【リーマン呪言師】~何度も殺されては下界へ帰される記憶も力も失っている最強呪言師!面倒に巻き込むな!俺はただのサラリーマンだ!~【完結】

みけとが夜々

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9. 3人の呪言師

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 仕事を終え、人気の無い通勤路をひた歩く。
 自宅まであと一歩の所で、俺は足を止めて息を飲む。

 街灯の下で誰かを待ってるかのように佇む、昨夜の銀髪の男が立っていた。
 男は俺と視線が合うと、ニコッと笑ってこちらに向かってくる。

「あんた、すっかりサラリーマンだな」

「元からただのサラリーマンだ……」

「いいや、違うな。あんたは運命に導かれし呪言師だ。記憶を取り戻せば、すぐ己が使命を思い出すさ」

「俺の……使命?」

「そうだ。あんたと俺には使命がある。呪言の力で呪いを祓う。そしてその力を示すんだよ。他の奴らもそうしてる」

「ほ、他の奴?呪言師って、俺達だけじゃないのか……?」

「あぁ、そういや昨日答えそびれたな。新田が自分とあんたしか呪言師はいないと言っていたらしいが、それは嘘だ。色々あって天界に隠れ住んでるんだ、大勢な」

 また意見の食い違いだ。
 呪言師は大勢いるんだって?
 本当だとしたら、新田はとんでもねえホラ吹き野郎だ。

「他の仲間はなんだって天界に?」

「複雑なんだ。まぁ、すぐ会わせてやるよ……丁度いい機会だ。これを見てくれ」

 男が取り出したのは一枚のポロライド写真。
 色褪せた写真の中では、銀髪の男と七条袈裟を纏った俺の姿があった。

「なん、なんだよこれ……。俺が袈裟を……?それに、お前もこんな陰陽師みたいな服装……。だいたいお前と写真なんて撮った覚えは……」

「覚えてないだけだ。この写真が証拠みたいなもんだ。友達って程でもなかったが、一緒に任務をこなした事もある仲だったんぞ。だから昨日、あん時の呪言師だろって言ったんだ」

「過去に会ってたのか。俺達は」

「あぁ、あんたの記憶がないってだけさ」

 写真を眺めると、何か頭痛に似た刺激が脳内を駆け巡る。 
 思い出そうとすれば、さらに記憶が混濁する。
 写真がぼやけて霞む……
 俺は、一体何者だったんだ。

「なあ、そういや新田には会ったか?」

「え? あ、ああ……今朝にちょっとな」

「そうか。何を吹き込まれたのかは知らんが、もうアイツとは関わらん方が良い。あんたの為にもな」

 天界の連中もコイツも、口を揃えて新田を危険視する。
 揺らぐ俺の心中。
 何故だがは知らないが、この銀髪の言葉はまるで天啓のように、スッと頭に入ってくる気がした。

「夜更けに仲良く雑談か?」

 軽快な口調でそれは突然やってくる。
 曲がり角からフラリと現れたのは、新田であった。

「新田……!」

「よう、言慈……ってお前?!」

 まるで死人でも見たような表情で固まる新田。
 銀髪は俺を庇うように前に立つと、首を鳴らして新田と対峙する。

「久しぶりだな新田」

「……っ?!なっ、なんでお前が?!お前……死んだはずだろ……っ」

「また横浜を殺す気かい?そうはさせんよ。──"火炎焔かえんほむら"」

 銀髪が九字を切るように手を結び、最後に大きく手を突き上げる。
 するとそれに呼応するように、コンクリの地面から突然火柱が赫灼かくしゃくと燃え上がる。

「これは呪言じゃねぇ……お前、本当にあいつなのか……?」

「呪言師の落ちぶれが……仲間を傷付けた罪、その身で贖うんだな!」

「何のことだよ……っ!!」
  
 火炎は蜷局とぐろを巻く龍のように荒れ狂い、次々と新田に襲いかかる。
 なんとか身躱す新田であったが、その炎の刃が柔肌を貫く。
 炎は新田が着ていた服に燃え移り、その布は焼け焦げてしまった。
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