6 / 14
6. 正義感のないやつ
しおりを挟む
今後どうすればいいのか特に説明もないまま、下界と呼ばれていた俺たち人間の生きる世界に戻された。
名簿に名前が無い限りはいくら死んでも戻ってこれるんだよな?
思い切って正面から新田のとこに乗り込んでみるか。
また同じシーンに戻され、俺は前回と同じく『急用が出来た』と居酒屋を出た。
ホームにいれば新田が現れるはずだ。
「お前やる気あんのか?」
真後ろに新田に立たれ、緊張から身動きが取れなくなった。
一旦深呼吸をして、一歩前へ。
二歩、三歩と少しずつ距離を保っていく。
新田はまっすぐに俺を見ている。
「……ひとまず何も喋らずに聞いてくれ」
俺は震えそうな声を抑え、新田に話し掛けた。
「まず、……なんで俺を殺すんだ」
「記憶……前よりあるんだな。他に質問は?」
「答えろよ!」
「お前の為だ。お前は"あっち"で何を見て、何を聞いた?」
「は?お、お前が俺を呪い殺してるって……あ、あとは、黒いスーツ姿の男と絶世の美女がいた」
「待て待て、確かに殺してはいるけど"呪って"はないぞ?1回目の自殺については何か聞いたか?」
「殺してるんだったら呪ってるだろ!自殺……は、いや……特に」
「一方的に殺してたら今頃俺も死んでるよ。俺の目的を探ってこいとでも言われたか……。あと……七条袈裟を着た僧侶には会ったか?」
「……え、いや?」
「もう聞いてるとは思うけど、俺たちは呪言師だ。ただ、お前の力はその袈裟の男に奪われてる。それを取り戻す為に俺は何度もお前を殺して"あっち"に送ってんだ。毎回収穫なしで戻ってくるけどな」
新田は、敵なのか?
それとも味方……?
でも俺を殺してる事に変わりはない。
新田の言う、僧侶には会っていない。
俺はアミダとヒョウにしか……
「1回目はな、お前が力を奪われてしばらく経った頃だ。俺を罵ったあと『自分の言葉には何の意味も持たない』って電車に飛び込んじまった。そんで戻ってきて、ただの腑抜けたサラリーマンとして飲み会に参加して俺に殺されて、を繰り返してる」
「……俺たちは呪言師として何をしてたんだ?争ってたのか?」
「この世界に溢れる厭魅術のお祓いをしてたんだよ。……もう俺らだけなんだ、呪言師は。袈裟の男は厭魅術を操る親玉だ。天界の連中は今、呪言師を根絶やしにしようとしてる。つけ込まれるなよ」
「で、でも……何か企んでるような感じでもなかったぞ?記憶を残してくれたのもアミダだし、天界の最高位はヒョウだろ?なんでそこに親玉の男がいるんだよ。だいたい、その厭魅術を使ってんのはお前だろ?」
「はぁ?そんなもん簡単に使えるか!ヒョウは、天界最高位っつっても死んだ魂の仕分けをしてるだけだ。俺たちが祓った魂を袈裟の男が天界で吸収してんだ。だから"あっち"でウロウロしてやがる。お前のその感じだと、アミダとヒョウは袈裟の男の存在に気付いてないってことか……?」
「……多分?『人を呪い殺す呪詛を行う呪言師を殺してこい』ってさ」
「はっ、呪詛か。あいつら袈裟の男の影響でおかしくなってんのか?俺は言霊でお前を殺しただけだ」
「呪い殺すのとどう違うんだよ」
「呪言にも色々あってだな……。同じ呪いでも条件やらなんやら色々あんのよ。だから、もし一方的にお前を呪い殺してたとしたら俺も死んでんの。言霊でお前を殺せるのは両者の同意があるからだ」
「いや、ねぇよ!俺は同意なんてしてねぇ!」
「覚えてないだけだ。お前は力を取り戻す為に、俺に殺されるのを同意してる」
「……また、殺すのか?」
「ここまで記憶があるまま話せたのは初めてだ。どうやって袈裟の男を引きずり出せるか話し合おう」
「いや、待て。俺はこのままでいい。もう殺されるのも勘弁だし、厭魅術かなにか知らねぇけど俺には関係ない。お祓いでもなんでも、勝手にやってろよ」
「お前、それ本気で言ってんのか?どれだけ仲間の血が流れたと思ってんだよ!厭魅術ってのはな、呪言師だけを狙ってんじゃねぇ。俺たちは一般市民を守る為に今までやってきたんだぞ?今のお前は、俺よりよっぽど『狡くて正義感のないやつ』だな!」
違う。
分からないんだよ。
新田の言ってる事も初めから嘘とは思えなかった。
でもヒョウたちに使命を与えられて、久しぶりの感覚というか『いっちょやってやるか』って思えたのも事実なんだ。
双方の言い分が食い違っているのも、尚更俺を混乱させる。
俺は何の変哲もない、そこら辺にいるただのサラリーマンだ。
新田が、何かと必死に戦っているのは伝わる。
そんなやつ相手に、どうして俺は『狡くて正義感のないやつ』だと感じたのだろう?
俺が自ら命を絶ったのは、力を無くして絶望したからなのか?
だから新田は俺の力を取り戻す事に必死になっているのか?
俺は……どうしたいんだ。
名簿に名前が無い限りはいくら死んでも戻ってこれるんだよな?
思い切って正面から新田のとこに乗り込んでみるか。
また同じシーンに戻され、俺は前回と同じく『急用が出来た』と居酒屋を出た。
ホームにいれば新田が現れるはずだ。
「お前やる気あんのか?」
真後ろに新田に立たれ、緊張から身動きが取れなくなった。
一旦深呼吸をして、一歩前へ。
二歩、三歩と少しずつ距離を保っていく。
新田はまっすぐに俺を見ている。
「……ひとまず何も喋らずに聞いてくれ」
俺は震えそうな声を抑え、新田に話し掛けた。
「まず、……なんで俺を殺すんだ」
「記憶……前よりあるんだな。他に質問は?」
「答えろよ!」
「お前の為だ。お前は"あっち"で何を見て、何を聞いた?」
「は?お、お前が俺を呪い殺してるって……あ、あとは、黒いスーツ姿の男と絶世の美女がいた」
「待て待て、確かに殺してはいるけど"呪って"はないぞ?1回目の自殺については何か聞いたか?」
「殺してるんだったら呪ってるだろ!自殺……は、いや……特に」
「一方的に殺してたら今頃俺も死んでるよ。俺の目的を探ってこいとでも言われたか……。あと……七条袈裟を着た僧侶には会ったか?」
「……え、いや?」
「もう聞いてるとは思うけど、俺たちは呪言師だ。ただ、お前の力はその袈裟の男に奪われてる。それを取り戻す為に俺は何度もお前を殺して"あっち"に送ってんだ。毎回収穫なしで戻ってくるけどな」
新田は、敵なのか?
それとも味方……?
でも俺を殺してる事に変わりはない。
新田の言う、僧侶には会っていない。
俺はアミダとヒョウにしか……
「1回目はな、お前が力を奪われてしばらく経った頃だ。俺を罵ったあと『自分の言葉には何の意味も持たない』って電車に飛び込んじまった。そんで戻ってきて、ただの腑抜けたサラリーマンとして飲み会に参加して俺に殺されて、を繰り返してる」
「……俺たちは呪言師として何をしてたんだ?争ってたのか?」
「この世界に溢れる厭魅術のお祓いをしてたんだよ。……もう俺らだけなんだ、呪言師は。袈裟の男は厭魅術を操る親玉だ。天界の連中は今、呪言師を根絶やしにしようとしてる。つけ込まれるなよ」
「で、でも……何か企んでるような感じでもなかったぞ?記憶を残してくれたのもアミダだし、天界の最高位はヒョウだろ?なんでそこに親玉の男がいるんだよ。だいたい、その厭魅術を使ってんのはお前だろ?」
「はぁ?そんなもん簡単に使えるか!ヒョウは、天界最高位っつっても死んだ魂の仕分けをしてるだけだ。俺たちが祓った魂を袈裟の男が天界で吸収してんだ。だから"あっち"でウロウロしてやがる。お前のその感じだと、アミダとヒョウは袈裟の男の存在に気付いてないってことか……?」
「……多分?『人を呪い殺す呪詛を行う呪言師を殺してこい』ってさ」
「はっ、呪詛か。あいつら袈裟の男の影響でおかしくなってんのか?俺は言霊でお前を殺しただけだ」
「呪い殺すのとどう違うんだよ」
「呪言にも色々あってだな……。同じ呪いでも条件やらなんやら色々あんのよ。だから、もし一方的にお前を呪い殺してたとしたら俺も死んでんの。言霊でお前を殺せるのは両者の同意があるからだ」
「いや、ねぇよ!俺は同意なんてしてねぇ!」
「覚えてないだけだ。お前は力を取り戻す為に、俺に殺されるのを同意してる」
「……また、殺すのか?」
「ここまで記憶があるまま話せたのは初めてだ。どうやって袈裟の男を引きずり出せるか話し合おう」
「いや、待て。俺はこのままでいい。もう殺されるのも勘弁だし、厭魅術かなにか知らねぇけど俺には関係ない。お祓いでもなんでも、勝手にやってろよ」
「お前、それ本気で言ってんのか?どれだけ仲間の血が流れたと思ってんだよ!厭魅術ってのはな、呪言師だけを狙ってんじゃねぇ。俺たちは一般市民を守る為に今までやってきたんだぞ?今のお前は、俺よりよっぽど『狡くて正義感のないやつ』だな!」
違う。
分からないんだよ。
新田の言ってる事も初めから嘘とは思えなかった。
でもヒョウたちに使命を与えられて、久しぶりの感覚というか『いっちょやってやるか』って思えたのも事実なんだ。
双方の言い分が食い違っているのも、尚更俺を混乱させる。
俺は何の変哲もない、そこら辺にいるただのサラリーマンだ。
新田が、何かと必死に戦っているのは伝わる。
そんなやつ相手に、どうして俺は『狡くて正義感のないやつ』だと感じたのだろう?
俺が自ら命を絶ったのは、力を無くして絶望したからなのか?
だから新田は俺の力を取り戻す事に必死になっているのか?
俺は……どうしたいんだ。
20
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
京都式神様のおでん屋さん
西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~
ここは京都——
空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。
『おでん料理 結(むすび)』
イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。
今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。
平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。
※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!
彼の呪は密やかに紡がれる
ちよこ
キャラ文芸
時は平安──
鬼や怨霊が実際にいると伝えられ、はびこった時代。
陰陽師、安倍晴明と言う男がいた。
彼の呪はまるで秘め事でもするかのように密やかに……──。
半妖の陰陽師~鬼哭の声を聞け
斑鳩陽菜
歴史・時代
貴族たちがこの世の春を謳歌する平安時代の王都。
妖の血を半分引く青年陰陽師・安倍晴明は、半妖であることに悩みつつ、陰陽師としての務めに励む。
そんな中、内裏では謎の幽鬼(幽霊)騒動が勃発。
その一方では、人が謎の妖に喰われ骨にされて見つかるという怪異が起きる。そしてその側には、青い彼岸花が。
晴明は解決に乗り出すのだが……。
【第四章】安倍晴明物語☆~夢幻の月~
星読ルナ
歴史・時代
“化生(けしょう)”それは妖魔や神、仏が人と子を生した存在……
この物語は、狐の化生の陰陽師、安倍晴明が
鬼の血を引く化生の少女、美夕と出会い、織り成す平安幻想草子。
晴明と美夕は、仲間と共に戦い、困難を乗り越えてゆく。その先に待つ二人の運命とは!?
情愛と無情の長編、和風幻想平安ストーリー。
恋愛×和風ダークファンタジー作品です。
※セルフレイティングは保険です。性描写は、軽い物だと思います。
※流血注意!
※ブロマンス要素があります。(BLではありません)
ファンタジーなので平安には、存在しないものが出て来ます。
ご了承ください。
・表紙はフリー素材です。
・挿絵はAIイラストアプリで作成しています。
序章「希代の陰陽師と鬼の少女」
第一章「晴明と美夕達の日常」
第二章「異変の始まり」
第三章「赤毛の少年」
第四章「卑劣な鬼の陰」
【完結】呪われ令嬢、猫になる
やまぐちこはる
ファンタジー
エザリア・サリバーは大商団の令嬢だ。一人娘だったが、母が病で儚くなると、父の再婚相手とその連れ子に忌み嫌われ、呪いをかけられてしまう。
目が覚めたとき、エザリアは自分がひどく小さくなっていることに気がついた。呪われて猫になってしまっていたのだ。メイドが来たとき、猫がいたために、箒で外に追い出されてしまう。
しかたなくとぼとぼと屋敷のまわりをうろついて隠れるところを探すと、義母娘が自分に呪いをかけたことを知った。
■□■
HOT女性向け44位(2023.3.29)ありがとうございますw(ΦωΦ)w
子猫六匹!急遽保護することになり、猫たんたちの医療費の助けになってくれればっという邪な思いで書きあげました。
平日は三話、6時・12時・18時。
土日は四話、6時・12時・18時・21時に更新。
4月30日に完結(予約投稿済)しますので、サクサク読み進めて頂けると思います。
【お気に入り】にポチッと入れて頂けましたらうれしいですっ(ΦωΦ)
★かんたん表紙メーカー様で、表紙を作ってみたのですが、いかがでしょうか。
元画像はうちの18歳の三毛猫サマ、白猫に化けて頂きました。
竜焔の騎士
時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証……
これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語―――
田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。
会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ?
マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。
「フールに、選ばれたのでしょう?」
突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!?
この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー!
天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる