「この世を支配する覇者となる為よ!私はどんな塵芥でも禍根は残したくない性分でな。力を得たあと、最後の呪言師であるお前達を消し、この因縁に終止符を打とうとしていたのだが……フフ、簡単に倒れてはくれぬか」
「言慈の記憶を改竄、言葉巧みに操り、俺を殺させて……その後、言慈も消す算段だったようだな。それで呪言師は全滅ってわけか。でもそれじゃあ、言慈の力は手に入らねぇ」
「……くくく、天界ごと飲み込めばよいこと」
「そうだ……俺は力を隠したあと虚無感に襲われてホーム向かってたんだ……。力を隠した後、どうするべきか迷って……袈裟の男に記憶を」
「ほう。面白い」
「言慈!何か思い出せたのか?!」
「いや、……はっきりしない。ただ、こいつに記憶を奪われて……それから……力の隠し場所が記憶ごとそいつの手に渡ったと思って……俺は新田に八つ当たりして……逃げたんだ」
「でも、自殺じゃない!そう仕向けたのはあいつだ!」
「……大勢の仲間ってのは?」
「全て虚言を吐いていた訳ではないと言ったではないか。すぐに……会わせてやるとな」
そう俺を睨んで口角を歪める銀髪。
なんて野郎だ……
見ているだけで寒気がする。
「下界でチマチマと力を吸収していたが、時間がかかって仕方がない。といっても、お前たちがのんびりしているお陰で力も随分と吸収出来た。そろそろ攻め上がるとするか。向こうの私も手筈は整っているはずだ」
「力を吸収……?」
「フフ、それも最初に見せたではないか。生身の人間の魂を頂戴するのだよ」
「あの時のチンピラたちか……っ」
「耳を貸すなよ横浜。やつは厭魅術を扱ってあんたをまた殺す気だ。そういえばあんたの力を奪った僧侶……あれは確か、腹部に十字架のような傷があったはずだ。ほら、あれを見ろ」
銀髪が指差す新田の身体。
塵と化した服の隙間から見える横腹には、十字架のような傷跡が見え隠れしていた。
「何……言ってんだてめぇ。それを知ってるってことは……」
「ほら、これを見ろ。あんたはこれを見て何を思う?」
銀髪はさっきの写真を新田の方に投げた。
「袈裟の男が……言慈?どういうことだ?!」
俺に鋭い視線を向ける新田。
「記憶を取り戻すまでは混乱すると思って言うつもりはなかったんだがな……袈裟の男の正体は横浜自身だ。自分で天界にその力を記憶ごと隠したんだよ」
「俺が……袈裟の男?」
「聞くな、言慈!惑わされるな!何が嘘で本当か……見極めるんだ」
直後、新田の顔付きが精悍なものへと変貌する。
普段の軽薄そうな顔からは想像も出来ない、鬼のような憤怒の表情。
俺はその殺意が込められた形相にゾッとした。
「あああぁぁーッ!!」
雄叫びを上げながらこちらへ向かってくる新田。
その怒りの矛先は銀髪……
俺は身体が勝手に動いていた。
俺は前へと躍り出て、新田の身体を抱きかかえるように抑え込む。
「やめろ……っ!新田!」
「邪魔するな、言慈!!阻むならまずはお前からだ!」
全てを恨むような怨嗟。
力を失くした俺でも分かるほど、ひしひしとそれが伝わってくる。
さっきの傷跡……
新田……本当にお前がそうなのか?
しかし指を絡ませ、取っ組み合いをしている最中、突然新田が俺に囁いた。
「言慈、よく聞け──」
「え?」
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「今だ!やれ!!」
「う、うおおおぉーッ!」
やられる前にやる。
新田の手が迫る前に、俺は新田にナイフを刺突する。
何故か身体が勝手に動いていた。
「う……っ」
新田は腹を押さえ、膝をついて地へ伏した。
そんな様子を見ていた銀髪は、笑みを浮かべて近づいてくる。
「あの新田をよく殺ったな。それでいい……あんたは呪言師の未来を守ったんだ」
「……」
「辛いだろうが仕方ない。因果応報ってやつだ」
倒れ込み動かなくなった新田を一瞥し、俺の方へ振り向いた銀髪。
その瞬間、新田が起き上がった。
「敵に背中見せんじゃねぇよ」
手に火炎を纏わせた新田が銀髪の身体を掴む。
「何だと?!」
炎は銀髪に伝播し、その服を燃やしていく。
「くそ……っ!助けてくれ横浜!」
「見えるか!言慈!」
足掻く銀髪。
その燃え欠けた服から見える腹部には、ハッキリと十字架に刻まれた黒い傷跡が残されていた。
「十字架の傷、なんでお前にもあるんだよ!」
俺がそう問い詰めた瞬間、銀髪の様子が一変する。
目元に暗い影を落とし、深く息を吐く。
その一瞬の呼吸は、邪悪なる気配を全身の肌で感じる程であった。
「……欺瞞の戯言。そう安易にはいかぬか」
声色や口調が変わった。
心なしか顔も変わっている気がする。
銀髪が指をパチンと鳴らすと、新田の腹部に刻まれていた傷が、まるで水に流された絵の具のように落ちて消えていく。
「正体を現しやがったな……袈裟の男!」
新田が声を荒げる。
袈裟の男……銀髪のコイツが、俺の力と記憶を奪った張本人なのか?
じゃあさっきの俺の袈裟を纏った写真は……?
「児戯に等しき噺遊びとはいえ、私を欺いたのは善哉よ。いつ横浜を籠絡した?」
「籠絡はしてねえよ。ただの呪言だ」
そう、あの時。
取っ組み合いをしている最中に、新田が小声で『奴の真実を確かめたい。"俺を殺せ"』とナイフを差し出し、咄嗟に囁いてきたのだ。
俺の身体は勝手に動き、気付いたら新田を刺していた。
俺を利用して、やつの動向を伺ってたのだ。
「何が嘘で本当なんだ……」
「くくく……知りたいか?写真や諸々の記憶の改竄、消去。それらは認めよう。しかし、お前の力は奪われたのではない。私に力を奪わせまいと自ら天界へ隠したのだ。呪言師最強とも称されたお前の力を私が狙っていることを察したお前は、自ら力を手放した」
「それで天界を彷徨いてやがったのか」
「力のないただの猿などもはや必要ないと思うて、自ら命を絶つように仕向けたのよ。しかし、力を取り戻させればよいと考え直してな。お前達を泳がせたわけだ」
「俺はまだ、なんの力も取り戻してないぞ?!」
「このままではいたちごっこだ。じっと待つのももう飽きたのだ。どこに力を隠したのか、思い出せ」
「……確かに、言慈の力は桁外れのもんだった。力を奪う目的はなんだ?!」
「この世を支配する覇者となる為よ!私はどんな塵芥でも禍根は残したくない性分でな。力を得たあと、最後の呪言師であるお前達を消し、この因縁に終止符を打とうとしていたのだが……フフ、簡単に倒れてはくれぬか」
「言慈の記憶を改竄、言葉巧みに操り、俺を殺させて……その後、言慈も消す算段だったようだな。それで呪言師は全滅ってわけか。でもそれじゃあ、言慈の力は手に入らねぇ」
「……くくく、天界ごと飲み込めばよいこと」
「そうだ……俺は力を隠したあと虚無感に襲われてホーム向かってたんだ……。力を隠した後、どうするべきか迷って……袈裟の男に記憶を」
「ほう。面白い」
「言慈!何か思い出せたのか?!」
「いや、……はっきりしない。ただ、こいつに記憶を奪われて……それから……力の隠し場所が記憶ごとそいつの手に渡ったと思って……俺は新田に八つ当たりして……逃げたんだ」
「でも、自殺じゃない!そう仕向けたのはあいつだ!」
「……大勢の仲間ってのは?」
「全て虚言を吐いていた訳ではないと言ったではないか。すぐに……会わせてやるとな」
そう俺を睨んで口角を歪める銀髪。
なんて野郎だ……
見ているだけで寒気がする。
「下界でチマチマと力を吸収していたが、時間がかかって仕方がない。といっても、お前たちがのんびりしているお陰で力も随分と吸収出来た。そろそろ攻め上がるとするか。向こうの私も手筈は整っているはずだ」
「力を吸収……?」
「フフ、それも最初に見せたではないか。生身の人間の魂を頂戴するのだよ」
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