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6. 正義感のないやつ
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今後どうすればいいのか特に説明もないまま、下界と呼ばれていた俺たち人間の生きる世界に戻された。
名簿に名前が無い限りはいくら死んでも戻ってこれるんだよな?
思い切って正面から新田のとこに乗り込んでみるか。
また同じシーンに戻され、俺は前回と同じく『急用が出来た』と居酒屋を出た。
ホームにいれば新田が現れるはずだ。
「お前やる気あんのか?」
真後ろに新田に立たれ、緊張から身動きが取れなくなった。
一旦深呼吸をして、一歩前へ。
二歩、三歩と少しずつ距離を保っていく。
新田はまっすぐに俺を見ている。
「……ひとまず何も喋らずに聞いてくれ」
俺は震えそうな声を抑え、新田に話し掛けた。
「まず、……なんで俺を殺すんだ」
「記憶……前よりあるんだな。他に質問は?」
「答えろよ!」
「お前の為だ。お前は"あっち"で何を見て、何を聞いた?」
「は?お、お前が俺を呪い殺してるって……あ、あとは、黒いスーツ姿の男と絶世の美女がいた」
「待て待て、確かに殺してはいるけど"呪って"はないぞ?1回目の自殺については何か聞いたか?」
「殺してるんだったら呪ってるだろ!自殺……は、いや……特に」
「一方的に殺してたら今頃俺も死んでるよ。俺の目的を探ってこいとでも言われたか……。あと……七条袈裟を着た僧侶には会ったか?」
「……え、いや?」
「もう聞いてるとは思うけど、俺たちは呪言師だ。ただ、お前の力はその袈裟の男に奪われてる。それを取り戻す為に俺は何度もお前を殺して"あっち"に送ってんだ。毎回収穫なしで戻ってくるけどな」
新田は、敵なのか?
それとも味方……?
でも俺を殺してる事に変わりはない。
新田の言う、僧侶には会っていない。
俺はアミダとヒョウにしか……
「1回目はな、お前が力を奪われてしばらく経った頃だ。俺を罵ったあと『自分の言葉には何の意味も持たない』って電車に飛び込んじまった。そんで戻ってきて、ただの腑抜けたサラリーマンとして飲み会に参加して俺に殺されて、を繰り返してる」
「……俺たちは呪言師として何をしてたんだ?争ってたのか?」
「この世界に溢れる厭魅術のお祓いをしてたんだよ。……もう俺らだけなんだ、呪言師は。袈裟の男は厭魅術を操る親玉だ。天界の連中は今、呪言師を根絶やしにしようとしてる。つけ込まれるなよ」
「で、でも……何か企んでるような感じでもなかったぞ?記憶を残してくれたのもアミダだし、天界の最高位はヒョウだろ?なんでそこに親玉の男がいるんだよ。だいたい、その厭魅術を使ってんのはお前だろ?」
「はぁ?そんなもん簡単に使えるか!ヒョウは、天界最高位っつっても死んだ魂の仕分けをしてるだけだ。俺たちが祓った魂を袈裟の男が天界で吸収してんだ。だから"あっち"でウロウロしてやがる。お前のその感じだと、アミダとヒョウは袈裟の男の存在に気付いてないってことか……?」
「……多分?『人を呪い殺す呪詛を行う呪言師を殺してこい』ってさ」
「はっ、呪詛か。あいつら袈裟の男の影響でおかしくなってんのか?俺は言霊でお前を殺しただけだ」
「呪い殺すのとどう違うんだよ」
「呪言にも色々あってだな……。同じ呪いでも条件やらなんやら色々あんのよ。だから、もし一方的にお前を呪い殺してたとしたら俺も死んでんの。言霊でお前を殺せるのは両者の同意があるからだ」
「いや、ねぇよ!俺は同意なんてしてねぇ!」
「覚えてないだけだ。お前は力を取り戻す為に、俺に殺されるのを同意してる」
「……また、殺すのか?」
「ここまで記憶があるまま話せたのは初めてだ。どうやって袈裟の男を引きずり出せるか話し合おう」
「いや、待て。俺はこのままでいい。もう殺されるのも勘弁だし、厭魅術かなにか知らねぇけど俺には関係ない。お祓いでもなんでも、勝手にやってろよ」
「お前、それ本気で言ってんのか?どれだけ仲間の血が流れたと思ってんだよ!厭魅術ってのはな、呪言師だけを狙ってんじゃねぇ。俺たちは一般市民を守る為に今までやってきたんだぞ?今のお前は、俺よりよっぽど『狡くて正義感のないやつ』だな!」
違う。
分からないんだよ。
新田の言ってる事も初めから嘘とは思えなかった。
でもヒョウたちに使命を与えられて、久しぶりの感覚というか『いっちょやってやるか』って思えたのも事実なんだ。
双方の言い分が食い違っているのも、尚更俺を混乱させる。
俺は何の変哲もない、そこら辺にいるただのサラリーマンだ。
新田が、何かと必死に戦っているのは伝わる。
そんなやつ相手に、どうして俺は『狡くて正義感のないやつ』だと感じたのだろう?
俺が自ら命を絶ったのは、力を無くして絶望したからなのか?
だから新田は俺の力を取り戻す事に必死になっているのか?
俺は……どうしたいんだ。
名簿に名前が無い限りはいくら死んでも戻ってこれるんだよな?
思い切って正面から新田のとこに乗り込んでみるか。
また同じシーンに戻され、俺は前回と同じく『急用が出来た』と居酒屋を出た。
ホームにいれば新田が現れるはずだ。
「お前やる気あんのか?」
真後ろに新田に立たれ、緊張から身動きが取れなくなった。
一旦深呼吸をして、一歩前へ。
二歩、三歩と少しずつ距離を保っていく。
新田はまっすぐに俺を見ている。
「……ひとまず何も喋らずに聞いてくれ」
俺は震えそうな声を抑え、新田に話し掛けた。
「まず、……なんで俺を殺すんだ」
「記憶……前よりあるんだな。他に質問は?」
「答えろよ!」
「お前の為だ。お前は"あっち"で何を見て、何を聞いた?」
「は?お、お前が俺を呪い殺してるって……あ、あとは、黒いスーツ姿の男と絶世の美女がいた」
「待て待て、確かに殺してはいるけど"呪って"はないぞ?1回目の自殺については何か聞いたか?」
「殺してるんだったら呪ってるだろ!自殺……は、いや……特に」
「一方的に殺してたら今頃俺も死んでるよ。俺の目的を探ってこいとでも言われたか……。あと……七条袈裟を着た僧侶には会ったか?」
「……え、いや?」
「もう聞いてるとは思うけど、俺たちは呪言師だ。ただ、お前の力はその袈裟の男に奪われてる。それを取り戻す為に俺は何度もお前を殺して"あっち"に送ってんだ。毎回収穫なしで戻ってくるけどな」
新田は、敵なのか?
それとも味方……?
でも俺を殺してる事に変わりはない。
新田の言う、僧侶には会っていない。
俺はアミダとヒョウにしか……
「1回目はな、お前が力を奪われてしばらく経った頃だ。俺を罵ったあと『自分の言葉には何の意味も持たない』って電車に飛び込んじまった。そんで戻ってきて、ただの腑抜けたサラリーマンとして飲み会に参加して俺に殺されて、を繰り返してる」
「……俺たちは呪言師として何をしてたんだ?争ってたのか?」
「この世界に溢れる厭魅術のお祓いをしてたんだよ。……もう俺らだけなんだ、呪言師は。袈裟の男は厭魅術を操る親玉だ。天界の連中は今、呪言師を根絶やしにしようとしてる。つけ込まれるなよ」
「で、でも……何か企んでるような感じでもなかったぞ?記憶を残してくれたのもアミダだし、天界の最高位はヒョウだろ?なんでそこに親玉の男がいるんだよ。だいたい、その厭魅術を使ってんのはお前だろ?」
「はぁ?そんなもん簡単に使えるか!ヒョウは、天界最高位っつっても死んだ魂の仕分けをしてるだけだ。俺たちが祓った魂を袈裟の男が天界で吸収してんだ。だから"あっち"でウロウロしてやがる。お前のその感じだと、アミダとヒョウは袈裟の男の存在に気付いてないってことか……?」
「……多分?『人を呪い殺す呪詛を行う呪言師を殺してこい』ってさ」
「はっ、呪詛か。あいつら袈裟の男の影響でおかしくなってんのか?俺は言霊でお前を殺しただけだ」
「呪い殺すのとどう違うんだよ」
「呪言にも色々あってだな……。同じ呪いでも条件やらなんやら色々あんのよ。だから、もし一方的にお前を呪い殺してたとしたら俺も死んでんの。言霊でお前を殺せるのは両者の同意があるからだ」
「いや、ねぇよ!俺は同意なんてしてねぇ!」
「覚えてないだけだ。お前は力を取り戻す為に、俺に殺されるのを同意してる」
「……また、殺すのか?」
「ここまで記憶があるまま話せたのは初めてだ。どうやって袈裟の男を引きずり出せるか話し合おう」
「いや、待て。俺はこのままでいい。もう殺されるのも勘弁だし、厭魅術かなにか知らねぇけど俺には関係ない。お祓いでもなんでも、勝手にやってろよ」
「お前、それ本気で言ってんのか?どれだけ仲間の血が流れたと思ってんだよ!厭魅術ってのはな、呪言師だけを狙ってんじゃねぇ。俺たちは一般市民を守る為に今までやってきたんだぞ?今のお前は、俺よりよっぽど『狡くて正義感のないやつ』だな!」
違う。
分からないんだよ。
新田の言ってる事も初めから嘘とは思えなかった。
でもヒョウたちに使命を与えられて、久しぶりの感覚というか『いっちょやってやるか』って思えたのも事実なんだ。
双方の言い分が食い違っているのも、尚更俺を混乱させる。
俺は何の変哲もない、そこら辺にいるただのサラリーマンだ。
新田が、何かと必死に戦っているのは伝わる。
そんなやつ相手に、どうして俺は『狡くて正義感のないやつ』だと感じたのだろう?
俺が自ら命を絶ったのは、力を無くして絶望したからなのか?
だから新田は俺の力を取り戻す事に必死になっているのか?
俺は……どうしたいんだ。
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